この世界はあべこべである。   作:黒姫凛

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最近感想欄が荒れててゾルダン様大量発生中です。(良い意味で)


今回のお話は少し、いえ物凄く納得出来ない事があるかもしれませんが、作者が新たな扉を開いた結果、こういう路線をやってみたいと思ったので、あんまり触れないで頂けると助かります。(主にメンタル的な意味で)


と言いつつも、ヒロインの殴り合いは中々考えさせられるんだよなァ、これがァ!!












ピオニーはぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───大赦本部某所。

 

 

大赦の本部がある場所は、高位の者でしか分からない場所にある。力哉はある人に助言を頂くため、煮えくり返る腹を落ち着かせながら大赦本部に足を運んだ。

 

大赦に顔を出す時は力哉は大赦の人間だと分かるよう、大赦の正装である白い袴を纏い、大赦の紋章が入った白い仮面を着けて周りと格好を同じにしている。

 

座室に案内され、予め用意されていた座布団に座り相手を待つ。

部屋の奥に掛けられた掛け軸は、昇り龍が血を流した少女の体を鷲掴みにして空高く登っている絵が飾られている。

()()()()()()()()()()と、悪趣味な絵から目を外し、その下に飾られた漆器の壺に飾られた花を見つめ、顔を顰める。

 

 

(体をクロユリ。その周りにアザミ、見えないがクローバー。……挙句の果てにスノードロップとは。よく見つけたとかいう前に、誰に対しての()()なのか……)

 

 

この部屋にいるだけでも虫唾が走る。目が腐る心が腐る。

見たくも無いものが目の前に飛び込んでくるのは、勘弁してもらいたい。今すぐにでもその掛け軸を破り捨てて花瓶を割りたい。

 

鬱憤が力哉の心に蓄積する。叫ぶことが出来れば、どれ程楽になれる事か。

 

大赦は大赦なりの心情を持っている。それが、結果的に世間に露見し、何時しか常識と化している。大赦は憎いが、心の中で諦めのような無関心の心がある為、完全に否定しきれない。無関心の時点で否定しているように思えるが、感覚的にそれは違うと言う意識がある。完全に否定出来たら、きっと力哉の行動も違うものになっていたのかもしれない。

 

 

(……大赦が設立されてから数百年。()()の話では、世界の歪みは大赦が生まれてからと聞くけど。ほんとの所はよく分かってないから何とも言えないな)

 

 

西暦の時代、大赦は大社という名前で運営されていた。しかし、ある時を境に名前を変更。憎き美醜差別化が完全に始まった瞬間でもある……らしい。

誰も確証なんて持てるはずもなく。何百年生きた人間なんているわけが無いのだから、執筆なり当時の映像なり残しておいてくれさえすれば真実も分かるというのに。

 

ため息混じりの息を吐く。誰も居ないとは言え、ここは大赦本部。何処に耳があるか分からない。もし余計な事を言ってしまい今後の活動に影響が出てしまったら手遅れなので、目立つ行動は極力避けている。

それにこんな事を言っていると、大体誰かが入ってくる事は定番中の定番だ。

 

 

「───失礼します」

 

 

ほら、誰か来た。

 

襖が動く音とほぼ同時に、畳を擦る音が聞こえる。仮面を被っているので、視野からの情報は正直当てにならないので、聴覚が頼りの綱となる。なんで見えない物を顔に着けているんだよとは思うが、それでも他の役員はしっかり動けているので初めはどういう原理なのか理解出来なかった。

 

もう一度襖が動く音と共に、畳を擦る音が目の前の位置にある座布団に移動していくのが分かる。布が擦れる音が聞こえる、誰かが座ったのだろう。

タイミングを考慮し、俺は口を開いた。

 

 

「───お久しぶりです。安芸先生」

 

「───ええ、お久しぶりです。()()くん」

 

 

恩師である安芸先生は、きっと頬を弛めた顔で笑っていらっしゃるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………事情は理解しました。しかし、はっきりと申し上げるならば、私達大赦側が関与する事はありません」

 

 

力哉は安芸先生に友奈について事細かく説明をした。そして、なにか助力出来るよう提案をもちかける。

が、安芸先生はキッパリと否定した。

 

 

「……やっぱりですか?」

 

「貴方も理解している筈です。()()彼女達は使い捨て。古き世から続く曲げられない方針。この方針を曲げてしまえば、今度こそこの世界も終わる。貴方には御役目御役目だと濁してきましたが、はっきり言いましょう」

