神殺しの魔王と覇王   作:虚体無名

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心理描写ムズい!


絶望と…

頬に水滴が落ち、口に流れて行く感覚にハジメの意識は覚醒していく。

その事に疑問を抱きながら、ゆっくりと目を開く。

 

(…生きてる?助かったの?)

 

状況を把握しようと、体を起こそうとする。

 

「アグ!?」

 

額をぶつけたハジメは、縦幅が50cmしか無かったことを思い出した。

そこへハジメへと声が掛かる。

 

「起きたか、ハジメ」

 

足元に目を向ければ、同じように横になっている颯斗が居た。

そこで自分の腕が片方無いことに動揺する。

しばらく呆然としていたが、左腕を失ったことを思い出した。

その瞬間、無いはずの左腕に痛みを感じた。

そして、左腕を押さえて初めて、断面の肉が盛り上がり、傷が塞がっている事に気付いた。

 

「なんで?…それに血もたくさん…」

 

ハジメが右腕で辺りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。

まだ流した血が乾いておらず、それによって出血したことは夢では無かったと悟る。

加えて気を失ってからそれほど時間がたってない様である。

にもかかわらず、傷が塞がっている事に疑問を抱いた。

その答えは足元から返ってきた。

 

「あぁ、その水のお陰で治ったんだよ」

「水?これが…?」

 

ハジメは頬に落ちてくる水を口に含んだ。

それにより、体に活力が戻った気がした。

 

「疲れてる所ワリィが、水源まで掘ってくれるか?魔力は水で回復できるからよ」

「…分かった」

 

幻肢痛と貧血に耐えながら、ハジメは錬成する。

ふらつきながらも錬成をしていくと、水の量が増えていく。

熱に浮かされた様に奥へ奥へと進んでいく。

そして遂に、水源へとたどり着いた。

 

「これは…」

「へぇ…」

 

そこには壁に同化するように青白く発光する、バスケットボール程の鉱石があった。

ハジメと颯斗は、今の状況を忘れて見惚れてしまった。

そしてハジメはすがり付く様に、あるいは惹き付けられた様に口を付けた。

すると体の内に感じていた鈍痛や靄がかった頭がクリアになり、倦怠感も収まる。

幻肢痛は収まらないが、他の怪我や出血の弊害は瞬く間に回復していく。

 

ハジメと颯斗は知らないが、〝神水〟と呼ばれる、飲めばどんな怪我や病も治る霊薬である。

死の淵から実感したハジメは、そのままズルズルと壁にへたり込んだ。

そしてあの熊の魔物から向けられた餌としか見ていない目を思いだし、恐怖で震えた。

人間にはまず向けられない目に、そして実際に片腕を食われた事に、ハジメの心は砕けた。

 

「颯斗…」

「…ワリィが…無理だ」

 

颯斗へ希望を乗せた瞳を向けるが、それを颯斗自身が否定した。

ハジメは助けてくれると思っていたが、颯斗もここを抜け出す力が無いと悟ると、瞳から光が…希望が消えた。

颯斗は、周りの魔物の強さ、そして熊の魔物への恐怖心、そして何より心が折れたハジメを守りながら脱出することは出来ないと感じていた。

 

ハジメは絶望し、体を抱え、体育座りしながら膝に顔を埋めた。

颯斗は震える体をそのままに、力無く座り込む。

 

(誰か…助けて…)

(どうすりゃいい…教えてくれ…)

 

そんな願いは、誰にも届かない。

奈落の底には、絶望が広がっていた。

 

 

 

 

 

_____________________________________________________________

 

 

 

 

 

 

どれくらいそうしていただろうか。

ハジメは、現在、横倒しになりギュッと手足を縮めて、まるで胎児のように丸まっていた。

ハジメと颯斗が崩れ落ちた日から、既に四日が経っている。

その間、ハジメはほとんど動かず、滴り落ちる神水のみを口にして生きながらえていた。

しかし、神水は服用している間は余程のことがない限り服用者を生かし続けるものの空腹感まで消してくれるわけではない。

死なないだけで、現在、ハジメは壮絶な飢餓感と幻肢痛に苦しんでいた。

 

(どうして僕がこんな目に?)

