【とある魔術の禁書目録】錆びゆくガンマンの青息吐息   作:白滝

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完結してから投稿する予定でしたが、PCを修理に出さねばならない事態に陥ったので、書き溜め分を投稿する事にしました(汗)

感想・評価など気軽にお願いします。


第三章 敵などいない、殺し合え Battlefiel_With_No_Enemy!!

「っつか、勢いで名乗っちまった!?やべぇ、今のは無しな!!忘れるんだ!!さもないと兄ちゃんを指名手配にかけんぞ!!」

 ロベルト=カッツェの、緊張感のない言葉がガソリンスタンドに響いた。雷神トールという目の前の『異能』に圧倒される面持ちでもなければ、他者を威圧する迫真纏う歩みでもない。

 ただただ、ゆったりと。

 ロベルトは全てを受け入れるように二人に歩み寄る。

「ったく、人様の手をブチ抜いといてお気楽なおっさんじゃねえか!!ハッ……『一般人』って枠組みに収まってるお前の立ち位置に感謝しな。じゃなきゃ、同情なんてせずにバラバラに焼いてるトコだぜ」

 対するトールは、心中穏やかではいられなかった。

 当然だ。

 勘違いである。

 このおっさんは明らかに勘違いで敵を定めてしまっている。犯罪者を庇うどころか、挙句の果てには彼の左手に鉛玉まで撃ち込んできた。激痛で指一本さえ動かすのが辛く、手から流れ出る血がコンクリートの地面に垂れる。ここまでやられてすぐさま反撃に出ないなんて、今日の自分は普段よりも冷静に事態を終息させようと努めてしているらしい。

 なにしろ、この街は今から『何か』が起こるのだ。それを確かめるために、それを乗り越えるために遠路遥々ここまでやって来たのだ。血が上った頭を必死にクールダウンさせ、落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。

「そもそも、揉め事の仲裁に拳銃(チャカ)ぶっ放すなんてクレイジーなおっさんだな、オイ。『一般人』なんだから、街が元に戻るまではベッドの毛布に包まって隠れてな。どうせ老い先短い長くもねえ寿命だ、大事にした方がいい」

 そこで犯罪者の男に動きがあった。

「エンゼルさま、逃げればいいんですね。分かりました」

 拘束服のように固まってしまった服を脱ぎ捨て、何とか立ち上がり脇目もふらずにガソリンスタンドから逃げ出していく。

「あ、てめぇ!!待ちやが―――――――」

「だーれが『一般人』だって?」

 ズガン!と、トールの歩みはロベルトの銃撃に阻まれた。彼の足元の一メートル程先で、九ミリ弾丸が火花を散らした。

「……どうやら、おっさんの誤解を解くっていうクソ面倒なステップ踏まなきゃいけねえらしいな」

「誤解してるのは兄ちゃんの方だぜ。俺の名前を知って、俺の顔を見て、俺の声を聞いて、それでも俺が『一般人』だって?おいおい、つまらないジョークはそのビックリ手品だけにしてくれよ」

「は?なにお前、有名人なのか?……ん?確かにどっかで見た事あるような」

「……近頃の学生も、遂にここまで政治に疎くなったのか。お前、学園都市の超能力者なんだろう?ジャパンの総理大臣は確かにポンポンとトップが挿げ変わるから覚えるのに苦労するだろうが、それでも俺の名前くらいニュースで聞いた事があるだろうよ……」

 トールは構えていた右手の警戒を解いた。会話をしている限り、この男に敵意はない。

 左手を撃ち抜かれた事に関しては一〇倍返しにしてやりたいところだが、今は状況が状況だ。優先すべきは逃げ出した犯罪者の男を追う事だ。いくら戦闘をこよなく愛する自分でも、無関係な民間人を引き込むつもりはない。

 交渉で済むならそれに越した事はない。

 そう思い、トールが何から説明したものかと言葉を選ぼうとした時だった。

 

 

 突如、ロベルトの拳銃(ハンドガン)が七色の輝きに包まれた。

 

「なん、だぁ!?」

「ッッ―――!?」

 反射的に右手の五指からアーク溶断ブレードを展開する。

(魔術、だと!?どういう事だ!!全然そんな雰囲気はなかったぞ!!)

 二人の距離は四メートルもない。

 この至近距離なら、ギリギリで拳銃(ハンドガン)よりもトールの溶断ブレードの方が速く肉を裂くだろう。

 理屈も理由も後回し。

 雷神トールは、民間人を装って彼に接近してきた目の前の男に五指から伸びる電光の刃を叩きつけた。

 しかし、

 

 ズガガガッッ!!と。

 

 九ミリパラベラム弾では不可能な威力で、そして拳銃(ハンドガン)では到底不可能な速度で銃口から鉛玉が発射されていた。まるでフルオートの機関拳銃(マシンガン)でもあるかのように、続けざまに放たれた五発の九ミリパラベラム弾が五指の電光の刃にそれぞれ突き刺さり、電光の刃を食い破るように切り裂いて霧散させる。

 振動でミシリと右手首が悲鳴を上げた。熱を持った関節の痛みに、トールの表情が歪む。

(なん……だと……ッッ!?)

 信じられない。

 トールのアーク溶断ブレードは、並大抵の魔術とは訳が違う。その出力は鋼鉄の壁を紙屑のように引き裂き、結界魔術すら叩き潰し、水すら焼く尽くす北欧最強の戦神の力だ。だからこそ、銃弾なんて切り裂くどころか溶解し瞬時に蒸発させてもおかしくないレベルの出力であったはずだ。

 それを、逆に食い破られた。

 ロベルト=カッツェと名乗った男の魔術。

 驚愕に目を開く。しかし、その驚きに恐怖の色はない。

 逆だ。

 嬉しい誤算に、思わず興奮の驚きを隠せなかったのだ。

 雷神トールは思わず舌舐めずりした。悪い癖だ。自分でも自覚はある。

 だが、

 (……いきなりレベルアップの『経験値』の登場かよ!!疼くじゃねえか!!)

