「ようやくたどり着いたな」
ブラッドは道中ゾンビに襲われつつも、つい先ほどラクーン市警*1に到着していた。来た目的はただ単に『職場だから』である。
「にしても――」
彼が見上げたラクーン市警は、明かりすら疎らな薄気味悪い廃墟――ではなく。流石に平時と比べるまでもなく活気はないが、それでも人の営みが感じられる程度の活気はあった。
「予想ではもうゾンビが蔓延る幽霊美術館にリフォームされてると思ってたんだけど…みんな頑張ったんだな」
そう溢しながらも、自らの案や忠告が無駄にならなかったことに少し安堵し、ラクーン市警の扉を開ける。普段は開けっぱなしにされている思い木製の扉をギィィと年季の入った音と共に開いた。
瞬間、いくつもの拳銃が彼に向けられた。
「待て待て人間…と言うか俺だ。ブラッドだ」
可及的速やかに手を上げ声を上げ、自らは人間であるとアピールする。
「なんだブラッドか」
「てっきり遂に扉を開けるゾンビでも出て来たのかと思ったぜ」
「そもそもアイツら扉蹴破ってくるだろ」
「違いねぇ」
拳銃を向けていた五人の警官が、思い思いのことを言いながらも銃を下ろしそれぞれの持ち場へと戻って行った。ブラッドはそれを見て『詫びは無しかよ』と愚痴を言いながらもエントランス内へと入っていった。
「やぁマービンさん。楽しんでる?」
「…そんな訳ないだろ。人生最低の夜だ」
広げられたパソコンの監視カメラの映像を睨んでいたマービンへ声をかける。黒い肌の上からも分かるハッキリとした隈は、彼が今まで
「……すまなかった。お前達のこと、もっと信じてやれていれば…!」
「まぁ気にしない方がいいですよ。昔よりも今に目を向けましょう」
「それも…そうだな。よし、今の状態を伝えよう」
ブラッドからの慰めによって少し調子を取り戻したマービンは、ブラッドに対して今現在の状況を説明した。
「今回の騒動が起きた時俺たち警察官は、まず民間人の保護を行った」
そこは街で大規模なテロなどが起きた際の対策マニュアルにも書かれているので、ブラッドも知っていた。
「問題は、その受け入れた民間人の中に奴らに
ただただ悲鳴を上げる者。親密な者と身を寄せ合って震える者。疑心暗鬼になって周りに罵声を浴びせる者。中には『傷が付いている奴は全員追い出せ』という過激なことを言い出す輩もいたらしい。
無論市民を守る事と犯罪者を捕らえる事に心血を注ぐ警察官がそんな世迷言を受け入れることはせず、寧ろ【名誉毀損(でっち上げ)】罪で留置所に叩き込んだらしい。
「その後州軍の増援が来てな。州軍のトラックや軍用車、それと俺たち市警が保有している護送車や、志願者から提供された一般車による一大避難作戦を開始した」
「幸い、武器は揃ってたのでな。何とかゾンビの大群を食い止めて、無事送り出した…という訳だ」
作戦は無事遂行。なんとか数百人に及ぶ市民の避難に成功した。その時
「…なんで残ったんだ?」
「まだ残ってる市民がいるかもしれないからな。それの受け入れと――まぁ有体にいうと囮りの役割を承ったんだ」
そうどこか誇らしげにも言ったマービンは、ブラッドを見てクシャッと笑った。
「ある意味ではお前のおかげだ。お前の署名によって集まった武器と、お前の警告のお陰で俺たちは迅速な判断と行動が出来た。武器なんて余ったくらいだぞ」
そう言い気丈に笑って見せるマービンを、ブラッドは無言で見つめる。マービンの瞳の中に明らかな疲労の色を垣間見たブラッドは、内心憂鬱な気持ちになりながらも声をかけた
「…無理はするなよ。アンタ結構歳だし、何より今の警察官達の精神的支柱はアンタ自身なんだからな」
「分かっているさ。それよりも、ジルはどうした…一緒に行動してたんじゃないのか?」
「実はここに来る途中で逸れちまってな。何か、手掛かりはないかとここに来たんだけど……」
チラリとホール全体を舐め回す様に見回したブラッドだが、ジル本人どころがその姿形すらも見当たらなかった。
「…残念だが、こっちにジルに関する情報は来てないな。スマン」
「いや、俺も半ば当てずっぽうで来たからな。大丈夫…また地道に探すだけだ」
目的のものがなかったため、ブラッドは一旦警察署から出ていくことにした。ここにいすぎると先程の黒コート大男*2や真紅の鬼*3といったアンブレラの刺客達の襲撃に、ここにいるマービンを初めとした警官達を巻き込みかねないのだ。
「じゃあ俺はこれで。頑張れよマービン、みんな」
「…行くのか?」
「あぁ。ここに居ても情報はあんまなさそうだからな、無駄に蹈鞴踏むのは嫌な性分なんだ」
そう言い立ち上がったブラッドは、椅子に座り多少かたくかなった体を思いっきり伸ばした。ポキポキと歯切りのいい音を響かせながら、彼は背中の背嚢からショットガンを取り出し構えだす。
「…こうして会ったのも何かの縁だし、一応。渡しとくか」
1番近くにいたマービンにも聴こえるか聴こえないかのギリギリの声量でそう呟くと、ズボンのポケットから数個の薬剤と、無針注射器を取り出しマービンへ手渡した
「ん?これはなんだ」
「…まぁ治療薬みたいなもんさ。怪我負ったりした時は活用してくれ」
歯切れが悪そうにそう言い押し付けた薬剤箱には【黒く塗りつぶされたアンブレラ社のロゴ】が刻まれていた。それを見たマービンは、そのロゴに対する思いをほんの微かに読み取り思わずといった風に聞いた
「……これは“皮肉”なのか?」
「まぁな。まぁこの救急箱、サイズと携行性共に優れてるから使ってるだけで、特に思い入れもないやつだし」
肩を竦めそう言ったブラッドは今度こそラクーン市警を後にした。
因みに時系列的にはちゃんと原作通りです。マービンが言っていた『脱出作戦』はアウトブレイクの警察署シナリオ【死守-desperate times-】の事です。
今後の展開
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テラグリジア・パニック事件(リベ0)
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アシュリー・グラハム救出作戦(バイオ4)
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リクエスト(書くかどうかは内容次第)