古賀美琴は勇者である   作:時 司

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1話 開花

西暦2015年7月30日、原因不明の地震が日本各地を襲った。断続的に起こるそれによって地域の避難所となっていた小学校に身を寄せる人々の中に私はいた。辺りだけでも百人はいるだろうか。

「ミコトさんこっちこっち、」

声のしたほうではクラスメイトの女子数人が手招きをしていた。

「よかった、私達の地区でミコトさんだけ連絡取れなかったの。もしかしたら…なんて思っちゃった。」

「流石にそれはないよ。」

「でもでも、福岡西方沖地震の時より大きいんじゃないかって大人の人たちが言ってるよ。」

「それも全国で起きてるんでしょ?」

もともと福岡は地震が少ない。それなのに断続的に地震が起こってること自体が異常だ。

突如今までと比にならない揺れが起きた。数十秒と続いた揺れで辺りの建物は瓦が滑り落ちたもの、窓が割れたものと散々な状態になっていた。

人々は揺れが収まったことに安堵している。しかし私は身の毛がよだつほどの悪寒を感じていた。何かおぞましい感覚。不吉な、何か悪いことが起きる。それはすぐに現実となって現れた。

誰かが空を指差して叫んだその刹那ー。

 

絶望が地上に降り注いだ。

 

学校敷地内に身をよせる人々を下敷きにして落下したそれは、全身が不自然なほど白く、人よりも巨大で口と言うべき器官だけが張り付いた「化け物」であった。

化け物は下敷きにした人々の亡骸を貪り、逃げ遅れた人々を丸呑みにし、一瞬のうちに現世を地獄に作り変えた。

人々は散り散りに逃げた。しかし化け物は一匹二匹の話ではなかった。逃げた先からも次々と化け物が現れ、先々を紅に染める。

悲鳴、怒号、泣き声…。

私も逃げようと走り出したが人々に弾かれた。頭を強く打ち付ける。ふと脳裏に電撃が奔ったような感覚を覚える。頭を打ち付けたからじゃない。直感のようなものだ。

「神…社…。」

自分自身、なぜかはわからない。それでも行かなければならない気がして神社へと走った。どこを走っても地獄、辺りは紅く染まっている。化け物が私に気づき、体当たりで吹き飛ばした。血を吐き出した。それでも走った。意識が遠のいてゆく。化け物がまた私を突き飛ばした。地面に倒れた私にゆっくりと近づいてくる。神社に行かなきゃ。死にたくない、死にたくない…そう強く願った。

生にしがみつくその一心で手を伸ばした先に何かを掴んだ。瞬間に血が滾るような感覚を憶える。体の中の血が沸騰したかのような感覚、さらに意識がはっきりとして、力が溢れ出る。勢いだけに任せて何が何かすらも分からず、咄嗟に掴んだそれを化け物へと振った。そして斬った。

自分自身でも何が起こったのかわからなかった。ただ、斬った化け物は消滅した。腕の方をみると、私の手は銀色の刃を持つ太刀を掴んでいた。

「なんでこんな物が私の手に…。」

自然と勇気が自分の内から溢れ出てくる。弾き飛ばされた痛みをも忘れ、化け物に駆けた。両手で太刀を握りしめ、化け物目掛けて振った。化け物は真っ二つに割れて消えた。

「神社に逃げて」

この場で唯一化け物を倒した古賀の叫びを聞いた人々は我先にと神社へと走った。

それを待っていたかのように化け物が襲う、私はそれを真っ二つにした。逃げる人々から歓声が上がった。それでも私は応える暇もなく、襲ってくる化け物を斬った。斬り続けた。神社にたどり着けたのはたった二十数名。神社境内にあの化け物は入ってこれないのだろうか。ようやく襲撃がやんだ。しかし共にいたクラスメイトの姿は見えない。化け物に喰われたのだろうか。生き延びた人々は崩れ落ちていた。やっとおわったのか、みんないなくなってしまったと口々に呟いていた。

 

涙が溢れ出した。太刀を握ったまま、立ち尽くすことしかできずに紅く染まった石畳を涙で濡らした。

 

8月1日。私は地響きで目を覚ました。

「生存者確認、救護班をこちらへ。」

自衛隊員に私達生存者は助けられた。トラックに乗り込んだ。

「あなた達は…。」

「私達は飯塚から派遣されてきた。東京はおろか、福岡市にも連絡が通じない。おそらく化け物に通信機器をやられているんだろう。だから独自に動いて助けに来た。そしてあの化け物が入れない領域があるという話だ。大体それは神社や古墳に固まっているという。」

「入ってこれない領域…。」

「そう、君らがいた神社もそうだったらしい。」

「でも、この神社以外のこの地域は壊滅です。」

「大丈夫。宗像大社の領域は大きいらしい。大社どころか周辺地区まであの化け物が入ってこれなかったという話だ。」

「そうですか。」

トラックで揺られる間も疲れで眠っていた。他に生き残っている人がいたから安心したのだろうか。今はもう思い出せない。

次に起きたときはもう大社についていた。駐車場にはテントが立ち、自衛隊員や神社職員が出入りしていた。

「化け物を殺したのはあなたで間違えないですか?」

神社関係者だろうか、服装がそれらしい。

「はい。」

「伝えなければいけないことがあります。大社本殿までお越しいただけますか?」

「はい…。」

テントの合間を抜け、本殿へと向かう。そこには数人の神官と私と同じくらいの少女が二人立っていた。二人とも不安を表情に表している。私が来たのを確認し、くるりと奥を向いてつぶやき始めた。聞いたことがある。神社の儀式で唱えられる祝詞のようであった。そしてその言葉を唱え終えると私達の方を向き言った。

「勇者様、巫女様。こちらへ。」

「どういうことなんです?」

「あなた方御三方はそれぞれ勇者様、巫女様へと覚醒されました。今ここにその命をお刻み下さいませ。」

「その…勇者とか巫女とかって何なんです。」

この問には隣の少女が答えた。

「あなた、化け物を倒したんでしょ。それで勇者だなんだって担がれてるのよ。」

「そんな、私はそんなこと聞いてないよ。」

「情報の伝達が行き届いていなかった事は謝罪申し上げます。しかし今、バーテックス…いえ、貴方方にとっては化け物と言ったほうがご理解頂けるでしょうか。それらに今対抗できる力を持った土地神様の加護を受けたのは貴方方しかいらっしゃらないのです。どうかその御加護を人々のためお使い下さい。」

また隣の少女が口を開いた。

「自衛隊がいるのよ、それなのに私達じゃないと倒せないみたいな言い方。」

「そちらの巫女様はよりはっきりとわかるはずです。」

今まで口を開いていなかった少し小さい少女が話し始めた。

「はい。神官さんの言うとおりです。あの化け物は神の加護を受けた勇者でしか撃破できない。人の作りし武器は天の使者には届かない。そして勇者に選ばれたのがそこの人とお姉ちゃん。」

「マユキ、本当にそうなの?」

マユキと呼ばれた少女はこくりと頷いた。

「自衛隊の方々はただ装甲が分厚いだけ。などとおっしゃられていましたが、バーテックスには武器は効きません。」

「武器が効かないなんて。」

「私達は勇者になるしかないんですか。」

神官に噛み付く少女二人とただ俯き立ち尽くす少女。神官はただ淡々と事実を述べた。

「貴方方が勇者、巫女にならなければ、ただバーテックスに喰われるのを待つだけです。」

しばしの沈黙が空間を支配した。選択肢なんて私達にはもとからなかった。

 

8月1日。私は勇者になった。

 

 

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