造られし害虫の王 ──The pest which is made── 作:バルシューグ
四話
デイヴスの肉体は膨れ上がり、筋肉はより強靭になる。
引き締まったその身体がデイヴスを更に引き立たせた。
デイヴスの昆虫能力──
それは
『パラポネラ』
蟻…昆虫の中でもトップの力を持つ生物である。
自重の100倍近くの物体を持ち上げる事が出来るそのパワーは『最強』と呼ばれても可笑しくはない。
デイヴスのバグズ手術のベースとなったパラポネラは『最強の蟻』と呼ばれ、そのあまりの獰猛さと一咬みで銃に撃たれた様な痛みを与える事から──
弾丸アリ、と通称される。
「お前ら、逃げろ!」
デイヴスはテラフォーマーと対峙しながら叫ぶ。
「……ッ!
ダメです艦長!外が…」
トシオが答える。
「なに!」
その答えに驚き、デイヴスはテラフォーマーから目を離した隙に──
「囲まれ…───ッ‼︎」
顔面を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられた。地面は凹み、デイヴスの頭はそのへこみの中に埋まっている。
テラフォーマーを突き動かす物…
それは人間のゴキブリに対するそれと同じ、純粋な敵意…
「艦長ッ!」
「クソ!」
ティンが焦りの表情を見せながら叫ぶ。後ろでは他の隊員が
「こっちも何とかしないとヤバイぞ…」
窓を覗きながら言った。
「あの野郎…!
まだなのか⁉︎」
リーはテラフォーマーを警戒しながら呟く。
「ぎじょ…」
テラフォーマーが一歩、踏み出そうとした瞬間──
ガシッ
デイヴスは立ち上がり、テラフォーマーの後頭部を掴み、持ち上げた。
デイヴスの頭からは血が流れ、ダメージが有るのはわかる。
しかし、テラフォーマーの一撃を凌いだ、この事実が隊員の小さな希望となる。
俺たち人間もテラフォーマーに対抗出来る、と…
デイヴスはテラフォーマーの腰を掴み、上半身をうならせて一気に地面に叩きつけたーーー
轟音が辺りに響き、半壊する地面と
共にテラフォーマーの首は折れる。
「ギィ…!ギ…ギィ…ギィ」
テラフォーマーは断末魔を上げて絶命した。
その時、ティンは考えた。
──一匹なら勝てるかもしれない…
でも…!
100匹じゃあ…──
「オレが囮になる
その隙にお前らは車で逃げろ」
デイヴスは隊員達にそう告げた。
「……出来ません
それに100匹近くいるのにどうやって…」
トシオは疑問を上げる。
デイヴスはナイフを取り出し、
「こいつの腸から──」
答えようとした時
「ぎ、ぎじょじょ」
3匹のテラフォーマーが艦内に侵入した。
「⁉︎…こんな時にッ!」
デイヴスは再び構えるが突然、
テラフォーマー達が白目をむき、倒れる。
倒れた死体は脊髄が抜かれ、切り裂かれた後がある。
その傷をつけた者の正体はテラフォーマーの死体を踏みつけている豪太だった。
「ソノヤク、オレガヒキウケヨウ」
豪太はニヤッと笑いながら言った。
しかし、
豪太の身体にはヒビが多数有り、口からは血が流れ出ている。
その傷跡から今までどれほどの戦いとなっていたのかが伺える。
圧倒的な力を持つ豪太でさえ、これ程の傷を負うという事もまたテラフォーマーの強さを物語った。
デイヴスは静かに口を開き、話す。
「…残念だが、それは出来んな。
これは俺がやるべき事「アンタガコノカンノ、キャプテンナノハワカッテイル。ダカラコソヤラナケレバイケナイコトモナ」…」
しかし、俺はデイヴスの言葉を区切り、話す。
少々強引だが何としても仲間を助けなければならない。
そのためにわざわざバグズ一号周辺の
「アンタニハ、マモルベキモノガアルハズダ。アンタニハ、ツタエナキャナラナイコトガ、アルハズナンダ。チキュウニ、ナ。……ソウダロウ?」
「オレニハニンムヲハタスコトノミダ。ソノニンムツイデニダレカヲタスケタイ、ソウオモウコトハダメカ?」
俺は俺の思いを話す。
デイヴスは俯き、少し間をあけた後、告げた。
「…わかった。この場を、頼む…不甲斐ない俺の代わりに…」
「マカセロ、ソレニチャントキャプテンシテルサ。ミンナオナジオモイノハズダ…」
隊員達は頷く。
「艦長!胸を張ってください!俺たちも艦長の部下であることを誇りに思っています!」
小吉が代表して話す。その表情からは本当に感じている事だと伝わってくる。
「…ありがとう」
「ヨシ、デハコイツノチョウカラ、シュウゴウフェロモンヲツクル。
ソウスレバ、ヤツラヲヒキツケテ、トジコメラレルカモシレナイ」
ゴキブリは本来、集合フェロモンのある巣の中で密集して生きているのだ、その特性を利用する。
「…豪太、それなら俺も残るぜ」
小吉のその発言に全員が注目する。
「小吉、何言ってんの!」
奈々緒が反論する。
小吉はその言葉を無視して続ける。
「もう一人、俺も残ればやつらを引きつけるだけじゃなく、全員…殺せるかもしれない」
『!?』
「…どういう事だ」
デイヴスが聞き返す。
「豪太が出来るだけ多くの敵を艦内に誘い込んだら俺が緊急用の
「た、確かにそれなら…」
「長時間真空状態の中では奴らも…」
数人の隊員がその案に賛同するかのように頷く。
「なるほど…だが小吉、お前がやらなくてもいい、それこそ俺が──」
デイヴスが言葉を続けようとするが
「俺は反対だ。そんな事をしたらお前も、変わりをしようとしている艦長も豪太も死ぬ」
ティンはそれを遮り、言った。
「どのみち引きつけるだけじゃヤツらはまた襲ってくる!!
