異邦人のスカイリム   作:蛮族

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B.O.S

 しばらく輝く星座を見ながらこれからどうするかを考えていた俺だったが、正直どうしようもないという結論に至った。

 

 この世界がスカイリムで、今捕虜として青い鎧の兵士、所謂一つのストームクロークの団体が護送されているということは、これから向かうのはヘルゲンで、馬車に座る位置からして俺がプレイヤーという扱いなのだろう。ゲームでいうといまはチュートリアルの真っ最中ということだ。そうじゃなきゃ帝国兵はストームクロークを捕虜に何ぞしないで、その場で殺して終了だろうし。

 

 問題なのは、ここはゲームとは違い、痛みはあるし死にもするという極めて現実に近い世界だということだ。まあ、そもそも現実じゃ上を眺めたから星座画面が出ました、なんてことはありえないのだが。

 

 もし、もし仮に俺TUEEEE系のトリップだというのなら、メニューが開ければ魔法の有効な効果のところに凄い強化がかかっていたりありえないアイテムを所持していたりするのだろうが……武装していたとはいえ兵士に素手でボコボコにされた以上望みは薄い。

 

 処刑が始まり、自分の番が来るまでに竜の襲撃があることを祈るのみか。

 

 結論を出した俺は視点を下に戻した。

 

「だめだ、こいつ完全にいかれてやがる。昔のスカイリムは良かった。お前らストームクロークやB.O.Sが現れて以来何もかもがめちゃくちゃだ。」

 

 後ろのほうに座っていた馬泥棒、ロキールがストームクロークを罵りだしたが、何やら俺の耳はおかしくなったようだ。ありえない単語が聞こえる。

 

「われわれはスカイリムの為に戦っている。あんな得体の知れない奴らと一緒にするな。」

 

 目の前の金髪の白人、おそらくはレイロフが気分を害したように悪態をつく。

 

「まてよ、B.O.Sってどういうことだ?銃で武装したハイテク装備の奴らがこのスカイリムにいるっていうのか?」

 

 俺が会話に入ってくると思わなかったのか、それともB.O.Sを知っているのが意外だったのか、彼らは顔を見合わせた後俺に質問を投げかけてきた。

 

「まるでB.O.Sに詳しいような口ぶりだな。奴らはある日突然現れて、奇妙な武器で巨人や山賊どもを追い払いバルグルーフ酋長に取り入り、今じゃホワイトランの一大勢力だ。それ以上は誰も詳しいことを知らない。胡散臭い連中だよ。」

 

 中世風ファンタジーの世界を闊歩するハイテク装備のパワーアーマー軍団。まさに絵に描いたような俺TUEEEE軍団である。

 銃弾やレーザーで蜂の巣にされる巨人と山賊というのは実にシュールな絵面であっただろう、ぜひ見てみたい物だ。

 

「B.O.S、正確にはBROTHERHOOD OF STEEL。俺が知っているのはキャタピルウェストランドにいる超技術の発掘を主な目的としている危険な武装集団だ。少なくとも剣や弓で敵うような奴らじゃない。魔法だって効果があるかどうか……」

 

 彼らの着る鎧は対銃撃戦を想定しているような科学技術の結晶である。物にもよるが、ゲームの中でキツネを一匹仕留めるのに何発も打ち込むのが前提のような初級呪文では傷をつけるのにも一苦労の筈だ。

 存在すら知らなかったであろう彼らが魔法を使えないのが唯一の救いともいえるが、習得できていないだけで今では普通に使える可能性もある。付呪の達人がレーザーガトリングあたりに2つの付呪をつけたら、もはや誰に求められないだろう。

 

 それよりも最悪なのは、スカイリムの世界にFalloutの住人が紛れ込んでいるとなると、ドラゴンプリーストベヒーモスとか、意味のわからない超生物が誕生している可能性もあることだ。拳一つで建物を吹き飛ばし自由に空を飛び自在に魔法を打ってくるビルのようにでかい化け物とか、国が滅ぶんじゃなかろうか。

 

 俺は最悪の場合を想像してげっそりとした。

 

 まあ、そんなもの作ったら自分がやばいのはドラゴンもわかるだろうし、そもそもスーパーミュータントまで来ているかどうかは未知数である。これは心配のし過ぎか。

 

 そんなことを考えながら、俺は彼らにB.O.Sがどんな存在なのか、彼らさえ生活していくのが困難なキャタピルウェストランドがどれほど危険な場所かをとつとつと説明した。

 

「なるほどな、そんな場所から来たんじゃ農場の警護に気合が入るわけだ。えらく食い意地が張った連中だとは思ったが。」

 

「奴らは賄賂も受け取らないし、ちょいとリンゴをくすねただけでも警告なしで攻撃してきやがる。リフテンじゃ奴らの懐を狙ったアホのせいで盗賊ギルドが襲撃されて、生き残りは一人もいないって話だ。」

 

