この世界はあべこべである。   作:黒姫凛

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カキツバタはやってくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1歩歩けばそこは白。透き通る程真っ白なシルクの衣が空を舞い、誰もがそれに魅了される。

 

 

 

 

 

2歩歩けばそこは黒。光すら吸い込む真っ黒な雫が滴り落ち、誰も彼もが嘲笑う。

 

 

 

 

 

3歩歩けばそこは穴。光すら届かない底見えぬ穴から、おいでおいでと誘われる。

 

 

 

 

進め進めよ永久に。戻る事など出来やしない。

 

 

戻る事が出来るなら、それはもう死と同然。

 

 

哀れ哀れな悲しいアナタ。

 

 

誰も理解はしてくれない。

 

 

君とアナタが進む道。私が先に進みます。

 

 

アナタは私を見てください。

 

 

見てくれないなら進みません。

 

 

進んで欲しけりゃ見て見ないで。

 

 

救いたければ止めないで。

 

 

放置するなら手放して。

 

 

私はアナタへの白。

 

 

私はアナタからの黒。

 

 

私はアナタとの穴。

 

 

それが誰にも知られなけれど。

 

 

私はアナタを愛します。

 

 

君はアナタをよく見ません。

 

 

だけど今は違います。

 

 

私はアナタ(キミ)をハナシマセン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。と言うのは違う。

ふとした時にナニカを見た、と言えばいいのか。

 

突然頭に入り込んできた思考(イメージ)

短刀が写った。あれは私がお兄様に買って頂いた漆塗りの短刀。それを誰かが握っている。細い指と真っ白な肌。まるで私の手のよう。

 

キラリと光った包丁に写る顔の見えない誰か。真っ黒な前髪が表情を隠し、その下は分からないが明らかに冷徹な表情を浮かべているのは分かる。

 

その刃先が向けられている誰か。左腕が真っ赤に染まり、誰かを庇うように蹲る誰か。間違いない、お兄様だ。腕の中に庇われている誰かが叫んでいる。卑屈に染まった悍ましい表情。何故?何故私はその表情を()()()()()()

 

可笑しい、私は何処?私は何をしている?私がいながら、何故お兄様が傷を負っているの?何故お兄様の腕の中に他の女が()()()

 

いや違う違う。私はそもそも何故包丁を握っている?何故お兄様が怪我をなさっている?()()()()()

 

その時キラリと光る包丁に、一筋の赤い液体が滴る。

 

()()()()()()()()()()()()()。どうしようもない気持ちが、否定したい気持ちが、私の中から溢れそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時に、私は目を覚ます。

激しい動悸。全身びっしょりと汗をかき、今何をしていたのかと忘れてしまった。

何故こんなにも私は緊張している?

解らない。しかし解らない恐怖と何かに恐怖する私の気持ちから、何かがあったと察する。

 

 

今目の前にいるのはお兄様。現在早朝5時30分。

 

 

お兄様が寝ている───お兄様の部屋に入ったからだ。

 

 

お兄様が寝ている───お兄様は起きないからだ。

 

 

お兄様が寝ている───私が起こさないからだ。

 

 

 

 

 

ダッタラ、ハヤクスマセテシマオウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───えっ。

 

 

 

思わず私は動きを止める。

今私は、なにをしようとしていた?

 

思わず手に握っていたものを落とす。ガシャンと音を鳴らしたそれは朝の静けさを纏い、冷たい刃を更に冷たく冷やす。

落ちたのは、私の短刀。抜き身にされた短刀は、コロンと私に目印の紫陽花模様を見せるかのように転がった。

 

肝を冷やす。本当に私は何をしようとしたのか。

 

思わず震える右手。短刀を握っていたであろうその手は、冷たく血が通ってないように青白く目に写る。

そっと左手で握り締め、込み上げてくる何かを必死に抑え込む。これを吐き出したらお兄様にご迷惑がかかるのは目に見えている。

どうしようもない恐怖が湧き上がり、車椅子の上で蹲る。

 

思いつき、朝の寒さでは無い血の気の引くような冷たさを感じる体を温めようと、お兄様のお布団の中に器用に入り込む。

 

少しずつ温まる体。それだけでさっきの寒さが嘘のよう。

温かいお兄様。私を優しく包み込んでくれるお兄様。私だけのお兄様。

この温もりが私の癒しです。お兄様の表情が私の気力です。お兄様の鼓動が私をより深く愛に誘ってくれます。お兄様を思うだけで、私は落ち着いていられます。

 

