この世界はあべこべである。   作:黒姫凛

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時間が出来たのでぶっこ抜く。


イチハツを構えて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

讃州市からゴールドタワーまで、電車で凡そ1時間弱。車だと1時間以内には着く。その間、車内では今回の件についての説明が行われていた。

 

 

「……まず初めに、自己紹介と参りましょう。本名を公言することは出来ませんので、乙とお呼びください」

 

 

車内は俗に言うリムジン使用。全席中央を向くような構造で、中央には真っ白な縦長の机が置かれている。

運転席に近い席、そこに大赦の人間、曰く乙と名乗る人物が座り、何席か開けて勇者部メンバーが座る。力哉の両隣は銀と夏凜が座り、銀は何やらイライラが止まらない様子。しかめっ面で必死に自身を押さえ込んでいる。

 

 

「……自己紹介って言った割に、分かること無かったわね」

 

「否定はしません。私も言葉をもう少し選ぶべきだと思いました」

 

「自分で完結しちゃった」

 

 

何故かボロボロの力哉を夏凜が手当し、それを嫉妬心剥き出しで睨む美森。それを何食わぬ顔で見ている友奈と、状況が上手く理解出来ていない樹。風は乙をじっと見つめている。

 

 

「……今回の件、力哉様も含め状況が飲み込めていないかと存じます。故にまずはお聞きください」

 

 

大まかに言えばこうだ。

 

・犬吠埼風は大赦が派遣した人間であり、勇者適性のある部員を集めた。

・東郷力哉も大赦の人間であるが、飽くまでも裏方。三ノ輪銀と三好夏凜はその護衛。

・東郷力哉が襲われたのは壁の外からの干渉による結果。

・勇者部員は御役目として勇者となって壁の外からやってくる敵を倒して欲しい。

 

 

風はいつ御役目が起こるか分からなかったが心積りはしていた。故にまだ状況を理解出来ている。しかし、友奈、美森、樹の3人はそんな事とは無縁の生活だった為理解出来ていない。

 

 

「……俺からいいですか?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「あの怪物が壁の外からの干渉っていうのは分かったんですけど、それが実際に反映されていたのにどうして結界が発動しなかったのでしょうか?」

 

「それは分かりません」

 

「え……?」

 

 

あっけらかんと、自然にそう返答する乙。力哉も思わず首を傾げた。

 

 

「……お兄様、結界というのは?」

 

「結界とは、神樹様の力による別空間の事。干渉が有る場合、神樹様が察知して結界を貼るのです」

 

「……あたし等が見た敵モドキ、先代の時に見た敵には居なかったタイプだけど」

 

「あの怪物。我々はアレをバーテックスと呼んでいますが、今回遭遇されたバーテックスの小型。壁外調査の結果、それらと類似するものが世界を覆い尽くす程の数を確認しました。しかし結界内においての発見事例は先日異変を察知した三ノ輪銀並びに三好夏凜が初。我々にも未だに分からないことが多いのです」

 

 

そう言われるとこれ以上聞くのは無理だ。力哉は成程と頷くしかない。

大赦の言うバーテックス。2年前先代勇者達が戦っていたであろう敵の名前を前に、力哉はモヤモヤした気持ちを心に抱いた。

 

 

「今のところ分かっていることを説明します。まず、力哉様が遭遇されたバーテックスは、人間の身体を媒体に活動しているようです」

 

「媒体?」

 

「はい。この世界、壁の内側は神樹様が結界を張っているため外からの干渉を受ける場合、必ず樹海と言う神樹様が作り出す結界、言うなればこの壁内を覆う結界とは違う場所に干渉が起こります。勇者様方が戦われる際、バーテックスを樹海の中に誘い込ませ、樹海内で戦うのが2年前までの常識でした」

 

 

しかし、と言葉を繋ぐ。

 

 

「三ノ輪銀並びに三好夏凜が遭遇したバーテックス。あれは神樹様が樹海化をする暇もなく、この世界に干渉してきた。緊急領域で凌いだものの、一歩間違えれば干渉の力が実際に被害を出すところだった。そして今回の件」

 

「……神樹様が結界を作り出すことさえ、出来なかったと」

 

「そういうことになります」

 

 

重々しい空気が流れ出す。夏凜がギュッと力哉の右手を握る。護るべき相手を未然に守れなかったこと、事実を初めに伝え忠告しておくべきたったと。夏凜の瞳にはそう言った後悔の色が見える。銀も、先程からイライラしているのは、自分が無力だったからだろう。出来ることを慢心により不可能にした。大切な人を護れず何が護衛か。後悔よりも悔しさの方が余っ程大きい。

 

 

「……媒体と言いましたが、サンプルの解剖の結果、どうやら人間に寄生しているようで。顔を覆い鼻や口の中に触手を伸ばし中枢神経を弄って支配していると。脳組織は寄生された瞬間から死滅し、バーテックスが完全にその身体を支配する仕組みであると分かりました」

