RASのマネージャーにされた件【完結】   作:TrueLight

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9.打ち合わせ

Yes(やったわ)! 狙い通りに大反響よ!」

「おめでとうございまぁす☆ おめでとうございまぁす!☆」

 

 チュチュがSNSを始めとした各メディアのRASに対する反応を見て、喜びの声をあげた。パレオちゃんが応じて紙吹雪を室内にばら撒く。……いや、手伝ってくれるんだろうから強くは言わないけどさ、掃除するの主に俺なんやで……。

 

「マスキング! ケーキ焼いて」

「何焼けば良いんだぁ?」

 

「そうねぇ……最強(サイッキョー)の私たちにピッタリなケーキ……」

 

 そこで一瞬チュチュは思い悩む素振りを見せた。多分イチゴケーキって言おうとしたんだろうな。だがそれは俺が昨日買ってきてやった。さすがに別の味を頼むだろ。

 

「……イチゴケーキ!!」

 

 結局イチゴケーキかよ! いや、下手なモン食わせたせいで、逆にマスキングのが食いたくなったか? どっちにしろ食い意地の張った奴だぜ、まったく。

 

 ガチャっ。

「あっ、花ちゃん」

 

 ……来たか。花園さんが制服姿で部屋に入ってきた。さて、どう転ぶかな?

 

「コングラチュレーショーン☆」

 パレオちゃんがテンションのままに、またも紙吹雪をばら撒いた。うん……片付けの事考えるのやめよ。(現実逃避)

 

「来たわね、タエ・ハナゾノ!」

 

 うーん凄い、さすがチュチュ。俺が事前にRASのサポートやめるかも、って伝えといたのに。それを微塵も感じさせず歓迎して見せた。ま、俺の予想に過ぎないし、チュチュからすりゃあ俺の考えすぎって感じなんかも知れんが。

 

「あなたもすっごく評判いいわよ! 次の主催ライブでギターソロも考えてる」

 それは考えてるだけだよね? ライブハウス押さえてあまつさえセトリ出したりしてないよね?

 

「……お話があります」

 

 来たな。花園さんが神妙に口を開いた。

 

OK(いいわよ)! 最高(サイッコー)に気分が良いから何でも聞いてあげるっ!」

 

 チュチュの喜色満面の言葉に、花園さんは堪えるように唇を結んだ。そりゃあ罪悪感あるわな……。

 

「……RASのサポートギターを、やめさせてください」

 

 そう言って、深々と頭を下げた。

 マスキングは何を思っているのか無表情。レイヤは虚を突かれた様子だ。パレオちゃんは不安そうにチュチュへ視線を向ける。……ま、そういう反応になるよな。マスキングはともかく。

 

 パレオちゃんはチュチュの憤慨を懸念したんだろうが、チュチュはちらりと俺に視線を寄こし、悔しそうに眉根を寄せた。睨むんじゃないわよ、私のせいじゃないでしょう?

 

「……はぁ。ハナゾノ、理由を教えて」

 

 チュチュが静かに口を開くと、レイヤとパレオ、これにはマスキングも意外そうにチュチュを見つめた。キレると思ったんですね? 分かります。

 

「私に力が足りませんでした。ポピパとRAS、二つやる……。RASの音楽は凄いと思います。こんな音、どうやったら出せるんだろう。こんなふうになりたい……っ。……ここでなら、成長できると思ったんです」

 

 そこで花園さんは、ちらりと俺に視線を向けた。……うん、まあ、嬉しい。成長と言うのはメンバーとのセッションによって自分を高めるってことなんだろうが、多分俺の音を目指してくれたんだろうから。自惚れでなきゃな。

 

「だからっ、こんな凄い人たちの中で修行できれば……!」

「修行……?」

 

 アッ。その言葉のチョイスはマズいんじゃないかなー……。横目にチュチュの表情を盗み見ると……はい、怒ってますね。結局キレたわ。

 

「修行って言った……!?」

「あっ……」

 

 花園さんが短く声をあげるのと、チュチュがデスクに拳を落とすのはほぼ同時だった。

 

「私は本気でやってるの……! そんな素人の腰かけ程度でやられると大迷惑なのよっ!!」

「っ、ちが」

 

「そうでしょっ!? ちょっとやってダメならすぐ辞めるなんて、あなた自分勝手過ぎるんじゃないの……!?」

 

 自分勝手に関しちゃおまいう案件なんだが。もちろん口には出さないゾ☆ 俺は慎重な男なんでね。(チキン)

 

「やるなら何もかも全部本気でやりなさいよっ!!」

「……!」

 

 花園さんが絶句していると、レイヤが気づかわし気に彼女の肩に手を置き、チュチュに向き直る。

 

「チュチュ、ちょっといい?」

「……頭冷やしてきなさい」

 

 その返答は花園さんに対してだったが。それを受けて、二人は部屋の外へ出ていってしまう。

 

「あうぅ……はうぅ~」

 

 パレオちゃんは焦ったように声を漏らしていた。こうもわたわたしてる様子を見せられると、チュチュにしか説明していなかったのが申し訳なく感じるな。

 