 右手の五指から再び溶断ブレードが展開される。

 目の前に立ちはだかる強敵を見据え、雷神トールは獰猛に笑った。

 彼が周りから『戦闘狂』と評される所以である。

 目の前の強敵と戦い、手を伸ばし、色々な物を積み上げていった。初めは人助けが目的だったような気がしたが、届かぬ目標に手を伸ばし経験と技術を積み重ねる内に、もはや「強くなる事が過程」なのか「人助けが過程」なのか分からなくなってしまった。我武者羅に次のステップに手を伸ばす、『経験値』に飢える戦闘狂。

 それが雷神トールをその名に冠する彼の、変える事のできない生き方だった。

 だからこそ、一度でも敵と認識した相手に容赦はしない。それが『一般人』という肩書であろうとそれが例え『平凡な高校生』であろうと、彼の思い描く戦場では皆が等しく同じ『経験値』である。好戦的な笑みを浮かべて射抜くようにその双眸を輝かす。

 

 対するロベルトは、先程までとは打って変わって困惑の渦中にいた。

(な、なんじゃこりゃあ!?拳銃(ハンドガン)が光ってやがる!?この兄ちゃんの『超能力』になんかされたって事か!?)

 目の前の学園都市の少年が、ロベルトの知らない小難しい理論で理解不能な超能力を行使したのかもしれない。

 だが、それだけでは説明できない事がある。

(どうやって俺は兄ちゃんの『超能力』の攻撃を防いだんだ!?自分でも無意識の内に引き金引いて……いや、そもそもだ!!二発連射射撃(ダブルタップ)なんてモンじゃねぇ!!五発も弾丸を連射するなんて、この拳銃(ハンドガン)の構造的に無理だろうが!!俺は、俺は一体何をしたっていうんだ!??)

 自分でも訳が分からない。手元の拳銃(ハンドガン)に視線を落とす。

 気が付いたら七色に輝く拳銃(ハンドガン)で迎撃していた。何が起きているのか分からないが、目の前の少年の超能力か何かかと結論づけようとして、疑問が浮かぶ。

(……あれ?そうなると、この兄ちゃんが『超能力』を使って俺を強くしてくれたって事か?意味が分からねぇぞ?)

「余所見とは余裕じゃねえか、おっさん」

「うおっ!!」

 慌てて横っ飛びに跳んだが、三メートル以上も伸長した電光の刃から逃げ切れない。ただの路地裏の喧嘩とは違う、『異能』が関わる戦いにロベルトの危機回避レベルの常識が追い着いていなかった。

(……死ぬッッ!?)

 諦めが頭をよぎったその瞬間だった。

 拳銃(ハンドガン)を握る右手が勝手に動いた。それはあろう事か勝手に銃口を迫り来る電光の刃に向け直し、空中で立て続けに三発の銃弾を撃ち込んだ。

 ロベルトは電光の刃をから完全に目を離していたはずなのに、勝手に動いた右手が拳銃(ハンドガン)の引き金を引き、発射された弾丸が中指、薬指、小指から伸びる電光の刃を食い破る。残った親指、人差し指から伸びる電光の刃が、ロベルトの頭上を通過していく。

 目くら射撃(ブラインドファイア)三発連射射撃(トリプルタップ)

 人間技ではない。

 そのままロベルトはコンクリートの地面を転がった。

「まただ!?どうなってんだ、こりゃ!!」

「クッソ、やるじゃあねぇか!!おっさん、それなんて魔術だよ」

「知らねぇよ!!なんの話だ!!」

 話が噛み合わない。

 このままでは戦闘に縺れ込んでしまう。説得したいのに、勝手に動いてしまう右手が発砲をやめない。

(埒が明かねぇ!!)

 そう判断したロベルトが、ガソリンスタンドの外に隠れているローズラインに手で合図を送ろうとした。

 その時だった。

 

「動くな!!」

 

 拡声器で反響するような声がガソリンスタンドに響き渡った。

 トールの顔が引き攣るような表情へと一変する。電光の刃を消し、その両手を上げて降参の意を示した。

 ロベルトも辺りを見回して気付いた。

 ガソリンスタンドが、数十人もの機動隊に囲まれていた。ビルの上にはスナイパーが狙いを定めており、ガソリンスタンドの出口はシールドを持った防弾装備の人間が列を成して塞いでいる。完全に包囲されていた。下手な動きを見せたら、銃殺を厭わない、という意志が感じられる。

 ロベルトにはこの機動隊に心当たりがあった。

「―――――連邦捜査局(FBI)じゃねぇか!!こんなとこに何しに来てんだ!?」

 機動隊の中から、肩に勲章をつけた男がロベルトの前に出て来て敬礼した。

「ハッ、私達は現在、日本から逃亡してきた指名手配犯『火野神作』の追撃任務の作戦中でありまして。ですが、大統領が民間人の暴徒と交戦中でしたので、とっさに作戦外の行動を取ってしまいました。自分が責任を取ります」

「いやいや、マジで助かったよ、サンキュー……ってか、え?国際指名手配がこの街に来てんの?」

 連邦捜査局(FBI)のこの男からすれば、「大統領のお前こそ、むしろ護衛すら無しにどこほっつき歩いてんだ!」とツッコミたい衝動に駆られるが、身分的に口が裂けてもそんな事は言えない。極秘任務なので口外はしないで下さい、と男に念を押され、ロベルトは男が取り出した携帯端末から指名手配中の男の顔を見た。

