造られし害虫の王 ──The pest which is made── 作:バルシューグ
十話
「さて、お前ら。
今回は記念すべき200回目の訓練だ!
約一年前に始まった訓練を、お前らはこんなにもこなして、続けてきたのだ。
──胸を張って誇るといい
その幼き身体で俺の訓練に着いてきた事をな…
ソレが凄いという事は俺が保証しよう。
並の人間ならまず付いてこれるどころか、一日でぶっ倒れるぐらいにハードだしな…
さて、今回の訓練内容は、お前らが研究とバグズ手術によって手に入れた能力の使い方について、ソレの効率の良い戦い方などの訓練をする。
今回が初めての訓練だが、お前らなら大丈夫だ。
正直、たいした事はしないし、それに変態自体はとても簡単に出来る」
俺は少し威張りながらも、四人を見回して言った。
一人はガッツポーズをとり、一人は目を輝かせて俺を見て、一人は雄叫びをあげるかの様に…というか
「ウオオオオオ!!!」
…雄叫びあげている。
最後の一人何かはただ構えて、佇んでいるだけだ。
あー、うん。もう何も言うまい…
何かを言おうが、威張ろうが、こいつらには大した効果なんて期待できるはずもないか…
複雑な気持ちに頭を抱えたくなるが、それを堪える。
…そろそろ、訓練を始めるとするか。
「さて、今回の訓練の一番手はフィルナだ。
いつもはラズイルに任せているが、今回はベースも強力なフィルナから訓練を始める。
他の者も、変態までの様子を見たりして次に活かし、自らの番の時にやり易くなるようにしておけよ」
「「はい!」」
「…チッ」
約一名から舌打ちが聞こえたが気にしない。
無視だ、無視。
俺の空耳に違いないからな…
いつもは軽く体を動かして始めるが、今回は変態の練習…
それこそ、いきなり変態しなければいけない状況になろうと火星では可笑しくはない。
というより、殆どが”いきなり”になるだろう…
その時に備えて、俺は逢えて体を動かさずに訓練を始める事にした。
「ではフィルナ、薬剤を持て」
「はい!えーと…この注射器みたいなのですよね!」
フィルナは懐から薬剤を取り出した。
「そうだ、変態方法は簡単だ。
注射器を体に刺して、摂取するだけで変体出来る。
後は肉体の変化を待つだけだ」
「わかりました!では、早速やってみます!」
フィルナは薬を持った腕を空中高くに上げ、そう元気に宣言するとそのまま振り下ろして腕に薬を刺した。
すると、フィルナの身体はみるみるベースの生物に近い身体に変化していく。
身体の筋肉が凝縮され、より強固な物へと変わる…
人間の姿をしていたフィルナが化物の様になっていく様子を見て、他の三人は、おお…!と驚きの声を口から漏らしていた。
「ぐ…ぐッ…」
呻き声をあげながらもフィルナは変態を完了させた。
変態を終えたその姿は雄々しく、少女だとは思えないほどに肉体は力強い物になっている。
手の甲からは鋭い爪のような物が飛び出ており、両腕に二本ずつ生えている。
全体的に少女の身体はある生物に近づいていた……
そう、まるで”蜘蛛”のような姿にフィルナは近づいていたのだ。
「これが…」
フィルナは自分の腕を見て、そう呟いた。
その蜘蛛は体長8cmにも達する大型の蜘蛛である。
しかし、クモというのならば巣を作り、獲物を誘き寄せて狩るのが一般的だ。
が、この蜘蛛は違った。
巣を張らず、夜中に徘徊し、物陰に隠れてジッと待つ…
そして、近づいてきた獲物を鋭い牙と持ち前の毒で狩るのだ。
では、
タランチュラ、という蜘蛛を知っているだろうか?