お兄様にしがみつくように抱き着き、心の上辺りに耳を当てる。ドクドクと私よりも遅い心拍数を感じながら、私はお兄様に身を寄せるのだった。

 

自身が大量の汗をかいていた事を忘れて。

 

 

 

 

 

あぁ、お兄様。お兄様はどうしてそんなに、

 

 

 

 

 

 

素敵な(愛おしい)のですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬吠埼風は困惑していた。自分の現状が理解出来ていないからだ。

 

原因はそう、目の前に座る男───東郷力哉である。

彼との1件後、放課後頻繁に会う事になったのだが。犬吠埼風は正直まだ彼について知っている事が少ない。どんな人物像なのかは少し理解出来ているが、如何せん犬吠埼風は人を信じるという事が出来ない。普段の生活から考えて、彼女が容易に彼の見せる姿が偽りの無いものなのか信用する事は無い。信用に値するのだとすれば、もっと親密にならなければならないだろう。

 

それで放課後集まって何をするのかと犬吠埼風は身構えながら合流するのだが。

男性は基本的護衛要員として護衛を雇っている事が多い。彼も雇っているのだが、普通の護衛よりも彼の雇った人は小柄でしかも年下と来た。

 

 

「───三好夏凜です。どうぞよろしく」

 

「───三ノ輪銀っス。よろしくお願いします!」

 

 

初めて放課後集まった時、彼の隣に立つ2人の小柄な女の子がそう言った。

大赦から派遣された護衛だと言う。御役目の経験者と今回の御役目の為に調整を受けた子達らしい。

腕を組みツンとした空気を持つ少女と彼に密着する元気そうな少女。()()が無い事は敢えて聞かなかったが、2人の雰囲気は何か普通とは違うものを持っていると理解出来た。

 

 

「い、犬吠埼風、です。こちらこそ、よろしく」

 

 

笑顔を作れただろうかと不安になりながらも、風はペコッと頭を下げる。

特に変わったことをした訳でもない挨拶が済み、早速本題に入ろうと私が話を切り出す。

 

 

「……えっと、それで……話って?」

 

 

元より、風は早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。妹が帰宅している時間で、学校でまたいじめを受けたかもしれないと思うと早く慰めてあげたい気持ちでいっぱいだった。

力哉は少し考える素振りを見せると、一言。

 

 

「別にただ呼んだだけだけど?」

 

 

風の頭が真っ白になった。え?今なんて言った?

思わず思考がフリーズする。何か重大な事を切り出してくるのかと思えば、まさかの話題無し。しかも護衛の2人もそれは聞いていなかったようで、驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

「は、話があって呼んだんじゃなかったの……?」

 

「いやね、話をしようにも何を話そうかなって」

 

 

じゃあ話を纏めてから言って欲しかったと、風は内心舌打ちをしながらジト目を向ける。

 

 

「なによ、そんな為だけに(あたし)は呼ばれたわけ?」

 

「……まぁそうなるな」

 

 

思わず叫びそうになった。巫山戯るなと、おちょくるのも大概にしろと。

しかし力哉は男。男が機嫌を崩せば風は独房行きの可能性が出てくる。大赦から直属で護衛が回されているとなったら更に悪化。最悪一生陽の光を浴びることが出来ないかもしれない。

 

 

「……じゃあ、何も無いなら帰るわ。妹が待ってるし」

 

「おっと、待て待て。まだ帰らないでくれ!」

 

 

この期に及んで何をするというのか。毒を吐きそうになるがぐっと堪える。

力哉は何か考えようと唸り声を上げながら思考を回す。何故そこまで考えるのか、風には理解出来なかった。

 

 

「……あの、犬吠埼さん。あの人が思いつくまで話してましょ?」

 

「えっ、でも私、本当に帰りたくって……」

 

「大丈夫っす。長くなりそうならまた明日でも!」

 

「そ、そう言われても……」

 

 

いつの間にか横に現れた三ノ輪銀がうずうずしながら話しかけてきた。

最近ここまで近付いて話した事は無かったので緊張する風だが、彼女の素顔を改めて見て思う。

 

 

───私と、同じような顔立ち。

 

 

