いっつも誤字報告及び感想あざす!!
「───え?」
「俺の事、好き?」
力哉の問は、友奈を呆気させるには十分だった。
数秒、友奈の思考は回転し始め、力哉の言葉を脳内でリピートする。
好き?好き?……好き!?
アーユーライク?ノーノー。アーユーラブ?
ライクなのかラブなのか。きっと今の言葉は後者だろう。異性が好きかどうか聞いているのに、それを友達、友人として好きかどうか聞くなんて考えは、その言葉を受け取った側は考えもしない話である。
例に漏れず、友奈は後者だと自身で結論付ける。
「………どうして、そんな事を?」
友奈は足りない思考を回す。バレていたのか?そりゃバレるかと。自問自答を繰り返し、やがて仕方ないなとむしろ前向きに開き直った。
今の問いは、力哉がどういう意図で尋ねたのか聞く為に出た言葉だ。開き直ったからこそ、寧ろ聞いてみたいと思ったからそう尋ねる。
「……女って言うのは単純だろ?男が少しでも隙を見せたら体を寄せて発情してくる。俺は見ていて楽しいけど、他の男は嫌悪感を抱くのもまぁ理解出来るよ」
力哉の表情は真剣そのものだ。しかし、その凛々しい顔立ちに添えられた美しい口から出たのは、女を軽視するような発言。
言葉より、力哉がそんな事を発言したことに友奈は度肝を抜かれる。
「……うちの家族だってそうだ。母さんはちょっと優しく接したらデレデレになるし、美森は常に雌みたいな顔して生活してる。俺じゃなかったら引きこもってるよ」
うんざりとした顔で、力哉はため息を吐いた。今まで1度も見た事なかった力哉の裏顔。まるで女は俺の駒だとでも言っているような言い分。
そんな姿を見せられて、友奈は気分を高揚させていた。
「正直言うとさ、俺って女って生き物は嫌いなんだ。いくら多いからって、いくらこの社会を回してるからって、調子乗り過ぎだ」
ビクッと胸に埋まる夏凜の身体が跳ねた気がした。友奈は気付いていない。
「うちの家族も、学校の奴らも、皆嫌いだ。勿論、友奈ちゃんも嫌いだ」
知らなかった一面を、大好きな男の人の新しい姿を見れて友奈はとても感動している。嬉しいと、幸せだと。今まできっとそんな鬱憤を溜めながら生活していたのだと、友奈は理解する。それと同時に、その鬱憤をどうにか晴らしてあげたいと思ってしまった。
「媚び売る女なんて、雌みたいに盛る女なんて。死んでしまえばいい」
何を言っているか分からなかったが、力哉が女という存在に嫌気が差していることは理解出来た。
ならば、結城友奈としてすることは一つ。
「───じゃあ、私で鬱憤を晴らしませんか?」
この一言に尽きる。
待っていましたと言わんばかりに、力哉は表情を歪める。最高だ、そんな表情今まで見た事ない。男の人がそんな表情するなんて、それでいてそれを向けられている。お腹の奥がジンジンと暑くなる感じがする。
「私は他の女とは違います!!私は力哉先輩に媚びへつらったりしない!!私は力哉先輩の事を本気で好きになっています!!だから、私でよければ体をお貸しします!!」
早く使ってくれと。力哉の感情をぶつけてくれと。
貴方に恋する女はどんな姿でも受け止めると、力哉に盛大なアピールを繰り返す。
「どんな事をしても構いません!!力哉先輩が望むなら!!それを力哉先輩の愛だと感じて私は全て受け止めてみせます!!だから、だからっ、私を使ってください!!」
これ以上の言葉が見つからない。両手を広げ、力哉に腹の内側まで見せるような無防備な状態を晒す。
結城友奈は高揚に浸る。これが心地良いのだ。これから力哉と楽しい楽しい時間が始まると思うと、身体が疼いて疼いて仕方ない。
嫌いだと言うが、所詮は言葉でしかない。
ならば、その憎悪を向ける相手に発散出来ればどれほど気が楽になるのか。快感が全身を伝い、もっともっとと身体を促進していく。貪るように身体をぶつけ、止めてと懇願しても続けるであろう一方的な行為。きっと楽しいんだろうなと、素敵なのだろうなと。結城友奈はこれ以上ない感情の昂りを味わっていた。
「………いいの?」
「はい!!」
「……何でもしてくれる?」
「はい!!何でもします!!」
「……やめてと言ってもやめないけど?」
「はい!!」
その表情は悠々と。幸せをさらけ出した結城友奈には、最早肯定するという選択肢しか無かった。
「……じゃあ、ちょっとこっちに来てくれる?」
疑う事もせず、結城友奈は従う。
夏凜を抱き締めているから、身動きが取れないのはわかっていた。この際、
