異邦人のスカイリム   作:蛮族

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閑話 ルーカン・バレリウスと酒場にて

 

 あいつらについて知りたいって?我らがB.0.Sについて?

 

 あいつらが現れたのは、ここ十年ほど前の話だよ。それこそファエンダルの野郎がこの村に住み着いたりする前の話だ。スヴェンの奴も当時は笛なんぞ吹かずにまだ元気だった親父さんと樵に精を出していたな。

 

 俺?まあ、おれは今と同じさ。お前らみたいな旅人と相手に色々売って商売して、妹はそれを手伝っている。ずっとそうさ。

 戦争がなければな。リバーウッドだって戦前は活気があったんだ。

 ヘルゲンとホライトランを結ぶ要所だからな、帝国から来る奴らはみんなここを通る。そういう奴らの為に作られたのがこの集落の由来だよ。

 

 ああ、B.0.Sの話だったな。すまんすまん。

 

 あいつらB.0.Sは、見たこともない素材で作られた未知の道具の使い手で、少し街を離れれば夜盗と化した傭兵が跋扈するスカイリムじゃ珍しい、いや、いっそ異常と呼べるほどに人が善い旅人だった。

 

 それが歓迎すべき事柄であるのはいうまでもないな。

 

 実際あいつら値切るって事を知らないからこっちの言い値で物を買っていくんだ。スヴェンの阿呆がB.0.Sの女にべた惚れしてあれこれ世話を焼かなきゃ、今もあいつらは上客のままだったろうよ。

 まあ、ある意味では値切り方を覚えてくれてよかったよ。リフテンの盗賊ギルドがあいつらの手で壊滅したって話を聞いたときは、あいつら相手にぼったくっていたなんて怖いもの知らずだったって思い知らされたよ。

 

 それに、あの間抜けはこっぴどく振られたようだかしな。RDとかいったか、あのねーちゃんが惚れてるっていうB.0.Sの隊長さんは。

 

 まあ、何にせよ街道があり人の往来があるとはいえども、それを守る余裕がお世辞にも十二分にあるとはいえない当時のスカイリムじゃ、商売は各砦で完結しているのが当然だったのさ。

 

 外部との取引は怖いもの知らずのカジートキャラバンに頼るか、帝国の補給部隊にくっついてくる行商に頼むしかなかった。どっちもいつくるのかわからないって意味じゃ博打に近いものがあったから、そう大きな取引はできなかったよ。

 

 言うまでもなくカジートは悪名高きスクゥーマーも取り扱っているしな。ここはともかく、カジートの来訪を歓迎するほど酋長連中は寛大じゃない。

 

 可哀相に、カジートの連中は砦に入ることも許されずその外でキャンプを張って取引を行わなければならず、不安定な品揃えゆえに当然購買層は限られていたってわけだ。

 だが、それもかつての話だ。

 不可思議な収納術をもつあいつらは馬車も使わずに大量の物資の運搬を可能とし、そしてその身軽さからくるフットワークのよさは流通量の増加をもたらした。

 おれも当時色々世話になっていた一人だよ。

 不思議なことにあいつら昔は自分で商売をしなかったからな。色々手に入れてきては俺に売っていくから、品揃えは抜群に良くなった。そしてそれを別なB.0.Sの奴が買っていくんだ、何かややこしい決まりがあるとかでB.0.Sの身内で売り買いはできなかったんだとよ。

 

 あんまりにB.0.Sの連中が便利なもんで、補給に手を貸して以来砦に必ず一人はあの妙な鎧の奴が常駐しているとかなんとか。なんでもそのころから帝国に雇われてるんだとさ、くわしくはしらんが。

 

 拝金主義者のブラックブライア家が、そんな彼らとの繋がりを欲したのはある種当然だったんだろうな。

 

 何がしらの手段で彼らとのつながりを持ったブラックブライアは、奴らからまったく新しい酒の造り方を教わったのが今のスカイリムの好景気の始まりだった。

 

 そう、あんたが飲んでいるそれ、ビールだよ。

 昔のハチミツ酒が主流であったリフテンで、驚異的に腐敗を抑える事を可能とした酒「ビール」や殺人的な度数を誇る「ウイスキー」や「ブランデー」を売り出した事でB.0.Sとブラックブライアは多大な財を築いたんだ。

 

 これらの新しい商品は、寒さの厳しいスカイリムにおいて爆発的にヒットした。

 実際うまいし、日持ちするし、なにより値段もそう高くない。蜂蜜酒がまずいってわけじゃないが日持ちが悪いからな。商売するほうにしてみればこっちのほうが全然いい。

 

 今やこの地方の酒場は無論、シロディールでさえ扱っていない店が無いって言われるほど有名な酒で、これらがB.0.Sの地位を不動のものにしたといってもいい。

 

