これが夢ならどんなに良かっただろうか。
俺は囚人となっていた。
「おいあんた、ひどく痛めつけられてたな。大丈夫か?」
「何なんだいったい、俺が何をしたっていうんだ。」
俺は痛む体で周りを見渡しながら喚いた。
大丈夫なわけが無い。
平和な日本で暴力というものにまず縁が無い平凡な生活をしていた俺にとって、金属製の鎧を着た人間に殴る蹴るの暴行を加えられるなんて言う経験は当然初めてだった。
みっともなくうずくまって助けを請い、やまぬ暴力に意識を飛ばし、気がついたら手枷を嵌められて馬車の上だ。
正直、大きいほうを漏らしていない事におどろきだ。
「イスミールにかけて、ここらじゃみた事が無い服だ。お前さん、いったいどこから来たんだ?」
「日本だよ、何なんだあんたらは。まさか北朝鮮の拉致部隊か何かなのか?こんなに雪があるって事は東京じゃないのかここは。」
「「ニホン?トーキョー?」」
時代錯誤な木製の馬車に揺られるほかの人間が俺の言葉に驚いたような顔をする。
目の前に座っている白人の兄ちゃんは最初の同情のまなざしからまるでき○がいを見るような顔になっている。やめろ、俺をそんな目で見るな。
「大体なんだよ『イスミールにかけて』とか、どこのスカイリムだよ。コスプレごっこにしたって他人を巻き込んだ挙句殴る蹴るってのは犯罪だろ。」
そこまで言うと、俺はだんだんと腹がたってきてそ知らぬ顔で馬を操る御者席の兵士っぽいコスプレ野郎に罵声を浴びせた。
「おいにーちゃん、いい加減この枷をはずしてくれよ。俺は関係者じゃないんだ!」
だが、返ってきたのは「黙れ、また殴られたいのか」の一言だけだった。
俺は意味不明な状況に頭を抱えて蹲ろうとして、枷のせいでそれもできずため息を吐いて顔を覆った。せめてもの救いは、あの暴行を受けてなお眼鏡が壊れていなかったことか。
「さっきから何を言っているのかいまいちわからんが、ここはスカイリムだぞ?」
気を取り直したのか、人のよさそうな目の前の白人がまた声をかけてくる。言っている内容が電波でなければ仲良くしてもいいのだが。
「スカイリムって、あんたゲームのやりすぎなんじゃないのか?確かにあれは面白いゲームだけど、こんな衣装用意してコスプレして遊ぶほどのめり込むなよ。」
そういって、俺はため息を吐きながら空を見上げた。
シャーン
すると、音叉を鳴らしたような音と共に妙なものが目の前に広がった。
星座だ。
正確にはゲームをしているときに何度も見たスカイリムのスキル画面である。
それが空をスクリーン画面にしたかのようにでかでかと広がっていた。
そのときの俺の顔は、さぞや見ものであっただろう。
なんだよこれ、と言おうとして、自分の体の感覚が無くなっている事にきづいた。体の痛みも、突き刺すような寒さも、しているはずの眼鏡の感触すらない。
何より突っ込むべきところは、初期は15あるはずのスキルがまったく成長していないことか。
右と意識すると右に、左にと意識すると左にスライドする星座をざっと確かめてみるが、どうやらスキルは実際にやったことがある物以外成長していないようだ。
魔法関係は軒並み0、鍛冶などの生産系も当然のように0、戦闘も剣道をかじっていたおかげか両手武器と軽装が10ほどだったが、正直何の慰めにもならない。
違いといえば、表示されている名前が自分のものになっていて、Lvが1、種族がジャパニーズとなっていることか。なにやら機械とか、料理とかいう妙な星座も増えていたが、スキルポイントもないので詳細は見なかった。
これは、もしかしなくともそういうことなのだろうか。
俺はスカイリムの世界に迷い込んでしまったようだ。