きっとはぁ?なんだこりゃ?な気持ちになるかもしれませんが、私め時間と余裕が無いので駆け足で行かせていただきます。
それと前回次はヤンデレと言いましたが、メインではありませんので。勘違いされないようお願い致します。
誤字報告並びに感想下さりありがとうございます。
時は駆けて土曜日。あれから放課後東郷力哉とちょくちょく集まって少しずつ会話をした風は、
来いよ来いよと念を押されて渋々東郷宅にやってきた。
東郷宅は2度目だが、家の趣はやはり他の家よりも大きくセキュリティがしっかりとされた設計になっている。敷居の上に聳え立つ大きな白い壁。防犯カメラが設置された門。厳重に柵がされて他の侵入経路を許さない。
男がいるから当然かと思うが、凄いところだともっと凄い所があるそうだ。
見たことは無いが、赤外線センサーや高圧電線、庭に防犯トラップ等、侵入者を確実に殺す勢いで設置されたものがあるんだとか。
男が住む家なんて一生関わりなんて無いと思っていたが、まさかの事態に曖昧な感想しか思い浮かばない。心情なんて色々あるが、あり過ぎて言葉に出来ない。
なんとも言えない複雑な気持ちが入り乱れている。
「……あぁ、来ちゃったわね……」
ため息混じりの息を吐き、手に持ったお土産を見つめる。
手ぶらでは流石に失礼かと思った風は、前回お邪魔させてもらった時のお礼を兼ねて学生が買うにはまあまあなお値段のするお茶菓子を持参してきた。
今月は少し厳しくなったが仕方ないと割り切り、念入りに考えて選び出した品物。コレがどう活きるかで東郷宅の自分に対する評価が出るだろうと考える。
「……おねぇ、ちゃん?」
ふと、不安な表情を見せた姉の姿を見て妹の樹が不安げに見上げてくる。
樹も2度目だが、人とのコミュニケーションを得意としない樹にとっては、他者の家にお邪魔する事に抵抗がある。
東郷力哉の妹、美森の手品によって心は多少開いたようには見えたが、まだ風の後ろに隠れてしまう時もある。すぐに変わるものでは無いので気長に克服させて行くべきなのだが、この御時世樹のような女は色々と標的になる。姉としてはすぐにでも変えてあげたいと焦る気持ちもある。
樹を不安にさせないよう、風は大丈夫よと頭を撫でながらそう呟く。
色々と疲れているのかもしれない。あの日も、疲れたから解放されたいと彼女は願った。心体共に疲労しているのはお察しの通りだが、何故あの時あんなにも簡単に諦めようと思ったのかよく分からない。あの時東郷力哉が止めてくれなかったらどうなっていたかなんて考えたくも無いが、もし死にきれなかったら後悔していただろう。
あの時分からなかったが、今思えばモヤッとした黒い何かが溢れていた。時たま来るあの衝動は今考えると恐ろしく感じる。我慢してたはずのものが我慢できなくなった。一体、あの時何が起きていたのか。
「───こんにちは!!」
「「ひゃいっ(っ)!?」」
突然の声にビクッと身体を震わせた。
樹を守るようにして声のした方に振り向くと、目の前に赤色の髪の毛が一面に写った。
「なっ、何よ!?」
後ろに飛び退いて距離を作る。そこに居たのは、幼顔の風と同じような顔立ちをした少女だった。
少女は風と樹を驚かせてしまった事に謝罪する。
「わわっ、驚かせてごめんなさいっ。近かったですよね」
「……いえ、別にいいわ。普通に驚いたけど」
普通知らない人が目と鼻の先にいたらそれは驚くだろう。風と樹の驚きは当然のものである。
「私、讃州中学1年結城友奈です。東郷さんのお家に何か御用?」
「あ、えっと、讃州中学2年の犬吠埼風です。こっちは妹の樹。今日はこの家にお呼ばれしてて……」
「わわっ。先輩だったんですか、ごめんなさい。……えっと、東郷さんのお家にお呼ばれって事は、今日来る人って先輩達の事ですね」
「え?じゃあ貴方も?」
「はい。不肖結城友奈、本日お呼ばれさせて頂きました!」
ビシッと敬礼する少女、結城友奈にはあと思わず生返事。
正直風はこの手の相手が1番苦手だ。奥手な自分はグイグイ来るタイプに引っ張ってほしいとは思っているが、喋る事があまり好きじゃない風にとっては疲れる相手。あまり関わりたくないのが本音である。
「犬吠埼先輩達はどうして呼ばれたんですか?」