「って、オイオイオイ!!!これ、さっき俺が助けた男じゃねぇか!?」

 トールが目を見開いて、

「んなっっ!!……ほれ見ろ、おっさん!!こんな事してる場合じゃなかっただろうが!敵は俺じゃねぇんだ。誤解だって言っただろ、俺はむしろアイツを捕まえる側だったんだ」

「……あっちゃー」

「おっさんが邪魔をしなけりゃ、すんなり逮捕できたってのによ!分かったなら、この兵隊さん達の銃を下ろさせてくれねぇか?」

「っつー……こりゃまずい事をしちゃったなぁ。おい、お前。連邦捜査局(FBI)の全員にこの兄ちゃんから銃を下ろさせろ」

「は?……え?じ、事情が掴めません。大統領は、先程『火野神作』を見かけた、という事でしょうか?」

「そういう事だ。あーあ、逃がしちまったよ。しくじった」

「チッ、おっさんのせいだぜ、いいから追いかけるぞ!」

 そう言って、トールはガソリンスタンドから出て行こうとする。しかし、ロベルトは『火野神作』の登場に、妙な引っかかりを感じざるえなかった。

(この街に国際指名手配の男が来てる、だと?俺が単身で追ってる『ノーリッジ12』に関係があるのか?奴がアメリカの研究者と絡んで、サイコパスな事件でも引き起こしてるって事なのか?)

 この街エル・パソで起ころうとしている事件。その関係者かもしれない。

「よし分かった、俺も追おう!ローズライン、お前もついて来――――」

 そう、言いかけた時だった。

 

 

 連邦捜査局(FBI)の機動隊の銃が、突如、七色の輝きに包まれた。

 

 まるで、ロベルトの手にしている拳銃(ハンドガン)と同じように。銃から放たれる七色の光が、それぞれ共鳴し合うような輝きを放った。

 

 

 突如、ロベルトの頭に、自分以外の感情が捻じ込まれた。

(なんだ、こ―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

 

 殺してやる!!憎い!!殺してやる!!

 武器を持つ奴全てが憎い!!殺す!!ぶっ殺してやる!!

 

 ――――目印は、同じ七色の光を持つ奴だ、殺せ

 

 そうか、目印は七色の光を持つ奴なのか!殺してやる!!七色の光を持つ者を皆殺しにしてやる!!俺は殺さなければならないんだ!!

 

 ――――そうだ、皆殺しだ。お前は七色の光を持つ者を殺すために生きてきたんだ

 

 そうか、俺はそのために生きてきたのか!じゃあ殺さなくちゃあな!殺してやる!殺して殺して殺して殺して、殺して殺して殺し尽くすんだ!

 俺は、

 俺は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――……ろ、………じょう………!…じを………おっさん!!」

 

「ハッ!?」

 目が覚めた。

 ロベルト=カッツェは、唐突にガソリンスタンドのコンクリートの地面の上で目が覚めた。

 「おい、気は確かか!?自分がさっき何をしてたか、ちゃんと覚えてるか?返事をしろ!」

 「俺、は……一体?」

 トールによって肩をぶんぶんと揺すられていた。記憶がない。前後の記憶がはっきりとしない。確か自分は、連邦捜査局(FBI)の連中の銃が七色に光ったところを目撃していたはずだ。

 そこからは、頭の中に霞がかかって全く思い出せなかった。

 と、焦点の定まっていなかった自分の目が、ようやく辺りの光景を捉えた。

 絶句した。

 連邦捜査局(FBI)の機動隊が、全員皆殺しにされていた。身体にいくつもの銃創が空いており、中には胴体をバラバラに切り裂かれた者までいた。血の惨劇が繰り広げられた後だった。

「な、なん―――――ッッ!?」

「やっぱ覚えてねぇみたいだな。おっさんはさっき、コイツらと殺し合ってたんだよ。その七色に光る銃でな」

「俺、が……?」

 訳が分からない。自分が気を失っていた間に、一体何が起きたというんだ?

 対するトールは、ロベルトの腕を自分の肩に回して立ち上らせ、誰に言うでもなく、こう呟いたのだった。

「おっさんはどうやら魔術師じゃねぇみたいだな……『ノーリッジ12』絡みの事件、その片鱗ってやつか。どうやら一般人を洗脳し、無秩序に『異能(チカラ)』を授けて殺し合わせるクソみてぇな茶番でも開きたい連中がいるらしいぜ」

 

 

 

 

 ガソリンスタンドから逃亡した火野は、自身が連邦捜査局(FBI)に狙われている事に気付いていた。彼が逃げた後にガソリンスタンドにやってきた所を遠くから目にしたが、この街に展開している連邦捜査局は、その一班だけではない。既に数班が捜索隊としてエル・パソ中に展開されているだろう。

「エンゼルさま、エンゼルさま、教えて下さい!これからどうすればいいでしょうか?エンゼルさま、エンゼルさま!」

 歩道を走り抜けながら、火野は誰に話しかける訳でもなくそう呟いた。

 いや、話かけてはいる。彼のもう一つの人格に。

 そう、彼の右手のナイフが独りでに動き、店の煉瓦の壁に切り傷をつけていく。それは文字だった。

 彼、火野神作は解離性同一性障害を持つサイコパスな殺人犯である。右手に宿る別人格『エンゼルさま』がこっくりさんのように自らナイフで文字を彫り、これをエンゼルさまの啓示として従う。その殺人は宗教的じみたキチガイなものばかりであり、誰を狙い何を目的にしているのかも不明な予測不能であった。

 壁に刻まれたエンゼルさまからの啓示を見て、火野はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

「そうですか、人質を取ればいいんですか。ありがとうございます、エンゼルさま」

 そう言って、彼は辺りを見渡した。道の前方に、脇腹を抑えて辛そうに歩く女性と、リュックサックを背負い心配そうに女性に話かけている少女を見つけた。

「くき、けひゃひゃひゃひゃ。エンゼルさま、やりますよ、エンゼルさま」

 

 

 

