-2004年(バイオ4)-001
とある日。ブラッドは警察の紋章入ったワゴン車に揺られヨーロッパのとある地域に赴いていた。
窓から見える景色は季節柄かそれともこの地域の植生が成せることなのか、緑は少なく寧ろ「灰色」という印象を抱かせた。
(折角だったら地中海とか見に行きたかったな……任務じゃなかったらだが)
そう思いながら自分の上腕部の袖にある意匠を見て、ブラッドは微かにため息をついた。
地球を囲うような猛禽類のマーク……対バイオテロ部隊【BSAA】のシンボルマークが、ブラッドの腕で陽光を跳ね返しながら輝いていた。
「…にしてもアメリカ様のエージェントだけじゃなく、BSAAの調査員までとは。この先の山奥に何があるってんだ?」
ふと運転席で車を動かしていた現地の警察官が、揶揄う様な口調で言ってくる。
「悪いが俺からは言えないな、上に行ってくれ。エージェントからはなんかあるか?」
軽快な口調で返すと、ブラッドの隣で腕を組んで座っていたプラチナブロンドの髪をした細身の男性が口を開いた。
「…迷子の娘の捜索だ。そう聞いてるだろ?」
そう簡素に言い終えると目を軽く伏せて先程のブラッドと同じように窓の外を眺め始めた。
冷たい態度に少々腹が立ったのか助手席の警察官が口を開こうとするが、その前にブラッドが口を挟む。
「まっ。そうゆう訳だ……口止め料込みでそこそこ高い金渡してるんだ。分かるだろ?」
「…ハァー、ヘイヘイ詮索はしねぇでおくよ。俺らも首切られたくはないからな」
「まぁ「野郎四人でパーティに来た」って報告書には書いておくさ」
「それ【報告書】じゃなくて【始末書】の間違いじゃないか?」
「違いねぇ!」
「取り敢えず例の村までのドライブ。頼むよ」
「任せとけ。まぁ安全はともかく安楽は保証しないけどな」
「頼りにしてるぜ」
険悪な雰囲気から一転陽気な空気になった警察官達を見て、ブラッドの隣の男が彼にだけ聞こえる音量で話し始めた。
『助かった。俺は生憎と皮肉屋だからな』
『…強く在らないといけないのは理解できるが、協力者にまで発揮することないと思うぞ?前会った時はまだ素直だったろうに』
『この数年間で変わったってことさ…寧ろアンタは全然かわってなくて驚いた』
『そりゃどーも』
金髪の男……今回ブラッドと一緒にアメリカ大統領の娘である「アシュリー・グラハム」を救出するために派遣されたエージェント、レオン・S・ケネディと目配せをし合い会話を打ち切った。
(アメリカの情報部と
アメリカはともかく対バイオテロを専門とするBSAAが同じ情報を掴んだということは、この一件は間違いなくB.O.W絡みだとブラッドは半ば確信しながら車に揺られた。
『俺たちには別任務がある。同行したいのはやまやまだが……』
『アナタはアナタの、私たちは私たちの任務をやり遂げるとしましょう。元後輩にもよろしく伝えて頂戴ね』
本部を発つ前にクリスとジルに言われた言葉を反芻していると、不意に車が止まった。どうやら警察官のうちの一人が尿意を催したらしい。
「ここだけだとただの寂れた片田舎って印象だけどな」
「俺もここ迄は来たことねぇな…タバコどうだ?」
「先輩なら貰ったかもな。レオンは?」
「俺もいい」
「二人ともか、外で吸った方がいいか?」
「いや別に」
そうかと相槌を返しさも旨そうにタバコを吸い出した警察官を横目に、ブラッドは窓の外を見る。
「……ん?」
するとある一点に違和感を感じ、ブラッドは窓を開けポーチから単眼鏡を取り出し違和感を感じた方向を注視し始めた。
「?どうしたんだブラッド」
「――あー成る程。
「すまねぇ、待たせたな」
単眼鏡から目を離した瞬間丁度用を足し終えた警察官が車に乗り込んでくる。
「んじゃあ出発するぜ。シートベルトは?」
「スマン。運転手さん」