「……いや、それはなんか……分からないけど。来いって言われちゃって……」
「な、なんだか曖昧ですね。あ、因みに私はいつも土日はお邪魔してますよ!今日も暇なので来ました!」
「そ、そうなの…ね」
生返事しか返せない。早く中に入らせてくれと
このグイグイ来るタイプは本当に嫌だと風は嫌悪感を段々と蓄積している。
しかし中々行こうと言い出せない。初対面でチキってしまった。
「じゃあ行きましょう!」
「うぇっ?、あ、ああそうね。行きましょ………」
突然手を引かれてキョドる風。鼻歌を歌いながら門に歩いていく結城友奈という少女を見つめながら、今日ここに来たことを後悔した。気が重い一日になりそうだと思いながら、風は無抵抗に手を引かれて行かれ、樹もそれに急いで続くのであった。
その時の、結城友奈の表情に気付かずに。
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重い空気が続く。冷え切った鋭い眼光の奥深くから覗く黒い眼は、相手を斬り殺すような鋭さを持った刃。嫉妬と殺意に満ちた風貌は相手に対する威圧。怒気が籠った拳が震え続ける。
「…………」
対してそんな威圧を諸共せず、腕を組み仁王立ちで一心に睨みつける。
「……何か、問題でもある?」
「……チッ」
嘲笑いながら、それでいて煽るように、鼻で笑いながら吐き捨てる。口から出た負の感情。自身の心情を代弁しているそれは、更に怒りを増幅させる。
「……問題がないならこのままよ。私は、変えるつもりはない」
「……いけしゃあしゃあと。貴女は本当に癇に障る。廃棄場出身者はそのまま暮らしていればいいものを……」
「そっくり貴方に返すわ。まぁ、書類上はあの人の妹になるから、私よりは綺麗な世界よね。羨ましいわ、本当に……」
「……三ノ輪さんならまだ許すわ。でも、三好さん。貴女は絶対に駄目よ」
「あらどうして?そう言う偏見は駄目じゃない?そんな見方しか出来ない貴女はあの屑共と同じ存在ね。貴女こそあの人から離れるべきよ」
「……殺すっ」
「……やってみなさいよ、ボンクラ」
1歩動けば切るか切られるかの領域。方や四肢五体、方や両足不全。結果は目に見えているが、どちらも動く事はない。 怒り充ちているが、冷静さは保てている。双方握る手の中には、相手を簡単に死に追いやる事が出来るものがある。
ここでそれを使うのはお互い不本意である。であるからして、お互い牽制しあって睨みを利かせるしか出来ない。
「……2人とも、そろそろ時間だから辞めた方が……」
「……そうね」
「………私はまだ認めていませんから」
割り込みずらそうにしながら横から銀が割って入る。夏凛はその声に落ち着きを取り戻すが、美森は未だに睨みを利かせている。
車椅子を反転させ、吐き捨てるように呟いた美森は車椅子を動かして部屋を出ていく。その後ろ姿を見つめながら、彼女の気配が無くなると2人は息を吐く。
「……ホント、勘弁して欲しいわね」
「もうちょい仲良くなれないのか?」
「無理よ。私にも私なりのプライドってのがあるの」
「だからっていがみ合うのは違うだろ?もう少し言葉を選んでだなぁ」
「……分かった次からは気を付けるわ。でも、彼奴から喧嘩ふっかけてきたらどうなるか分からないから」
「そこははっきりして欲しいんだけどな……」
それから鍛錬してくるわと、木刀を握って庭に向かう夏凛。何も言えず、ただじっと夏凛の後ろ姿を銀は見つめるしかなかった。
「……なんで私を今日呼んだの?」
「?なんだよ、いきなり」
家に上がるなり風はそう呟いた。樹は何かを悟った友奈に連れられ奥に入っていった為、玄関には力哉と風しかいない。
「呼ばれるような関係でも無いし、家に上げてもらう理由も分からない。はっきり言って理解出来ないの……」
「別に理解なんてして欲しいとか思ってない。けど、これは犬吠埼にとって大切な事と俺の仕事が関わっている。色々考えたんだぜ?……まぁ、家に上げる事はあの日唐突に思いついただけなんだがな……」
「……私の為ってどう言うことよ。例えあんたの仕事だろうとなんだろうと、勝手な事しないで」
「でも苦しいのは事実だろ?俺には犬吠埼が持つ悩みや気持ちなんて分からない。でも同情でもなんでも、その悩みを解決に導くのは俺の御役目だ。本人に気持ちが無くても、俺はやり通すぞ」
