この世界はあべこべである。   作:黒姫凛

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久しぶりです。エタってたというか時間が無かったと言うか……。
ともかく遅くなりました。

新作書いてて何やねんお前生きとるやないかって思われてる方申し訳ない。


これからも竿役共々よろしくお願いします。








ラッパ水仙鳴り止まぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外界から受ける精神的肉体的ストレスによって、現代社会における精神疾患や機能不全を起こす現代人は年々増加している。

 

特に近年、醜いからと差別する風潮が何処からか流行り、そこから発展して社内虐めや暴力的行動に出る者が数多く存在する。

これを擁護出来るかと言われれば、社会半数以上がこれは仕方の無い措置と認めるだろう。彼女らにとって、醜い人間は目に入れたくない存在だからだ。

醜い彼女らに()が適用されないケースが多いのは四国全土における周知の事実で、残虐的非情的な迫害が起こっていないのは()()()()()()()()()()()()()為特に追求することは無いが、お目汚しを受けるのはいつでも大多数の人間。民主主義という訳では無いが、大多数の人間が不愉快に思っているのならそれは真な決定案。大多数の人間の意見を取り上げるのは世間的には常識と言ってもいい。

 

 

故にその社会性事情からストレスを感じ、肉体的精神的に異常を患う人は多い。

 

この少女、乃木園子も例外では無い。

 

彼女は神樹館小等部3年生の時、周囲からのいじめによって精神疾患、病名をあげるならば()()()()()()。所謂、ストレスによって声を発せなくなったのだ。

日々リハビリを続けてきたが一向に回復には向かわず、そのまま月日が流れるままここまで来た。

 

小等部時代同じ学年であった銀や1個上の力哉ですら、園子の声を聞いたことは無い。銀は5年生、力哉は園子が4年生の時に出会った為、丁度リハビリ期間に入っていた時だった事もあり、この場にいる2()()を除いて声を聞いた事が無いのだ。

 

 

そんな重い精神疾患を患った彼女が、どうしてここまでボロボロになっているのか、力哉は理解出来なかった。

一年近く経った今でも回復しない園子の身体。明らかにおかしいと思うのは妥当だろう。怪我の治る経過速度が異常に遅い事は理解できるが、そこまでの難病ならもっと異常な状態に陥っている場合が多い。

 

詰まり、彼女の入院は普通では無いということだ。この隔離施設といい、容態といい可笑しいことが多過ぎる。

気にするなと言われても無理な話である。故に力哉は食い気味に乃木紅葉に問い質すのだった。

 

 

「……私も聞かされた立場なので詳しくは知らないが、彼女は勇者の能力を最大限引き出した結果、自身の身体の機能を神樹様に捧げたのだと言う。治る見込みは、今のところ………」

 

 

絶望的。

そんな言葉が力哉の頭を過った。彼女と別れたのは去年の10月。それまで勇者達3()()と毎日辛いながらも楽しそうに過ごしていたあの日々が思い返される。

治る見込みがない訳では無い。だがそれがいつかも分からない。故に絶望的。

 

思わず拳に力が篭もる。無力な自分にも腹が立つが、どうしてこんな状況にあるにもかかわらず何も知らせなかった大赦に怒りが込み上げる。

 

 

「……じゃあ、()()()もこのままじゃ……」

 

 

それが誰を指すのか、言うまでもなく。力哉が反射的に口から零してしまったのは仕方の無い事。

それを考慮した上で力哉の母親は風達に勇者になって欲しいと頼んだのかは分からない。力哉は知らないが、美森が根掘り葉掘り聞こうとも話さない事が幾つかあったため、もしかしたら。なんて事もあるかもしれない。

秘密にするのは組織運営、社会的立場にある人間からすればして当然の行為。それを下の者達は疑念し、嫌悪感を抱いていくので、今のところ勇者部と母親の信頼関係は絶望的と言ってもいいだろう。

 

力哉が仲介役となって仲を持つ事は出来るが、それでは意味が無い。本当の意味で信頼出来るというのなら、それこそ全ての疑問を取り除かなければ道は無い。

現状、それは間違いなく無理だろう。

 

 

「一先ずここを出よう。話はそこからだ」

 

 

園子の周りには心電図モニターや点滴。幾つもの医療用電子機器が備え付けられている。全て持って行くには時間がかかる。しかし、これらは園子にとって重要な命綱。素人の力哉達にはどれも欠かせないものと見える。

 