「じゃあ、早速使わせてもらうかな」
待ってましたと言わんばかりに、結城友奈は愉悦する。
「俺は、
くるくるくる───、と懇願したものは来ず。むしろ先の表情よりも苦痛に満ちた表情が結城友奈に向けられている。
あの虫を見るような表情は何処へやら。あるのは辛そうに、顔を顰める力哉がそこにいた。
「俺は結城友奈みたいに暴力振るわれてへらへら楽しそうに笑う女が大嫌いだ。一番嫌いだ。顔を見たくないぐらい嫌いだ」
何を言っているのか分からない。結城友奈は自分の名を引き合いに出され、まるで自分が嫌いだと言われているように受け止めてしまう。
否、結城友奈が嫌いだと。力哉はそう結城友奈に言ったのだ。
「……え?え??なんで?なんでなんでなんで?なんでなんでなんでなんでですか!?」
理解出来ない。分からない。
あれだけ期待させといてこれとは。結城友奈の心に赤い何かが込み上げてくる。
「嘘ついたよ。俺は女の子は大好きだ。嫌いになるはずなんてない。家族も、学校の子達も、優花さんも夏凜も。俺は皆大好きだ。」
その言葉の中に、結城友奈の名がないことに気付いた。
「特に俺は、友奈ちゃんや夏凜のような不細工って言われてる子の方が好きだ。なんだったら、俺が女だって認識してるのは彼女たちだけかもしれない。友奈ちゃんに暴力を振る女も、家族をブスだのゴミカスだの罵る女は女だと俺は思っていない」
力哉はそう高々に言った。愛おしそうに夏凜の頭を撫で、夏凜もそれに応え腰に腕を回して抱き着いている。
羨ましいとか、巫山戯るなとか思う前に。結城友奈は疑問を解消する為に思考を回す。
「…うそ?女が嫌いって嘘なんですか?」
「嘘だけどホントだ。俺が女だと認識してる女は好きだけど、女だけど女だと思えない奴は大嫌いだ。当然、友奈ちゃんも後者だよ」
「……なん、で?なんでですか!?私だって不細工です!!そこの女や東郷さんみたいに不細工なんです!!なのになんでっ!?」
さっきまでの愉悦感は完全に無くなった。あるのは焦りと絶望感。大好きだと思っていた異性に、嫌いだと突き放されてしまった。
焦る結城友奈は、それでもそれでもと。何かの間違いだと信じたかった。
「……1つ例を出そう。例えばここに居る夏凜。彼女は凄い努力家だ。友奈ちゃんみたいに暴力を振るわれてて、悔しさや苦しさをバネに努力した。結果、大赦の男性護衛任務に最年少で登り詰めた少女だ。俺は、彼女のそのひたむきなまでの精神に惚れた。俺の護衛を頼んだのも、そんな夏凜の姿を知っていたからだ」
満更でもないような。表情は見えないが、夏凜はピクピクと身体を震えさせている。
「この前呼んだ犬吠埼風だってそう。自分の境遇を乗り越えて、今自分のやるべき事を見つけようとしている。とても素敵だ。そんな女に惚れないわけないだろ」
何時ぞや東郷家にお邪魔した時に出会った犬吠埼風。妹の方はまだ物事を理解出来ていなかったが、犬吠埼風は何処と無く雰囲気が違った。それを感じていたものの、結城友奈はそこまで大事に捉えてはいなかった。
「うちの妹は……、まぁ。色々あったけど、やっぱり可愛いからかな」
───私は。私達は必ず、この世界を守ってみせます。
今は覚えていないであろう彼女の誓い。それを聞いたものだけが胸に刻み、その最後を見送った。帰ってきた時にはボロボロになった彼女だけ。どれ程、どれほど憎んだことか。憎かったことか。どれだけ自分と変われと言いたかった事か。
それを知るのも、最早当人だけである。
「俺は頑張ってる女の子が好きだ。助けてあげたいしなにかしてあげたい。男が女に惚れるなんてそんな単純な事だろうさ」
でも、と。冷たさを感じる身体に突き刺してくるように、その言葉が胸に刺さる。
「……友奈ちゃんは好きにはなれないよ。何を頑張ってる?何を応援したくなる?暴力を振るわれて楽しいんだか嬉しいんだか分からないけどへらへら笑ってそれを受け入れてる。それをどうして、俺の気持ちを揺るがせることが出来ると思う?」
今までに無く、力哉の目は冷たかった。冷えきった身体が、加速するように冷えていく。
「暴力振るわれても笑ってるところに惹かれた?心の中で我慢してる所を応援したくなった?反撃しないところが凄いと思えた?あるわけないだろそんなの。楽しいからやるんだって、そんな頑張ってもないのほほんとした気持ちで、俺が君に好意を抱くわけ無いだろ!!」