「……突き放してくれたら、こんな気持ちにもならないのに……。……もういいわ、好きにして」
「あぁ、好きにさせてもらう。じゃあ取り敢えず、始めようか?」
「……始める?」
「饂飩作りさ」
「なんで饂飩なの?」
「知らないのか?饂飩ってのはグルテンっていうたんぱく質が刺激を受けて生地を強くする。これは人の精神力が見習うべきお手本だ。打たれれば打たれるほど強くなり、衝撃を吸収する。まさに打たれ強いとは饂飩の為にある言葉だとは思わないかい?」
「思わないわよそんなの。で何?私に饂飩を打たせて饂飩のような強い心を作れと?」
「いや、饂飩の生地ってなんか犬吠埼の肌に似てるなぁって思っただけなんだけど」
「っ、ばっ、バカにすんじゃないわよ!!」
思わず平手打ちを繰り出しそうになるのを必死に抑え、よく分からない気持ちのせいか火照る顔を必死に隠す。
そんな風の状態に気付かない力哉は、せっせとボウルに計量した小麦粉と塩水を合わせ始めていた。
「饂飩って苦労するよな」
「……突然何?」
「いやな。手で生地を練ると合わせた水分が手に付着して小麦粉が纏わりつくだろ?あれがなんか嫌でさぁ」
「……じゃあやんなきゃいいじゃない」
「それでも、苦労したら苦労した分だけ思わぬ幸福で返ってくる。饂飩も苦労して打てば美味しい饂飩が出来る。そう思うと、始める時の気持ちとやりきった時の気持ちって違って来ないか?」
「……何が言いたいの?」
「いいや、何も。ただの会話だよ。何も話さずにやってるだけってのはつまらないだろ?」
「……会話下手くそじゃない。カウンセラーが聞いて呆れるわ」
「資格とか持ってないんでチャラでーす。元々口下手なんだから期待されても困るよ」
「男だからってだけでチヤホヤされる気分はどう?私みたいなヤツといるよりも、媚び売って来る他の女の方がいいんじゃない?」
「俺は別にそういうの気にしてないから。どっちかって言うと迷惑って言った方がいいかな。それに俺は御役目もあるけど、好きで犬吠埼と一緒にいるから」
「……ホントに腹立つわね。どうせそうやって媚び売って突き落としにくるんでしょ……」
「そんな考え持ってるくせに、ちゃんと俺の横で饂飩練ってくれる犬吠埼、嫌いじゃないぜ?」
「っ!?」
いつの間にか力哉の横でボウルを片手で支えながら饂飩を練っている風の姿があった。思わず赤面するが、力哉は表情に気付いていない。
ふとボウルの中に入った饂飩生地が目に止まる。練りと水分が足りていないホロホロとした塊だらけの小麦粉。温度と湿度が大切な饂飩は、極端な加水量や乾燥させる事が失敗に繋がる。温度と湿度によって塩分量や水分量も変えなくてはならないシンプルでいて奥が深い料理である。
風は何故か、その生地から目を離せないでいた。力哉が言う饂飩と風の心情を照らし合わせたあの発言。本人は関係無いとは言うものの、何故か胸に突っかかるものがある。
「何してるんだ?早く練らなきゃ」
「っ、わ、分かってるわよ」
手が止まっていた風に、手が小麦粉で汚れていたので肘でつつく力哉。思わず風は急いで手を動かし始める。
「……ねぇ、聞いてもいい?」
「何?」
「……自分の出来る事って、どうすれば見つかるかな……」
「自分の出来る事?なんだよそれ」
「この前三好に言われたわ。虐められてても、悔しい思いをしても、それを糧にして力を手に入れたって。力を手に入れたから、アンタを守れるんだって………。私には難しいわ。生まれてこの方、親にすらあんまり褒められてなかったし、親が死んじゃった後なんか今のような現状よ。このままのうのうと生きて行くには我慢しかないと思ってたけど、三好の話を聞いて何か引っかかるの………」
「……成程、夏凛がそんな事を……」
「……教えて、私は、どうすればいいの?私だって変わりたいと思ってる。でも、変わるには何かが足りない。その足りないものを私はどうしても知りたいの………っ」
饂飩を打っていることも忘れ、2人とも腕の動きを止める。初めて風の方を振り向いた力哉は、風の苦しそうな、涙腺が緩んだ表情に目を見開いた。
「……あんだけ突き放そうとしてる癖に、変わりたい気持ちはあったんだな」
