RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

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P3.待ち合わせ

 とある日の夕暮れ時。俺は鴨川の海沿いにある車道の端に車を寄せ、ぼーっと外を眺めていた。ちらりと手元のスマホに目をやれば、待ち合わせの時間まではもう少しある。

 

『ソース、パレオとナツマツリに行ってきなさい』

 

 とは今朝のやり取りだ。帰国子女ってことでそういう催しに縁のなかったチュチュを気遣って、パレオちゃんが誘ってくれた祭りに行く予定だったらしいんだが。スタジオの機材なんかをメンテナンスする業者の出入りがあるらしく、チュチュは行けなくなったらしい。

 

 家事手伝いとはいえデカイ住処だ、俺が全部掃除やらしてるワケなんて無いので、以前からもろもろ業者の出入りがあるのは把握していた。でも今日は別に予定なかったような……? しかし雇用主(の娘)にそう言われりゃ俺が疑う理由もないんで、チュチュの代わりにパレオちゃんと行って来い、との命令を承った。

 

 俺は別に構わないんだが、パレオちゃんはチュチュの代打が俺で良いんだろうかね? 本人に確認したら一緒に行きたいと言ってくれたが、社交辞令の感が否めない。

 

 楽しんでもらうにはどうすりゃえんやろか……なんて考えてたら、コンコンと控えめに窓ガラスがノックされた。そちらに視線をやると、スタジオに集まる時と同様に髪を黒と白に分けたパレオちゃんが。浴衣も全体の雰囲気に合わせてか、黒色の地に白や淡い桃色の桜が散りばめられており……うん、似合っとるね!

 

「お、お待たせしました~☆」

 

 おずおずと助手席に乗ってきたパレオちゃん。少し気恥ずかしさがあるのか、眉をハの字にして口調もいつもより控えめだ。……その、なんだ。照れてる様子が普段とのギャップを感じさせ、こっちまで顔が赤くなってくる。

 

「むしろ早いくらいだよ。……ところで、浴衣似合ってるね。めちゃくちゃ可愛いよ」

「え、えへへ……ありがとうございます~……」

 

 サラッと素直に伝えたつもりだが、パレオちゃんはより頬に朱をさして膝を見つめてしまう。うーん……やべぇ! なんか甘酸っぱい!!

 

「とっ、とりあえず向かおうか!」

「はっ、はい! おおお願いしますっ☆」

 

 お互いにぎこちなさをごまかすように大きく言うと、俺は車を走らせた。こっから一時間以上運転することになるんだが、大丈夫かな……?

 

 と心配していたんだが、そこは我ながら優良ドライバー。しっかり運転に意識を持っていけばどうしてもパレオちゃんに意識を向け続けるわけにも行かず、それが逆に自然体での会話を可能にさせた。

 

 そもそもパレオちゃんも気遣い屋さんだからな、邪魔にならないよう適度に話題を振ってくれて心地よくドライブできた。っつーか、毎度パレオちゃんと二人で鴨川からチュチュのマンションまで向かってるしな。いつも通りといえばいつも通りである。

 

 マンションの駐車場に止めると業者の出入りに障る可能性があるので近くのコインパーキングに車を預け、そっからは駅に向かう。会場周りは混むだろうことはパレオちゃんも察していたようで、特に疑問を浮かべることなくついて来てくれた。

 

「あはは……混んでますね~?☆」

「だねぇ。浴衣の人も多いし、目的は一緒だろうね」

 

 祭りの会場に向かう電車は停車する度に人口密度を増していき、寿司詰め一歩手前って感じである。パレオちゃんに窮屈な思いをさせまいと吊り革を強く握り、座席の縁に足を添えて踏ん張ってみれば、俺の意図を悟ったらしいパレオちゃんが健気にもこちらの胸元に手を添えて寄り添ってくれる。

 

 一瞬ドキッとしたが、眼下にあるパレオちゃんの耳が真っ赤になってることに微笑ましさを覚え、動揺するのはなんとか抑えられた。いやしかし……良い子すぎない? この娘っ子。

 

 万が一にもパレオちゃんを不快な目に合わせちゃなんねぇと心意気を新たにし、俺は電車内の様子に気を配りながら会場へと向かった。

 


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