RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
「ひっろ……」
「驚いた? ここが私たちのプライベートスタジオよ!」
ちびっ子が狼狽えている間にトンズラかまそうと思ったがそうはいかず、俺は引っ張られるままにデケェ建物に引きずりこまれた。
この規模のプライベートスタジオって何……? このお嬢ちゃんもしかして良いとこのご令嬢か……?
「ん? 私たち?」
「ええ。さっき言いかけたけど。私がプロデュースするバンドのホームよ!」
「ほーん……」
そこそこいい時間だ。他のメンバーはとっくに帰ってるんだろう。っつーか俺も帰りたいんだけど。
「んで? 察するにガールズバンドでギターが足りてないんだろ? 俺関係ないじゃん」
「ないけどあるの!!」
なにそれYU-JYO? 見えるんだけど見えないもの?
「たしかに探してるのはギタリストの女の子よ。他も足りてないけど。でもあなたの腕前は見過ごせないわ。どうにかしてバンドの糧に……」
糧って……俺は生贄かよ。
「とりあえず今日は帰って良いか? 色々あって疲れてんだわ」
あーやだやだ。色々とか言ったら
「……ご家族と何か予定でも?」
「いんや? 俺一人暮らし……あぁそうそう! 妹がまだちっさくてさー! 両親も帰るの遅いし俺が面倒見てやらないと……」
「一人暮らし、ねぇ……」
聞こえてーら。ニヤリと邪悪な笑みを浮かべて、ちびっ子はビシッと俺を指さした。オイ行儀がなってねーぞ。
「あなた、今日からここに住みなさい!」
「……パードゥン?」
じっくり聞いたところ、突飛な提案の中身はこうだ。
このちびっ子はここに一人暮らし。家族は海外を飛び回ってるらしい。しかし心配はしているらしく、近々お手伝いを雇おうとしていたとのこと。そこにギターが弾ける人身御供登場だ。食うしかねぇ! ってこったな。ざけんな!
「見ず知らずの大人にチョロチョロ指図されたら面倒なのよ! その点あなたはギターが弾けるわ! それに一人暮らし! ここに住むのに何の不都合もないじゃない! 家事手伝いの住み込みバイトだと思いなさいよ!」
「俺だってほとんど見ず知らずだろうが! お前はパッと見カワイイ自覚ねぇのか!? 俺がロリコンの変態なら今頃レ〇プされてんぞ!」
「かわっ! レ!?」
また顔を赤くしてプシューと湯気を出すちびっ子。なんだ、ませてると思ったらこの辺は相応か?
「んっ、こほん! え、演奏は嘘をつかないわ! さっきのギター! それだけで信頼に足ると確信したの! 私は私のプロデュース
だから一緒に住めって? 頭お花畑かよ。……いや待てよ?
「ところでお嬢様?」
「……はっ? 何よいきなり」
ゴマをすって下手に出る俺に、ちびっ子は胡乱気な表情を浮かべた。まぁ構うまい。勢いで口論したがコイツの一言は聞き逃せねぇ。
「住み込みバイトってことは……お給料は?」
「なによそんなこと? サラリーマンの平均賃金くらいは出せるはずよ?
「マジ!? いや本当ですかお嬢様!」
「なんて手のひらの返し様……。そ、それにこの建物は自由に使っていいし、私室もあげるわ。悪くないでしょう?」
詰め寄った俺に一瞬引いたようだったが、それ以上に自尊心をくすぐられたらしく揚々と説明してくれた。家賃ゼロ……だと……?
「私室ってユニットバスとかある?」
「あるけど……もっと大きな浴場もあるわよ?」
マジで大丈夫かこのガキンちょ。よっぽど箱入りなのか?
「ガールズバンドってことは女の子が何人も出入りするんだろ? 風呂だのトイレだので鉢合わせなんざゴメンだぞ」
「意外と繊細なヤツね……」
バッキャロー繊細じゃなくてバンドのリーダーが務まるかよ。ライブハウスでの挨拶やら打ち合わせやら、共演するバンドの好みに合わせた差し入れやらめっちゃ気ぃ使うんだぞ!
「まぁそんなに好条件なら渡りに船だ。やるぜ、……家事手伝い?」
「書類上はそうね。でも……一応、マネージャーとしてバンドの活動にも参加してもらうわよ」
「君らの? ガールズバンドに?」
「
……なるほど。それに新しく入ってくるだろうギター担当にも、同じ畑の人間として協力できるだろうってとこか。確かにプロデューサーを自称するだけのことはある。……と、思う。本職じゃないしなんとなくだけど!
「オーケーお嬢様。よろしくな」
「……言っといてなんだけど、やけにあっさり決めるわね」
「俺のバンド、ついさっき解散したんだよ……。季節バイトもちょうど切れたしな……」
「
くそが、憐れむような目で見るんじゃねぇ! ……と声高には言いづれぇ。もし気に障ったら旨いバイトがおじゃんだ。男はつれぇよ……。
「ま、まぁ従ってくれるのなら問題ないわ。ただし! こちらがお金を払って雇う以上、命令には絶対服従!
「オーケーオーケー。承ったぜお嬢様」
「チュチュよ! これからはそう呼びなさい。……あなた、名前は?」
「ん? ああ、言ってなかったな。
「ソウ・オトナシ……。なら、今日からあなたはソースよ!」
「ソース? キッ〇ーマン?」
「
……やっぱ生贄じゃね? そう思いつつも、俺はちびっ子……チュチュが差し出した名刺を受け取るのだった。