 同時期に不可解な事故などで他の酒造が蜂蜜種の販売に支障をきたしていた事も彼らの商売に良い影響を与えているな。盗賊ギルドと手を組んでいるっていう噂もあったが、B.O.S主導の盗賊ギルドの大規模討伐でそれらが根も葉もない話だということは皆が知るところだ。

 

 まあ、事故がB.0.S自身の手で行われた工作だとすれば……やめておこう、おれも命が惜しい。

 

 まあ無論、これだけなら現地の人間にとってさほど歓迎されるような話じゃない。

 連中は何を思ったかそれらによって手に入れた財産を惜しみなく農業に投資し始めたんだ。

 

 彼ら自身がドゥーマーの遺跡から手に入れた道具や素材を使って生み出された機械「トラクター」や「コンバイン」は、当時のスカイリムは無論、タムリエル大陸のどこにも見られないような広大な土地の開拓を可能にし、同時にそれら農地を運用するために大規模な雇用を生み出した。

 

 大開拓時代って奴だ。農業革命とか言う奴もいるな。

 

 戦うことに嫌気のさした傭兵崩れや、災害により故国を失い、定住する地を求めて彷徨うダークエルフなんかをB.0.Sは嫌な顔一つせずにがんがん雇った。

 給金だってきちんと払ってるって話だ。噂じゃ下手に砦の中で働くよりも農場で働くほうがずっと稼げるって聞くぞ。まあ、さすがにそれは眉唾物の話だと俺は思うがな。

 

 少なくとも昔ほど食うに困った連中は見かけなくなったのは確かだ。ノルドの差別に嫌気のさした連中がB.0.Sの農場に移り住んで、今じゃ農場にいけば色々な種族の連中が楽しくやっているって話だよ。

 

 B.0.Sはコメとかいうのを熱心に探しているって話だが、発見したって話は未だにないな。なんでもそれを見つければもっと収穫を増やせて、まったく違う酒を造れるとか何とか。

 いったいそんな知識をどこで学んだんだろうな、不思議な連中だよ。

 

 今にして思えば、そうやって手広く開拓したのがノルドの連中の反感を買ったんだろうな。儲けるB.0.Sの影で商売を妨害された酒造や種族差別の強い連中が恨み妬みを溜め込んで、いまのストームクロークを結成させるまでになった。

 

 だが、それも長くはつづかんだろうさ。

 B.0.Sは別に何一つ悪いことはしていないんだ。開拓している土地だって、砦の酋長から購入したもので、奴らの言うようなノルドのものなんかんじゃない。

 

 大体、あいつらが誇れるのは過去の人間の偉業だけだ。開拓の邪魔だからって理由で、子供のお使い感覚で巨人討伐をするような奴が群れを成すB.0.Sの連中にストームクロークが敵うものかよ。

 同胞団くらいか、有名なのは。だがB.0.Sほどじゃない。

 

 帝国の兵士だって連中の前じゃ大人しいもんだ。昔は横暴な奴も多かったが、B.0.Sは相手が帝国兵だろうが貴族だろうが、それこそサルモールだろうが容赦しないからな。

 

 御伽噺の中の存在じゃない、あいつらは現代の英雄なのさ。

 

 最近はブリークフォール墓地に調査隊を派遣してたよ。山賊が根城にしているとは言ったんだが、まあ、今頃新しい埋葬品を持ち帰るかどうか吟味しているんじゃないか?

 

 どうしてか、B.0.Sはヘルゲンには常駐しないんだよな。何やらストームクローク討伐の手伝いだとかでこの間珍しく部隊を派遣していたが、B.0.Sが動いた以上この馬鹿騒ぎも終わりだろう。

 

 B.0.Sに入りたい?

 

 ああ、あんた外から来たんだったな。残念だが、B.0.Sは同じ故郷の連中しか入れないんだとよ。うまく話をあわせて入隊しようとした奴も、確かめるための試験で確実に弾かれるとか。

 

 試験の内容は「手を使わずにテーブルの上のリンゴを取れ」とか言うものだよ。まあ、俺も見たことがあるが、魔法のようにリンゴが消えるんだ。

 魔法で浮かせるんじゃなく、文字通り消えるのさ。

 で、消えた後は「取ったリンゴを出せ」って言われる。メニューでどうたらこうたらいっていたが、俺には宙からリンゴが現われたようにしか見えなかったな。

 

 訳がわからないって顔だな。安心しろ、実際に見た俺にも最初は訳がわからなかったよ。なんでもB.0.Sの人間なら誰でも使える特技らしいぞ。

 実際に見たかったら売り買いするB.0.Sの連中を見てるといい。買ったものが次々に消えていくのは中々面白いぞ。

 

 そうか、もういくのか。

 

 何か必要になったら今度は是非うちに買いに来てくれ。旅人の話と珍しい商品はいつだって大歓迎だ。

 

 もしB.0.Sに入れたら、隊長さんによろしくいってくれ。じゃあな。


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