 

 

寄生、されたら死ぬ。その場にいる全員がその言葉を理解し身を震わせた。

 

 

「寄生される人間は今のところどういう関係性なのか分かりませんが、ひとつ言えることがあります。行方不明者のリストを参照に指紋鑑定をした結果、全員が女性で美人であると分かりました」

 

 

詰まり美しい女性が襲われると。その言葉に何処か力の抜けた息が聞こえる。

 

 

「……じゃあ、私達は大丈夫だよね?不細工だから」

 

「……あまりはっきり言われると辛いわ、友奈ちゃん」

 

「だ、大丈夫よ樹。怖くない怖くない」

 

「……うん。不細工だから、怖いの来ない……怖い」

 

「……2人ともそんなに抱き締めなくてもいいよ」

 

「……ごめんなさいもう少しこのまま」

 

「……ふん」

 

「っ、きぃいいい!!お兄様に抱き着いて羨ましいっ!!」

 

 

何やら美森がカンカンだが、又後でと力哉の言葉に大人しくなった。普段の茶番とは言え、犬かとツッコミを入れたくなった風はグッと口と喉を抑えた。

重々しかった空気が若干和らいだ。

 

 

「……ですが、安心出来ません。力哉様が襲われた理由も分からぬ現状、いつ何処の誰が寄生されるか分かりません。よって、勇者部の方々には勇者となっていただき、その異分子並びに迫り来るバーテックスの脅威を排除して頂きたい」

 

 

これはお願いではなく御役目であると、乙は頭を下げてそう言った。

風、美森、友奈、樹はボロボロになった力哉を見る。それぞれ怒りが込み上げ、特に美森は立ち上がる勢いで高らかに口を開いた。

 

 

「ばーてっくすなる異分子。お兄様のご尊顔に傷を付けた罪は海より深い。為れば、この私が粛清しなければならない。風先輩私は勇者として戦います。お兄様への報復を持って敵討ちに参ります!!」

 

「……私もやります。力哉先輩に傷付けた代償、しっかり払わせなきゃ」

 

「……東郷、友奈」

 

 

美森に続き、友奈も声を上げる。力哉に依存している2人だからこそ、耐え難い怒りが込み上げ、復讐を望んでいるのだと理解出来る。

そんな2人を、風は訝しげに見つめる。

 

 

「……2人とも、怒らないの?私が巻き込んだせいで危険な目に合うかもしれないのに」

 

 

確かに、部活を作りそれに参加させたのは誰でもない、部長である風自身だ。風が集めなければ、力哉も、誰も傷つくこと無く何気無い日常を送れたのは事実。後ろ袖引く思いで風はそう口にした。

 

 

「……確かに、風先輩がお兄様を部活に入部させた事で事態は起こったのかもしれません。でもそれは結果論です。それについては私からは何もありません。ただ、ひとつ言えるとするならば。報復出来る力が自分にはあった、それだけで私は十分納得出来ます」

 

「東郷さんの言う通りです、風先輩。それに言ってたじゃないですか。誰かの為に何かしたいって。勇者になる事も誰かの為になるって事ですよね?なら、勇者部として、私達がやらない訳ないじゃないですか」

 

 

元々大赦から勇者適性の高い者を集めて友好関係を築けと言われていた。部活を作ったのもその延長線。誰かの為に何かがしたい、勇者適性の高い者を集めなければならない。2つの意見が混じった時、初めて風の中でその考えが浮かんだ。誰も悪くないと、むしろありがとうと。感謝される事になった風は的外れだったのか呆気ない表情を見せる。

 

 

「……その、お父さ──力哉さんがこれからも襲われるって事、もしかしたら有り得るんですか?」

 

「可能性はなきにしもあらず。ですが、世界崩壊となれば力哉様も襲われる事は確実です」

 

「……私、……やるよ、お姉ちゃん。何も無い私だけど、お父さ──力哉さんを守れる力が欲しい。だから、私もやる」

 

「……樹、アンタまで……」

 

 

グッと拳を固め、姉である風に強い意志を目に宿した樹が決意した。樹も元々はゆっくり入部させようと思っていたし、勇者適性も周辺地域では高い方である。勇者となって力を振るうには充分過ぎる。

 

 

「……ま、あたし達は元々そのつもりでここに来てたんで、特に言うことは無いですよ」

 

「勇者としては私達が先輩なんだから、ビシビシ鍛えて上げるわ」

 

 

銀と夏凜は元より。大赦から派遣された時点で、讃州地域のメンバーが勇者となる事は目に見えていた。腕を組んで鋭い眼光を窓の外に向ける銀と拳を突き出してやる気満々な夏凜。間に挟まれた力哉は少し表情が暗い。

 

 

