造られし害虫の王 ──The pest which is made── 作:バルシューグ
三話
「…サテ、ドウスル?」
俺は悩んでいた。このままリーを尾行して助けるか、リーを見捨てて艦を守るか…
漫画の内容を思い出しながら俺は考える。
艦に一番最初に襲ったテラフォーマー…
実はヴィクトリア ウッドが操っていたのではないか?
漫画では概ね予定通りなんて言っていたし…
リーが単独で来ることも予想して、隊員だから艦の位置も知っていた。
だからこそあのテラフォーマーは艦に一目散に乗り込んだ…
後は何処からかつられてテラフォーマーが嗅ぎつけ、おそらく一郎が例の真空状態にする提案をして他の隊員が脱出した所で艦を奪う。
──この未完全な仮説が正解ならば俺はウッドの注意を引きつけなければ…
それならば俺が離れている時を狙ってテラフォーマーを送り込むはずだ。
…そのためにもまずはリーを助けるか。
奴が操るテラフォーマーを倒せば少しは俺にも目を傾けるだろう…
では、追うか。
俺は全速力でリーが走って行った方向に向かった。
疾風の如き速さで大地を駆け巡るは単独で進む事を決意した男、リーである。
ーー何故リーは単独で進む事を決意したのか?
プライド、自分の力への誇り、それも考えられるが…
単純に
良く考えてみれば上から知らされていた存在だとはいえ、まだあって数時間も経っていない様な者に命を預ける事が出来るだろうか?
それに目の前でその戦いぶりを見たわけでもないのにだ。
───常人ならばまず無理だろう
更にリーはイスラエルの武装勢力にいたのだ、戦闘に関してはバグズ二号の中でトップの経験を持つ。
ならば余計に命のやり取りに対して敏感だろう…
だからこそ、単独で行ったのだ。
「何だ?ありゃあ…」
目の前に現れたのは人間よりも一回り大きく、尾葉や触角を持つ人外…
リーはものの数秒でこいつがテラフォーマーだと理解した。
だが、目に留まったのは
なんと、その後ろには見たこともない建物?が立っていたのだ
しかし、油断すれば殺される。
眺めることをやめ、目の前のテラフォーマーに集中する。
「…早速か」
リーは体に弾薬帯の様にして持った薬剤を一本抜き出し、首に突き刺す。一気に体内が薬剤を取り込み、
血液を通って手術で手に入れた昆虫の組織のバランスを崩れさせ、リーを昆虫人間へと変化させていった。
ーーリーの昆虫能力は『ミイデラゴミムシ』
過酸化水素とハイドロキノン…
二つの物質を合成させ、超高温の『ベンゾキノン』を爆音とともに発射させる。
もし、人間大のスケールで行われた場合、その『ベンゾキノン』は大爆発となり、テラフォーマーを襲う。
リーは掌から二つの物質を出し、この化学反応を起こす…
たった今、それが行われたのだ。
掌から二つの物質を出し、テラフォーマーの上半身に向けてベンゾキノンを飛ばす…!
業火と呼んでも間違いではない程の爆発を爆音とともに起こし、テラフォーマーを襲った。
勝った…
そう思っていたリーだったが、
煙から無傷のテラフォーマーが現れることで自らの考えが、認識が甘かった事を思い知らされたのだった。
まるで何事もなかったかのように堂々と立つその姿はリーには正に怪物の様に見えるのであった…
通常、リーが初めに言った通りにゴキブリは高熱に弱いとされている。
しかし、いかなる環境をも適応し、克服するのがゴキブリである。
「面白ェ…!」
リーはそう呟くが内心、この戦いに勝機はない事はわかっていた。
『自らの特技が通用しない』
これがどれほどのハンデとなるのか…
今までの経験などから考え出し、リーにはソレが見えていた。
自分が今向かっているのは『死』
リーの頬には冷や汗が流れる。
ナイフを握りしめてテラフォーマーから目を離さなかった…
──しかし、この状況は容易く覆される事になる。
もう一人の人外によって…
テラフォーマーがリーに仕掛けなかった理由…それはリーのすぐ後ろに居た生物の存在のせいである。
テラフォーマー自身の身に残る本能が告げている…
今、動けば死ぬと、やられると。
その事実にリーが気づいたのはその危険の正体、豪太が己の隣に立つ時だった。
「ウシロニ、サガッテロ」
「…」
リーは素直に後ろに下がった。いつから居たのかわからない、だがそんな事はどうでもいい。
従う他なかった…奴の、豪太の眼は完全に殺気に支配されていた。
リーはその眼に恐怖しながらも二つの生命体を観察した。いつ、何時でも動けるように、状況に対応する事が出来るように…
ただ黙って後ろに下がるしかなかった。
──テラフォーマーが先手に回り、豪太目掛けて殴る。
リーにはそれが見えていたが反応する事は出来なかった…
しかし、豪太はその剛腕の拳をまともに受けて直撃しようと体が仰け反る程度にしかダメージを喰らわない。
構わず追撃を掛けるテラフォーマー…
一撃一撃が身体に直撃する度に轟音が鳴り響き、豪太の体を揺さぶる。その音が威力の高さを物語っていた。
──それと同時に豪太の異常な強さも…
どれだけ攻撃を受けようと一歩ずつ進むその姿は『恐怖』の化身で有るかのようだ。
テラフォーマーが更に追撃を掛けようとしたその瞬間、豪太は構えた。腕を回転させてテラフォーマーの脳天目掛けて手を振り上げ、一気に降ろす──
その一撃はテラフォーマーの肉体を真っ二つに切り裂き、絶命させるほどの威力を見せた。
そして仲間の死に引き寄せられるかのように現れるテラフォーマー達…
その数、四体である。
四体全員が一気に豪太に押し寄せるが、真前にいたテラフォーマーは頭付近を一撃で殴り潰され、左右から来たテラフォーマー達はそのまま足を使って回転し、その遠心力を利用して手刀で一刀両断…
隙をつき、後ろから組みついたテラフォーマーの脇腹に肘で殴り、その衝撃で緩まった所で顔面を掴み、一気に地面に叩きつけてそのまま叩き潰す。
叩きつけられたテラフォーマーから半径1mは大きく地面が崩壊し、その有様が完全に潰れたことを確認させた。
「マジかよ…」
リーは豪太の余りの強さに恐怖を通り越し、感服していた。
これ程まで強いならば俺達が何を考えて抵抗しようが無駄だ。
だけどまだ戦いに荒い部分がある、そこを直し、体を鍛えれば更に化けるな…リーはそう感じた。
場所は変わって地球──
ワシントンD.C.国連航空宇宙局(U-NASA)
その場所のとある一室にて一人の初老の男が座っていた。
男の名は『アレクサンドル グスタフ ニュートン』
今回のバグズ二号計画最高責任者である。
その彼は今、ニマニマと笑いながらリーの内臓カメラから送られた物を画面で眺めているのだ。
「これが奴の実力か…
───素晴らしい!!!
