開催されているパーティーの隅で、颯斗は一人で居た。
立食形式のパーティーで早々に料理と飲み物をかっぱらい避難していたのだ。
目を向ければ天之川は令嬢に囲まれ、白崎と八重樫、その他の女子は男に言い寄られている。
颯斗にもときどき近づく貴族らしき身なりの人々が近づくが睨んで退散させている。
と、料理を堪能していた颯斗の元に一人の少女が近づいてくる。
颯斗は睨みを効かせるが、一瞬止まった後また近づいてくる。
「はじめましてリリアーナと申します。お名前を聞いてもよろしいですか?」
名前を問われるも、すぐに返事はせず少しばかり観察する。
それを拒否と解釈したのか、リリアーナは顔を少し伏せる。
端から見れば颯斗が泣かせた様な構図だ。
「演技が上手いなぁ姫さん。俺ァ橘颯斗。いやハヤト・タチバナって言った方が良いのか?」
「…タチバナさんですね。よろしくお願いします」
リリアーナは笑みを浮かべて返事をするが、内心演技を見破られて驚いていた。
「なぜ見破ったのか伺っても?」
「別に?才媛と唱われる姫さんならそのくらい出来るだろうと思ってな」
「あら、カマをかけたんですのね?」
「そうとも言うな。引っ掛かってくれてありがとよ」
フフフと楽しそうに笑うリリアーナ。
それを見た颯斗は
それにリリアーナは気付いた。
「お気に召しましたか?」
「あぁ、今後も仲良くしたいくらいには…な」
「それは良かったです。ところでどうして他の皆様と離れているのですか?他人を寄せ付けていない様ですし」
「簡単だ。
「…それは…どうして?」
ストレートに伝えられた言葉に、リリアーナは目を見開く。
そして顔を歪めながら問いかけた。
リリアーナからしてみれば、同郷の唯一の仲間と言ってもいい人達を信用できないというのは、思い悩む事柄なのだ。
そんなリリアーナとは反対に颯斗は涼しげな顔をしている。
「あぁ、ここにいる
「っ」
そう今は戦争中だ。
なのに貴族からは大して緊張感、悲壮感が伝わって来ないのだ。
今も隣の貴族と一緒になって談笑している。
視線はクラスメイトの女子に向いているので、大方美人だとか話しているんだろう。
こんな感じの奴等を信頼出来るわけがないと、颯斗は思っている。
また、クラスメイトの男子は令嬢やメイドに鼻の下を伸ばしているし、女子はイケメン貴族に黄色い声を上げている。
「ったく。忠告したってのによぉ…楽観が過ぎる。こんなんじゃすぐ死ぬぞ」
「…そうですね」
自国の者達の意識の低さと、勇者達という希望を否定されたことで、リリアーナは今度こそ本当に泣きそうになる。
才媛と言っても14歳。ましてやリリアーナは戦争を
それを勇者達が守ってくれると安心していた所に、希望を否定されれば、少女の心は耐えられるわけがない。
颯斗はそれに気付いたのか、やっちまったという顔をして、リリアーナの
「え…」
「あー…悪かったよ。こうは言ったが、全員がそうって訳じゃねぇ。姫さんみてぇに重く受け止めて覚悟を持ってるやつも居るんだ。それに俺も同郷の奴が死ぬのは目覚めが悪いからな、出来る限りはやるさ」
そう言ってリリアーナへと笑い掛ける颯斗。
しかしその笑みは、ニヤリと聞こえて来る様な、決して人を安心させられる様な笑みでは無かったが。
リリアーナはクスクスと笑うと、軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。まさかあなたの様な恐ろしい人相の殿方に励まされるとは思いませんでした」
「おい俺の気遣いを返しやがれ」
「フフ、冗談…ではありませんが、感謝してますよ」
「ったく。受けとるからさっさと他の勇者の所に行きな」
その言葉にリリアーナはまた驚く。
自分が勇者達の所を回っていることが理解されていたため。
「どうして皆様の所を回っていると?」
「貴族に全く話しかけねぇで俺等にしか話しかけてねぇんだ、誰でも分かるわ。極めつけは俺に睨まれても話しかけてきた事だ。どうやら俺は恐ろしい人相の殿方らしいしな」
「フフフ…子供はおろか大人まで泣いてしまいそうですからね。大半の人は話しかけようとしないでしょう。私も貴方の事を知らなければ、これから話すことは無かったでしょうね」
「おいおい、今話したばっかだぜ?姫さんも俺の事はしらねぇだろう。俺はボッチかよ」
「フフフ。少しの間でしたが少しは貴方の事を分かりましたよ。私は」
「考えとか心が読めるのか姫さんは?ビックリだぜ」
「さてどうでしょう。では失礼しますね」
そう言ってリリアーナは別のクラスメイトの元へ向かった。
それを見送った颯斗は料理を流し込み、部屋へ向かおうとする。
と、その前に風呂に入ろうと考え、自身に付いていたメイドの元へ向かう。
「なぁ風呂に入りてぇんだが」
「かしこまりました。こちらへ」
メイドの後ろに付いていき、颯斗はあくびを溢した。
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風呂で汗を流した颯斗は部屋に入り、ベッドへ飛び込んだ。
ふぅ…と息を吐きながら、今日の事、そしてこれからの事を考える。
(戦争に参加する覚悟は持った…人殺しの覚悟も…持った
そう考えている颯斗は、自分の体が震えて居ることに気付く。
(はぁ…持ったつもりでも…コエェなぁ…)
死にたくねぇな…と思わず呟いた。
リリアーナにはああ言ったが、やはり怖い。
戦争どころか、争いとは
喧嘩とは違う
それに颯斗はしり込みしていた。
(はぁ…結局俺も説教した奴等と同じなんだよなぁ…)
実際は現実を見ているぶん颯斗は、大半の生徒の数十歩先を行っているのだが、現状が現状なため五十歩百歩なのは否めない。
(他の奴等は…どうなるかねぇ。ハジメと香織。そして八重樫は大丈夫そうだったが…)
あの説教の後、真っ先に八重樫が顔を引き締め、白崎を励ましていた。
ハジメは颯斗の事をよく知ってるからこそ重く受け止め、考えている。
この三人が重要になると颯斗は考えていた。
そう考えて居たら、ルームメイトのハジメが部屋に入ってきた。
「あ、颯斗戻ってたんだ」
「あぁ、お前は今から風呂か?」
「うん、他の人達もそうだよ」
「そうか…ハジメ、帰りたかったら覚悟を決めろよ」
その言葉にハジメの顔は強張る。
「現状、俺等はまさしく生きるか死ぬかだ。だから…殺さなきゃ、生きられない…分かるな」
「…うん。分かってる」
ハジメは真剣な表情で返事を返す。
しかし、理解はしているが覚悟を持ててはいないようだ。
顔には葛藤がある。
それもそうだ。颯斗やハジメ、他のクラスメイトは人殺しは重罪だと
それを取っ払うのは容易ではない。
加えハジメは争いを嫌う優しい性格だ。それも相まって余計に悩んでいるのだろう。
颯斗もそれを理解してる。
「…なら、良い。俺ァ寝る」
「うん。おやすみ」