 

 

 

 

───彼女達には、是非壊れて頂きたい。

 

 

 

 

立ち上がりそうになった自分を、何とか制御できた。

怒りだけが渦巻く。煮え冷えた腹が再び熱を上げる。仮面の下にある力哉の顔は、怒りによって赤く染っているだろう。

 

淡々と話す安芸先生は力哉の状態を察しているものの、言葉を止める事はない。

 

 

「赤嶺くん。貴方の御役目は彼女達のメンタルケア。より長く、より多くのバーテックスを倒させる事。貴方の感情は必要としていません」

 

「………あまりにも残酷だ。俺はただ、友奈ちゃんを助ける為に……」

 

「貴方に()()させればいいのです。貴方にとっては簡単でしょう。義理の母親と関係を持つ貴方なら」

 

 

最早、言葉等出るはずもない。仮面をつけた安芸先生は、基本的現実主義。大赦の駒としての役割をしっかりと果たす、言わば力哉の敵である。

敵である安芸先生に、普通なら結果の見える話し合い故に話など持ち込むなんて有り得ない。

 

しかし、力哉はそれを敢えて分かった上で話を持ち込んだのだ。理由はしっかりと存在している。

 

 

「……と、はいえ。流石に言い過ぎましたね。……本音を言いますと、とても難しいものだと理解してください」

 

 

先程までの緊迫した雰囲気は何処へやら。少し緩んだ雰囲気を見せる安芸先生は、少し甘い声でそう言った。

 

そう。力哉の狙いは、安芸先生の今の状態である。安芸先生は確かに大赦側であるので、力哉の敵という位置に存在する。しかしそれはあくまでも表の顔で、本当は子供に優しい綺麗なお姉さんなのである。

よもやよもやである。

 

 

「……はい。承知してます。流石に、そうそう心の傷を塞ぐなんて事出来るはず無いですもんね」

 

「……ならいいのです。それに、彼女のような障害を持つ方々を何人も見てきたつもりですので。多少の助言は致しましょう」

 

「ありがとうございます。安芸先生にお話してよかった」

 

 

力哉の感謝の言葉に、照れ臭そうな雰囲気を見せる安芸先生。先程の姿は、最早何処にも見えなくなっていた。

 

 

「……全く、大赦の目と耳がある所であまりそのような話をしないでくださいね。私だってまだ死にたくありません」

 

「……分かってます。一緒にこられた方々が耳を張っていたようで」

 

「仕方ないのですよ。彼女達は貴方達と関わった事はありませんし、何より彼女達は言うなれば()()()()に属する人達。今後の人生の為に、大赦に尻尾を振って存命しなければ生きていられないのを理解しているのです」

 

「……ままなりませんね」

 

「……全くです。転職でも考えようかしら……」

 

「先生なら、そのまま教鞭なさればすぐにでも上手くいきますよ」

 

「あらありがとう。……そうね、私にはもう教師しか今更無いし」

 

 

襖の奥から気配が消えたのを悟り、より脱力した会話を見せる力哉と安芸先生。付き添いとして傍に仕えていた二人の役員が報告の為に盗聴をしていたのは、最早慣れてしまった事なので何も言わないが、力哉は流石に毎回こうだと本気で安芸先生が本音を暴露しているのでは?と認識しそうになっている。

 

 

「……それで、結城友奈さん、についてだったわね。彼女、大赦上層でも話題の子よ。今回の御役目適正値が過去一番らしいの」

 

「……成程、だから今回は総戦力な訳ですね」

 

 

適正値過去最高記録一名、先代勇者一名と、対御役目用に訓練された勇者一名。他二人は御役目に関しては素人だが、今回は適正値の標準を高くした結果選ばれた人選である為、大赦側も今回に関しては力を入れているとか。

先代には無かったシステム導入等、今回の御役目で終わらせようと大赦側も本気らしい。

 

力哉にとっては、一体何を終わらせようとしているのかは分からないが。

 

 

「……まず状況を聞くに、結城さんは防衛本能によって体を守っている。これは赤嶺くんも理解していると思うの」

 

「はい。俺もそう判断しました」

 

「結論から言うと、これを治す方法はあるわ。自分の置かれている状況をまずは認識させる事よ」

 

「……認識?防衛本能が浮き彫りになっているから、自分がどうなっているのかは分かっているんじゃないですか?」

 