この力はいずれより大きく強固な物となるだろう。それこそなくてはならない物にな…
そうだろう?オーエン君」
興奮したように声を上げながら問うニュートンの背後には黒ずくめの人が立っていた。
『その通りだ、ニュートン君。それに彼はまだ、バグズ手術を受けていないのだからな』
黒ずくめの男は胸を張りながら語る。
二人の科学者は静かに笑いながら画面を眺めていた…
「リー、タノミガアル」
「…何だ?」
リーは顔をこちらに向け、俺を直視する。
「イマスグニ、バグズニゴウニモドリ、テキガチカヅイテイルト、ツタエテクレ」
「…お前が戻って伝えれば──!?」
それは無理だ。
何故ならば例の建物の近くにある所からテラフォーマー達が続々とこちらに向かっているのだから…
数が多過ぎる、やはり……
リーも気づいたようで驚愕の表情を浮かべていた。
「…ハヤクイケ!!オレモカタヅケシダイ、ムカウッ!」
俺は後ろに振り返り、リーに叫ぶ。
「クッ…」
リーは苦い顔をした後、全速力でバグズ二号へと走って行った。
…あのスピードならばまだ間に合う筈。何にせよ今の状況はまずい…
もし、俺の考えが当たればーーー
ウッドが動き出した
だが、まあ──
「サア、カカッテコイ。キサマラトアソンデイルヒマナド、オレニハナイ!」
考えるのは後だ。
今は早く
「これで良し!暫くはあの化物を止めることが出来る筈だ。
少々計画に支障が出たけどこれなら大丈夫」
豪太が戦闘を繰り広げている場所から少し離れた所には一人のテラフォーマー…いや、テラフォーマーに擬態した者が立っていた。
「ただ、あの化物も馬鹿ではないみたいだから其処が心配だな…
まあ、今はやる事をやるか。
一匹バグズ二号にテラフォーマー送り込んだし」
そのテラフォーマーにつられて多くのテラフォーマーが艦に向かうだろうがなーー
そう呟くとのそのそとバグズ二号の方角へ歩いて行った。
一方、バグズ二号では──
「遅いな…」
デイヴスは眉を潜めながら呟く。
何か異常が起きたのは確実だ、しかし一体どんな…?
豪太でも手こずる程の事態が発生したのだろうか、それとも……
不安が立ち込める中、
艦内に轟音が鳴り響いた。
『!?』
「全員薬を持てッ!注意を怠るな!」
デイヴスは怒鳴り声を上げながら的確な指示を出し、その言葉に従う隊員。
「マジか…」
誰かがそう呟く。
足音と共に部屋に来たのはーーー
「おい!今すぐに右側から離れろッ!」
怒号の声と共に入ってきたのはリーだ。
突然の事で右側にいる数人は戸惑いを見せて、動かない。ただ事ではない様子が余計に混乱を招いた。
「チッ!」
リーはせめて一人だけでもと一番近いマリアを抱き上げ、反対側に向かう。
マリアは抗議の声をあげようと口を開くが「艦長!何者かが来ています!もう、すぐそこまで!」
トシオ・ブライトの叫び声で塞がれる。
「何してる!?早く──」
リーはそれを聞き、必死に声を掛けるが
ボコンッッ!!!
間に合わなかった
壁をぶち破り、テラフォーマーが侵入した。
目の前で起きた事に驚き、硬直して動けない二人の隊員を一瞬で殴り殺し、仁王立ちするテラフォーマー。
血飛沫が飛び散り、小さな肉片が辺りに転がる。
それと同時に異様な生臭い臭いが漂う…
ーー艦内は遂に地獄と化した
しかし、誰もが恐怖で引き攣る中、動く者が居た。
ードナテロ・K・デイヴスー
彼が誰よりも先に前へ動いた。
薬剤を注入し、デイヴスは静かに言った。
「俺がやる」
ここから流れが変わってくると思います。