 

ここ数日何度も頭を巡る疑問。

痛みと空腹で碌に眠れていない頭は神水を飲めば回復するものの、クリアになったがためにより鮮明に苦痛を感じさせる。

何度も何度も、意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚まし、苦痛から逃れる為に再び神水を飲んで、また苦痛の沼に身を沈める。

もう何度、そんな微睡まどろみと覚醒を繰り返したのか。

いつしか、ハジメは神水を飲むのを止めていた。

無意識の内に、苦痛を終わらせるもっとも手っ取り早い方法を選択してしまったのだ。

 

すなわち___死を。

 

(こんな苦痛がずっと続くなら……いっそ……)

 

そう内心呟きながら意識を落とす。

 

それから更に三日が経った。

 

ピークを過ぎたのか一度は落ち着いた飢餓感だったが、嵐の前の静けさだったかのように再び、更に激しくなって襲い来る。

幻肢痛は一向に治まらず、ハジメの精神を苛み続ける。

まるで、端の方から少しずつヤスリで削られているかのような耐え難き苦痛。

 

(まだ……死なないのか……あぁ、早く、早く……死にたくない……殺してくれ……助けて……)

 

死を望みながら無意識に生に縋る。

矛盾した考えが交互に過る。ハジメは既に、正常な思考が出来なくなっていた。

支離滅裂なうわ言も呟くようになった。

 

それから更に三日が過ぎた。

 

既に神水の効力はなく、このままでは二日と保たずに死ぬかもしれない。食料どころか水分も摂っていないのだ。

しかし、少し前、八日目辺りからハジメの精神に異常が現れ始めていた。

ただひたすら、死と生を交互に願いながら、地獄のような苦痛が過ぎ去るのを待っているだけだったハジメの心に、ふつふつと何か暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。

 

___それはヘドロのように、恐怖と苦痛でひび割れた心の隙間にこびりつき、少しずつ、ハジメを侵食していく。

 

(なんで僕が苦しむんだ?…僕がなにをした?)

(なんでこんな目に…何が原因だ?)

(神は理不尽に誘拐した…)

(クラスメイトは裏切った…)

(ウサギは僕を見下した…)

(アイツは僕を食った…)

 

思考が黒く染まっていく。

無意識に敵を探し初め、痛みと飢餓感が思考を加速させる。

 

(なんで助けてくれないんだ…)

(そうやって僕を笑ってるのか?)

(なんで…なんで…颯斗…助けてよ…助けろよ)

(助けてくれないなら…どうする?)

(この苦痛はどうすれば消える?)

 

ハジメの思考は無意識に打開を考え始める。

この苦しみからの解放を望む心が、沸き上がってくる怒りと憎しみを不要と切り捨てる。

憤怒と憎悪なんで必要ない。

そんなもので苦痛は消えない。

理不尽な状況を抜け出すには、余計なモノを捨てろ。

 

()は何を望んでる?)

(俺は〝生〟を望んでる)

(それを邪魔するのは誰だ?)

(それを邪魔するのは敵だ)

(敵とはなんだ?)

(俺を邪魔するもの。理不尽を強いる全て)

(では何をすべきだ?)

(俺は……)

 

ハジメから憤怒も憎悪も消えた。

神の理不尽も、クラスメイトの裏切りも、魔物の敵意も、誰かの笑顔も…

 

___全部どうでもいい。

 

生きるためにはただ___

 

(殺す)

 

___生きるためには、生き残るためには。

自身の生存を脅かすものは全て。

 

(殺す)

 

優しく、穏やかで、争いを嫌う、白崎が強いと称したハジメは死んだ。

そして、生きるために邪魔な存在は容赦なく排除する新しい南雲ハジメが生れた。

 

弱った体を動かし、窪みに貯まった神水を犬の様に啜る。

体に活力が戻ってきた事に、ハジメは歓喜する。

目をギラギラと輝かせ、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

歪んだ口からは犬歯がギラリと覗き、まさに豹変という言葉が似合う。

 

そして宣言するように呟いた。

 

「殺してやる」

「…覚醒()きたか。ハジメ」

 

声の方へ目を向ければ、痩せ細った颯斗が居た。

しかし、その瞳は死んでおらず、体全体から威圧の様なモノが滲み出ている。

そしてハジメとは真逆の、穏やかな笑みを浮かべた。

しかし、それにはどうしようもなく()()が浮かんでいて…

 

「地獄を見る気はあるか?」

 

そうハジメに問いかけた。

 

 

 

 

_____________________________________________________________

 

 

 

 

 

じっと動かず、颯斗はずっと考えていた。

どうすれば生きられるか。

ハジメの心は折れ、役に立たない。

かと言って、自分一人では脱出出来ない。

神水で死なないが、何時までも出る訳では無いだろう。

どうすればいい…どうすれば…

 

飢餓感に苛まれ、体が重くなっていく。

神水を飲んでも腹は膨れない。

食いちぎられた脇腹が、痛みを訴える。

神水によって頭が冴えるが、それによって苦痛を鮮明に感じる。

 