ブラッドは唐突に謝罪を投げかけるとシートベルトを外し車のドアラックを解除し外へとその身を乗り出した。
「
そう言い後ろのトランクへ向かい自身の胸より下程度の大きさのトランクケースを取り出した。
「はぁ?何言ってんだよ。まだ結構あるぞ?」
「…俺も此処まででいい」
「お前もか!?」
粛々と「下車準備」を始めたブラッドに困惑する警察官だったが、同乗者のレオンも同じ事を言い出しより一層困惑した。
「遠いっつっても歩きで行ける程度だろ?ここまでありがとうな!」
「だな。此処でお別れってことだ」
「オイオイ!俺たちは任務で――――」
「上にはちゃんと目的地まで送って貰ったと報告しておく。ここは二人で帰ってくれ」
当然二人を止めにかかった警察官の腕に手を置き、ブラッドは真剣な目でそう伝えた。
「…なんかあるんだな?」
「あぁ」
ブラッドの態度から剣呑な物を感じ取った警察官はため息を吐き、二人を残し車へと踵を返した
「わぁーた。おいブルーノ帰るぞ」
「いいのか?」
「元より俺たちは雇われただけだ。お客の要望には答えないとな」
「た、確かにそうだけどよ…」
狭い山道ながらも見事にUターンし、来た道を戻りレオンとブラッドと擦れ違う――直前に窓から顔を出し、二人の顔を交互に見た。
「何の任務かはよく知らないが、頑張れよ」
「勿論」
「お前らこそ、帰り道で駐禁取られるなよ?」
激励の言葉にブラッドは真剣に、レオンはニヒルに返すと、警察官達は強気に笑いながらも来た道を去っていった。
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「……で、説明はしてくれるんだような?」
「当然。黙ってコッチに合わせてくれたからな――これ見てくれ」
訝しげに…と云う程でもないが顔を顰め疑問を呈するレオンに、ブラッドは先程まで自分が覗いていた単眼鏡をレオンに渡した。
「……どこを見ればいい?」
「二時の方向。一際大きい針葉樹の下」
受け取り指定された場所を見ると…やけに高く積まれた木の葉の少し上の部分にキラリと光る反射光をみた。
「なんだアレは?」
「たぶんだけど望遠鏡。それもご丁寧に隠蔽されてる」
「狩猟の為じゃないか?ここら辺では珍しくないらしいが」
「閉散期の今にか?狩猟期間終わったら撤去するもんだろ」
「……成る程。余所者用って訳か」
PrrPrrPrr!
納得した瞬間レオンの腰の通信機が鳴り出す。レオンはブラッドを見て「出てもいいか?」と視線で訊くと、ブラッドは軽く目を瞑り手をレオンの方へ軽く向けて「どうぞ」とジェスチャーを送った。
「こちらレオン」
『貴方がレオンね?私は今回貴方をアシストするハニガンよ』
「あぁよろしくハニガン…思ったより若いな」
『ありがとう。所で、もう目標地に到着してると思ったから掛けたのだけども……大分遠いわね。道草でも食ってたかしら?』
「いや。アチラさんが俺達を待ちきれないとクラッカー片手に準備してたからな。脇役のポリスには退場して貰って二人でブロードウェイを歩いてた所だ」
『……ブラッド・ヴィッカーズに変わってもらっていいかしら』
僅かばかりの嘆息と共に目を窄めたハニガンからそう申請されたレオンは、通信機をブラッドの方へ向ける。
「だそうだ。いいか?」
「ハイハイ……どうもハニガン女史。BSAAから派遣されたブラッド・ヴィッカーズだ。長いからブラッドでいい」
『よろしくブラッド。こちらこそハニガンでいいわ……要約してもらっていいかしら?』
「例の村のものと思われる監視設備を発見。
排他的な村の可能性あり。
無駄な犠牲を出す訳には行かないため現地協力者の警官達には帰って貰って現在村までの山道を徒歩で移動中」
『あぁ成る程そうゆう事ね…レオンには「ユーモアも大事だけど報告は簡潔かつ明瞭に伝えて」と言ってもらっていいかしら?』
