RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

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18.一緒にやりたい

「それじゃあ、投稿しますよ~☆」

「ちょっと、ドキドキするね」

 

 コントロールルームのPCを操作するパレオちゃんに対し、画面をのぞき込みつつレイヤが言った。俺たちはつい先ほど、レコーディングブースで動画を撮り終えたばかりだ。もちろん演奏動画で、内容は……Eternityの俺の曲だ。

 

 ……なんでこうなったんだっけ?

 

 動画投稿ページのアップロード進捗を示す横棒(バー)を眺めながら、俺は昨日のことを思い出す。

 

Hey(ねぇ)ソース。なにコレ?』

 

 チュチュが就寝時間直前に、俺の部屋へやってきた。コレと言って示されたのはタブレット端末で、画面には……俺とパレオちゃんの動画が。

 

『……俺Y〇UTUBERになったんだ』

『率直に言って著作権法違反なんですが?』

 

 俺のボケにマジレスするチュチュ様。というか何ですか、僕そんなヤベーことしてたの!? 焦ってチュチュに詳しく聞くと、本気でY〇UTUBERとして広告収益目的の活動をするなら、俺とパレオちゃんのように許諾を得ず楽曲をカバーするのは違反になるらしい。危ねぇ……俺たちはまだ、そういう収益を受け取るような申請はしてないからね。ギリセーフだ。

 

『で? なにコレ?』

『見ての通りとしか言えんのだが』

 

 パレオちゃんに勧められて動画を投稿してみただけ。俺がセッションやライブをしたがってるのを察してくれたんだ、ってな具合で説明した。それを聞いたチュチュは考え込むような素振りを見せた後、口を開く。

 

『……ソース、今度は全員で撮るわよ』

『ワッツ?』

 

 意図がさっぱり読めねぇぜ、と肩をすくめ、ヤレヤレと首を振ると。イラっとしたのか脛になかなか鋭いローキックが入った。なにするだァ!! 異議を申し立てようとするも、チュチュがタブレットの画面、その一点を指さして遮る。

 

『登録者数5,000弱……。これは使えるわ』

『ワォ』

 

 いつの間にかそんなに増えてたんか。チュチュの考えによれば、このチャンネルを利用してRASを宣伝しようって話らしい。もちろんMVが完成したら専用のアカウントを作るので、あくまでサブだけど。

 

『このチャンネルはソースのチャンネルとして、そこにゲストって形をとるわ。やることは一緒。弾いてみた動画よ』

『俺は嬉しいけど……良いのか? 男が居てさ。追っかけの男性ファンが噛み付くかも知れんぞ』

 

『RASをアイドルか何かと勘違いしてる輩なんてどうでも良い』

 

 かっけぇチュチュ様……! まぁそんな訳で、RASの皆にEternityの曲を演奏してもらった訳だ。ロックはリズムギターを担当してくれた。感謝やで……!

 

 格好に至ってはみんな普段着だ。俺は一応、ライブで使ってた帽子被ってるけど。ほとんど全身見えてるし、もう誰も正体を隠す気が無い。っつーか宣伝目的だしな! 俺も世話になった人がこの動画で安心してくれると嬉しい。

 

「アップロード完了しました~☆」

「これでいつでも見れるんだよな?」

「そうだよ、ますき」

 

 実感が湧かない風のマスキングに、レイヤが静かに同意する。うん、気持ちは分かるぜマスキング。改めて考えると、たったこれだけで全世界の人間が、俺たちの演奏をどこでも見れるってのは中々凄いことだ。

 

「OK! とりあえずソースチャンネルには、ソースの曲とカバー楽曲だけを投稿していく。私たちの楽曲は、MV用のRASチャンネルができ次第そこに上げるから!」

 

 あ、ソースチャンネルになったんスね、俺のアカウント。別にいいけど……後で更新しとこ。とりあえずそんなこんなで、動画を投稿する時はその都度集まっているRASの面々でセッション出来ることになった。もちろん練習がある時は別だけどね!

 

 

・・・

 

 

「何か始めるなら私にも教えなさいよ」

「忙しいと思てん」

 

 そして夜。よほど俺が勝手に動画を投稿したのが不満なのか、後頭部で鎖骨付近をガスガス攻撃してくる。別にそれ自体は痛くないんだけど、ヘッドフォンが当たりそうで怖いんだよ。これでモノがオシャカになったら絶対俺にキレるもんな。

 

「……私だって、Chance(機会)があれば一緒にやりたいって……」

 

 ……はー可愛いですかよ。お眠のせいか何なのか、この時間帯になるとチュチュは素直に、っつーか……急にデレなさる。いや、俺を椅子にしてる時だけか?

 

 しかし、チュチュがそんなこと言ってくれるとは……。バンドにおけるDJってのは、立ち位置が特殊だからな。それもライブなんかじゃなくて弾いてみた的なセッションになると、リズムを取ったりSEを差し込んだりするのが主になる。

 

 つまり、自分の音楽を表現するというよりも、バンドを調和させる立ち位置になるんだ。最強の音楽を表現するためにひた走ってきた、そんなチュチュが。ただ単に『一緒にやりたい』と言ってくれた。

 

 ……アカン、ちょっと視界がジワってきた。

 

「……悪かった、次から何かするときは真っ先に相談させてくれ。俺も、チュチュが一緒に居てくれた方が楽しいしな」

 

「~~っ!!」

「お、おいチュチュさんや?」

 

 急に両腕の袖で顔を覆って足をバタバタさせるチュチュ。急にどうし……耳真っ赤ですやん。照れてるだけだったわ。いつもなら揶揄(からか)ってるとこだけど、今日はそんな気分にはなれんな。

 

「……いつもサンキュな」

 

 チュチュの奇行には目をつむり、もはや恒例と言うように髪を梳いてやった。奇行が悪化したのは言うまでもないことか。

 


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