最早、名前ですら呼んでくれなくなっていた。結城友奈が望んでいたものとは違う、感情の捌け口。しかし、それは何処と無く結城友奈にとってはふつふつと煮え上がる何かを促進するには十分過ぎた。
「俺は何もしない女なんて嫌いだ!!自分から自分の事を本気で考えて、行動して、違う自分になろうとしないお前がっ、大っ嫌いだ!!」
「ならどうすればいいんですか!?」
結城友奈の口から出たのは、懇願ではなく、心の叫び。楽しいと感じていたものは、最早足枷にしかならなかった。
あれがあったから、あんな事されたから。責任転嫁のようにはなるが、あんな事があったせいで力哉に嫌われたんだと。
しかしそれは同時に、どうすればよかったのかと選択肢を間違えた結城友奈にとって、過ちの認識をしたかった。どうすればいいのか分からなかったから、自分自身が諦めてそうなってしまった。
不意に、ボロボロと涙が溢れてくる。
「男である先輩にはわかんないですよ!!小さい時からやめてって言ってもっ、ヤダって言っても暴力を振るわれてる私の気持ちをっ!!そうやって痛くて辛い気持ちを抱えてる女の子の気持ちをっ!!力哉先輩に分かるはずないじゃないですか!!」
言ってしまったと、後悔はない。あるのはただ、力哉を困らせてしまって申し訳ないと懇願する謝罪のみ。
しかし、もう結城友奈は止まることは出来ない。
「お母さんもっ、私だってそう!!私の為にいっぱい動いてくれてたのにっ、何にも解決しなかった!!寧ろ悪化しちゃったっ。……だったら、私が我慢すればっ、私が平気だよって我慢すればっ、お母さんも悩まなくて済むと思ったのに!!」
「それが却って優花さんの足枷にしかならないって理解出来なかったのか馬鹿!!家での発作は俺のせいだ。でもそれを抑えてくれたのは誰でもない優花さんだ!!あんな姿になって、親として何も出来ない自分をっ、優花さんは辛そうに話してくれた!!涙して話してくれたんだ!!お前がそうやって自分だけが我慢しようとした結果っ、こんな結末になっているってなぜ分からない!!」
「分かってますっ!!そんなのわかってますよ!!………でももう遅いんです。私が、私がもう我慢するしか……もう」
力無く結城友奈は座り込む。終わった、終わってしまったと。どうしようもない重たい気分が心を押し付ける。もう何も無い。赤裸々に語ってしまった。内情も、自分の姿も。全て力哉に言ってしまった。
結城友奈は、もう諦める事しか出来なかった。
「………なら、どうして助けてって言ってくれないのよ!!」
力哉の胸から顔を離した夏凜は、結城友奈にそうぶつける。
呆気に取られるのも仕方がない。あれ程怒りに染まっていた夏凜の表情が、今では苦痛に満ち、涙をボロボロとこぼすしかない脆い女の子でしかなかったからだ。
「で、出来るわけないじゃん!!誰が虐められてる人に近付くの!?自分が標的になるかもしれないのを分かって態々止めに来る人が居るとでも思ってるの!?」
卑屈なまでに顔を歪める。私の叫びを聞けと、私の思いを受け止めろと。赤裸々に語る結城友奈の声には、悲痛と苦痛が混ざりあったような荒々しさが込められている。
「努力した人が凄い!?そんなの分かってるよ!!私だってそうなりたかったのに!!私だってこんな事せずにもっと違うことしたかったのに!!なんでっ、なんでなんでなんでなんでっ!!なんで!!なんで!!なんで分かってくれないの!!??」
「今は違う!!アンタの前には誰が居るのよ!!」
「誰っ!!………って」
澱んだ瞳が目の前の、夏凜と力哉を視界に捉える。今の問いに、夏凜がそう言う誰という表現をした相手が誰なのか。結城友奈は理解する。
「努力するしないは人の勝手よ!!努力する人は結果的にそうなるだけで私は努力したいからした訳じゃない!!アイツらをっ、私を馬鹿にしたあの女を見返す為にここまで来たの!!」
誇り高く、自身の胸を叩く。どんな困難も、どんな苦痛も。全ては夏凜だけが知る今までの道。後悔などなく、唯ひたむきに前に進んだ結果が今の夏凜の姿である。
その背中にあるのは暖かい温もり。唯一自身に与えてくれた目標であり、今までを乗り越えることが出来た夏凜の癒し。どれだけ救われたか。言葉に行動にその全てに。
だから何もしない結城友奈はとても憎い。自分の口でやったと言える奴は、絶対にやり遂げる事なんて出来ない半端者しかいない。満足に自分で線を引き、自分の高みを勝手に決めた偽善者。
じゃあ今まで自分がしてきた事が同じなのかと、結城友奈の言葉と夏凜の歩んだ道を同じにされるのは、この上なく侮辱以外の何者でもない。