いきなり障害物に当たってしまったと思った矢先、園子が身体中に付いたコードをブチブチと無理矢理外し、力哉の方に近づくやいなギュッと身体を密着させてくる。

いや普通に歩けるのかよと驚く全員だが、平気そうに過ごす園子を見て一先ずそのまま連れて行くことにする。抱き上げる力哉の腕の中で、園子はわちゃわちゃ何かを伝えようとしているのだが、それが何を指しているのか見当がつかない。何か見たことあるような感じなのだが。

 

詳しくは分からない力哉達は、素直に園子に分からないと伝える。

すると園子はビシッとそばに備え付けられていた収納家具の引き出しを指さしていた。ベッドからは程々遠く、身動きの取れない園子には手が届かない位置にある。

一番近くにいた芽吹が指された引き出しを開ける。

 

 

「これは………」

 

 

そこにあったのは、一台の端末だった。

普通ならこれは携帯用端末だと納得するが、この場にいる誰もが固唾をのむ。本来ならば()()()()()()()()()()ものだからだ。

 

 

「な、んで端末が?受け取りはまだの筈なのに……」

 

「園子、これ誰がここに置いたんだ」

 

 

紅葉が信じられないといった表情で天を仰いでいる。銀は乗り出して園子に問い質す。しかし声が出せない園子には答えるすべが無い。と言うよりも、園子の表情を見るに()()()()()()()()ように感じる。

 

園子は解放されたとはいえ、それは勇者として御役目が終わったのかと言われればそれは否と言える。しかし、端末は大赦に保管されていると紅葉が聞き、それを()()()()()。園子の端末と()()()()()()()をだ。銀の端末は未だ使用中。手から離れたのは、夏凜の勇者システムの基盤をコピーするべくデータを複製する為に1度だけ離したっきり。

だから紅葉は銀の端末以外の端末を確認したのだ。その際、任はまだ解かれていないが手渡す際は赤嶺が渡すと言う話になっていたと。

 

紅葉には衝撃が大きい。紅葉の頭の中に浮かぶ存在はただ一つ。今最も驚異である第三者。そして園子がここに居ることを知っているのはほんのひと握りにも満たない大赦の人間の誰かが手引きしたということ。紛うことなき裏切り行為である。

誰かは分からないが、喋ることの出来ない園子に近付く目的はただ一つ。唯一無二の勇者としての力。身体を代償に勇者としての力を高めた園子は、憶測だけでも勇者内最強と呼べる存在。園子が裏切る事等考えつかないが、それを逆手に取られるのは痛い。どんな状況になっているかは不明だが、端末を餌に取り入った可能性もある。

 

こうなってしまえば、第三者からの介入がこれから起こる予兆とも言えよう。そうなれば事態は急変する。

この場には連絡用端末は銀と芽吹の勇者システム用端末にある連絡アプリしかない。その端末では大赦に直接連絡をする事は出来無いため、この場で紅葉が事態を知らせる手はどちらかの端末を通して、近くに居るであろう赤嶺に経由させて話すしかないのだが。

 

 

「……圏外」

 

「こっちもダメ。なんでか連絡が取れなくなってる」

 

 

既に遅かったとしか言い様がない。何者かが既に手を打っていた。そしてこれは、最悪の事態を引き起こす全長とも言える。

 

 

「……連絡は後だ。一先ず退室を……っ」

 

 

 

 

瞬間━━━━━、空気がガラリと変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━始まったのですか?」

 

 

 

 

 

仮面を被った巫女装束の誰かが呟いた。声からして少女。幼さは残るが何処か芯のある声。

ピクリと後ろに立っていた女性の肩が震える。

 

 

 

「……まだ早いか?」

 

「貴方がいいのでしたらそれでも構いませんよ。まあ、私も勇者様方にはお目通りしたかったのですが」

 

「……戯言を」

 

「ホントの事ですよ」

 

 

すぅっと立ち上がった少女。次いで彼女の前に同じく巫女装束を着た少女達が現れる。唯一違うところは、彼女達は仮面を被っていない。その素顔はどれも涼しい表情をしており、まるで感情が抜けているような透明な色が見える。

 

 

「……まあいい。これで私も安泰だ。乃木家共々葬れば、私の地位は固くなる」

 

「私に矛先を向けないでくださいね?」

 

「貴様が邪魔をしなければな。これからも、それを貫くというのなら……」

 

「脅しなんて怖いですね。私と貴方はお互いの利益のために動くビジネスパートナーでしょう?力哉さんを欲しているというのはお互い様ですが、仕方ありません。要相談です」

 