「……はぁ。なら、私が辞めますなんて言えないわね。……べ、別に力哉。アンタを守るだとかなんとか全然気にしてないんだからね!!」

 

「風先輩、そのキャラは古いです」

 

「ツンデレって奴ですか?」

 

「なっ、ち、違わい!!……でも、勇者部として、私達が出来ることならやってやるわ。それが、私が作った部活のモットー。なせば大抵なんとかなるの心情の元、バーテックスでもなんでも倒してみせるとも!!」

 

 

グッと拳を握る風。いつにも増して気合い、やる気、そして威勢がいい。おおーっとパチパチパチ手を叩いて讃える友奈。当然ですと言わんばかりに縦に首を振る美森。そんな事言っていいのかとアワアワ震える樹。

そんな姿を見て、力哉の表情は少しだけ和らいだ。

 

 

「……詳しい話はゴールドタワーに着き次第お話します。それまで、お寛ぎ下さい」

 

「じゃあもう普通に話していいってことっすか、せんせー?」

 

 

銀の問よりも早く、乙は大赦の仮面をとった。肩の力を抜いた乙──安芸先生は、懐にしまっていた眼鏡を取り出してかける。

 

 

「……全く、三ノ輪さん。一応ここは大赦の監視内ですよ。言葉を謹んで下さいね」

 

「せんせーが仮面とってる時点であたし達の気持ち的な何かも取れましたんで」

 

「……はぁ、1年余り顔を合わせなかっただけでひねくれ者になってしまった。先生は悲しいですよ、三ノ輪さん」

 

「そんな事微塵も思ってない癖に」

 

「赤嶺くん、三ノ輪さんの教育方針についてお話があります」

 

「俺は何もしてませんって!」

 

 

仮面をとった乙改めて、安芸先生は先程の機械的な受け答えではなく、人間じみた雰囲気を見せ始めた。それを分かってか、銀もおちょくるような発言をしている。

 

突然の流れに、風達は唖然となった。

 

 

「…え、どういう事?」

 

「……乙さんのさっきの姿は一体」

 

 

首を傾げる勇者部達に向かって銀が口を開いた。

 

 

「……まあなんて言うの?先生は大赦の関係者だけどちょっと違う人でね。小学生の頃からの関係なのさ」

 

「言ってしまえばパシリ、みたいな扱いを受けているのだけど。三好さん、この前の解体依頼、急過ぎて皆涙目でしたよ?春信君も戸惑っていました」

 

「うぇっ、なんかすいませんでした」

 

「なんかじゃないんですよ。具体的に分かっているんですから全く。赤嶺くん、再度言いますが教育方針についてお話があります」

 

「だから俺は何もしてませんって!」

 

 

歳上だかこそですよと、プンスカ怒っている安芸先生。力哉は否定する事しか出来ないでいた。そんな姿が、どういう訳か面白いようで、勇者部メンバーは声を上げて笑いあうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いいんすか?認めちゃって」

 

「……彼女がああ言ったのは俺のせいだ。結果として、そうなったのなら、今更後悔も否定も出来ない」

 

「……また、同じになるんですかね」

 

「……辛い思いをさせる。償いは何時でもさせてくれ」

 

「……将来あたしの事貰ってくれたら許しますよ」

 

 

人目に分からぬよう、そっと手を絡め合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「───総員、整列!!」

 

 

ビシッと乱れ無く縦四列横五列に並んだ、防具服のようなゴツゴツした格好をした少女達がゴールドタワー正門前に整列する。対象の車が目視出来た為、整列し直したのだ。

 

 

「───これより、()()()()は護衛任務に移行する。対象は専用車両に乗った青年乙と仮名。死にものぐるいで護り抜け!対象は世界の運命と言っても過言では無い存在だ!!傷一つつけたのなら、打首は免れんと心しておけ!!」

 

 

『了解!!』

 

 

「───第二、第三部隊は車の誘導並びに周囲の警戒。第四、第五部隊で証拠抹消並びに半径数キロ内の警戒任務。誘導が終わり次第、第二第三部隊もその任に向かえ!!警戒任務は只今の時刻をもって、三時間後までとす。全員、解散!!」

 

 

『了解!!』

 

 

一斉に少女達が飛び出していく。残されたのは五人のみ。全列三人と、指揮を執っていた一人、そして彼女の横に経つ巫女服を纏った幼い少女だ。

 

 

「……いよいよですわね芽吹さん」

 

「……ええ。やっと、責務を果たす事が出来るわ」

 

「ん」

 

「……なんだか嫌な予感がして怖いな〜。私、何か起こったら隠れるからね」

 

「……力哉お兄様」

 

 

 

待つこと数十分。目標がゴールドタワーの敷地内に入るまで、五人はそれまで待ち続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




複数作品書いてると設定がこんがらがるよね。主人公の名前間違えたり、性格こんがらがったり。まあ自業自得なんだけれども

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