 

 七篠はヴィースとエル・パソの門から離れ、街の大通りを歩いていた。

 既に不穏な空気を感じ取っている。

「銃声があちこちから聞こえてきたねぃ」

「そうね。でも、方向がバラバラすぎる。全く別の事件が、あちこちで同時に起きてるって事かしら?」

「そうかもねぇ。っつか、これはあからさま過ぎるよぅ。ここまで大きな事件だと、警察がパトカーをウンウン鳴らしてそうな気もするんだけど、出動してる気配すら全然ないねぃ……いやぁ、これは早めにアリスとテレスと合流した方が良かったのかなぁ?」

「……一応、あの子達を心配はしてたのね」

 そう言いながら、ちょうど目の前の交差点を曲がった時だった。

「あっ!?」

 前方に、アリスが見知らぬ女性と歩いていた。女性は脇腹を抑えて歩くのが辛そうな様子だった。もしかしたら、治安が芳しくないこの街でチンピラ共からアリスを保護してくれていたのかもしれない。

 なんにせよ、不穏な空気を匂わせ始めたこの街にてこの場面で早めに合流できたのは行幸だ。

「おっ、ラッキー!いいタイミングじゃん。ツイてるねぃ。おーい、アーリスー!!」

 そう七篠が声を張り上げた時だった。

 二人の背後から走ってきた男が突然、通り魔の如く女性に襲い掛かった。アリスの隣を歩いていた女性を大振りのナイフの柄で不意打ち気味に殴り飛ばし、アリスの手を強引に引っ張って拉致する。

「……へ?……え、ちょっ、なにこれ!?」

 と目の前の出来事に呆気に取られて口を開く七篠に対し、

「ボケてないで、走るわよ!!」

 ヴィースは茫然とする七篠を置き去りにして、アリスを拉致した男を追いかける。男は道路に駐車中の車の窓ガラスを叩き割り、車に飛び乗った。追いかけるヴィースの存在に気付いたその男が、車をUターンさせて反対方向に走り去っていく。

「くっ、私の魔術の射程外に逃げられるッッ!!……アナタの出番よ、撃ちなさい!!」

 ヴィースの魔術では逃げる車を捉えられない。振り返って七篠に攻撃を頼んだ。

「――――アイアイサー!!」

 そう言われる事を見越して、既に七篠はホルスターから愛銃を引き抜いていた。

 コルト・シングル・アクション・アーミー。

 左手を台座代わりに右手首置いて、回転式拳銃(リボルバー)を固定する。片目を瞑り、走り去る車に狙いを定めた。

 しかし、

 

 キュガッッ!!と、七篠の持つ回転式拳銃(リボルバー)が七色の光に包まれた。

 

「な、なんだぁ!?」

「魔術!?」

 ヴィースが慌てて七篠の傍に駆け寄ろうとする。七篠が受けた魔術が、呪術の一種だと思ったのだろう。踊り子を体現する巫女の癒しで、解呪を行おうとしたのだ。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 七篠の回転式拳銃(リボルバー)が、共鳴するような不自然な波長の光を突然放ったのだ。

 直後だった。

「!?伏せて!!」

 ヴィースが横っ飛びに七篠を押し倒した。彼らの頭上を銃弾が駆け抜けていく。ヴィースが顔を上げると、いつの間にか十数人の機動隊に包囲されていた。全員が全員、その銃に七色の輝きを纏っている。

 魔術だ。しかし一方で、彼らのような一般人が魔術を使えるとも思わない。

(『ノーリッジ12』絡みの黒幕が、儀式魔術で操ってるのか!!)

「くっ、アナタの出番よ!」

 ヴィースは地面に横たわる七篠の肩を揺す振った。しかし、

「う、ぅぅぅぅぅ、ううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

 七篠は顔を真っ青にしながら呻くだけだった。意識がないようにも思える。戦闘不能だった。

 そうこうしてる間にも、アリスを拉致した男の乗った車は、大通りの次の交差点を曲がり、見えなくなってしまった。

 しかし、機動隊『連邦捜査局(FBI)』にはそんなヴィース達のそういった事情は関係なかった。容赦はしない。……例え、彼らがアリスを拉致した男『火野神作』を尾行していて、偶然にも七篠の銃と七色の光が共鳴してしまっただけ、という洗脳された被害者であったとしても、だ。黒幕の儀式に干渉を受けた人間は、『異能(チカラ)』を授けられ暴徒と化す。

 「一斉射撃だ!撃てぇ!!」

 リーダーらしき男の号令で、一斉に男達が引き金を引いた。

 「―――ったく、役立たずな中年オヤジね!!」

 ヴィースは踊り子のように両手を振り回した。ただそれだけで、呪文詠唱なしで魔術が発動する。

印鑑のようにアルファベットの刻まれた指輪や、身に纏った服飾。そうした記号を組み合わせ、『左手を軽く降る』『右手を回す』などの簡単な動作によって多彩な術式を高速で発動するのがヴィースの得意技である。圧倒的な手札の物量で敵を畳みかける、そんな彼女についた異名が『時間稼ぎ(タイムロス)』である。

 迫り来る銃弾の前に、渦巻く水流の柱が生まれた。ヴィースと七篠を囲うように現れたその渦潮のような水流の柱は、銃弾の軌道を捻じ曲げ、あらぬ方向に逸らしてしまう。

 流れ弾が味方同士に被弾し、機動隊が悲鳴を上げた。

「くっ、もたないの!?」

 しかし、水流の柱が銃弾で吹き散らされてしまった。ただの銃撃なら簡単にいなせたはずだ。おそらく、七色の光を発する黒幕の魔術が威力を高めているのだろう。

「起きなさい!」

 ビンタで七篠の顔を叩くが、一向に目を覚まさない。七篠も銃が七色に光っているので、黒幕から洗脳を受けているのかもしれない。

「怯むな、撃てぇ!!」

 流れ弾が当たらなかった男が一人、ヴィースに銃口を合わせた。

(――――まずい!!)