「……ではもう行く。精々新時代の幕開けを待つがいい」

 

 

ギシギシと床の軋む音とともに遠ざかる女性。完全に見失った所で少女は息を吐く。

疲労から出たいきなのか、少し怠そうに身体をくねらせる。

 

 

「……面倒な相手ですね、全く。()()()()()()()()とも知らずに」

 

 

軽い足取りで歩みを勧め、陳列する巫女達の前を通る。

後から巫女達も少女の後ろに列を作り歩き始める。

 

 

「一先ず勇者様方にお会いしましょう。()()殿()に向かいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷たく、鋭い殺気。身の毛がよだつ緊迫感。ベッタリと張り付く嫌な風がどこからとも無く吹いてくる。

 

力哉と銀には覚えがあった。ベタつく緊張感が喉を乾かし、不穏な空気が肌を撫でる感覚。

ぐるりと病室を見渡す。一人入れるだけに色々と神聖なものを祀りその結果病院の最上階丸々病室にする他なら無くなったこの場所に、入院患者、所か見舞い人にも似つかない不穏な人影が姿を現す。

 

 

目の鼻がない真っ白な顔。でっぷりと肥大した赤い唇とそこから覗く真っ白な歯。顔以外は恐らく寄生した人間だった誰か。その姿に思わず嫌悪感を抱く。

ケタケタと笑うナニかは、次々と壁をすりぬけるように現れ始めた。その数は十、二十、三十、更に増え増加していく。

 

 

「……ガチか」

 

 

銀の口から零れた驚愕の色。ここで来るとは予想出来ていなかった。否、何となくだがその傾向があるのではと感じたのはつい先程。

どちらにしても対処出来るよう策を講じる時間は無かったが、心の準備だけはと意気込んでいたつもりだった。

 

明らかに多い。その以上な数の質量。身に余る、なんて思えてしまうほどの大軍が目の前に迫っていた。

四方囲まれているという訳では無いが、出口は完全に塞がれているし、この部屋には窓がない為外に出る事も出来ない。バーテックスがどこから現れているかは不明だが、察するにいくらでも補充出来るということを暗喩されているような。

 

 

「……敵対反応確認。これより防人部隊特別措置として隊長権限を使用。敵対勢力の排除を目標、戦闘態勢に移行します」

 

 

既に端末を構えている2人。勇者システムを起動して変身するまで凡そ0.1秒ほど。2人の間合いにはまだ入り切っていないが、銀と芽吹にはかなりのプレッシャーがかかっているだろう。後ろには非戦闘員が2人。戦う術を持ってはいるがこれ以上戦わせることは出来ない者が1人。多勢に無勢。守り切りながら戦うというのは1番難しい。無傷となればさらに難易度は増すし、余計に集中力を持っていかれる。

 

故に、それを紛らわす様に軽口を言い合うのはお互いに思い、お互いに緊張をほぐそうとしているに他ならない。

 

 

「足引っ張るなよ」

 

「……誰に向かって言ってるのかしら。私は防人部隊を率いる(おさ)であり、貴方の地位を狙う略奪者でもあるわ。そんなてんこ盛りな私が足引っ張るなんて無様な姿見せると思ってるなんて、貴方の目もまだまだね」

 

「……はっ、言ってろ。━━━━━行くぞ」

 

「━━━━━了解」

 

 

2人は同時に端末の画面を押した。そこから約0.1秒誤差有りの変身を遂げた2人。

 

銀は双斧の一振を、芽吹は双剣銃を構えた。

リーチは銀の方が長い。遠距離攻撃を主としない2人だが、中距離にも定評のある芽吹が後ろに下がるのは至極真っ当。完全近距離型の銀は、その場で腰を少し落とし双斧を横に構えた。普通ならば両手で持つことすら難易度のある一振を片手で持つ銀の腕力と握力、体幹の良さには驚かされるが、銀が床を蹴ったことで更に驚愕する事になる。

 

ゼロ距離加速からの瞬間移動と言ってもいい速さ。所謂いつの間にか後ろにいたと言うやつだ。

銀が恐らく通ったであろう進路にいた敵は銀が双斧に付いた血を払い落とすと同時に首から上をポロリと床に落とすことになった。

 

 

「増えようが関係無ぇが、暴れる事は理解しとけよブサメン野郎共……っ」

 

 

