異邦人のスカイリム   作:蛮族

3 / 4
脱出

 俺はB.O.Sと共に、チュートリアルでも通る砦地下を通過する脱出路を進むのだと思っていたが、彼らに続いて砦の扉をくぐった俺に、彼らのリーダーらしきパワーアーマーの男、自称RDがアーマーとヘルメットを渡してきた。

 見た感じFallout3で出てくる傭兵会社タロンの物である。実物として目の前にあると、妙に感慨深い。

 

「くれるのか?スカイリムじゃ手にはいらんだろうに。」

 

 正直、処刑から救出されただけでも大分助けてもらっている。

 将軍とのやり取りからして、彼らはすでに組織としてそれなりのリスクを支払ってあの信頼関係を構築しているのは間違いない。それに亀裂が入る可能性を考慮した上で見ず知らずの俺を救出してくれたのだ。

 何から何まで世話になるというのは、正直気が引けた。

 だが、RDは遠慮している俺を気遣ったのか、強引にそれを押し付けてくる。

 

「遠慮はするな、そんな普通の服じゃ矢の一つも防げんだろう。まあ、正直それを着ても気休め程度にしかならんだろうが……とりあえず気休めにはなる。」

 

 コンバットアーマーで気休めにしかならない、というRDの言葉が少し気になったが、確かに買い物に行くために着ただけの普段着では防御力は無きに等しいのは帝国軍の手によって実証済みだ。スカイリムは、熊や狼など日本ではまずお目にかかれない危険な野生動物が跳梁跋扈する危険な土地であるし、彼の言うことはもっともだ。

 

「何から何まですまない、ありがたく使わせてもらうよ。」 

 

 そういって受け取ったものの、ゲームで一瞬で着替えられる装備は実際に着込むとなると勝手がわからず途方にくれる代物だった。もたもたとしていると砦が隕石で崩れ始めてしまうだろう。

 

「違う違う、実際に着るんじゃなくゲームでボタンを押す感じでじっと見つめてみなよ。そうすりゃ、多分やり方は何となくわかるっしょ。」

 

 どさくさにまぎれて砦の兵士の私物が納められているであろう箱などの収納を開けて漁っていたいたカウボーイファッションの女が、俺に人差し指を振ってみせる。

 そういえば、先ほどは全員が各々の銃器を装備していた筈なのに、通路を先に歩いていった面子以外は気付くと皆無手になっている。これは、つまりそういうことなのだろうか。

 

「見つめる?」

 

 受け取ったアーマーを見つめながら、取る、と念じるとその瞬間、アーマーとヘルメットはガサリという音と共に虚空に消えてしまった。

 

「おお?」

 

 手は、いつの間にか空気をつかんでいる。

 少々混乱したが、星座の件で何となくどういう状況かは予想できた。恐らくは視線という名のカソールをあわせ意識のスイッチを押すことで、アイテムを取得したのだ。

 

「俺の場合、意識して腕のPIP-BOY3000を覗き込むとゲームで言うステータスチェックや道具の操作を行う画面の状態になる。眼を瞑ったり、口を片手で押さえたり、キーボードやコントローラーを操作する仕草をする奴がいたりと様々だ。用は意識を集中させればいいんだよ。」

 

 と、俺に言い聞かせるようにRDが解説する。

 

「わかったよ。助かるよRDと、あー……そういえば自己紹介もしていなかったな。」

 

 礼を言おうとして、RD以外の名前を知らないことに気がつく。名前を名乗ろうとする俺を手で制して、カウボーイハットの女が先に名乗った。

 

「ロザリィで通してる。姐さんでもいいぞ。」

 

「それはギャグで言っているのか?」

 

 俺は思わず言った。彼女とRDの名前の由来が某ロボゲーにでてくるキャラのネタだとすると、そのネーミングはあまりにも不謹慎だ。

 

「その単細胞の不謹慎は今に始まったことじゃないさ。

 だが、俺達異邦人は昔の名前を名乗らないのが不文律でね。君もなにか考えておくといい。」

 