「認識してるように見えて認識はしていないの。本能というのは、自分の意識では覆せない、生物に存在する生命の柱よ。本能は生命の危機に瀕した瞬間、無意識下で作動する。結城さんも、暴行を振るわれている時に本能が守るように動き、結果的に痛みを快楽に変換されたのね」

 

 

成程、と不躾だが納得してしまった。

 

 

「だから認識しているとは違うの。だからこの状況打破する為に、彼女には───」

 

 

 

 

 

力哉の心の中で、着実にすべき事が形取られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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友奈はその日、敬愛する先輩である力哉から浜辺に来て欲しいと言われた。

 

学校が終わり放課後。周りから声をかけられても足を止める事をせず、全力で浜辺に駆け出していた。

力哉からのお呼び出しだ。何かあると分かっているとはいえ、何をしてくれるのかとてもワクワクしながら友奈は走る。

 

堤防をよじ登り、高い所から本人を探す。海辺に二つの人影を見つけた。一つは女の姿だが、もう一つは男性のもの。

 

 

───力哉先輩だ!!

 

 

それを分かった瞬間、友奈は駆けだす。

足場が悪い砂浜だろうが、一刻も早く力哉の元に向かいたい。思いの外前に進めない事に苛立ちを感じながらも力哉の元に無事に到着する。

 

 

「力哉先輩!!」

 

「来てくれてありがとう、友奈ちゃん」

 

 

少し口元を弛め、にこやかな表情を見せる力哉を見て、友奈は胸の高鳴りを感じる。ポカポカと暖かくなる胸の前でキュッと指を絡め、元気のいい返事をする。

 

が、ふと隣に立つ女が視線に入った。

友奈と同じ醜い顔。鋭い目つきに筋肉質な体。海風に靡くツインテールが、彼女の地味さをより引き出している。はっきり言って力哉の隣に相応しくない女であった。

その女の後ろにある二刀の木刀も少し気になる。

 

 

「……あの、そっちの人は」

 

「ああ、彼女は三好夏凜。俺のボディーガードだ。銀の相方だな」

 

 

銀、という名前にピクリと反応する。片腕を失っている少女だ。何があったかは知らないが、そんな欠陥品が力哉の傍に仕えているのは、友奈的には嫌悪感を向けざるを得ない事態である。

端的に言えば、友奈は銀という存在が嫌いなのである。

 

 

「……今日呼んだのは、友奈ちゃんの病気について解決させようと思ったからなんだ」

 

「………え?びょ、うき?私がですか?」

 

 

病気。こてんと首を傾げる。母親からもそんな話は聞いたことが無い。

友奈は力哉が何を話しているのか分からなかった。

 

 

「………友奈ちゃんは少しトラウマを持っていてね。優花さんからその相談を受けて、何とかしようと思ったんだ」

 

「……えっと、私そんな事───」

 

 

無いですよと、言おうとした時。友奈の前に木刀が放り投げられ、足元にサクッと突き刺さった。

 

木刀、誰が投げたのかはすぐに分かった。力哉の隣にいる、三好夏凜という女だ。

 

 

「力哉さん。それ以上の言葉はいらないです。後は私が」

 

「……だが、説明をちゃんとしないと」

 

「あっちも、どうやらその気のようですが」

 

 

あっちとは、言わずもがな。友奈の方である。

柄を握り、刺さった木刀を引っこ抜く。ぶらりと腕を下げてじっと夏凜を見つめる。

 

 

「それに、私もそろそろ我慢の限界なんです。何にもしないで身を縮めて殻にこもる甘ちゃんと、私は一緒だと思われたくないの!!」

 

 

ビシッと木刀を友奈に向ける。血走った目は少し怯えた友奈を映し、友奈も少し黒ずんだ赤い瞳を向け、夏凜をしっかりと見据えている。

 

 

「私はあんたにこれから打ち込むわ。あんたも反撃して来ていいわ。まぁ、私はあんたみたいなへっぽこなんかの攻撃なんて当たらないんだけどね」

 

「……なんですか、いきなり。私そんな事したくないです」

 

「言ったでしょ?これはあんたの治療よ。その弱い心と醜い顔。涙と鼻水でさらに醜くしてやるわ」

 

「……っ」

 

「あら?気に触ったかしら?でもダメね。力哉さんの隣に居られるのは、御身を守れる力があるものだけよ。力哉さんは、それ程の御方だと言うことを理解しなさい」

 

 

 

「ま、弱いあんたには関係無いわね」

 

 

その言葉が、友奈の堪忍袋の緒を切り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何をバカ正直にやっているのかと、自問自答する。

 

 

自身の手にあるのは木刀。何故こんなものを振っているのか、イマイチ分かっていない。

そもそも、自分に対しての興味が薄い。なんなのだ、この身体は。

 

 

───バチンッ!!

