その調子でどんどんゆゆゆを布教していきましょう。
陰ながらわたくしめも布教致します。
あれから百円玉を渋々受け取ってジュースを購入。彼はそのまま別れを告げて職員室に向かってしまった。
私の我儘でずっと足を引き止めてしまった事に謝ろうとしたが、すぐ会えるよと彼は言って離れていった。その言葉に何故か安心感を感じ、彼を引き止められずそのまま立ち尽くすだけだった。
買ったジュースを運び、教室に戻る。足取りはさっきよりも軽い。だが、この後私にかけられるであろう言葉を考えた時、気分が落ち込んでしまう。教室に入ると買ってこいと頼んできた彼女達は、私を見るなり冷たい目をつけながら近づいてくる。再び私の心が冷えていく。さっきまで感じていた彼への想いが薄れていく。彼女達は案の定、私に罵倒を浴びせてくる。
「遅い」「たかがジュースにどれだけ時間がかかってる?」「私達を待たせたつけ払え」「ブスのくせに」「死ねブス」「使えねぇブスが」「ゴミ」「ブス」「見てるとイライラする」「ブス」「ゴミ虫」「ブス」「もっと早く動けよノロマ」「ブス」「ブス」ブスブスブスブス「早く目の前から消えて」ブスブスブスブス「死んじゃえよブス」ブスブスブスブスブスブスブスブス「生きてる価値ねぇんだよ」ブスブスブスブス「死んでくれたらみんな喜ぶよ」ブスブスブスブス「死ねブス」ブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスゴミブスゴミ虫死ねブスゴミがブスブスブスゴミ虫死ねブスゴミブスゴミ虫死ねブスゴミがブス死ねブスゴミがブスブスゴミ虫死ねブスブス「死ねブス」ゴミがブス死ねブスゴミがブス死ねブスゴミがブスゴミ虫「ゴミ虫」死ねブスブスゴミ虫死ねブスゴミがブスゴミ虫死ねブスブスブスゴミ虫「死ねブス」ブスゴミ虫死ねブスゴミブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブス───
嘲笑う声。私の心に突き立てられる言葉のナイフ。1本1本が鋭く尖った鋭利なナイフ。深深と突き立ててくるナイフは、まるで私を切り刻んでくるように痛みを感じさせてくる。
ジュースを渡して、私はゆっくりと自分の席に戻る。罵倒は止まなかったが、それでも私は我慢し続ける。認めたくはない。でも、受け止めたくもない。
彼とのやり取りだけが、今の私の動力源。それだけ考えていれば、どれだけ楽だろう。
再会出来ると彼は言ってくれた。それに絶対的な確信はない。可能性の話だ。だけど、私はまた会えると心の底から思えてくる。
だって、私がこんな気持ちになるのは初めてなんだ。今まで被ってきた不運が今幸運となって振り返してるみたいだ。幸運となって、私に幸せを運んできてくれている。
もう不幸なんじゃない。ブスだと、ゴミだと死ねだとなんだろうと私を言葉で、暴力で傷つけようとも、私はもう不幸じゃないんだ。
だってそうだ。こんな事普通じゃありえない私が不幸だったから幸運がやってきてくれたんだじゃないと私は本当に何のために生きているのか分からない本当に私が生きている価値がない死んでしまった方が寧ろ世間の為になるそうだなんで私はこうやって生きてるいつまで生きてるんだ私はどうして早く死のうとしないなんでまだ生きてる皆が私に死ねというのも私がいつまでも死なないから背中を押してくれてるに違いないだってそうじゃないと皆迷惑してるんだゴミがゴミを吐き出しているから皆迷惑してるんだゴミが歩いてるから皆気分が悪くなってるんだそうだそうに違いないじゃなきゃ私がここまで言われる理由がないそうだそうに決まってるだからこれは不幸じゃなくて幸運なんだここで死んだ方がいいって言うみんなからの優しさなんだそうだそうに違いない彼が友達だと言ってくれて幸せだと感じたけど元から私は幸せだったんだだって皆私や周りの為に言ってくれてたから強い口調になってるのは皆が本当に困っているからに違いないそうだそうに違いないごめんなさいみんな私が生きているせいで私がみんなの前に立っているせいでみんな迷惑してるんだみんな困ってるんだごめんなさいごめんなさいほんとうにごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい謝っても許されないけどごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい許してとは言わないけどみんなに言いたいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい───。