「盗賊ギルドぇ……」

 

 B.O.Sはバリバリの武闘派が多い連中である。コップ一杯の水で殺し合いが起きるようなすさんだ土地で生きてきた彼らに冗談は通用しない。ノクターナルには涙を呑んであきらめてもらおう。

 

「ところで、このえらく厳重に拘束されたおっさんは何なんだ?口まで縛られるとかいみがわからんぜ。」

 

 話し込んだせいでヘルゲンについてしまいそうだ。

 俺は本来のチュートリアルの流れに戻す為、隣でじっと座っているノルド、つまり自称上級王ウルフリック・ストームクロークをさしてあごをしゃくった。

 思うに、この男を竜の襲撃の前に処刑させることができれば内戦クエストは発生させることなく穏便に済ませられそうな気もする。

 

「言動には気をつけろ、お前は今上級王ウルフリック・ストームクロークと話しているのだ。」

 

「ウルフリック?ってことはこのおっさんが反乱軍の指導者なのか?」

 

 おれはさも今気づきました、といった態度でウルフリックをじろじろと見回した。

 

「上級王っていったって、ようはテロリストだろ。強い奴が正しいって言うのならスカイリムは遥か過去にドラゴンの支配を受け入れるべきだったんだ。」

 

「貴様、我々を侮辱するのか!」

 

 レイロフが顔を怒りで紅潮させながら俺を睨み付けてくるが、ゲームの中でストームクロークのノルド至上主義を見ていた俺は覚めた眼でそれを見ながら反論した。

 

「酋長は民の支持の上に成り立つ、それはお前らが生まれる以前にノルド自身が決めたことなんだろうが。帝国の支配下に入るか否か、それにしたってそうだ。それらの現実を無視して自分達の都合が悪くなったら暴力でそれを覆すって言うのはそこらの山賊と変わらんだろうよ。」

 

「不当な弾圧に屈しろというのか、我々の信仰を否定されたのだぞ!」

 

「戦争に負けるって言うのはそういうことだろ。」

 

 神や魔法が実在する世界の住人であるレイロフにとって、タロス崇拝の弾圧は恐らくは重要な問題なのだろう。無神論者だった俺も今のような状況に置かれてなお、それらを否定する気にはなれない。

 

 だが、

 

「信仰は心の問題だ、偶像がなくとも祈り願うことはできる。少なくとも皇帝はサルモールから民を守るために白金協定を結んだんだ。相手の要求を呑まなければならないほど、帝国はぼろ負けしたっていう証拠だ。」

 

「そこ、黙れ!」 

 

 御者の兵士がイラついた声で話を遮るが、俺は肩をすくめて話を続けた。

 

「内戦でどちらが勝っても帝国の国力は衰退する。さて、一番得をするのはいったいどこの誰なんだろうな? かつての帝国でもサルモールには勝てなかった。内戦で疲弊した帝国が再び攻め込まれた時、果たして今度は耐え切れるかな?」

 

 そこで俺は一度言葉を区切って、レイロフが俺の言葉に考え込んでいるのを確認してからさらに話を続けた。

 

「信仰するものを大切にするな、とは言わないよ。だが信仰を理由に殺人を行うのはただの犯罪者だ。その行為はお前さんがたの嫌うサルモールと何が違うんだ。」

 

「まて、難しい話はともかく、そこにいるのが反乱軍の首謀者だって言うのなら俺達はどこに連れて行かれるんだ。」

 

 いまごろ自分の置かれている境遇の危うさに気付いたのか、馬泥棒が顔を青くして話に入ってきた。

 

「まあ、向かう先は断頭台だな。さっきも言ったが内戦を長引かせていいことは一つもないわけだし。」

 

「お前は馬鹿か!これから死ぬって言うのになんでそんな落ち着いているんだ!」

 

 俺の余裕が気に食わないのか、馬泥棒は俺に罵声を飛ばしてくる。まあ、余裕なのは自分の処刑がドラゴンの襲撃で未遂に終わるのを確信しているからなのだが。

 

「どうかな?案外奇跡が起きて助かるかも知れんぞ。空から星が降ってくるとかな。」

 

「……お前さんは、頭がいいのか馬鹿なのかいまいちわからんな。みろ、どうやら着いたみたいだぞ。」

 

 レイロフが呆れたようにそういうと、皆が前のほうを向いた。

 

「おいおい、衛兵はどうした。」

 

 思わず、口から突込みがこぼれてしまう。

 要塞を囲む城壁の上でガトリングを持ったアウトキャストパワーアーマーがうろうろしているように見える。まさかB.O.Sとは彼らのことなのだろうか。

 しかも恐ろしいことに、やつら俺を見て何やら連絡を取り合っている。まあ、スカイリムの住人とはあからさまに様式が異なる現代の服を着ていれば興味を引いてもおかしくはないのかもしれないが。

 

「これはティリウス将軍、死刑執行人が待機しております。」

 

