「このままやってて弾薬持つか!?」
「知らん! とにかく目の前の奴らに集中しろ!!」
現在二人は立て篭もった家を飛び出し屋根伝いに戦っていた。無尽蔵に現れる村人達に防衛線は徐々に後退しつい先程決壊、籠城戦の体をなし切ることは出来ずにその様子は足を撃ち抜いては距離を離し梯子を掛けてきては叩き落とす逃走劇へと移行していた。
(感染者にしては足も速いし、武器も使ってる……極め付けは“言葉を用いている”事だ。ただの暴徒? だが―――)
「ッ!? ブラッド!」
今戦っている村人にこれまでのゾンビ達の相違点を考え込むブラッド…そう、
THUD!!
「〜〜〜〜〜っ!? クソ!」
鈍い打撃音により漸くその存在に気付いたが時既に遅し。プロテクターにより足と泣き別れする展開は阻止できたものの足に迸った衝撃は走っていたブラッドの走りを止めるには十分すぎるほどで思わずその場に蹲る。
すかさずサムライエッジで頭を撃ち抜き村人への借りを返すが……
「ブラッド!?」
「足元不注意…建設業者の人に注意出来ないなこりゃ。大丈夫――って言いたいが」
足元を庇っていた手を離しショットガンを構え一発放つ。背後からは未だにレオン達を追う村人の群れが押し寄せており、いくら強力とはいえ村人の村を押し寄せるには少々火力が足りなかった。
「チッ、おいレオン先行ってろ」
「バカ言うんじゃない一緒に――」
「2人共倒れはゴメンだろ?」
言葉と共に手榴弾のピンに手をかける。冗談めかした物言いだがその目自体は怪しげな光を灯したものとなっており、前を目据えていた目は今は村人達を捉えて離さない。
「さぁ行け」そう言うと共に手に持った手榴弾を村人達へ向けて投げようとして――
▲月○日②
いやなんなんだろうな今回のB.O.W.。
武器は使うわ言語は用いるわなんか耐久力高いわ鐘が鳴った瞬間帰ってくわで……不明瞭なことばっかりだ。あっ投げかけた手榴弾は取り敢えず生存成功の祝砲として上空に放り投げといた。
そう、あいつらは目の前に俺という手負いの獲物がいた癖に鐘(音と反響音からしてそこそこ高い建物・・・村の教会とかだろうか)の音が響き渡った瞬間俺たちの方向を見向きもせずに散っていった。
諦めた訳ではない・・・と思う。どちらかというと一種の催眠、それか刷り込み。まるでそうあるべしと定められているようだと俺は感じた。
恐ろしいというよりかは不気味だった。これまで戦ってきたB.O.W.やそれらを運用するテロリスト共も勿論恐ろしいが、それはあくまで直接的な脅威から来る物理的な物。だがこの村は・・・それらとはまた違った薄気味悪い物を感じ取れて、背中に何か冷たいものを感じた。そんな悪寒に耐えかねて思わず周囲を見回した俺たちだけが、この村に取り残された。
ひとまずはハニガンに連絡を取り現状と先ほど起こった不可解な現象を報告した。「まともじゃない」と言うレオンの声に内心激しく同意しながらもハニガンからのその位置にとどまるのは危険だから北側のルートから行って村から脱出するようにと指示を受けたが、俺はそれに「まった」を掛けた。
何もかも分からないこの状況で動くのは俺の性分に合わないし、何よりBSAAとしてはこの不明点しかない敵方の情報を精査したいと主張した。
『・・・どうするかは現場側に任せるわ』
一長一短の意見を自分の一存では決められないと通信を切った(新人とのことなので逃げたとも言える)ハニガンの言葉を皮切りに俺とレオンの口論が勃発する。
「アシュリーに何が起こっているか分からない。例え罠があるとしても無視していくべきだろう!」
「アシュリー嬢の心配をするのは最もだがその結果“ミイラ取りがミイラになる”になったらどうするっ?」
合衆国のエージェントとして多少の危険があろうともアシュリー救出を優先するべきだと主張するレオンとそんな俺たちに万が一がないようにするためにも、そして何より未知の敵は一にも二にも調査をするべきだとBSAAの実行部隊として主張する俺の口論は平行線の一途を辿った。
故にきっと、この結論は仕方なかったとも言える。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
『こちらレオン。立ち入った民家の中で“例の男”という謎の存在の資料を見つけた。俺と合わせるなとのことだから逢いに行ってみようと思う』
「了解・・・・・・・・・言うまでもないけど、油断するなよ」
『分かっている。それじゃあ』
「あぁ…さて、ここのお宅はと」
ブラッドは現在、レオンと別れて村全体の家宅捜索(無断)を行っていた。
家の蝶番を壊して家の中を探索。キッチンから寝室に至るまでの隅々を調査し情報を集めようとしていた。
そこで手に入れた情報は…あまりにも精巧な“生活感”を彼らが持っている事だった。
(よく考えたら村の中には鶏に豚もいた。本能的にタンパク質を求めるt-ウィルスの感染者とは有り体からして異なるのか…?)