 慌ててヴィースが両手を振り回す。

 感染を打ち消す巫女の癒し。七篠に干渉している黒幕の魔術が『感染』の形式を辿る場合、これで七篠を目覚めさせる事ができるはずだ。

 しかし、その魔術を発動しているヴィースは、完全に無防備そのものだった。

「死ねぇ!!」

 男が引き金を引いた。

 放たれた銃弾が真っ直ぐ突き進み、ヴィースの胸のど真ん中を貫いて―――――――

 

 

 ざざざざざざざざざざざ

                      ザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッ!!

 

 

 直後、男が引き金を放つより早く、七篠が回転式拳銃(リボルバー)で男の眉間を撃ち抜いていた。

 眉間から出血の尾を引きながら、防弾ヘルメットまで貫通して撃ち抜かれた男がバタリと崩れ落ちた。

「……やっと働いたわね、アナタ」

「さっすがぁ!!『時間稼ぎ(タイムロス)』って呼ばれる事はあるねぃ、踏ん張ってくれてありがとさん!」

 そう言って、銃口から硝煙をたなびかせながら七篠がゆっくりと立ち上がった。

「クッ、怯むな!奴らはたった二人だ、撃てぇ!!」

 そう言って、七篠の背後にいた男が、自動小銃(アサルトライフル)を連射した。

 対する七篠は、笑いながらこう言った。

 

「――――――――俺のマグナムが火を噴くぜ」

 

 

 ざざざざざざざざざざざ

                      ザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッ!!

 

 

 直後、七篠の放った銃弾が、背後の男の眉間に吸い込まれるように被弾した。

 眉間のド真ん中。防弾ヘルメットを貫通し、頭蓋を砕き、脳を貫き、男の命を撃ち抜いた。

 即死である。

 だが、おかしい。

 七篠が握っている回転式拳銃(リボルバー)は、防弾ヘルメットを貫通できる程の威力はない。いや、そもそもにおいて、七篠は前を向いたままだ。後ろを振り向いた訳でもないし、銃さえ前に向けたままである。そんな姿勢で背後の男を撃てる訳がない。あり得ない。

 仲間の殉職を目の当たりにし、機動隊が遮蔽物を求めて大通りの店の影へと隠れた。その内の一人が、新たに自動小銃(アサルトライフル)を構える。店の角から銃だけを覗かせ、自分は身体を遮蔽物に隠したまま撃つ目くら射撃(ブラインドファイア)だ。これなら、七篠の立ち位置からでは攻撃されない。

「甘いねぇ」

 しかし、笑う。

 七篠はカウボーイハットを目深に被り表情を隠しながら、ニヤつく笑みをチラつかせながら謳うように告げる。

「おいちゃんには銃口を向けない方がいいぜぇ。さもねぇとお前さん達―――――」

 男の自動小銃(アサルトライフル)から、銃弾が発射された。

「―――――死んじまうぜぃ」

 

 ざざざざざざざざざざざ

                      ザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッ!!

 

 

 直後だった。

 七篠の回転式拳銃(リボルバー)から放たれた銃弾が、男が自動小銃(アサルトライフル)の引き金を引く前に発射されていた。

 男の眉間を穿つ。

 矛盾した現象が目の前で繰り広げられた。

 男は、七篠が銃の撃鉄を起こすよりも早く自動小銃(アサルトライフル)から銃弾を放ってたはずだ。確かな事実だ。七篠が引き金を引く余裕もなく、放たれた銃弾に身体を貫かれた血塗れの七篠の死体が床に転がるはずだった。

 そうでなければおかしい。

 いや、それ以上に、遮蔽物に身を隠しながら撃ったのに、眉間に銃弾が当たる訳がない。銃弾がカーブを描くように不自然な軌道で発射されない限りは不可能だ。

 しかし。

 

 次の瞬間、七篠は男が引き金を引く『前』に銃弾を発射し、遮蔽物に隠れて当たらないはずの眉間を確かに撃ち抜いていた。

 

 理解不能な矛盾。時系列が、現実が、歪んでいる。

 眉間から血の尾を引いて崩れ落ちる男を見ながら、七篠は軽やかに語った。

「……これがガンマンの生き様さ」

 

 『ガンマンの魔術』。

 神話や伝承や聖書に記されたエピソードでもなければ、土着文化の信仰対象や魔術に起因する逸話などでもない。しかし米国には、日本の『侍』『浪人』のように確かに根付く独特の哲学を有する者達が存在した。

 ガンマン。カウボーイ。賞金稼ぎ(バウンティハンター)

 西部開拓時代を経てその認知度が上昇した彼らは、さながら『侍』の剣術のように銃器の扱いに長け、『浪人』のように風来坊な生き様を信条とする。そんな彼らガンマン達の間では、とある一つの通説が存在した。

 『相手より早く発砲する銃の達人は、そもそも隠れる必要なんてない』。

 身を隠すための遮蔽物を必要としない。なぜなら、彼らは向かい合った敵が引き金を引くよりも必ず早く発砲するからだ。『侍』が『居合抜き』を奥義とするように、『ガンマン』は『早撃ち』を極意とする。

 七篠厳平の『ガンマンの魔術』とは、その通説の再現であった。

 現実を歪め、『相手より先に発砲した』という世界に因果を歪める術式。

 『相手が発砲した』現象を存在しなかった事にし、『七篠が先に発砲した』という現実が存在するよう世界を書き換える。『七篠が敵より先に発砲した』という事実だけを固定し、あらゆる矛盾を、因果を、世界を、修正し改竄し変革する。