その時罪悪感を覚えてしまった。

三ノ輪銀は風と純粋に話をしたかっただけ。しかし風は彼女の雰囲気や顔立ちを見て苦手意識を抱いていた。特にグイグイ来るタイプを風は苦手としている。彼女の今までの環境のせいか彼女自身の性格からか分からないが、複雑な風にとっては三ノ輪銀は一番苦手とする相手であった。

 

 

「……そんなに怯えなくても大丈夫よ、先輩。この子は先輩のクラスのような屑みたいな人達とは違うわ」

 

 

助け舟を出したのは三好夏凜。未だに唸って考えている護衛対象を放ったらかし、風に話しかけてきた。

 

 

「っ……、なんで知って……」

 

「当たり前よ。私の顔、見てるでしょ?こんな顔してるからみんなして私に言ってくるのよ。2年生にいる化け物と同じ種ねって」

 

「……おんなじ、種って……」

 

「まぁ私は気にしてないわ。この顔に産まれてきたことにも恨んでもないもの」

 

「なんでそんな事言えるのよ………」

 

 

風の問いに夏凛はピシッと後ろを指した。後ろには唸りに唸ってボソボソと何か呟いている力哉が居る。

風は意味が分からず、首を傾げる。

 

 

「あの人がいるからよ。私はあの人が居てくれるから言えるのよ」

 

「あ、勿論あたしもっすよ」

 

 

何の恥ずかしげもなく、そう言い切る2人。

風は尚更意味解らない顔をする。

 

 

「色々人にはある。私も虐められたわ。でもその怒りを糧として私は剣を磨き、自分の自制心を鍛え上げた。人間、底辺だからこそ努力すれば這い上がれるものよ。あの時の私に何も出来ないアイツらの顔見たら、今までされてきた事が馬鹿みたいに感じるわ」

「苦しいのはわかるけど、逃げたら駄目よ。逃げたら更に居場所を無くす。今まで虐めてきた奴らを見返す為に、先輩が出来る事を見つけてぶつけてやりなさい!!」

 

「……自分のできる事。でも、そんなのどうすれば……」

 

「それを見つけるのも先輩よ。私や銀じゃない、勿論あの人でもない。それに自分の出来る事を見つけた時、きっと私や銀が言ってた事が分かるはずよ。その時は、負けないけどね」

 

「?勝ち負けが関わって来るものなの……?」

 

「なんかいつにも増して今日はベラベラよく喋るな夏凛は」

 

「い、今のは忘れなさい!!それと、どういう事よ銀。私はいつでもよく喋るわ」

 

「何言ってんだか。力哉さんのことになると───」

 

 

 

「───そうだ犬吠埼っ。次の休みは俺ん家に遊びに来いよ!!」

 

 

突然会話に割り込んできた力哉の言葉に驚いたのか、それともずっと考えてそれかと落胆しているのかは分からないが、風と銀は開いた口が塞がらない。夏凛は何故か顔を赤らめながら素敵と呟いている。

 

 

「それで犬吠埼、どうだ?」

 

「……ど、どうだって言われても」

 

「大丈夫、妹さんも呼んでいいから。というかむしろ呼んでくれ」

 

「と、唐突過ぎよ……」

 

「まだ日にちの余裕はある。唐突そうに思えるが唐突では無いさ」

 

「いやどう言うことよ……」

 

 

何を言っているのかこの男はと、本気で頭を抱えそうになるのを抑えながら、風は思考を巡らせる。夏凛は相も変わらず素敵と呟く。

 

次の休みと言うことはつまり土曜日。祝日はまだ先の為、今週の土曜日という事になる。思い出してみるが、特に用は無いと結論付ける。

 

 

「……まぁ予定は無いと思うけど」

 

「じゃあ決定だな。取り敢えず明日も集まるとして、一先ず今日は帰ろう。送ってくよ犬吠埼」

 

「普通は逆なんじゃないの?まぁ、別にいいんだけどね」

 

 

力哉の異様なテンションのおかげか、それとも夏凛や銀と会話したからか、その両方なのか分からないが、風の心境はさっきよりも軽くなっているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───そして話を戻すが、何故犬吠埼風は困惑しているのか。

 

それは、犬吠埼風が東郷力哉に抱き締められているからである。

 

 

 

 

「いやどう言う状況なのよこれ!?!?」

 

 

ブラコン義妹暴走不可避案件勃発!!

 

 

 

 

 




次の話はブラコン義妹の話になります
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