「……当たり前でしょ。あんな事起こそうと思った私だけど、アンタと会ってこんな気持ちになったわ。アンタなら、なんだか答えをくれそうなの………」
「……答えは出せないが、ヒントならあげられるかもしれない。答えを出しちゃうと、多分犬吠埼の為にならないから」
「……私の為?」
自然と首を傾げる風。ボウルにラップを被せ、手を洗いながら力哉は続ける。
「簡単に言ったらそう、犬吠埼はあの日屋上から飛び降りようとした。どうして?」
「………それは、辛かったから。もう耐えられなかったから」
「でも俺がそれを防いだ。あれはホントにギリギリだった……」
「……もう終わったのよ。やめてその話は」
台所にある椅子に座るよう催促し、向かい合うように座る2人。
風にとってあの日は後悔してもしきれない記憶となっている。蒸し返すだけであの日の自分を殴り倒したい程には今の風は怒りを感じている。
「でだ。あの時犬吠埼はなんで
「……どう言う事よ」
「そのまんまの意味だよ。俺は犬吠埼じゃないからその時の気持ちは分からない。でもあの時犬吠埼が流してた涙は、俺に止められて怒っていたから流れたものじゃないのは分かった。あの時、どんな気持ちだった?」
思い出すのはあの日の光景。涙ぐみながら必死に訴えかけてくる力哉の姿。彼に言われ、何故自分がこんな事をしたのか後悔した。1歩行けばここに自分はなかったかもしれないと考えると、力哉に感謝しているかもしれない。
「……後悔と感謝、かしら。なんであんな事したのかなって事と、助けてくれたアンタに感謝してる」
「そういえば、犬吠埼の口から感謝してるなんて言葉聞いてなかったな。どういたしまして」
「……で、それが何?」
「今後悔してると言ったけどさ、なんで後悔してる?」
「……えっ?どういう事?」
「犬吠埼はことある事に後悔した後悔したって言ってるけどさ、何に後悔してるのかなって」
「……それと、何か関係あるの?」
話を蒸し返しといて今更と思うかもしれないが、風には関係性がないように思える。しかし曖昧に力哉は答える。
「関係があるとも言えるし、無いとも言える。ぶっちゃけた話、俺は犬吠埼の事をあんまり知らない。けど犬吠埼を知ろうと思ったら、何かから聞き出さないと分からないものだろ?きっかけって、意外とそこら辺にコロコロ転がってるものだからさ」
「……じゃあ何?私が話さなきゃヒントをあげられないって?」
「言っちゃえばそう。でもヒントを出したところで最後まで考え抜くのは犬吠埼だ。本当に俺は手助けしか出来ないんだよ。はい、取り敢えず後悔した理由を言ってみて」
「……そう言われても。……多分、1番は馬鹿な事をしでかしたな……みたいな事かしら。樹もいるのにそんな事………っ、樹っ」
ばっと、何か分かったのか椅子から勢いよく立ち上がる風。顔に手を当て、眉間に皺を寄せる。
「……なんで、どうして気づかなかったの……」
「……なんか分かったのか?」
「そうよ、そうよっ、樹よっ。樹だけ残してなんで死のうと思ったのかって後悔してたのよ!」
「じゃあ自ずと、自分の出来る事って見えてこない?」
「樹と一緒にいる事……、って、まさかっ」
「そういうこった。意外と直ぐに見つけちゃったな」
「……分かってたの?」
「そんな馬鹿な。犬吠埼の事なんだから俺は分からないさ。もうちょいかかるかと思ってたけど。なんだ、案外自分でも分かってたんじゃないのか?」
「……でも、自分の出来る事が分かったって妹と一緒にいたいなんてそんな……」
「自分が出来ること事の大きさなんて関係ないさ。樹ちゃんと一緒にいたい気持ちが小さいなんて俺は絶対思わないよ」
何故か知ってましたよと聞こえるような力哉の言葉を受けながらも、渋々そう納得する。本当の本当に釈然としないが。
立ち上がった力哉は、椅子を直して再び手を洗い始める。
「……そっか、だから私はこんな……」
「さ、取り敢えず饂飩作り再開しようぜ。皆饂飩好きだからよく食べるぞ」
「……この流れで誘う?」
「モチのロン。間に合わないからハリーアップ」
「……感謝しないからね」
「感謝なんて必要無い。それが俺の役目だ」
風の気持ちに少しだけ太陽が差し込んだ気がした。
───影に潜む黒い影と、キラリと光る刃に気付かずに。
後はそのっちだけなんやぁ………