あははっ。あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは───
───そうか、そうだったんだ。
───私は早く、死ねばよかったのか。
「───犬吠埼風。讃州中学2年、現在妹と2人で生活している……か」
転校初日男子生徒という事で揃いも揃って群がってくる女子生徒達を何とか振り切り、屋上に逃げ切った放課後。何故屋上に逃げたのかというのは、屋上にある祠の様子を見る為だ。決して間違って上に逃げてきたというわけではない。大赦から、場所だけでも確認しといてくれと言われていたからであって、無我夢中で逃げたらここにいたとか断じてない。
祠を確認し、制服のポケットにしまっていた大赦からの通達が記された紙を取り出した。
紙を開き、そこに貼り付けられた写真を見る。その写真に写っているのは、朝自販機で対面したあの女子生徒と同じ顔だ。写真の隣にある名前の欄には、犬吠埼風と表記されている。そしてその下の欄には、『勇者』と記されていた。
「……ほんと、神様含めてこの世界ってクズばっかだな。100を救うために1を捨てるか。寧ろ、1だと思って貰えてるだけマシとでも言うのか……?」
思わず紙を握る手に力が篭もり、紙がくしゃりと歪んでしまう。役割を担う彼にとって、その紙は何気に大切な資料なのだが。
「ままならんなぁ。あんな可愛い子が、この世界じゃブスって。うちの義妹も今日は病んでそうだなぁ」
居候の身である彼は、両親から娘を宜しくとお願いされている。勿論それは、事情故に彼も重々承知していて、尚且つここに彼がいる理由となっているが、彼は私生活において妹のメンタルケアをしている。この世界の流れで生み出されてしまった瘍。本来必要とされないはずの妹は、人柱として必要とされている。それが何のために必要なのか彼女は理解していない。彼自身も全て理解している訳では無い。だが、それでも彼にとっては守りたいと、何とかしてあげたいと思える存在だ。
命を懸けてでも何とかしてあげたい存在。この勇者という役割を担っていく犬吠埼風を含め、選ばれてしまった少女達の幸せを作り出す。それが、ここにいる彼の役割。見放された、勇者に祀り立てられる少女達への、これが出来る最大の感謝の表し。恨まれようがなんだろうが、彼は最後まで成し遂げると強く決意する。
「……取り敢えず、もう一度接触してみて何とか……っ?」
金属が軋む音が聞こえる。建付けの悪い屋上のドアの音だ。本来生徒はここに立ち入ってはならない決まりがある。勿論彼もそれは同じだ。いくら大赦の使いとしてここに居るとはいえ、無断は駄目だ。思わず祠の裏に隠れてしまう。
……まずいな。あのまま鍵を閉められたら俺はここから動けなく……あれはっ。
ドアから覗いたのは、自販機の前で出会った彼女。彼が接触しようとしていた、犬吠埼風本人であった。
朝のようなドヨンとした落ち込んだ雰囲気。それでいて、何か急かされているような、焦りを感じる彼女の表情。その表情を見た時、何故か嫌な気配を感じた。
ゆっくりと、焦燥があるにもかかわらずゆっくりとした足取り。ゆっくりと、彼女は端へと歩いていく。
その時彼女の瞳が目に入った。汚れきった彼女の瞳。全てを諦め、全てを委ねようとしている正気の感じない眼。嫌な気配の正体がなんなのか、彼の中ではっきりと理解出来た。
「───おいっ、犬吠埼風っ!!それ以上前に進むなっ!!」
思わず乗り出してそう叫ぶ。聞こえていないのか、彼女は足を止める気配はない。
「聞こえてるのかっ、犬吠埼風っ!!そんな事したって誰も喜ばないんだぞっ!!」
