「岩が転がってくるとかコミックかよ……」
「同感。現実で遭遇するとは思わなかったわ」
エンリコを救助した場所からしばらく進むと、突然目の前のよく転がりそうな大岩がガコンッという音と共に迫ってくる古典的通り越して非常識なトラップを避け、その先へと歩を進める。
先はまるで坑道のようになっており『なんで森奥深くの洋館にこんな施設が…』と彼ら二人により一層の疑念を抱かせた。
「エレベーターがあるわ。乗ってみましょう」
「ホントこうゆう時のジルさんって躊躇ないですよね…いや俺は慎重派なんで頼もしいですケド」
ため息をつきながらもジルと共にエレベーターに乗り込むブラッド。そんなブラッドの耳朶を、一つの大きな足音が打った。
「んー…このスリムな俺やクリス、ウェスカー隊長とは違うドスンドスンと響くメタボリックな足音は………バリーか!!」
「おいおい、随分なご挨拶じゃないか」
ブラッドの言う通り物陰から姿を現したのはS.T.A.R.S.アルファチームで一番の体重があると専らの噂の持ち主、バリーだった。男二人はニヤリと笑い合うが唐突に真顔に戻ったバリーはジルのいる方へ向かい――
「バリー!無事でよかったわ」
「ジルこそな。物音がしたもんで来てみたが、まさかこんな場所があるとはな…後ブラッドは二度とウチのミートパイ喰うな」
「そんな御無体な!?」
「ハッ……冗談だよ。そう本気にすんな」
「よ、よかった…」
「今度アイツらとも遊んでやってくれよ?」
「あぁ勿論!料理の対価としては安いもんだ!」
和平公約を結びガッチリと握手を交わす男連中にジルがため息を溢すというなんでもない一幕もありながら、彼らが乗ったエレベーターは下へ向かって降って行った。
○月☆日⑩+②
下の階層は降り立った俺たちを待っていたのは、呻くような少女の悍しい呻き声だった。
あの後道中の資料で判明したが、あの化け物は元々一人の可憐な少女だったらしい。俺たちがあの化け物――“リサ”と遭遇した古小屋にあった少女の姿絵は、彼女自身ものだったそうだ。少し後ろで彼女の両肩に優しく手を置いていたのは、おそらくご両親なのだろう。
彼女の父親がこの洋館を設計した設計者で、父親とリサ、そして母親は洋館の建築完了とともに口封じも兼ねて監禁。父親は一筋の希望を求め脱出を敢行したが失敗に終わり死亡。
彼女とその母親は研究段階にあったゾンビ化ウィルス『t-ウィルス』を投与され実験台にされ、母親は耐性がなかったため速やかにゾンビ化し処分。だがリサは
その後も様々な実験を施された後結局“役立たず”の烙印を押され焼却処分。しかし彼女の家族への想いと生への執着が死ぬことを許さず。彼女は夜な夜な母の面影を求め、女性職員の顔を剥ぎ自身へ貼り付け、その寂しさを慰めていた。
…あぁ反吐が出る。
彼女のしたことは間違いなく猟奇的かつ残虐性に富み、まず間違いなく大罪人だ。だが、彼女をそう変えたのは間違いなく『t-ウィルス』を開発した企業――我らがラクーンシティの経済的支配者【アンブレラ】である。
成る程奴らにとって我らの街は程のいい実験都市だったらしい。だから最近街の行方不明者とアンブレラの新薬開発による利益向上が比例していたのかこん畜生が。死ね
そんな訳で【アンブレラ】に対するヘイトを溜めながら俺とジル。そして
…そうなのだ。バリーが俺達を裏切ったのだ
当たって欲しくない感ほど当たるとはこれいかに。鎖付きの四本の石柱と上に吊るされた棺桶が配置された意味ありげな場所で『生きていたのか!?』と瞠目するバリーと合流…いや
幸いにも此方にその凶悪なマグナムを突きつけようとした瞬間にジルがマグナムを奪い。バリーの生死与奪権は此方で確保したが問題はその後。
空気も読めず場にリサが乱入してきた。
しかもバリーの『一旦休戦してアイツを倒そう』と言う懇願をジルさんが瞬時に快諾。プラスして44口径のマグナムを返してしまうというイエスも褒めちぎりるような善性を披露した。
抗議の意も込めたジト目をジルさんに送ったが、当の本人は既にバリーに背中を預け、リサへとハンドガンを撃っていた。
バリーも『背中は俺に任せろ!』なんていうし…背中から撃ったら崖から落としてやる。
正直ここでバリーを拘束し直してもよかったが、それではジルさんはバリーとの共闘が“正しい”と信じたので、ひとまず俺も従うことにした。
まぁ俺も多少は信じたいから、この場は黙っておこう。
「生命力が異常なのは知ってたけど…これは流石にウンザリするわね」
「俺もマグナムも効かないな。まさか…不死身か?」
「…………………………」
