古賀美琴は勇者である   作:時 司

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7話 散り零れ

あの夜と同じだ。あの絶望が降った夜と同じだ。大切なものを守れなかったくせに私は生きてる。

「今度は嗅覚かよ…。」

今さっきまでした海の香りも、血の匂いすらも感じない。

「美琴さん…。」

私『達』の担当の女性神官が私に話しかけていた。

「神官さん。勇者って、何なんでしょうね。」

まだほのかに温かみのある姉妹の手を握りしめたまま呟いた。

「それは…。」

彼女も言葉を詰まらせている。当然だ。勇者が何かなんて問自体に意味がないのだ。

「私の両足と嗅覚は壊れました。もう友達の香りなんてわからないんです。」

「…私はあなた達に感謝しています。」

「感謝なんていらないんですよ。そんなのあっても…友達は帰ってこないんです。」

「私達にはあなたが必要なんです。」

「私にはもうこの世界は必要ないんです。」

「じゃああなた達がやってきた事は何だったんですか。」

神官の口調が強くなる。

「それは…。」

今度は私が言葉を詰まらせた。私は二人から手を離し、腕で身体を押し上げて神官の顔を見た。いつもの無表情な彼女とは違う。涙を流していた。

「私に事の良し悪しはわかりません。私達はあの地で滅ぶべき存在だったかもしれません。それでも私は、あなた達勇者と巫女を近くで見てきた私は、あなた達のしてきた事を信じたい。」

「神官さん…。」

「だから彼女達を今はゆっくりと眠らせてあげたい。」

「わかった。」

冷たくなった親友達に神官から渡された布を二人の親友と薙刀へ被せた。船団は関門海峡を抜け、四国を目指していた。

平静な海が続く、私は女性神官の力を借りて甲板に腰をかける形で海を眺めていた。海の匂いはしないが、音と景色は今までの海だった。さっきまでの戦闘が嘘のよう。

遠くに何か異質な壁のようなものが見え始めた。コンクリートではない。何か植物の根が集合したような…。

「壁だ…。」

やっと辿り着いた。旅の終着点は少しずつ近づいている。

しかし近づいてきたのは壁だけではなかった。敵の大群がこちらを追って来ているのが見えた。

「神官さん、ありがとう。桜雪ちゃん、真雪ちゃんも…行ってくるね。」

「行ってらっしゃい。美琴さん。」

身体の芯へと意識を集中させる。身体が光に包まれた。温かい光…。なぜかいつもより強い気がする。神の樹、神樹が私に力を貸してくれるからなのか、九つの尾が生え、身体を浮かばせる。太刀を握りしめた。ここを切り抜けて信念を突き通す。桜雪と真雪が繋いでくれたこのバトン。ここで落とすものか。

こいつらは頂点、バーテックスなんかじゃない。私から親友を奪い、それでもなお私から大切なものを奪おうとする化け物。これ以上は絶対に奪わせたりなんてしない。

丸くて白い化け物の点が南の空を埋め尽くしている。方向からして大分の方から来たのだろうか。太刀だけでは到底間に合わない。霊力をエネルギーの弾丸にして撃ちだし、敵を倒す。

いつ終わるかわからない化け物の雨を一人で受け止める。化け物の中に融合体が混じり始めた。構わない。角付きでも筒付きでも関係ない。一匹たりとも船団には手出しさせない。

 

不意に何かに弾かれ飛ばされた。空中で身体を翻し体制を整えた。攻撃してきたそれの一撃は敵の大群を飲み込み、一つにまとまった。細く、長くなっていく…。

「これがラスボスってとこかな…。」

周辺にいた全ての化け物が融合したそれは蛇のようになり、一本にのばせば三百メートルはあるだろうか。

敵が動く前に先制攻撃を仕掛ける。太刀を思い切り振って頭と思われる部分に叩きつけた。太刀は敵の頭部を二つに割った。確かな手応えがあった。しかし、敵は数秒と経たずに再生し何もなかったかのように私を突き飛ばした。かろうじて漁船に着地した。切り札が解け、体制を崩す。

「美琴さん。」

「神官さんか、今回私も厳しいかも。」

私は身体を起こして敵を見て、覚悟を決めた。

「船団を飛ばす。」

「どういう事ですか。」

「壁は見えた。私の力ならできる。」

「それじゃああなたは…。」

「大丈夫、こいつを倒して後で追いつくよ。」

「そう…ですか。」

「来い、玉藻前。」

身体を宙に打ち上げ、船団の方を見る。力を込めて数隻の船を浮かばせて壁へと飛ばした。

「これで…いいんだ。さっきから片目見えないけど、やってやる。」

化け物を見上げる。

「お前は絶対に行かせない。守るんだ。辿り着くんだ。だから今ここで倒す。」

私は、最期の力を振り絞りって化け物へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋の空に梅の大輪が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年2月中旬。香川の丸亀城で梅の木を見上げる二人の少女がいた。

「そういえば…。少し前に噂になっていたんですが、諏訪以外にも勇者がいるって聞いたことがありますか。」

少し背が低い少女がもう一人の少女に話しかけた。

「ああ、私もその噂を聞いたことがある。福岡で奮戦している勇者がいるという話だろう。もし…その噂が本当ならば、あってみたいものだ。」

 

丸亀城の梅は今年も咲き誇っていた。




1話から7話最終回まで読んでくださった方ありがとうございました。よければ評価やコメントよろしくお願いします。

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