 RDがロザリィを見て苦笑しながら言った。(とはいえ、そんな気配がしただけでヘルメットに包まれた顔のほうは見えない)

 スカイリムをS○NYのゲーム機でやっていた俺は、コントローラーでメニューを開くつもりで、操作のまねをしてみる。

 

 瞬間、目の前にゲームでおなじみのウィンドウが出現し、それ以外の視界が急激にぼやける。感覚としては星座を見上げたときとほぼ変わらないため、今回はあっさりと受け入れることができた。

 不満があるとすれば、比較的新しかった普段着が『擦り切れた服』と表示されたことだが。

 

 おそらく暴行を受けた際、鎧の金具に引っかかるなどしてほつれた箇所があったからであろう。捨てることも考えたが所持重量はまだ余裕があったので所持したままにしておくことにした。

 

 RDからもらった防具は、概観から予想ができていたとおりの『タロンコンバットアーマー』と『コンバットヘルム』である。防御力は28と5という風に表示されていたが、正直あまりあてにはならなそうだ。数値としては革製の防具にも劣ることになるが、仮にも銃撃戦に使う防具が、その程度とは思えない。

 

「しっかし、予想通り碌なものがおいてないな。帝国が疲弊しているのは理解してはいるが、奴らこんな間に合わせの装備でストームクロークを鎮圧できると思っているのか?」

 

 ロザリィがどこからとも無くだした帝国軍装備を床に捨てながら肩をすくめた。

 好き勝手にアイテムを漁った挙句、間に合わせといってゴミのように剣などを床に投げ捨てるのはどうかと思うが、俺もゲームで語られている帝国軍には思うところがあった。

 

 彼ら帝国軍の兵士に支給されている装備はどれも強化もされていない武具であるし、まだまともな軽装鎧と違い、重装、つまりフルプレートなどの重い装備扱いのものは、作成コストばかりが高く、同時に性能も大してよくないため二束三文で取引されるゴミである。

 確かにストームクロークも良い装備をがちがちに着込んでいるわけではないが、スカイリムの住人である地の利は彼らに在り、少数しか兵を派遣できないとなればせめて武具くらいまともなのを支給してしかるべきだろう。

 

「200年前の動乱からこっち、帝国はあるいみ順調に国力を落としていっているからな。帝国兵に聞いた噂じゃオブリビオンの門で騒がしかった当事にも俺達のような異邦人はいたって話だが、この様子だとB.O.Sを引き止めるために流したホラかね。」

 

 RDが投げ捨てられたよろいを見ながら失望したように呟いた。

 聞き捨てならない内容に聞き返そうとしたその時、腹の底に響くような爆音が砦内部にいた俺達を襲った。

 

「アルドゥイン襲来か、急いで撤収するぞ。」

 

 そう言ってB.O.Sの面々が走り出すのにあわせて、俺も後を追うように砦の中を走り出す。まだ自己紹介をしていない面子がいたのだが、このままここにいれば脱走したストームクロークと帝国兵の諍いに巻き込まれてしまう。

 

 何やら道中、爆音に異常を察知し、対処するため地上に出ようとする兵士とすれ違ったり、なぜか殴り倒されたらしい拷問官の姿を見かけたりしたが、一応友軍であるためか邪魔はされなかった。

 初めて見るのに既視感を感じさせる砦内部を直走りながら、俺はアルドゥインについて思いを巡らせた。

 

 俺はメインクエストを終わらせていないので、攻略情報の上でしかその存在を知らない。

 知っているのは、ゲームのメインクエストのラスボスであり、声(シャウト)の力で火を吐くわ、霧を生み出すわ、隕石を呼び寄せるわ……倒したドラゴンの魂を吸収できるはずの主人公に倒されたにもかかわらずその魂は天に昇っていくわと、いろいろ規格外の竜だということだけだ。

 