そして加速、さらに加速。壁、床、天井を蹴り飛び、四方八方囲まれた空間を自在に動き回る銀の身体能力には思わず紅葉も固唾をのむ。

バーテックスとの戦闘は主に対大型戦として考慮されていた。樹海という広大なエリアの中で戦うとなれば、周囲の環境を生かすよりもシステム発動時の身体強化バフを上げた方が効率がいい。下手に遮蔽物や隠れる場所を探すよりも、素早い動きと高い攻撃力で短時間で決着をつけさせる方が理想的だ。バーテックスの攻撃で現実世界にも影響が出るからだ。被害を最小限に、尚且つ迅速に敵を倒す。

 

それを小学生の身であった当時の彼女に求めるのは酷な話ではあったが、銀を含む世代の勇者達はそれをしっかりとこなした。こなす事が出来た。

当時大赦では特に気にするような人間はいなかった。戦い方はどうであれ、倒しているのだからいいのではという考えを持つ人間が大半だったからだ。

 

紅葉は無論大半の枠組みに入っていた人間では無い。自身の娘が戦場に駆り出され、毎日が気が気で無かったからだ。

だがそれは娘の事を心配していたからであって、倒せるのは当たり前という考えをもっていなかったからと言うよりも、そんな事出来るのかと疑問に思う事の方が大きかった。

 

それが今目の前で起きている光景を見れば、疑問は一瞬で解決する事になった。だが同時に、これ程までに()()()()をさせてしまった姿に身の毛のよだつナニカを味わった。

 

 

思わず歯を食いしばる。情けないと。どうしてこうも歯痒いのかと。

考えても考えても、思い浮かぶ結論はない。奇しくもあるのは思考に思いふけることしか出来ない情けない大人の姿のみ。

 

仕方ないと、そう豪語出来るならどれほど良かったか。

冷たくあしらえる程感情が冷めきっていたら、どれ程楽だったろうか。

 

たらればはあれど、決してその思いを理解する事は出来ない。紅葉は遠に、心の底から娘を愛しているから。未来ある子供達に罪悪感を抱きながら接してしまっているから。

 

 

ふとそばに居る愛娘が目に映る。痛々しいその姿はこの短時間の中で紅葉の心境を大きく揺るがすものだった。

これ以上、この子に背負わせる必要は無い。背負わせたく無い。

切に願う親の気持ちだ。本当なら大赦など気にせず静かに暮らして欲しかった。それが叶わぬから、せめてもの救いと思いどうするべきか考える。

 

逃げるという選択肢しか見えないが、その後どうするべきか。多分もう治ることの無い身体の事もある。抱き抱える力哉に今後の事を任せても構わないが、当の本人達の思いもある。親として力哉と添い遂げて欲しいが、力哉との関係を深めたい者は多い。

 

 

だが思考を廻らす紅葉を他所に、園子は一人動き出す。

端末を手に、そしてそっと力哉に画面を見せた。

 

 

「……園子?どうした?」

 

「そのっち……?」

 

 

ずいずいと、押してくれと頼んでいるかのようなジェスチャー。画面には大赦のロゴが映し出されており、これが何を意味するか力哉と紅葉には察しがつき始めていた。

 

 

「……園子、駄目だ。それは押せない。押す訳にはいかない」

 

「そうだぞそのっち。それに銀と芽吹が頑張ってくれてる。その体じゃまだ負担が……」

 

 

紅葉と力哉の説得も園子には届かず。しかし、園子の表情には何処か勝算が見えている様な明るい色が見えていた。

 

少し考えた。そもそも何故端末を力哉に押させるのか。自力で押せないわけは無いが、変身目的のはずである行為を、力哉が行う事に意味は無いはずなのだ。

 

疑問は不思議と興味へ。不謹慎と分かっていながらも、園子のこの謎の自信に力哉は次第次第に心を開いていく。

勝算はあると語りかけてくる園子の表情に、力哉は思わず飲み込まれてしまった。

 

 

「……勝てるの?」

 

 

こくりと頷く。

 

 

「また傷付くかも……」

 

 

首を振って否定する。

 

 

「……必ず、無事に帰ってきて欲しい。出来る?」

 

 

口元が緩み、こくりとゆっくり頷いた。

 

罪悪感はある。袖引く思いを抱く。だが、園子のやりたいと願う事に背中を押してやりたい。力哉は強くそう思った。

 

 

「……頑張れ、そのっち!!」

 

 

そして力哉は、覚悟を抱くと共に端末に触れる。

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、視界を覆う紫の蓮の花が舞踊った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






多分次の更新来年だろうなと。


すんません休み無いんです申し訳ないです。



@ggFNVHrGULw6ARq


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