彼女がしようとしている事。それは、この屋上から
再び叫ぶも、彼女は止まることはなかった。これ以上、言葉でどうにか出来る状況では無い。彼は彼女の元に駆け出した。時間が無い。後僅か数メートル先には付ける床が無い。必要以上に鍛えている彼の脚でも、間に合うかどうか分からない距離。
それでも諦め切れない。此処で簡単に諦められたら、彼がするべき役割から反してしまう。何より、彼が自身に課した願いを裏切る事となる。
それだけは絶対にあってはならない。絶対にしてはいけない。強い決意と共に、彼は無我夢中で彼女の元へ走った。
彼女の足が屋上の堀を登りきった。これで、彼女が前に倒れれば全てが終わる。終わってしまう。
今程、彼女の環境を。この世界のゴミさを恨んだ時は無いだろう。彼女が自殺に及ぼうとした理由は分かる。分かってしまう。だからこそ、巫山戯るなと怒りが込み上げてくる。
どれだけ辛い想いをしたのか。どれだけ楽になりたいと思っただろうか。
男である彼にはそんな気持ちは理解出来ないと周りが言うだろう。偽善だと、同情を買っていると馬鹿を見るような目で見てくるだろう。
それでも彼は善意でも同情してでも、助けたいと思った。例え理解出来なくても、理解しようと彼は動いた。それが、彼が
だからそんな願いを抱く彼だからこそ、彼女が諦めている姿を見たくは無いと強く願う。
「───届けぇぇええええ!!!!!」
助けたい一心に、彼は無我夢中で彼女に飛び込んだ。
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頭に強い衝撃を受けて、私は目の前広がる赤く染った空をボーッと見つめる。
来るはずの浮遊感。遠ざかって行くはずの空。一向にそんな感じはせず、頭がヒリヒリと痛いだけ。地面に落ちたとは思えない。痛いのは頭だけだから。
一体何がと、私は顔を横に向けた。
「……っ、なん、で……」
隣には生徒がいた。男子生徒だ。しかもその男子生徒は、朝自販機で出会ったあの男子生徒だった。息を荒くし、息苦しく呼吸している。私の腰に腕を回して抱き抱えているのが分かる。
一体何故と疑問が浮かぶが、すぐに私は理解出来た。
飛び降りるはずだった私を、彼は止めたのだ。身を呈して、私が死ぬのを止めてくれたんだ。
そう結論付けた時、何が私の胸の奥から湧き出てくる感じがした。次第にそれは、涙として溢れてくる。
私は涙を拭くと、彼に裏返った声で話しかける。
「……あの、なんで………」
「お前っ。自分が何しようとしてたのかっ、分かってんのかっ!?」
「……ひっ」
思わずたじろいでしまった。突然の怒鳴り声。そして彼の表情。眉間にシワがより、腹が煮えくり返っているような表情で私を睨んでいた。
なんでと私は思ってしまう。なんで彼は怒っているのだろうか。
「なぁ、答えてくれよっ。答えてくれっ。なんで死のうと思った?なんで自殺しようと考えた?なんで自分で解決しようとしたっ?」
「……そ、それは」
「君の現状は分かってる。だからこそ俺は君に朝近付いた。心の拠り所を少しでも増やそうと、軽い気持ちで俺は君に近付いたっ。でも、それでもこうなってしまったっ。こんな状況を引き起こしてしまったっ!!」
声を張り上げる彼の姿に、私はまた涙を流してしまった。さっきの気持ちは無く、あるのは申し訳ないと言う罪悪感の涙。
自然と流すこの涙の理由が、私には分からない。
「まさか、ここまで君の心を蝕んでるとは思わなかった。ごめん、本当にごめんなさい。俺が、君の気持ちをもっと理解しようとしなかったから。あの時、君の気持ちをもっと聞いていれば……こんな事には……」
「どうして……、そんな……っ」
悲痛に満ちた彼の表情。肩を掴む手に力が入っているが、痛くはない。痛いのはもっと別の場所。胸の奥が物凄く痛かった。
涙を流す彼の事を見つめていると、痛みは更に強くなってくる。
「後悔してももう遅いのは分かってる。そんな気持ちにさせてしまった俺の責任だ。でも、それでも謝らせてくれっ。君の、犬吠埼さんの友達として、君の事をかんがえてなくて。助けてあげられなくて、本当にごめんなさい……」