 

 

 

左肩に激痛が走った。顔を顰める。

 

 

───バチンッ!!

 

 

 

右脛に猛烈な痛みを感じた。思わず蹲る。

 

 

 

───バチンッ!!

 

 

 

背中に激痛が走った。思わず体を仰け反る。

 

 

言葉にならない叫びが、自身の口から込み上げる。

 

なんなんだ。なんなのだこの痛みは。どうして身体が痛い!?

 

 

前を見据える。そこにいるのは木刀を振りかぶった女だ。自身のように醜い顔を晒し、怒りに染まった表情が重圧となり自身に降り注ぐ。

間を開けて、右肩に痛みが走った。

 

 

嫌だ痛いなんでこんなことをするの!?辞めてよ辞めて痛いのは嫌怖いよもう傷つきたくない痛いの嫌怖くて仕方ないよ誰か助けて───

 

 

悲痛の表情から、ほろりと雫が溢れ出す。ポロポロと次第に大粒に変わる雫は、自身が抱く感情を最も端的に表している。

 

悲痛苦痛から来る涙。助けを求める涙。

数年来にして、少女は涙を流したのだった。

 

 

「………もう、いや…。やめて………」

 

 

小さく震えた声。海風に飛ばされそうな柔い弱い掠れた声。

少女が今出せる最大声量であった。

 

木刀を振りかぶった女は、ピタリと止まる。声が聞こえたのか、女は動きを止めて木刀を下ろす。

 

 

「……案外早かったわね。私は一度も反撃されてないんだけど?」

 

「……ごめん、なさい……。も、う……やめて……」

 

「……弱い。弱過ぎよあんた。格闘技を習ってるって聞いたからどうなのかと思ってたけど、飛んだ拍子抜けね。ウォーミングアップですらできなかったわ」

 

「……もう、力哉先輩には……近付きません。……だから、もう……」

 

「……そう。それがあんたの答えね」

 

 

そう言うと女は、力哉に近付くとお互いの身体を惜しみなく密着させた。そして、力哉の頬に口づける。チュッと湿った何かが弾む音が聞こえる。

やった本人は恥ずかしさのあまり赤面している。しかし、少女にはそんな光景は届かなかった。

 

 

少女ははっきりと、衝撃的なその光景を目に焼き付けた。焼き付けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え、何してるの私の力哉先輩に何してるのえ?え?何してるの私のだよ力哉先輩は私のなのになんで?なんで?そんなことするの?意味わかんないふざけないでよふざけないでふざけないでふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな力哉先輩は私のだお前みたいな女がそんなことしちゃダメなんだ私じゃないと私しかそんな事しちゃダメなんだえ?なのになんでそんなことできるの?いみわかんないいみわかんないいみわかんないいみわかんないいみわかんないいみわかんない!!なんで!?なんで!?は??はぁ!?はぁ??なんだよなんでよ力哉先輩の隣は私のはずなのにふざけんなふざけんなふざけんなクソブスクソアマがふざけんなふざけんな力哉先輩は私のだぶっ殺すぶっ殺してやるお前なんかに力哉先輩と釣り合うわけないだろクソアマ殺す殺す絶対殺すふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな力哉先輩にそんなことしやがって絶対許さない力哉先輩とそんなことできるのは私だけなのになんでなんでなんでなんで!!なんで!!なんでなんでなんで!!ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなクソブスクソアマがふざけんなふざけんなクソブスふざけんなクソブスふざけんなクソブスクソアマがふざけんな殺す絶対許さない力哉先輩によくもよくもよくもよくもやってくれたな絶対───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───少女は女に斬りかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恨むなら、いくらでも恨んでくれ。

 

 

荒療治だが、これしか解決方法が見つからないんだ。

 

 

君の本音を、さらけ出してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、結城友奈編ラスト(の予定)。

その後銀ちゃん&夏凜たその話にするか、御役目を進めるのか、迷いちゅーです。
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