飢餓感と痛みから逃れるように意識を落とすが、飢餓感と痛みで意識が覚醒する。

それから逃れようと神水を飲み、さらに苦痛を味わう。

徐々に徐々に、颯斗の精神は削られる。

 

だんだんと颯斗の思考は削がれていき、一つのことしか浮かべなくなる。

すなわち___

 

(死にたくない)

 

死を否定し、生を望む。

そして死なないためには何が必要か。

 

(裏切りへの怒り?…違う)

(神への憎しみ?…違う)

(クラスメイトへの失望?…違う)

 

ハジメのうわごとを聞き流し、不要なモノを削ぐ。

死なないために必要なモノを抱え込む。

そうして、颯斗の心は少しずつ、黒く覆われる。

強烈な苦痛によって、心が固まっていく。

 

怒りなど、役に立たない。

憎しみなど、邪魔になる。

希望など、目を眩ませるだけだ。

絶望など、ただの足枷にしかならない。

 

心から、意思から不要なモノを排出する。

まるで、木から水分を抜くと強固になる様に、強靭になる颯斗の心。

 

そうして、颯斗の意思は極限となる。

鍛えられた刀の様に、鋭く強く、これからの困難を切り裂ける様に。

 

(生きる)

 

そのためには、邪魔するもの、敵対するもの、理不尽を課すもの全て___

 

(壊す)

 

___ただ、生きる為に、全てを___

 

(壊す)

 

そのためのピースは、あと一つだけ。

それが揃えば___

 

「殺してやる」

「…覚醒()きたか。ハジメ」

 

ちょうど、生き残るためのピースが噛み合った。

颯斗の心が歓喜で踊る。

思わず笑みを浮かべてしまった。

しかし、それよりも先ずは___

 

「地獄を見る気はあるか?」

 

生きる為に、行動しなければ。

 

 

 

_____________________________________________________________

 

 

 

 

迷宮のとある場所に、二尾狼の群れが居た。

最弱である狼は群れを成し、連帯を用いて狩りをする。

そして、狩場を見つけ、四方の岩影に身を潜める。

そして、仲間の気配が消えたことに、困惑した。

なにがあったんだと、探ろうとすると、もう一頭の悲鳴が響く。

悲鳴を上げた仲間から焦燥感が伝わってきたため、助けようと駆け付けるが、その時には既に気配が消えていた。

残った二頭が困惑しながらも、手掛かりに匂いを嗅ごうと鼻を近づけた。

 

___その瞬間、地面が凹み、二頭の狼を拘束した。

 

飛び退こうとするが、既に足を固定されていた。

最も、これくらいなら狼でも破壊し、逃げ出す事が出来るが、襲撃者にはその一瞬の隙で十分だった。

 

「グウァ!?」

 

悲鳴を上げながら壁に飲み込まれる狼。

その後には何も残らなかった。

 

襲ったのはもちろんハジメである。

神水によって魔力が尽きないのをいいことに、錬成の鍛練を続けた。

それによって倍の早さで錬成出来る様になり、こうして二尾狼を捕らえられた。

もっとも、攻撃力は相変わらず無かったが。

 

しばらく尾行し、機会を伺っていた。

何度もバレそうになったが、その度に壁の中へ逃げ込み、やり過ごした。

そうして、四頭が狩りの為に離れた瞬間を狙い、引摺り込んだのである。

 

「お手柄だ。ハジメ」

「おうよ。さぁて生きてっかな?まぁ、俺の錬成には攻撃力無いから当然か」

 

静かに歩み寄る颯斗と、ギラギラと輝く目で足元の穴を覗くハジメ。

その奥には、狼達が完全に石で身を固められ、逃れようともがき、唸なり声を上げている。

 

「窒息を待ってもいいが…」

「はっ!俺が待てねぇよ!」

 

ニヤリと笑うハジメの目は、完全に捕食者のそれだった。

ハジメは岩を切り出し、明確なイメージの元、錬成していく。

すると、螺旋状の細い槍が出来上がった。

さらにハンドルの様な物を取り付ける。

何をするか察した颯斗は呆れながらも、敵に慈悲は無いと止めなかった。

 

「さーて、掘削、掘削!」

 

勢い良く狼に槍を突き立てる。

しかし、硬い毛皮と皮膚が槍を弾く。

たがハジメは、そんなこと想定済みで、剣やナイフではなく、槍を作ったのだ。

ハジメは足で槍を固定し、ハンドルをグルグルと回し始めた。

そう、これは硬い皮膚を突き破る為のドリルである。

少しずつ体重をかけ、回していると、遂に先端がめり込み始めた。

 