「よし、さっさと終わらせよう。」

 

 何やら門を通り過ぎるとき、不穏な会話が耳に入ってくる。どうやら予定調和のごとく、彼も立った今要塞に到着したようだ。

 

 その後はまさにチュートリアルの流れのままだった。

 帝国軍とサルモールに悪態をつくレイロフ、神に助けを求めるロキール、さっさと殺せばいいものをウルフリックにわざわざ勝利宣言をするティリウス将軍。

 

 流れが変わったのはその後だった。

 

「刑の執行は待ってもらおうか。彼は我々の仲間だ、ストームクロークではない。」

 

「何だ、貴様らは?」

 

 レーザーライフルやガトリングを手に持った武装集団が、刑を執行しようとする帝国軍に乱入してきたのだ。

 よく見るとモハビ風の装備のガンマンやVault101アーマードジャンプスーツに身を包むものもいる。7~8人しかいないが、正直剣と弓が主兵装の帝国軍ではあっという間に蜂の巣だろう。

 

「隊長、どうします。確かにこいつはリストには在りません。」

 

「リストは関係ない。死んでもらうだけよ。」

 

 処刑リストを確かめていた体格のいい兵士(おそらくはハドバル)があたりに漂う不穏な空気に気付いたのか武装集団から距離をとりながら確認を取るが、隊長と呼ばれた傲慢なレッドガードの女が無謀な宣言をする。

 神に誓ってもいいが、この女は銃の恐ろしさを欠片も理解していないのではなかろうか。

 

「雑魚の癖にむかつく女だ。もういい、やっちまおうよ。そのほうが話は早い。」

 

 カウボーイリピータを持った女が、隊長の台詞に武器を構え、他のメンバーも武器を構えて円陣を組んだ。帝国兵もそれに反応して弓や剣を抜き放ち、たちまちヘルゲンに不穏な雰囲気が漂う。

 

「やめろ、戦闘は最後の手段だと会議で決まっただろう。無駄に人を死なせることはない。」

 

 そういってパワーアーマーを着た男がカウボーイファッションの女をたしなめるが、その台詞では帝国兵が雑魚と認めるようなものだ。偉ぶっていたレッドガードも剣を抜き放っている。

 

「我々B.O.Sはこれまで十二分に帝国へ協力してきた筈だ。

 今回の捕り物にしたって、作戦中手薄になる砦の防衛を我々が行っていた。その礼が仲間の処刑だというのなら、我々も帝国に対し存分に礼を尽くさねばならん。」

 

「かまわん、その男を開放してやれ。」

 

「ティリウス将軍!」

 

 緊迫した広場に帝国式の鎧を着たインペリアルがやってきた。ゲームでは内戦クエストで重要な役割を果たすNPC、ティリウス将軍である。

 

「彼らB.O.Sが大いに帝国軍に貢献しているのは私も知るところだ。確たる証拠もないのにそんな彼らの仲間を処刑したとあっては帝国の威信に傷がつく。」

 

「おお、さすが将軍、話がわかるな。では、こいつは連れて行かせてもらうぞ。」

 

 乱入してきたときに先頭に立っていたパワーアーマーの男が俺のほうに歩み寄り、両手の拘束を開放する。

 

「あんたら、どういうつもりだ」

 

 俺は周囲に聞こえないように小声で彼に質問する。

 どう考えても、俺と彼らに面識はない。怪しさここにきわまれり、といったところである。

 まあ、処刑されるよりはましなのは確かだが。

 

「後で説明する。アルドゥインの襲撃が起こる前に地下を通ってここを離れるぞ!」

 

 パワーアーマーの男はそういって俺の肩を叩くと、

 

「我々は荷物をまとめたらホワイトランに戻らせてもらう。また何か作戦行動があれば連絡員に伝えてくれ」

 

 とティリウス将軍に言い放ちずんずんと歩いていく。他のメンバーも異議はないらしく彼に続いて城門のほうへ去っていった。

 

「奇跡が起きたようだ。じゃあな、レイロフさんよ!」

 

 そういうと、俺はあわてて彼らに続いた。

 後ろのほうでレイロフがなぜ自分の名前を知っているんだ、などと言っていたが時間的にアルドゥインの襲撃は間近だ。奴の叫び声が山に木霊するのが聞こえる。

 

「走れ!奴が来るぞ!!」

 

 もはや襲撃について知っていることを隠す必要もないと感じたのか、B.O.Sのカウボーイが門の前で俺を呼んでいる。まあ、ゲームの流れで言えば主要NPC以外は全滅するという話だから、隠す必要もないのかもしれないが。

 

 このときの俺は、まだここがスカイリムのゲームの流れのままに動いている世界だと思い込んでいた。B.O.Sの連中がいることで、もはやゲームどおりの進行などありえないという事に気付いていながら、気付いていなかったのだ。

 

 そしてそのツケを、ここヘルゲンからの脱出の際に支払うことになるのだった。

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