RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
『ありがとう』
たえちゃんの脱退&朝日さんのお披露目となるライブ当日。俺はファーストライブの時とは違い、観客席でRASの演奏を鑑賞していた。
前のライブは一応、初の舞台ってことで袖に控えてたからな。要らん心配だとは思ったが、バックアップ要員として。でもその時は無事成功したし、今回も必要なかろうって訳でサイリウムを振る側に回っている。だから直接ライブを鑑賞するのは初めてだった。
……あぁ、やっぱり最高だったなぁ。
モニターを利用してのメンバー紹介から始まり、暗転した次の瞬間にはぶっちがい(斜めからの光を交差させる演出)がRASの面々を舞台に照らしだす。客の意識をステージに引きずり込み、圧倒的な演奏力でライブは幕を開いた。
本当にあっという間で……まだ終わって欲しくないと、近くで見てきた俺でさえ思ってしまった。
『――そして』
レイヤからたえちゃんへスポットライトが移動する。たえちゃんがお客さんに最後の挨拶をする予定だ。……名残惜しいけど、俺も舞台袖に移らないとな。これも、ただのお節介なんだけど。
客席からこそこそと駆け寄った俺に、一瞬ライブスタッフは怪訝そうな顔を見せたが。関係者用の腕章を確認するとすんなり通してくれた。すんませんね、紛らわしくて。
「朝日さん」
「っ! 音無さん……?」
たえちゃんが脱退の挨拶をしている中、舞台袖では朝日さんがギターを抱き寄せて舞台を見つめていた。
「もうすぐ出番だ。大丈夫?」
すでにシュシュと眼鏡をはずしており、臨戦態勢と言った様子だ。それでも大きな初舞台、緊張しないということは無いだろう。
「……不安はあります。でも……っ、やります!!」
決意を秘めた眼、力強い宣言。『出来る』ではない。『やる』と朝日さんは言ったのだ。なら彼女は、絶対にやり遂げる。きっと俺の予想や、期待すら超えて。
「……うん、最強だ。んじゃ、いってらっしゃい!」
「わっ? っ、はい!!」
舞台上でたえちゃんとレイヤが拳を合わせ、会場が湧いたのを確認した俺は、軽く背中を叩いて朝日さんを舞台へ見送った。……と同時に、俺もRASの控え室に走る! 観客席に戻りたいが、さすがにこのタイミングだと他のお客さんの邪魔になるからな。しかし俺も正面からこのステージを見たいんだ……!
十秒足らずで控え室のモニター前に陣取った俺は、RASの舞台に注目した。
レイヤと拳を突き合わせたたえちゃんは振り返り、そこから舞台袖に歩き出す。行く先からは……RASの新しいギタリスト、朝日六花が現れた。
二人の姿が近づく中、ステージのモニターではメンバー紹介に使われたたえちゃんの映像。それが脈動するように膨張と収縮を繰り返している。
ついに二人が相対すると、たえちゃんがギターのネックを握ったままの左手を差し出し――。
『あとは任せた』
向かい合う朝日さんも、同じく左手を前に――互いの手の甲を、コツンとぶつけた。朝日さんがたえちゃんの言葉に頷き、同時に鈍い重低音! 脈動していたたえちゃんの映像は一度大きく膨張し、靄がかったように姿を淡くする。それが収まると、モニターには当然……。
『Guitar――LOCK!!』
数少ないライブとはいえ、会場に伝わっていただろうレイヤとたえちゃんの絆に。自らの場所を、朝日さんに託して去り行くたえちゃんに。その期待を背負って、凛とした表情でギターを構える朝日さん――いや、ロックに。
――そして、新たなRASの再演に――。
『ワァアアアアアアア!!』
会場は、今日一番の歓声を上げた!!