(だが村人達からは戦闘時以外での感情は見当たらなかった。又はそうなるようにプログラムされているのか……)
考え込む内に最後の一件。村の中でも少しだけ大きなその家のコテージには絵を立てる土台と……完成途中だったのだろうか黒を基調としたローブを羽織った男性の油絵が立てかけられていた。
「村の有力者…もしくは鐘がある教会の聖職者ってところか」
絵を一瞥してそう判断したブラッドは、一応玄関前で軽く一礼をしてから家の敷地内へと踏み込んだ。
家はどうやら五人以上の大家族でも暮らせるように設計されているらしく、食材がない事を除けば至って普通の生活をしているように感じられた。
(まるで、中世にタイムスリップしたみたいだな。こんな異常事態さえなけりゃ文化遺産にでも登録されてたろうに)
「……ん?」
一部屋一部屋探索していたブラッドだが、そこで気になるものを発見した。
「スケッチ。つぅか日記の類か……すまねぇ、スペイン語はさっぱりなんだ」
それはコテージの油絵を描いていた本人とよく似たタッチで描かれていた数十枚の紙束だった。
最初のページでは村の牧草的な雰囲気が柔らかなタッチで見事に表現されており、絵に疎いブラッドでも素直に「いい絵だな」と思った程の逸品だった。
「前は平和な村だったのか? 一体全体何が…ん?」
村の様子を探るため、そして気晴らしも兼ねて読み進めていたブラッドだったが。ある1ページを見て固まる。
その絵に描かれていたのは、とある村人が他の村人達に取り押さえられやたらと太い注射を刺されそうになっている絵だった。
一つ後ろの絵に描かれていた明らかに怪しい黒ずくめの男(大仰な動作からして扇動家か宗教家の類か)とその横にいる車椅子の男性の仕業かとブラッドは当たりをつける。
(新興宗教が“聖水”だとか“神の血”とかいって依存性のある麻薬や、でっちあげの栄養剤を投与するのは珍しくないが…どちらにせよ穏やかじゃないな)
続く二枚を見ると明らかにおかしくなった様子の村人が描写されており、書き手も疑念や恐怖感からか絵のタッチが少々荒いものに変わっていた。
「ほーら言わんこっちゃ…………は?」
『成る程今回の騒動は
手に取ったままワナワナと数秒そうしていたブラッドは青くなった顔を勢いよく上げた。
「アシュリー嬢に、下手すればレオンも……! クッソ俺の馬鹿野郎!!」
紙束をぶん投げたブラッドはレオンの後を追うために獣の如くその場を走り出した。
彼が最後に見たページが地面に落ち、そこに描いてあったのは――
――首がその薄皮一枚を残して垂れ下がり、千切れたその根本からは無数の触手が蠢いている異形の人体だった。
因みに今回の行動によってブラッドもプラーガを埋め込まれるルートを排除しました。