「……気持ちは分かるが、言い過ぎだぞ。チュチュ様よ」

「分かってるわよ……」

 

 花園さんが本気でやってなかったなんて、チュチュも本心から思っちゃいないだろう。ただ、自分が全力で目指したライブを修行場所扱いされたんだ。キレてもしゃあない。

 

But(でも)! 今辞めるなんてCrazyだ(イカれてる)わ! 伝説は始まったばかりなのに!!」

「……もともとサポートって話だっただろ?」

 

 うん、まぁ……マスキングの言う通りではある。でもチュチュは、ハナっから花園さんを引き抜こうと画策してたしな。ハナだけに!(激ウマギャグ)

 

「残念です……レイヤさんも花さんが入って、凄く喜んでいたのに……」

「まぁな……」

「……チッ」

 

 パレオちゃんの言葉にマスキングが同意し、チュチュは舌を打った。レイヤは花園さんとセッションすると、普段より楽しそうに演奏するからな……。もちろん、彼女はプロ志向の人間だし、その程度でそこまでクオリティに落差は出ないだろう。でも……彼女が楽しそうに歌う姿が、俺は結構好きだ。花園さんがサポートを辞めるのは、俺としても残念に思うところはある。直接練習に関わったりしたしな。

 

 結局花園さんの意思は変わらず、チュチュもそれを承諾した。渋々と言った様子だったが、最後にもう一回、主催ライブを経ての契約終了だ。次は花園さん目当てに来るお客さんも居るだろうし、告知の場としても必要なことだろう。

 

 んで、皆帰っていつもの如く。俺はチュチュと二人でブースに残っていた。

 

「ん」

「なんでやねん」

 

 チュチュが指差すのは専用チェア。いや、昨日のは分かるよ? なんつーか流れ的にね。でも今日はちゃうやろ。なんでまたお前のクッションにならなあかんねん。

 

「あんたの言った通りになった。打ち合わせが必要よ」

「俺が下敷きになる必要がどこに」

「どや顔で説明するあんたの顔なんて見たくない」

 

 ふぁー↑? こんガキャア。(n回目) もうえぇわ、勝手に脳内変換してやろ。つまり……『お兄ちゃんのお膝の上が落ち着くのっ///』ってこったな。仕方ないわねぇ~。

 

「へいへいおぜう様」

「ん」

 

 二人してキシリと椅子を軋ませ、腰を落ち着けた。……昨日も思ったけどかっるいなぁコイツ。もっと肥えさせるべきか……。

 

「で? 何か案はあるんでしょうね?」

「ギター候補を見つけた」

「聞いてないわよっ!?」

 

 どがっ!

 

「んがぁっ!?」

「いぃっ!」

 

 顎に頭突きかますんじゃねぇ! くそっ、あぶねー。舌噛まなくて良かったぁ……チュチュも痛そうに頭押さえてるから許したるわ、まったく。

 

「花園さんを送ったとき、文化祭で見つけたんだよ。ポピパの出番まで時間稼ぐために、舞台に立ってるギタリストの女の子をさ」

「ブンカサイ……昨日あんたも言ってたけど、ユキナも言ってたわね。私の邪魔ばっかりして……!」

 

「ユキナ? 誰だそれ」

Roselia(ロゼリア)のボーカルよ! この私が誘ってあげたのに、バンドの加入どころか、ライブの招待すら断った! 打ち上げの機会も逃すし、ロクなもんじゃないわね、ブンカサイ……!」

 

 え、何? RAS立ち上げる前にRoselia(ロゼリア)にも声かけてたの? 初耳なんじゃが。学生ガールズバンドについて俺はそこまで詳しくないけど、そんな俺でも知ってるくらいには有名な実力派集団だ。メンバーの名前は初耳ですけども。

 

 はぇー……。なんつーか、肝の据わった人っぽいな。ちんまいとは言え、チュチュが本気で相手に意思を伝える時はなかなかの迫力がある。花園さんも結構キてたっぽいし。それを軽々躱すボーカリストか……。ちょっと話してみたいかもな。

 

 っつーか、文化祭に居たってことは花園さんと同じ学校か? いや、合同ってあったし、もう一方かも。とりあえず覚えておくか。

 

「近いうちに絶対ブッ潰す……!!」

 

 ……まぁ、まさか拳で語る訳ねぇし、ガールズバンドのトップを目指す上でライバル視してるって感じか。問題あるめぇ。ガールズバンドのトップが何なのかは知らんが。前に言ってた"ガールズバンド時代を終わらせる"って宣言も具体性に欠けるしな。そういう意気で、全力で取り組むって話だろ。

 

「それは置いといてさ。羽丘って高校の生徒でな。一応、連絡先も手に入れてある」

「……随分手が早いのね」

 

「言い方ァ……。花園さんが抜けるのは予め想定してたんだ、俺も有望株は探してたんだよ」

「……そんな子が居たなら早く教えなさいよ」

 

「花園さんから直接聞くまで、サポートを辞めるのか、それがいつなのかは決まってなかったし。しゃあないやろ」

「で? その子はバンドやってるの? フリーなの?」

 