彼は謝罪の言葉を口にする。ギュッと私を抱き締めて、何度も何度も私に謝ってくる。
理解が追い付かない。何故私は謝られているのか。何故彼はここまで苦しそうな表情をしているのか。何故彼は、
何よりも自分が抱く感情が分からない。嬉しさや悲しみがごちゃごちゃになっている。初めての気持ちだ。心が辛い。彼の事を思うと心が痛くて仕方がない。
「……謝らないで。貴方に謝られると、私の胸の奥が痛いの……っ」
「それでも言わせて欲しい。自己満足で終わらせたくはない。本当にごめんなさい」
「……やめてっ、本当にやめてっ。自分がなんでこんなに苦しんでるのか分からないのっ。貴方が泣いている理由も分からないし、こんなの……初めてでっ」
頭がこんがらがる。色々な感情が入り乱れて、私の気持ちが定まらない。苦しいから、自分の気持ちを落ち着けられない。
「……いいんだ。今はそれでいい。いつかきっと俺の理由も、君が苦しい理由も分かる。だけど今はその気持ちを大事にして欲しい。無下に扱わないで欲しい」
この想いは大切だと彼は言った。いつか彼の涙の意味も分かると言った。
だけど、彼が何故私を止めたのか分からない。
彼からしたら私は他人。男と女。決定的に違うはずなのに、何故彼は私を止めてくれた?何故私の気持ちを理解しようとした?
「……どうして私の気持ちを解りたいと思うの?私と貴方は何処までも他人……。私は貴方の気持ちが分からない。なのになんで、解りたかったと強く言えるの?」
「当たり前だろ。俺は君の事を大切だと思っているからだ。どんな事であれ、大切だと思う君の事を知りたいと思うからだ」
理解、出来ない。いや、理解出来ようとは思えない。
彼が言う、いつかの私なら、この理解出来ない気持ちも分かるのだろうか。
先程とは違う優しい瞳が私を見つめている。どこまでも透き通っていて、涙で潤っているが、綺麗な瞳が私を写している。
醜い私、ゴミな私、存在する理由がない私に、彼は大切だと言ってくれている。大切、大切とはなんだろうか。これの言う大切とは、どういうものなのだろうか。私が家族を大切だと思う気持ちと一緒なのだろうか。それ以外?他に何がある?
分からない。でも、分からないなりに何故か彼の事が心に刻み込まれていく。深く、そして優しく。罵倒によって切り裂かれた時とは違う暖かな想い。
私は今日、何度目かの涙を流す事になった。
「……ごめんなさい。ごめんなさいっ」
「大丈夫。もう大丈夫。もう1人じゃない、俺がいる。俺が力になるから」
心に響く言葉だ。とても暖かくて、とても安心する言葉。
誰かがいるということは、ここまで安らぐものだとは思わなかった。
涙する私に、彼も涙を流して抱き締めてくれる。嬉しい。とても嬉しい。なんだか嬉しさが止まらない。涙を流しているのに、心がポカポカするのは初めてだ。
私は、彼の姿を見て彼を知りたいと思った。彼は私にとって大切だと言ってくれた。でも、どんな存在なのかは分からない。だからこそ、一緒に涙してくれる理由が分からない。
私は彼に、そう聞いた。
「……どうして、泣いてるの?」
私の口がそう動く。
「……当たり前だろ」
彼は私の言葉に続ける。
「俺が、お前の」
「お前の、友達だからだ」
この後の私はどうしたのかは分からない。気付いたら彼と学校を後にしていた。何処からか見つけた鞄を持って。
その後私は妹と一緒に彼の家に泊まることになった。今の私の精神状態は不安定だと彼は言う。彼は大赦のメンタルケアを生業とする立場の人間らしく、私の精神を落ち着くまで面倒を見てくれるとか。
結局私は自殺に失敗した。解放されるはずだったのに、彼が私を止めてくれた。
あの時彼を見て抱いていた気持ちがなんなのかよく分からない。彼に聞いても、彼自身よく分からないと言っていた。
それでも分かる事はあった。私は自殺しようとした事を、今無性に
「───改めて犬吠埼風さん。俺は東郷力哉。君と同じ、大赦から
───世界を守る為に戦う身として。
───友達として。
取り敢えずキャラ別でこういうのを投稿していく予定です。