 結局、なぜ彼がゲームの序盤でヘルゲンを襲って主人公を処刑から救ったのかは作中で明らかになってはいない。ノルドの英霊達が死後送られるという冥界、ソブンガルデの魂を喰らう事でその力を高めるという設定がある為、戦争の終結を避けるためにウルフリックの処刑を邪魔したとも、ドラゴンの気配を感知できるためにドラゴンボーンである主人公に同胞の気配を感じて様子を見にきたとも、たまたま復活した場所がヘルゲンに近かった為だとも、如何様にも取れる。

 

「まあ、ここらまでくれば安心だろうな」

 

 先を走っていたRDが、地下牢として使われている区域を抜けたあたりで脚を止めた。

 ゲームでは壁が崩れ、自然洞窟とつながっている部屋だ。そこかしこに拷問された捕虜の成れの果てとも言える白骨死体がおかれており、黴臭い空気とあいまってあまり長居したい場所ではない。

 プラスチック製のおもちゃとは違う、汚れたような色合いの茶色い骨がなんとも不気味で

、顔が青ざめる。

 

「ミュータントの遭遇戦も考えられる、各員戦闘準備。」

『ラジャー!』

 

 RDの指示に従い、B.O.Sの面々が次々に銃器を取り出し武装した。

 

「ミュータント?」

 

 スカイリムにはそんな敵は存在していないはずだ。俺は首をかしげた。

 

「ベセズダのゲーム知識はあるんだろう?Fallout3のキャラクターは、全員あるウイルスに感染している。それは知っている筈だ。」

 

 ハンティングショットガンに散弾を詰めながら、俺を横目にロザリィがさらりと恐ろしい事を言った。

 

「おいおい、まさかスカイリムの野生動物が突然変異を起こしているって言うのか!?」

 

 FEV(変異促進ウイルス)。

 核戦争後の未来世界を舞台にしたゲームであるFallout3において重要な要素であるこのウィルスは生物を強制的に進化させるという特性を持っている。元々は戦争中製薬会社の研究により生み出されたまったく別目的の物であったが、生物実験により発見された強制進化という特異性が軍の目に留まり、スーパーソルジャー計画の為に研究を進められたものだ。

 

 ゲーム内で出てくるスーパーミュータントと呼ばれる、黄緑色の肌の化け物はこのウィルスによって強制進化させられた人間の成れの果てであり、主食が人間の肉という恐ろしい習性を持つ人類の敵である。他にも、巨大化したゴキブリ『ラッドローチ』や銃弾すら弾く甲殻をもつ蠍『ラッドスコルピオン』、二足歩行し異常発達した筋力と爪で獲物を引き裂くトカゲ『デスクロー』などなど、突然変異した動物は人類を苦しめる猛獣ばかりだ。

 

「恐らく、熊などに食われた他の異邦人グループの中にわれわれと同じFallout系の住人がいたのだろうと思われる。今のところ目撃されているのはヤオ・グアイやモールラット位だからな。」

 

 すでに状況を受け入れているらしいRDとは違い、俺は頭を抱えた。

 

「モールラットはともかく、ヤオグアイはやばいんじゃないのか?」

 

 モグラとネズミを掛け合わせたような気色悪い外見のモールラットは、外見の凶悪さは兎も角、野生の狼が跳梁跋扈するスカイリムでは大した脅威にはならないだろう。

 だが、熊のミュータントであるヤオグアイはまずい。

 ヤツは巨体に見合わぬ俊敏さと、強固な防具をも紙のように引き裂く凶悪な筋力を持つ。加えて至近距離からのショットガンにも耐えるタフネスは、とても剣や斧、弓矢でどうにかできるものではない。

 

「まあ、最初の頃はひどいもんだったよ。知識の無い衛兵や農民が何人も犠牲になったが、俺達がホワイトランに受け入れられたのはそれらのミュータントに対抗できる勢力が必要であったからだというのも大きい。」

 

「なんというマッチポンプ。」

 

 FEVの事が知られたら寧ろ追われてもおかしくない。

 命の恩人とはいえ、俺はとんでもない奴らと手を組んでしまったのではなかろうか。

 