「なんとフリーなんだなー。しかもバンドがやりたくてメンバー探してる。おあつらえ向きだぜ」

「ふぅん……。良いわ、次のライブまでに接触する。腕が良ければ……」

 

「花園さんとライブでバトンタッチ、か?」

Exactly(その通り)!!」

 

 俺が考えを汲み取ったことが嬉しかったのか、振り返って満面の笑みを浮かべた。ふっ、愛いやつよ……。(ドヤ顔)

 

 このバトンタッチってのは、次のライブで花園さんを降ろして、新しいギター候補に変えるって意味じゃない。おそらくアンコールだかのタイミングで花園さんのサポート終了を告知、さらに新顔登場でギターの立ち位置を交代する。文字通り、舞台上でバトンを渡すのだ。

 

 新顔のお披露目としちゃあ前代未聞だろう。普通そういうのは、デビューライブとして華々しく飾るもんだ。しかし、チュチュの舞台演出はそんな常識に囚われない。花園さんの脱退と新顔の参入、これを一つのドラマとしてライブに盛り込むってこったな。

 

 観客の反応がどうあれ、話題性は抜群だろう。

 

「それで、その子の名前は?」

「ん? ああ、朝日 六花(あさひろっか)さんだ」

 

「ロッカ・アサヒね……。OK(いいわ)、その子をテストする」

「……ただ、一つ問題があるぜ」

 

What(なに)?」

「その子、ポピパの大ファンなんだよなぁ……」

「ぅげっ……!?」

 

 すげぇ嫌そうな声だすじゃん。花園さんに強く当たっちゃったからしゃーないけど。花園さんに言ったことがもし朝日さんに筒抜けなら、朝日さんは会ったことすらないチュチュを敵視してる可能性もあるし。話した印象的にはそんなこと無いと思うけど。

 

「文化祭でバンドも組まず、ポピパのライブまで場を繋げるために、一人でギター弾いたんだぜ? よっぽど好きなんだろうなぁ」

「ぐぬぬ……なんでそんなこと知ってんのよ!?」

 

「そらーお前、ライブ終わった後花園さんに相談したら、朝日さんに挨拶させてくれたからよ。ポピパからしても世話になってる友達らしくてな。ま、その時は勧誘するとは言わなかったけど」

「……他を当たるわ」

 

 まぁそうなるわな。徒労に終わる可能性が高い。チュチュは直接朝日さんの演奏を見たわけじゃないし、ギターの腕も眉唾だろうさ。ただ、そりゃ早計ってもんだ。

 

「まぁ待てよ。その朝日って子がソロで弾いた曲なんだけどさ……『R.I.O.T』だった」

「っ!!」

 

「後に演奏するポピパに遠慮して、花園さんたちの楽曲を避けただけかも知れんけど。RASのライブをネット配信のタイムシフトか何かで見たんだろうな。んで翌日の文化祭二日目で披露。意味、分かるだろ?」

 

「R.I.O.Tを耳コピして、たった一日でソロパートを完成させた……!?」

「しかも、俺が聞いた直後にギター候補に考えたレベルだ。もとの地力も相当なもんだぜ」

 

 俺の言葉を最後に、チュチュはしばらく黙り込んだ。魅力的な人材だ。一日で『R.I.O.T』を覚えるくらいだし、RASとの親和性は高いだろう。しかし花園さんとちょっとしたしこりがある今、大手を振ってスカウトはしづらい。考え込むのもしゃーなしだ。…………言ってみるか。

 

「……俺が」

「え……?」

「俺が、スカウトしてこようか」

 

 これは賭けだ。前は地雷を踏んだ。まだチュチュが、どこまでを己の領分としているのかは読み切れない。でも、ただ俺が見つけて、それを連れてくるくらいなら、勝算はある。花園さんだって、レイヤが連れてきたんだしな。もとが幼馴染だし、スカウトとはちょっと違うかもだけど。

 

「俺はどっちかっつーと、花園さんには信頼を得てるだろう。ギター練習の面倒も見たし、おせっかいで文化祭に間に合わせた。花園さんを通せば、朝日さんとはコンタクトを取りやすい。花園さんもRASに対して引け目はあるだろうし、朝日さんがバンド活動したがってることも知ってるはずだ」

 

「……」

「別に俺が引き入れる訳じゃない。連れてきて、テストして。最終的にお前が合否を出せばいいんだ。……どうだ?」

 

 説得力は十分だ。ここで断られたら……今後、俺が積極的に助けてやれる機会はほぼ無い。いけるか……?

 

「………………」

「………………」

 

 それなりに、長い沈黙が流れた。でも、最後には。

 

「……任せるわ。RASのマネージャーとして、ロッカ・アサヒをここに連れてきて」

「っ! オーケーチュチュ。任せてくれ……!」

 

 俺の胸にぽすんと背中を預け、同時に仕事を預けてくれた。思わず頭を撫でてしまった俺の手を、チュチュは振り払わずに目を細めていた。

 

 


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