 だからこそ、七篠の早撃ちは理屈を超えていた。

 ゼロ秒で排莢を抜き、ゼロ秒で銃弾を再装填(リロード)し、ゼロ秒で撃鉄を起こし、ゼロ秒で引き金を引き、放たれた銃弾はゼロ秒で敵の眉間に到達する。

 時間も距離も物理的障害も、全て無視して『相手より先に発砲して眉間を射抜く』という現実に世界を改竄する。

 極論を挙げるのならば。

 世界中の六〇億人全てが七篠へ銃口を向けて、同時に発砲したとしよう。七篠厳平は、たった六発しか装填できない回転式拳銃(リボルバー)で六〇億人の誰より速く一人一人の眉間を撃ち抜く事ができる。たった六発しか装填できない回転式拳銃(リボルバー)を用い、ゼロ秒で六〇億発の銃弾を放つ事ができるのだ。それも驚くほど正確に、確実に敵の眉間へと。

 例えそれがどれだけ不可能な事象であろうと。

 例えそれがどれだけ非現実であろうと。

 例えそれがどれだけ物理的に不可能であろうと。

 『敵に銃口を向けられた』という限定条件下に置いて、七篠の魔術は不可能を可能にする。そうなるように因果を歪め、そうなるように世界を修正する。

 放たれた銃弾は光すら追い抜き次元を超えて、その銃弾は風ではなく因果を切り裂き、その銃声は耳ではなく世界を震わせた。

 七篠が放った銃弾は時間を遡り、因果を逆行して過去の『発砲する前の敵』に被弾する。ただそれだけを確定事項とし、そうなるように因果律を組み直しこの世の物理法則を改竄する。

 それが『ガンマンの魔術』だ。

 起きうる現象に派手さは全くない。見ているだけでは、ただ単に発砲しているようにしか見えない。だからこそ、男達はすぐにその危険性に気付かなかった。

 しかし、どうみても理解不能な七篠の射撃を見て、機動隊の男達がようやく焦りを抱き始める。

 男の一人がスモークグレネードを投げた。ボフン!!と勢いよく煙幕が広がった。

 周囲に白煙が立ち込める。

 男達は銃に取り付けられたアタッチメントの内、光学照準器(スコープ)赤外線照準(サーモスコープ)に切り替えた。これで、七篠だけを一方的に銃撃できる。こちらが見えなければ、さすがの七篠でも発砲できないだろうと踏んだのだ。

 しかし、

「悪足掻きさぁ、そんなこと」

 次の瞬間には、起動隊の男達がほぼ全員、同時に眉間を撃ち抜かれていた。

 そう。

 七篠の『ガンマンの魔術』は、狙いをつける必要がないのだ。

 例え敵を捕捉してなかろうが、例え敵に同時に銃撃されようが、例え装填できる銃弾の数が明らかに足りていなかろうが、例え敵が防弾装備を身に纏っていようが、全てを無視して改竄する。

 『敵に銃口を向けられた』という超限定的な環境下においてのみ、七篠厳平は世界を改竄し修正する。

 男達が眉間から血を引いて倒れた。

「ふぃー、何とかなったねぃ」

「……容赦のない男ね。皆殺しにするとは」

「だ、だってよぅ、術式が勝手に『眉間を撃ち抜く』ようオートで発動されちまうから、外したくても手加減できずに殺しちゃうんだってぇ!!」

「まぁ、ありがとね。助かったわ」

 そう言って、地面に身を伏せていたヴィースも立ち上る。

「相も変わらず、対『科学』に特化した術式よね。人類が『科学』によって発展し、戦争の歴史を変えた文明の利器『銃』。それを否定するような魔術だわ」

「そういう嫌味な事を言うところこそ、ワインレッドちゃんも相変わらずだってぇ」

「それより、これからどうするの?」

「ん?あぁ、さっきおいちゃんの銃が七色に光った時、感染魔術の類の攻撃を受けたよぅ。それが洗脳になってるのかなぁ?無差別な干渉だったけど、逆探知ができれば黒幕の居場所を特定できるはず。できる?」

「できる訳ないでしょ」

「だよねぃ、知ってた。じゃあ、ひとまずは――――」

 そう言って、七篠は葉巻を取り出してライターで火を点けた。

「「アリスを拉致ったクソ野郎を追い駆けてみるとしますか!」」

 

 

 

 

「あ、あわわわわわ……」

 テレスが腰を抜かした。

 当然だ。年端もいかない少女が、銃創だらけの死体が転がる血塗れの交番を見ればそうなってしまうだろう。無機質な交番の中で、かけっぱなしのラジオの声のみが虚しく不気味に流れていた。

「て、テオドシアさん!?」

「テレスちゃんを連れて、交番の奥に隠れてて下さいデスマス」

 ツアーガイドの少女がテレスを連れ、部屋の奥へと歩いていった。

 テオドシアが入念に交番を調べる。

 どうやら、「交番にいた警官達が互いに拳銃で撃ち抜き合った」と現場の惨状をそのまま受け取って間違いなさそうである。ただ、言葉で言うのと頭で実際に理解するのは、全く話が違う。

(なぜ身内で殺し合いなんてしたんデスかね?新手のストライキか何かデスマスか?)

 ゆっくりと部屋を観察する。魔力の痕跡はあるが、どうみても魔術サイドの人間には見えなかった。

(……とみると、外部の人間が魔術で警官達になにかを仕掛けて身内での殺し合いが勃発した、と推測するのが無難な流れデスかね?)

 どうやらイギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』の出番らしい。

「まったく、『ノーリッジ12』絡みとか言わないで下さいデスよ……」

「て、テオドシアさん!!こっち来て下さい!!」

 ツアーガイドの少女に呼ばれて駆け寄ってみると、交番内の女子トイレに、中年の女性警察官が血塗れで倒れていた。脇腹を撃ち抜かれたようだが、運よく急所を外れたらしく、地力でトイレまで這いずって避難したらしい。まだ息がある。

「あなた達は、一体……ッッ!?」

「病院には連れて行くデスマス。それより、ここでなにがあったんデスか?」

「わ、分からないわ!急にみんなの拳銃が光って、突然に部長とかが皆発狂しちゃって!!」

「……光?」

「えぇ、七色に光ってたわ!それが合図みたいに、一斉に皆が殺し合い始めて!!わ、私、どうしたらいいか分からなくなっちゃって!!」

「この人を手当てして下さいデスマス」

「あ、病院はどうしますか!?呼びますか!?」

「街の状況が分かりませせん、迂闊に外に出るのは辞めた方がいいデス。応急手当ぐらいできマスよね?」

「……あぁ、えっと、多分」

 ツアーガイドの少女に女性警察官を任せ、テオドシアは再び交番の部屋に戻った。落ちていた拳銃を拾い上げる。

「よっと!」

 テオドシアはおもむろに自分の乳房を曝け出して、絞った。四男八女の母親らしく、その豊満な乳房から白い乳が垂れてきた。それが、拳銃に降りかかる。

 次の瞬間、拳銃が七色に光り出した。

 イシスの魔術。

 エジプト神話にて再生を司る女神イシスは、息子ホルスに乳を与える姿が女神像として建てられる程に女性の信徒が多かったとされている。だからこそ、そういうエピソードから宗教的な記号を抽出すれば、授乳行為によってテオドシア自身をイシスに対応させる事だってできる。授乳を受けた拳銃は、『再生』の加護を受けて魔力が復活した。事件の時の状態へと戻った。

「これがさっきの話の……確かに、七色に光ってるデスマス」

 七色に武器を光らせる魔術、と言われてもピンとこない。そのような神話や逸話に心当たりは全くなかった。

(いや、もしかしたら感染の類デスマスか?遠隔地からの魔力の付与、とか。だとしたら、『力』を与える系のエピソード……それも、魔力が練れない一般人にも対象にできるけっこー無差別なやつ……うーん……)

 なかなか思い浮かばない。場違いに陽気な声を響かせるラジオだけが交番内に響き渡る。

『―――という訳で、恒例の視聴者からの質問ターイムッッ!!えー、ペンネーム「うちの座敷童がニートすぎて困る」さんからでっす!えー、最近、RPGゲームにハマったんですが、隠しステージのコロシアムが制作スタッフの難易度調整が狂ってるとしか――――』

「って、それだ!!!コロシアム!!」

 そうだ。

 儀式魔術『剣奴の闘技会(グラディアル・コロッセオ)』。

 古代ローマ皇帝ネロが始めたとされる、奴隷の殺し合いを見世物にする娯楽イベントだ。円形闘技場(アンフィテアトルム)と呼ばれる施設で、奴隷達がグラディウスという剣で殺し合い、生き残った者には皇帝ネロから褒美が与えられる、という古代の儀式。

(だとすれば、既にエル・パソ市を円形闘技場(アンフィテアトルム)に対応させるよう、街自体を何かしらの力を働かせて丸く区切っているはずデスマス!外から隔離されて増援は呼べない!!)

 そして、奴隷達に対応するのが、この街の人間だ。条件はおそらく、『武器を持つ者』。奴隷がグラディウスの剣を持たされて戦わされる史実に基づき、『武器を持った者』を奴隷に対応させて魔力を与えているのだろう。黒幕から武器へと『感染』する方式にて。

(だとすれば、黒幕は自分自身を皇帝ネロに対応させなきゃいけないはずデスマス!!)

 つまり、逆探知が可能だという事だ。『七色に光る武器』という端末は、感染魔術を通じて黒幕『皇帝ネロ』へと繋がっている。

(これを暴く!!)

 テオドシアは懐から取り出したハンカチを床に付着する血で拭い、血で円陣を描き、交番内にあった迷子の子をあやす用の折り紙を円陣の四方に配置する。ちょうど床に、直径五〇センチぐらいの血痕の黒い円が描かれ、その中心に七色に光る拳銃が置かれる形となった。三六〇度の円を四等分するように、九〇度の位置には東西南北に対応させてそれぞれ青、白、赤、黒の折り紙が設置された。

 『理派四陣』。

 東洋の陰陽道における逆探知の魔術だ。

「半径三キロしか探知範囲がないのが玉に瑕デスが、モタモタしてる場合じゃないデスからね!」

 テオドシアが円陣の前で片膝をつき、祈るように目を閉じた。

「―――風を伝い(IITIAW)しかし空気ではなく場に意思を伝える(HAITCTTPIOA)

 告げると同時、四枚の折り紙が風もないのに動いた。まるで見えない糸に繋がれたヘタクソな人形劇のように、ふらふらと折り紙が起き上がる。四枚の折り紙は垂直に立つとピン、と動きを止め、次に円陣の上をグルグルと回り始めた。

 滑り続ける折り紙がその半径を段々と狭めながらラインを描く度に、床には折り紙と同じ色の曲線が描かれていく。さながらコピー機のようだった。

 回転する四枚の折り紙が中心で七色に輝く拳銃に触れると、パン!という乾いた音と共に周囲へ弾かれ、円陣内に精密な地図が浮かび上がった。

「おーい、こっちに来て下さいデスマス」

 ツアーガイドの少女を呼びつけ、この街の地図を引っ張り出せた。ツアーガイドの少女がうんうん言いながら地図を睨めっこし、『理派四陣』によって黒幕の居場所がマーキングされた場所を照合する。

「うわー、すっごい!おばちゃんって、よくこんな東洋のマイナー魔術を知ってるね!」

 と、テレスが驚いたように関心していた。

「イギリス清教イチの器用貧乏とは、まさに私の事デスマス!!基本的には北欧神話をベースとしてマスが、任務の度にいつも術式をコロコロ変えてるので、色んな宗派を使ってマスよ!」