誰もがその名を聞いた事のある程に有名な毒グモだが──
──この蜘蛛が持つ毒の強さはタランチュラなど比に成らない──
ソレが持つ毒は神経毒であり、ある科学者の実験で行われた体重20gのマウスにこの蜘蛛の毒、0.01mgを摂取させると、忽ちマウスは死に至ったという…
この事から推測で0.1mgの毒で、人間を死亡させる事が出来る程、強力である事がわかる。
この8cmの大型の蜘蛛が保持する最大の毒の量は約8mgであり、
単純に考えると一匹で80人の人間を死に至らせる事が出来るのだ。
そんな毒腺も大きく、牙も長いこのクモに咬まれでもしたら…
ーーー一瞬にして、全身を痛みが襲い、その痛みと共に血圧は上昇していく。
そして、忽ち体全体がマヒ状態となる。
その毒性は一般成人ならば、約25分で死に至らす…
それほどの猛毒を持ち、蜘蛛が持つ高い身体能力を使いこなすソレが人間大になったなら──
保持する毒の量は格段に増え、その肉体はより強靭な物へと変わり、その長く、鋭利な牙がより鋭く変わったなら───
───この”クロドクシボグモ”は、正真正銘の殺戮兵器となるだろう───
『フィルナ・エルテシモ』
ベース生物
【世界最高の猛毒蜘蛛】
『ブラジリアン・ワンダリング・スパイダー』
和名:クロドクシボグモ
「…えーと、変態完了です!」
フィルナは俺にそう言った。
ふむ…見た所、肉体は上々だな。
ならば、どれくらい強くなったのかを試してみるか?
前なら俺に手も足も出なかったのが、どんくらいこのバグズ手術で強くなったのか気になるし…
ついでに戦い方なんかもアドバイスも出来るから丁度いいしな。
「ああ、特に問題なく変態出来たな。
……よし、ならその状態で俺と組手でもするか!」
『!?』
その言葉を聞いた瞬間、驚愕の表情へと変わった四人だったが、すぐにフィルナはやる気が満ちてきた様だ。
そんなフィルナを羨ましがる三人の声が響く中、気合を入れ直す為に自分の顔を叩いているフィルナ…
…見てるとなんとも言えん、不思議な感覚だな。
…というか、何で羨ましがる!?
普通なら嫌がる所だろ!!っと心の中で俺はツッコミを入れた。
「…後でお前らも変態後に戦ってやる、だからまずはそこで見ておけ。
このバグズ手術がどれほど強力な物なのかをな…」
俺はブーイングしている三人にそう言い、フィルナに向き直る。
数分間、フィルナは何かを準備していた様だが、どうやらソレの準備が終わったようだ。
「よーし!隊長、準備完了しました!いつでも行けます!
…ただ、何故隊長は変態しないんですか?もしかして変態しなくても勝てるという自信なのですか?」
フィルナが疑問を俺に投げ掛ける。
「あー、それは俺がまだバグズ手術を受けていないからだ。
今の所は一応、受けるつもりだし、受ける時のベースも決まっているがな」
俺はフィルナの問いに対して答えた。
「そうなんですか!?
ふふふ…コレは勝ちが決まったも同然じゃないですか…!
で、ちなみに隊長のベースって何ですか?」
フィルナはニマニマと笑みを浮かべて言った。
「うん?ベースか?
俺のベースはな…
確か………
『ベネズエラ・ヤママユガ』という生物の幼虫だったかな?」
俺はアッサリと答えを明かした。
特に隠す意味もないしな…
「ベネズエラ・ヤママユガ、ですか?
聞いた事もないし、わからないですね…帰ったら調べておきます!」
フィルナはそれでも自分の疑問がわかったからか、満足気な顔をしてそう言った。
「おう、じゃあ始めるか?
そろそろ組手を」
訓練の時間があんまり長びくと駄目なので俺はそう言った。
「はい!!
今日こそ絶対に隊長を倒して見せますからね!このクロドクシボグモの力を使って…!
さあ、隊長は負けてしまうという現実への覚悟をしてください!」
フィルナは自信満々で構える。
「ほう…
そう、上手くいくといいがな…
てか、普通はそんなに自信満々でいくか?もう少し考えろよ…
俺、一応隊長だぞ?」
俺はそう呟いて小さく構える。
ーーまあ、とりあえずはどれほど強くなったのか試させてもらうぞ、フィルナーー
心の中でそう思い、俺は一歩踏み出した。
とりあえず主人公のベースが決まりました。
ベネズエラ・ヤママユガという名前を持つ昆虫の幼虫が主人公のベースです。
かなり、対人向けだと思います、というよりもテラフォーマーにはあんまり有効に効き目がないような気がします…
でも、そこは主人公の持ち前の強さでカバーします!