「まあ、今のところミュータントの目撃情報が多いのはリフテン周辺だけだ。感染を抑えるには排泄物などを処理する必要があるんだろうが、なぜか俺達の体は新陳代謝がとまっている。戦闘による出血などに気をつければ感染の拡大は防げるだろうよ。

 正直、自分でも汗もかかないのは生物としてどうかと思うが。」

 

「お話中悪いが、そろそろ行かないか。無いとは思うが、レイロフやハドバルに追いつかれてもまずい。」

 

 Vaultアーマードジャンプスーツに身を包んだ男が、RDの話を遮る。

 彼は先ほどから、しきりに後方を警戒していた。部屋の入り口に地雷まで仕掛けているが、いったいどういうつもりなのだろうか。

 チュートリアルでは帝国兵であるハドバルと共に脱出する道でもある通路にそんなものを仕掛けては、彼を死なせることになりかねない。

 

「俺達B.O.Sの当面の目的は内戦の終結だ。

 帝国にテコ入れして戦力を補強しつつ、早期にアルドゥインを撃破する。ドラゴンボーンであるはずのキミを救出に来たのはその作戦の一環だ。」

 

 俺の視線から、疑念を感じ取ったらしいRDがいきなり語りだした。

 

「ハドバルにはうちの工作員が付いている、地雷程度なら問題なく対処するはずだ。逆にストームクロークの連中が脱出してきた場合は、対処もできず吹き飛ぶだろうな。ウルフリックがそうなれば言うことなしだ。」

 

「そこまでする必要があるのか?というか、どさくさにまぎれてウルフリックを処刑場で射殺すればよかっただろうに。」

 

 どうにも、やっていることがちぐはぐである。

 

「アルドゥインの目的がわからない以上、ヤツが現れるまでは本来の歴史どおりに進めるべきという意見が強くてな。一応ヘルゲンは生命探知に引っかからないアイポッドでの監視をしているから、ウルフリックは脱出成功できたとしても潜んでいる別働隊に始末される予定だ。」

 

「アイポッドまでいるのか。コンパニオンつきで出現したということか?ますます訳がわからんな。」

 

 ファンタジー世界を浮遊するレーザー武装した監視装置というのは、またシュールな話だ。銃器もある以上いまさらな話ではあるが。

 

「この先、出口付近の蜘蛛を倒した後はヤツが飛び去るのを待ってリバーウッドに隣接して作ったベースキャンプで一晩休息を取る。その後はお前さんが声(シャウト)を習得できるかどうか確認するためにブリークフォール墓地まで同行してもらうぞ。」

 

「強行軍だが、まあ、ゲームと違ってチート装備の仲間がいるんだし気楽にいこうぜ。」

 

 当然、同行するんだろう?という態度のRDと、罪悪感のかけらも無い軽い態度のロザリィ。ここで断わろうにも、ミュータントまでいるのではどの道武器も無い俺に取れる選択肢は無いのだ。

 俺はため息をついて両手を広げ、大げさに肩をすくめて見せた。

 

「はいはい、仰せのままに。どうにも俺に選択肢は無いようだしな。」

 

「まあ、事が終わればバニシュの付呪された棒で小突いて送還できないか試してやるさ。肉体からして違う俺達と違って、あんたにはまだ可能性があるわけだしな。」

 

 嘆く俺の方を叩きながら、地雷を仕掛け終えたVaultアーマードジャンプスーツの男が俺を励ました。確かに、何者かが俺をこの世界に召喚したのであれば、召喚された者を送り返す効果のある付呪、『バニシュ』で日本に帰ることができるかもしれない。

 

「思いつかなかったよ、そのときは頼む。あー……」

 

「ゴルゴだ、ゴルゴ101。狙撃や破壊工作が担当さ。」

 

 そういいながら、彼は浅黒い肌の顔でニヒルに笑った。

 

 かくして、一応俺は日本に帰るめどが立ったのだった。もっとも、その為に化け物や山賊がはびこる土地で冒険し、伝説のドラゴンを退治するというなんともファンタジーなクエストに付き合うことが決定したわけだが。

 

 どうにも、一筋縄で行かないような気がしてならないのは俺の気のせいだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。