RASのマネージャーにされた件【完結】 作:TrueLight
「ねぇ奏。私に隠し事してない……?」
「い、いやソンナコトナイヨ?」
温泉で親睦を深めて(意味深)からも予選ライブの日程を順調に消化し、俺たちは12月7日を迎えていた。ガールズバンドチャレンジの決勝に出場するバンドはもう決したとさえ言える状況に少しばかり気持ちが落ち着いたこの頃。ついにちゆは俺に対する違和感を明確なものにしたらしい。
「じー……」
「………………」
椅子になった俺の膝の上で、肩越しに訝し気な半眼を向けるチュチュ様から視線をそらし、額に汗が滲むのを感じつつ願った。早く……早く来てくれみんな……!
「おっまたせしましたー☆」
「すんませんソースさん、ちょっと混んでて」
「こんばんは」
「おっ、遅くなりました!」
俺が念じるとそれに応じたように、買い出しに行ってくれていたRASの面々がスタジオに入ってくる。ナイスタイミング……!
「あっ、あなたたち……
予定にないメンバーの登場にちゆは飛び上がり、俺の膝から下りて距離を取った。実は俺とちゆの関係はだーれにも言ってないのである! ちゆ曰く、RASのプロデューサーとして恋愛に
まぁパレオちゃんは前から知ってるし、微笑ましそうな表情を見ればレイヤとマスキングも察しているのは明らかだ。ロックは存外鈍いらしく、気づいてる様子はないけど。
「今日は特別な日ですから~♪」
パレオちゃんがちゆの言葉に答えてから、俺たちに目配せをした。そして俺たちは息をそろえてこう告げるのだ。
「チュチュ様、お誕生日おめでとうございます!☆
お誕生日おめでとうございます!
お誕生日おめでとう
お誕生日おめでとう!
お誕生日おめでとう!!」
「…………ぇ……」
そう、今日はちゆの14歳の誕生日なのだ! この日が近づいても全く意識している素振りが無かったので、あまり頓着しないタイプなのは予想できてたけど。マジで自分の誕生日であることを忘れていたようだ。
「みんなギリギリ過ぎぃ……もうちょいでバレるとこだったよ」
「間に合ってよかったですぅ……」
「誕生日だろ?」
「くすっ、忘れてた?」
俺が胸をなでおろすと、ロックも同様に息をつく。しかし早く祝いたくてしゃーないらしいマスキングとレイヤはちゆに一言告げ、すぐにレコーディングブースへ入って行った。マスキングはともかく、レイヤも意外とマイペースなんだよな……。
「ほらどうぞ、お姫様」
「チュチュ様こちらへ~♪」
お高いチェアから腰を上げて持ち主を無理やり座らせると、その背を押してパレオちゃんがブース内へ拉致って行く。困惑してあぅあぅ言ってるのを見てコソコソ準備してた甲斐あったなぁと思いました。
「
「しぃーっ……」
各々がポジションに立ち、楽器を構える。レイヤがちゆの言葉を封じる中、いつもライブではチュチュが居るはずの場所、マスキングの左隣に俺もお邪魔した。笑顔でギターを手渡してくれたのはロックだ。みんなの楽器はここに置いてたけど、俺のは彼女が部屋から持ってきてくれた。俺の楽器があったら不自然だったからねー。それが無くてもバレそうだったけどなっ!(ポンコツ)
ロックが眼鏡を外すのをきっかけに顔を見合わせ。俺たちは、ちゆへの想いを込めて演奏を開始した。ボーカルのレイヤが紡ぐのは、パレオちゃんが作曲し、そして彼女を中心に作詞した曲だ。
――Beautiful Birthday――
パレオちゃんが抱く、チュチュへの想い。それが綴られたこの歌は、だけど決して他のメンバーと無関係じゃない。……もちろん、俺にも。
ちゆが手を取ってくれた。俺たちを、この場所でつないでくれた。RASの中心にはいつだってちゆが居て、ちゆが不敵に笑ってくれるから、並び立ってみんな笑うんだ。
広大な電子の海で見初められた、孤独な女の子がいた。
認められど、遠巻きに称賛されるだけの女の子がいた。
足並みの揃わない狂犬だと、恐れられた女の子がいた。
憧れたキラキラの手を取れない、健気な女の子がいた。
足跡は消えて視界が真っ暗な、バンドマン崩れがいた。
俺はきっと、どこかへ向かって。向かっているつもりになって。誰も知らない、どこでもない場所をゴールだと妥協して、そのまま消える存在だった。
パレオちゃんも、レイヤも、マスキングも、そしてロックも。そうならなかったかも知れないが、同じような不安や焦燥を抱えたことはあったハズだ。
そこに燦然と輝く光が現れた。ちゆは、俺たちという存在の穴を埋めてくれるピースだった。手を伸ばせばそこへ連れて行ってくれる。自分を昇華させてくれる、唯一無二の星だった。
お前の居る場所へなら、どんな壁だって乗り越えられる。お前が隣にいるのなら、どんな世界でだって生きていける。
相棒をかき鳴らし、パレオちゃんとロックを支える。レイヤの音色に同調し、マスキングとともに加速する。今日限りのリズムギターだ。
ちゆ、お前には……届くだろうか? 『お誕生日おめでとう』、聞きなれた言葉だ。ただのテンプレに成り下がったソレをただ伝えるだけじゃ、俺たちの気持ちは表現出来ないんだ。
生まれてきてくれて、ありがとう。俺たちと……俺と。出会ってくれて、ありがとう。これからも、ずっとずっと、よろしくな。そして一年後の今日、また祝わせてほしい。お礼を言わせてほしいんだ。
ちゆ、俺が恋した女の子。生まれてきてくれて、ありがとう、って。
「♪――――!」
万感の想いを乗せて、俺たちの演奏は終わった。無意識に、呼吸を止めてギターを弾いていたらしく、余韻から覚めるように俺は細く息を吐く。
「…………っ」
「……チュチュ、お誕生日おめでとう。――RASに誘ってくれて、ありがとう!」
「レイヤ……」
息をのんで見守っていたちゆにレイヤが言うと、ちゆは切なそうにレイヤの名を呼んだ。それに続いて、口々に『ありがとう』を伝えていく。
「お前には……感謝してる。あたしには一生バンドなんか、無理だと思ってた。ドラマーとしてまだまだだけど……支えっから。これからも、あたしを引っ張ってってくれよ、チュチュ!」
「マスキング……」
「チュチュさん。私、このメンバーでバンドが出来て嬉しいですっ。刺激的で楽しくて……でら最高や!」
「ロック……」
「――チュチュ様、お誕生日おめでとうございます。……大好きですっ」
「パレオ…………っ、こんなのズルイ!!」
チュチュ様の前に歩み出たパレオちゃんがとどめを刺すと、チュチュ様はぎゅっと両目をつむって顔を逸らした。俺のターン? ないよそんなの! 後ほどお二人でごゆっくり♡ なんて言われちゃってるからなぁ! パレオちゃんェェ……!
例の如く、そこからはラウンジに移動し。レイヤにロック、パレオちゃんに主役をもてなしてもらいつつ、俺とマスキングで料理を作り。腹を満たしながらちゆの誕生を祝った。
最後にはマスキングが用意してくれた三段のでけぇイチゴケーキにロウソクを刺し、明かりを落とした室内でちゆが14の
パチパチと温かい拍手がラウンジに響く中、再び電気を点けたとき。頬を赤らめながら照れくさそうに微笑んでいたちゆの顔を見て、俺たちも同じように笑みを浮かべ合った。