すでに彼ら三人の足元には大量の空薬莢があるが、リサの様子は以前変わらず、此方に向かって気味の悪い声を上げながらゆっくりと向かっていきている。
「うーん…」
「どうしたブラッド?」
「いや、なんか思い出せそうなんですけど…」
そうこう言っている間にも、鈍足ではあるが止まりはしないリサの攻撃が放たれた。
「アァア――!」
何の捻りもないシンプルな振り下ろし、だが彼女のソレはt-ウィルスによって大幅に強化された膂力から放たれる破壊の一撃だった。
「クッ…攻撃自体は単調だけど、このままじゃジリ貧よ!?」
「――!ジルさん。四方の石柱を崖に落としてください!!」
「え……!了解!!」
「お、おい!何をする気だ!?」
「バリーはそこでマグナム撃ってて!44口径は伊達じゃないんだろ!」
「あぁクソ!後で説明しろよ!?」
二人の行動は早く、ジルは【サムライエッジ】をホルスターに仕舞い。全体重を載せ石柱を押し始め、バリーは地に自分を縫い付けるように地面を踏み締めしっかりと愛銃をホールドした。
かというブラッドは――
「さて、リサ――
シャッドガンやライフルを取り外し身軽に格好になり恭しく頭を……丸で、ダンスに誘うかのように軽く下げ、手を差し伸べる。
「
そういうと足の力を爆発させ、一気にリサへと迫った。
「ヴァアアア!!!」
見える物は全て敵というように、再び両腕の殴打をブラッドへ向け放つ。
「フッ!」
が、ブラッドこれを道中の柱を蹴り三次元的な動きで回避。リサを飛び越える瞬間に脳天にかかと落としを喰らわせ、距離を取った。
「ッ熱烈だな!がっつくような子は嫌いじゃないぜ!!」
「ヴァァァ――『BANG!!』ッ!?」
煽るような言動に憤りでも覚えたのか、ブラッドの方へ向き直った所でバリーからの援護射撃。ジルやブラッド達が使用する【サムライエッジ】とは桁違いの威力を持つ【サムライエッジ バリーモデル】から放たれる弾丸は見事にリサの後頭部へと命中。貫通こそしなかったがのけ反らせることに成功した。
「ナイスショット!――羅ァ!」
その隙を見過ごす訳もなく、再びリサへと接近したブラッドは体を捻りその回転を全て掌へ伝えた渾身の掌底を放つ。膂力と耐久は人外のそれでも、体重だけは通常のものと大きな鎖に手錠。後貼り付けられた人の皮程度のものしかないリサの体は少しだけ宙に浮く。
「まだまだ行くぞ」
怯む瞬間を見逃さずすぐさま肘や膝裏と言った関節部を中心にダメージを蓄積させて行き動きを阻害させる“仕留める”為ではなく“止める”為の攻撃を展開する。
勿論リサもタダでやられる訳もなく。その腕を振ろうとするが――
「そうらもう一丁!」BANG!!
バリーのマグナムによる援護射撃がそれを拒む。同じ部隊に所属する二人のコンビネーションは伊達ではなく、阿吽の呼吸とまではいかないが、即席とは思えないほど無駄のない連携を続けていった。超回復能力があるとはいえ度重なる急所への打撃と銃撃は効いたのか、呻くような声を出し蹲った。
「これで……終幕!」
少し下になった――蹴り易い位置に配置された頭は向かって、渾身の回し蹴りを放った。
ゴシャア!
骨を砕く感触を鉄板仕込みのブーツから感じ取りながら、開幕と同じように三次元的なムーブでバリーのそばへと戻る。
「ちょっとは効いたか?」
少し期待するブラッドだったが、無情にもリサは数秒後何ともない様子で立ち上がった。
「なにが『終幕だ!』だよ。全然効いてる様子じゃないぞ!?」
茶化し4割焦りが6割ぐらいの分配で声をかけるバリーに対し、手応えのあった蹴りが無意味と化していたことに残念がっていたブラッドは、特に動じることなく返答した。
「いや、これで終わりだ――ジルさん!」
「えぇ…コレで、最後よっ!!」
最後の石柱をジルが崖下へと落とし、それによって中央に鎮座していた
「――マぁマ?」
ふと棺の中を見たリサの口から溢れでた発言に、ブラッドは口を顰め、ジルとバリーは驚愕した。
「ア゛ァ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!
何かを悟ったような声の後、絶望したような絶叫を上げながら谷底へと
「…まさかとは、思うけど」
「大体合ってますよ。あの中にいたのはあの怪物の…リサの、母親の亡骸です」
「おいおいマジかよ…」
「研究資料で、此処にソレがあるのは知ってました。――活用するとは思わなかったけどな」
後味の悪さをヒシヒシと感じながら、ブラッドはリサの落ちていった谷底を見遣ると、軽く十字を切り、小さく『アーメン』と呟いた。
まぁ崖から転落しても生きてるんですけどね初見さん!