RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
「……ふぅ。いやー、気持ちいいね!」
「はいっ♪」
動画を投稿し始めてから、俺とパレオちゃんはまたもRASの練習の隙を見てセッションを撮影していた。自分の好きな曲を演るのは当然として、パレオちゃんが一緒に弾きたいと言ってきた曲を覚えるのもなかなか楽しい。普段は同じようなジャンルばっかり聞いちゃうし、新鮮な気分だ。
「さっきの『春擬き』も良かったけど、今の『らしさ』ってやつ好きだなー」
自分の中に譲れないモノがあるから、
「そう言っていただけると嬉しいです☆ どちらもアニメの主題歌なんですよー♪」
「へ~。ちょっと調べてみよっかな……」
俺が邦楽やアニソンに出会う時って、大体は投稿動画で有名どころがアレンジしてたりとか、ライブハウスで他のバンドがカバーしてるのが耳に残って、とかだからな。
アニソンなんかは物語の内容に合わせて作詞されることも多いみたいだし、それを知ってるかどうかでまた違うものが見えてくるはずだ。曲からアニメに入るのもアリっちゃアリだろう。
「それならパレオがおすすめをピックアップしておきますねっ♪」
「マジか! じゃあお願いしちゃう」
「かしこまりました☆ さて、ではアップロードを……へぇっ!?」
「どうした!?」
急にスマホを見て素っ頓狂な声を上げるパレオちゃん。俺もそちらを覗き込むが……なんだ? 何を見て驚いてるのか分かんない。ただの、俺たちが投稿した演奏動画ページっぽいが……。
「こっ、ここ見てくださいっ!」
「んんっ?」
パレオちゃんが指差した部分。……動画の視聴回数か。
「10,060回視聴……へー、結構見てもらえたんだなぁ」
「結構どころじゃないですよぉっ!? チャンネル登録者数……2,000超えてっ!? あわわわわぁ」
「? そんなにおかしいの? 有名な人たちって再生数500万とか1,000万とか平気でいってない?」
「それは有名だからですよっ、ソースさん! しかもその方たちは動画の広告収益で稼いでらっしゃる……言ってしまえばY〇UTUBEのプロなんです!」
あー……あれか、Y〇UTUBERって人たちのことか。毎日動画投稿して、その再生回数に応じてお金がもらえるんだよな、確か。
「その人たちはもちろん、撮影した動画をさらに時間をかけて編集して、より見やすく、コンテンツによっては字幕などで面白くしていくんです」
「ほう」
よく分からんが、字幕編集の重要さくらいは理解できる。アーティストのMVなんかも、聞きとれない歌詞は字幕が助けてくれるしな。
「それに比べて私たちは、撮影した元動画のまま編集もナシ、SNSなどでの宣伝もナシ。なのに数日で登録者数2,000……これは事件ですよっ……!」
パレオちゃんの言葉を聞きつつも、俺も自分のPCで動画ページを覗いてみる。……色々コメントも書かれてるみたいだ。
『え、どこの誰さん?』
『野 生 の プ ロ』
『機材何使ってますか?』
『誰かこの人たち知ってるかたー?』
『兄弟かな? カップル?』
『ギター暴れすぎやろwww』
『楽しんで演奏してるの伝わっていいな』
『指の動かし方おかC』
『キーボードの子手ぇほっそ!!』
『マジでどこのバンドだよ。素人じゃないだろ絶対』
「結構褒めてもらえてる……んだよな?」
「はい……野生のプロなんて絶賛されてますよ、凄いですね……はっ! と、とりあえず撮ったものは上げてしまいますね~?♪」
そこでパレオちゃんは我に返ったらしく、今日撮った演奏動画を投稿してくれた。
「しかし、演奏だけでこんなに見てもらえるんだなぁ」
大ガールズバンド時代なんて言われてるくらいだし、ここ最近は女の子の視聴者も多いのかも知れんな。Y〇UTUBEの弾いてみた動画再生回数の推移なんぞ、それこそ俺の知ったところじゃないが。
「歌を入れればもっと増えるかも知れませんよっ?☆ 私はRASの活動もありますし、ちょっと難しいですが……ソースさんに差し支えなければ、今度は歌ってみますか?♪」
歌か。もしかするとSOUだとバレるかも知れんが、解散してる以上バレたところで特に問題ないんだよな。
……実は、Eternity時代を知ってる知り合い達から、ちょくちょく連絡が来るんだ。サポートとして参加しないか、とか。またバンド組んだりしないのか、とかな。
その人たちは俺ってギタリストを必要としてくれてるのもあるんだが。それ以上に、解散のショックで俺が辞めてしまわないか心配してくれてるんだ。他のバンドの手伝いで忙しいって断ってるけど、当然RASの事はそこまで広めてない。知ってるのはdubのスタッフくらいだ。
もし動画投稿で名前が知れれば、それはそれで世話になった人たちを安心させられるだろう。あぁ、一応まだギターやってんだな、ってな。
「……今度は歌ってみるか!」
そうと決まればウキウキするな。投稿動画は大体パレオちゃんが主旋律を担当してくれたから、俺がギターで好き勝手やってたんだが。歌を入れればパレオちゃんも弾きたいようにキーボード弾けるだろうし、俺もその方がもっとノれる。
「はいっぜひ!☆」
笑顔で後押ししてくれたパレオちゃんにグッとサムズアップし、俺たちは次に演奏する楽曲をワイワイと相談し始めた。