「グゥァアァア!?」

「痛てぇか?謝罪はしねぇぞ?俺が生きる為だ。お前らも俺を食うだろ?お互い様だ」

 

狼が絶叫する。

それを気にも止めず、ハジメは一心不乱にハンドルを回す。

そして遂に、ドリルが硬い皮膚を突き破った。

そして体内を容赦なく破壊していく。

狼はしばらく叫び、痙攣していたが、パタリと動かなくなった。

 

「よし、飯確保」

「こっちも終わったぞ」

 

嬉しそうに嗤うハジメと、冷静な颯斗。

最も颯斗も殺意を滾らせた笑みを浮かべているが。

そして残りの二頭を手分けして殺し、取り出して、死体を拠点へ持ち帰る。

 

拠点へ戻ってきた二人は、適当に皮を剥ぎ、肉を前に話し合う。

 

「さて、魔物を食ったら死ぬんだったよなハジメ」

「あぁ、体がバラバラになってな」

「だが、俺らにはポーションがある。これがあれば、死にはしねぇはずだ」

「…まぁ、どっちにしろ…我慢出来ねぇよ」

「…んだな」

 

肉を前にした二人は、涎を垂れ流し、空腹を満たすために、肉へ食らいついた。

筋ばかりの硬い肉を、血を滴らせながら噛みきりながら必死に咀嚼していく。

およそ二週間ぶりの食事に歓喜しながら咀嚼する。

いきなり肉を放り込まれた胃が驚き、キリキリと痛みを持って抗議するが、そんなもの無視をして、次から次へと飲み込んでいく。

 

その姿は完全な野性児であり、現代の人間から見ればひどくおぞましい姿だ。

 

酷い匂いと、味に吐きそうになりながらも、ハジメと颯斗は飢餓感が満たされていくのに陶然する。

食事を出来ることがこれほどまでに幸福だとは思っていなかったと、夢中で食らう。

 

しばらくそうして、神水で肉を流し込んで、腹が膨れてきた頃、体に異変が起こった。

 

「あ?______っ!?あっがぁ!?」

「…来たか___っ!ぐあぁあ!?」

 

突如、全身に激しい痛みが走った。

体の内部を何かに侵食されて居るようなおぞましい感覚。

その痛みは時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「うがぁぁぁあ!!!ぐぅぅぅぁぁあぁぁあ!!」

「ぎぃぁぁあ!!がぁぁぁあ!!!」

 

ハジメと颯斗は地面をのたうち回る。

幻肢痛など比べ物にならない激痛。

ハジメと颯斗は、神水が貯まっている窪みに顔を突っ込み、飲み込んでいく。

効果を発し、痛みが引くが、直ぐに激痛が襲いかかる。

 

「がぁぁあ!!なんで…なおらなぁ、あっがぁあ!!」

「ぐぅぁあ!!くっそがぁぁぁああ!!うがぁぁぁあ!!!」

 

二人の体が、痛みに合わせて鼓動を始めた。

ドクンッ!ドクンッ!と体全体が脈打つ。

至る所から、ミシッメキッと音が鳴る。

しかし、次の瞬間、神水の効果で修復される。

そして、激痛、修復、激痛、修復、それを繰り返す。

 

神水の効果が仇となり、気絶出来ない。

 

絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら、終わりの見えない地獄を味わい続ける。

いっそ殺してくれと願っても、叶えられるわけもなく、ひたすら耐え続ける。

 

すると、二人の体に異変が起こる。

 

髪から色が抜ける。

許容を越えた苦痛によるストレスのせいか、別の原因か、日本人特有の黒髪が白に染まる。

続いて、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側にうっすらと赤黒い線が浮かぶ。

 

現在、二人には超回復という現象が起こっている。

筋肉が断裂すると、僅かに肥大して治るという現象だ。

今、二人の体の異常事態も同じである。

 

ただ、魔物の肉を食せば、体が崩壊し、死ぬだけだったが、神水が二人を生かす。

 

壊れた端から修復し、その結果、体が凄まじい速度で強靭になっていく。

 

壊して、治して、壊して、治す。

 

やがて、二人の脈動が収まり、体をぐったりと倒す。

そして、少しでも回復しようと、意識を落とした。

 

二人の体には、熊の魔物と同じ、赤黒い線が走っていた。

 




なんか颯斗の描写が薄くなりましたが、俺の力ではこれが限界でした…
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