「ハハ!気持ちは分かるけど、お堅いままだと息が詰まる。いざとなったら自分が翻訳するからここままでいいと思う」
『……分かったわ。確かにこれから一仕事するのだから歩み寄る姿勢は大事ね』
「だってさレオン。理解あるオペレーターでよかったじゃないか」
その後ブラッドから通信を返されたレオンはハニガンとニ、三言話すと通信を切った。因みにブラッドも通信用の小型インカムをつけてはいるがレオンのようにオペレーターの類はナシ。
ブラッド直属の上司であるオブライエンによると「向こうに専属のオペレーターがいるならそっちからついでにナビしてもらえ。…俺か?別件で忙しいから無理だな」らしい。詰まるところ「人員不足」である。
「ウッシ。じゃあ気合入れてハイキングと洒落込むかね」
「サンドイッチ入りのランチボックスはないがな」
「まぁ携帯食料がそれってことにしよう」
▲月○日①
いやぁこの日記付けるのも久々だな、最近はもっぱらデスクワーク用のパソコンに打ち込んでたから新鮮な気持ちだ。
っとと、まぁ懐かしむのはこのぐらいにして……ある意味では予想通りの状況になった。
ハニガンとの通信が終わった後に、俺とレオンはしばらく歩き、崖の上に建造された「老朽化が進んでます」と音と見た目で
橋から少し歩いた場所に民家があったので、比較的軽装のレオンに行ってもらうことにした。制服のみとは言えゴリゴリのミリタリー風の俺よりも一見スカしたイケメンに見えるレオンの方が最適だろうという采配だ。
レオンが民家に入りしばらくして、
『止まれ!』
『テ、ボイヤ、マタル…!*1』
「レオン何が……ッ」
『ウン、フォラステ!*2』
『ドンデ、エスタ*3』
『アァー……』
発砲音が響くと共に、どこからか現れた村人三人が俺ににじり寄ってきた。
いずれも鍬や草刈鎌を持っており少なくとも館外の雰囲気ではなかった。
最初こそ話し合いでなんとかしようとも思ったが、相手方が敵意満々で攻撃して来たこととハニガンとの会話でレオンから聞いた「発砲許可」の知らせから腰のベルトからサムライエッジを取り出して村人三人の足を撃った。
普通の人間なら…という軍人や特殊部隊員でもない限りは痛みに悶絶し足が止まるはずなのだが。その村人達は少し痛がった素振りをしたと思えばすぐに立ち直り、再び武器を振るってきた。
流石にやられる訳にも行かないのでその後一人頭を撃ち抜き威嚇してみるも、まぁ予想通り残った二体は変わらず向かって来たのでこれも撃破した。そして村人達が残した慰留品の小銭――それも現在は廃止されているはずのペセタ通貨である――を拾い。同じく中の村人を倒したレオンと合流した。
すると倒してそのまま残す筈だった村人達の死体が黄色い泡と共にグズグズに溶けてなくなった。
その時点で俺たちは今回の敵が尋常なものではない事を悟った。という中の村人に掴み掛かられた時異様な腕力を持っていたらしい。
……ワンチャンカルト集団かと思ったが、やはり今回の敵もB.O.Wの類らしい。こりゃアシュリー嬢の身も思ったより危ういな。
したくはないが単独行動も視野に入れるべきだろうか。
作中にもありますが4の裏でリベレーションも進行しています。
ブラッド・ヴィッカーズ
・今年で(作者の年齢計算が正しければ)25歳。
・本来ならヴェルトロの基地にクリスと共に行く予定だったがアメリカ政府からの要請で今回の作戦に参加。
・レオンの顔馴染みかつBSAA内でも高い踏破力と継戦能力を見込まれての人選。
・スーツケースの中身は次回のお楽しみ。
レオン・S・ケネディ
・「バイオハザード4」の主人公。
・2ではなよなよな優男だった彼もエージェントのための特殊訓練で強いイケメンになったが、女運がないのは相変わらず。
・ブラッドは元先輩だが年齢的には年下になるのでどう接すればいいか悩んでいる。