「へー、テオドシアさんが活躍してるトコ、私は初めて見ましたよ!」

「……これはグーパンチを炸裂させても文句が言われない気がするデスマス」

「あ、ありましたよ!」

 そう言って、ツアーガイドの少女が魔術が示した箇所を指で指し示した。

「――――麻薬取締局のエル・パソ情報センターです!!」

 

 

 

 同刻。

 火野は盗んだ車で逃亡していたが、街に派遣されていた連邦捜査局(FBI)の別の班に捕捉され、銃撃を受けていた。

「エンゼルさま、エンゼルさま、教えて下さい!!これからどうしたらいいでしょう!?」

 アリスは火野を見てゾッとしていた。気持ち悪かった。

 この男は、前を見て運転していない。四六時中、右手だけでハンドルを操作していて、運転中にも拘わらず全く前方を気にしていなかった。そんなムチャクチャな運転なのに、細い路地を次々と駆け抜け、時には反対車線を駆け抜け、信号待ちで混雑した道路をジグザグに器用に躱していく。巧みに連邦捜査局(FBI)の追跡を振り切っていく。

 すごい、というより、不気味だった。けひゃけひゃと涎を垂らしながら、終始ニヤついている。

(ゴンちゃんの助けを待っててもしょうがない!わ、私がなんとかしないと!)

 アリスは意を決して、車のドアを蹴り空けた。そのまま、背中に背負ったリュックサックで受け身を取るように地面へ飛び出した。

 怖ろしい痛みが全身を駆け抜けた。グルグルと視界が周り、身体が擦り傷だらけになる。皮膚が削れて、血が噴き出した。

(痛い!!痛い!!!)

 思わず涙が零れ出た。身体を動かす気力はもうなかった。

 しかし、これでいい。火野が連邦捜査局(FBI)の機動隊から派手な銃撃を受けなかったのは、アリスという人質がいたからだ。アリスが車から脱出すれば、もはや火野に助かる見込みはない。

そう、考えていた。

 しかし、ドン!!と男が地面を転がる音が聞こえた。

 ハッ!となってアリスは振り返る。

 火野神作だった。

 アリスが車から飛び出した途端に、火野も車から飛び降りたのだ。

(は、判断が早すぎる!?この人、一体なんなの!?)

 火野しっかり受け身を取ったらしい。こちらに走り寄り、連邦捜査局(FBI)が追撃を仕掛ける前にアリスの喉仏にナイフを突きつけた。

「くく、エンゼルさま、エンゼルさま、これでいいんですね。分かりました」

 そうブツブツと呟きながら、火野はアリスを引っ張りながら近くの建物に入っていった。怪我だらけのアリスは身体に力が入らず、抵抗できなかった。

 それでも必死にもがきながら目を周囲に配ると、建物の名が刻まれた看板が目に入った。

(――――麻薬取締局のエル・パソ情報センター!!)

 

 

 

 同刻。

 ロベルト=カッツェは、自分の犯した凶行を雷神トールから説明を受けていた。今はもう秘書のローズラインが肩に腕を回しており、ロベルトを支えながら歩いている。

「っつーことは、その学園都市絡みの『超能力者』が俺やこの街の人間をおかしくしたって事か?」

「……あぁ、なんかもうそういう解釈でいいや。一般サイドの人間に説明するのメンドクサッッ!!」

「要領を得ないというか、信じられないな……しかし、『ノーリッジ12』に関係があるかもしれないことを考えると、そういったトンデモ事件も現実として理解しなきゃいけない……のか?」

「頭が堅いが、理解が早いねぇ、姉ちゃん。だが、まずは国際指名手配犯の火野神作を追おうぜ」

「いや、そっちは俺の指示を出して連邦捜査局(FBI)に追わせたよ。俺らは本命の『ノーリッジ12』の跡地に向かおう。元々、俺らもそこへ行く途中だったんだよ、兄ちゃんを見つけて寄り道しなけりゃな。手掛かりがあるとすれば、きっとそこに違いない」

「……アンタ、本当に大統領だったんだな」

「この事は内密にお願いします。謝礼金は支払いますので。我々は今、極秘密裏に行動していて」

「分かった分かった、それは何度も何度も聞いたって!いいから、その『ノーリッジ12』とやらの旧実験跡地の名前を教えてくれよ!」

 ローズラインは機密情報を漏らすのを躊躇したが、ロベルトに促され、溜息をつきながら答えた。

「――――麻薬取締局のエル・パソ情報センターです」

 

 

 

 同刻。

 七篠とヴィースは、アリスを拉致した男が、逃走間際にナイフで切り付けた女性を介抱していた。サフリー=オープンデイズというらしい。

「あ、ありがとう。助かった」

「いいっていいってぇ。それより、おいちゃんの仲間を保護してくれてたようで、こちらこそお世話になりましたって感じだよぅ」

「さて、『ノーリッジ12』絡みの件も気になるけど、まずはアリスちゃんの救出としましょうか。見失っちゃったあの男を、どうやって追いかけようかしら?」

「今は街がおかしくなっちゃってるし、拳銃を携帯してる警察官を呼びたくはないしねぃ」

「あぁ、それなら心配しなくていい。あの子には私の携帯電話を渡しておいた。GPSもオンにしてある。いつでも場所を特定できるぞ」

 七篠は携帯電話を持っていなかったため、ヴィースが携帯電話を使ってアリスのGPSのコードを取得する。

「場所が分かったわ、それほど遠くじゃない。急ぎましょう」

「んで、場所は?」

「――――麻薬取締局のエル・パソ情報センターよ」

 

 

 

 

 




感想・評価など気軽にお願いします。

※追記
ローズラインの口調を大幅に修正致しました。未完成なまま投稿してしまい、申し訳ありませんでした。
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