「今力哉さんの隣にいさせてもらってるのはただの結果よ!!私があの時からっ、あの瞬間から今に当たるまで進み続けた事で出来た私という姿よ!!あんたみたいな口だけの女とっ、一緒にしてんじゃねぇえ!!」
叫び。夏凜の胸に埋めいていた感情。
夏凜だからそう口に出来る特権。それを出し惜しみなく結城友奈にぶつけてやった。
ここまで来たらとことんぶつけてやると夏凜は更にさらけ出す。
「変わりたいなら変われ!!今の自分が嫌なら目を背けるな!!お前の前にはっ、それを手助けしてくれる人が居るんだよ!!」
「頼れよ!!今まで我慢してたんだったらその我慢を何処かに吐き出せ!!それが出来ないなら自分で頑張ったって言うんじゃねぇ!!諦めた奴がそんな言葉使うなんてっ、私が許さない!!」
しんと静まり返る。浜辺であるこの場所で、波の音も砂を巻き込む風の音も海カモメの声も聞こえない。
しかしそれとは別に、激しい二つの温度がぶつかり合う。夏凜の激しい熱量と、結城友奈の沈みきった氷冷。反発し合うその温度は、どちらも覆い尽くさんばかりにぶつかり合う。
夏凜は息を切らしながらも、その強い瞳を結城友奈に向けている。これで結城友奈に響かないのだったら、結城友奈という人間はそこまでの存在だったという事だ。
夏凜は結城友奈が勇者適性を歴代に並ぶ値を示していると伝えられている。勇者は御役目でこの世界を守るために戦う。何のために戦うのか、それを大前提に勇者達は変身する。
夏凜は
皆誰かの為に決意を固めている。だが目の前の女はどうだ?今の結城友奈にはその決意をする事は出来ない。いや、決意するべきものがないといってもいい。いわばお菓子の空っぽになった箱からお菓子を取り出そうとする様なもの。やっても無駄という事である。
今の夏凜の言葉が、どう結城友奈に伝わったのか。それは、結城友奈にしかきっと分からないだろう。
「………でよ」
消えそうな声が聞こえる。
「……んでよ」
次第に心がこもり始める。
「なんでよ!!」
涙を流しすぎたのか、目尻が赤く腫れている。しかしそれでも構うことなく結城友奈の瞳からは涙がこぼれ落ちている。
「今更過ぎるよ!!なんでもっとっ、何でもっと早く来てくれなかったの!!ずっとっ、ずっと………」
待ってたのに───。
その言葉は、夏凜の胸にそっと溶け込んでいく。
しっかりと抱き締められた友奈の体は、夏凜の熱で段々と温かくなっていく。
さっきはゴメンだとか、許すだとか。お互いに謝罪と許しを貰いながら、友奈と夏凜は夕日に照らされながら抱きしめ合う。
結城友奈は、ここできっと変わることが出来たのだった。
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結城友奈の件も後を引き。秋の肌寒さを感じ始めるこの頃。
力哉は自室で電話を受けていた。
「───はい。分かりました。では、ここを起点に。……はい、それでは」
プツンと一方的に通話を切られる。その態度にか、それとも電話の内容にか苛立ちを抱いた力哉はベッドの上に端末を叩きつける。
ぼふんとクッション性の高いベッドで弾んだ事で数回跳ねると壁に激突した。
「───お兄様!?どうかなさいましたか!?」
衝撃音を聞いてか、美森が力哉の部屋を覗き込んだ。
なんでもないよと、ここで言えればどれ程良かったことか。喉元まで上がっていた言葉は押し戻され、違う別の言葉が押しあがってくる。
「───母さんと、リビングに居てくれないか?大事な話がある」
意味傾げに了承した美森は、車椅子を動かしてリビングに向かっていく。母を呼ぶ声が遠ざかって行くのを耳で聴きながら、なし崩れるようにベッドに倒れ込む。
「………やっぱり、代わってあげたいなぁ」
力哉が口にするには珍しい弱音。表情や姿も何処と無く弱弱しく感じる。
「……腹をくくれ力哉。今回も、俺のやることは一つだけだ」
壁にぶつけた端末を拾い、集まっているであろうリビングに向かう。
その時、力哉は気付かなかった。己の端末に入った通知を。
───犬吠埼風 たった今
───力哉。私、自分のしたい事が見つかった。
───部活。作るわ。
庭の土から、季節外れの新しい芽が、芽生え始めた。
新しい何かが、始まろうとしている。
美森とイチャイチャさせてぇ〜。ママンたちと行けないイチャイチャさせてぇ〜。風ちゃんをもっと拗らせてメンヘラにしてぇ〜。