これはチャンスだ‼︎‼︎」
ティンに向かって小吉は怒鳴るように告げる。
「違う、お前と艦長には…守るべき者があるだろう。
それなのに死んでどうする…
それで今そこにいる彼女がお前にいい顔をすると思っているのか」
ティンは淡々と考えを話す。
「…」
小吉が奈々緒の方に振り向くとその顔は不安気で、瞳が微かに震えているのが見えた。
「オレたちは…
国も宗教も違う、けど
きっと大切な部分は共有しているんだ…‼︎」
ティンは小吉を見ながら話す。
「お前と艦長は生きて帰って…
守るべきものを守りきれ!!
二人自身の手で…!」
小吉は俯くが、すぐに顔を上げてまた辺りに声を掛ける。
「じゃあどうする!
どのみちチャンスは今しかねぇ!
他に誰かがやんのか!?」
その問いに隊員達は顔を逸らした。
「……あ、ああ俺が──「面倒くせェ…早く決めねぇんならオレが残ってやるよ」!?」
今度は一郎がティンの言葉を遮り、言った。
「こん中で一番命に価値が無いのはオレだ。顔見りゃわかんだろ。
…それにオレの契約金は既に実家に届けてある、ねぇ艦長」
一郎はデイヴスを見て言った。
「……」
その沈黙が肯定だという事はこの場にいる誰もが理解した。
「ソウカ、キマッタナラナラバサッサトスルゾ」
今、時間を使うのは惜しい。
さっさとここはするべきだろう。
壁の穴からはテラフォーマー共が覗き込んでいるしな。
「…ホラ、ハヤクイケ。
ジカンガナインダ、ハヤクシロ!」
「シャコデ、サンジュウビョウマテ。ソノコロニハヒキツケオワッテイルハズダ」
俺は侵入してきたテラフォーマーを殴り倒しながら言った。
「イキロヨ…
サア、イケェェェ!!」
その言葉で一斉に動き出したようで俺はひとまず安心した。
「テラフォーマー…オマエラノスキニハサセンゾ。
イチロー、ウシロハタノム」
「ああ…」
さあ、こっからが正念場だ!
ここから一郎達の裏切りに対してどう行動するかで状況が変わる…
判断は慎重にしなければならない。
俺は手を握り締めて心の中で呟いた。
「みんな!
車庫のハッチが開いたら全力で車にしがみついてくれ!
オレの”特技”で飛ぶ!!」
車庫に着き、この状況からの脱出に向いている能力を持つデジャスが薬剤を持ちながら叫ぶ。
「残り10秒だ!ハッチを開く!」
ハッチが開き、外が見えるようになるとその近くにいた数匹のテラフォーマーが中を覗き込む。
「気付かれたぞ!」
「まだ外にいやがる‼︎」
小吉や他の隊員が叫ぶがティンは
「そのまま出せッ!」
と叫んだ。
ゴキブリは自分に対して高速で向かって来るものに対して全力で逆方向へと逃げる。
テラフォーマーにもそのための尾葉が残っていたため、ティンはそう判断して叫んだのだ。
指示に従い、デジャスは飛ぶ為の準備を完了させ──
───口に空気を吸い込み、勢い良く発射する
風を物凄い勢いで切る音と共に車は一気に進む。
体に掛かる力を耐える隊員達…
「振り切ったァーーー!!」
バグズ二号から車は遠く離れて止まる。
「皆、無事だ。
豪太…一郎…2人のおかげだぞ」
デイヴスは小さく呟いた。
「すげぇぞ!デジャス!」
小吉はそう言ってデジャスの肩を叩いたが…
そこに有ったのは首から上がないデジャスの亡骸だった。
「なッ!」
「キャアアア!!」
誰かの叫び声と驚愕した声が辺りに響く。
その時、ティンは遠くに見えるバグズ二号の方を見て思った。
掴み掛かったという事か…この超高速の車に対して…
前方からは光が差し込み、火星の夜明けを告げていた。
「火星の夜明けって…青いんだな…」
今まで激しい殺し合いが続いたためか、隊員達はその光景はとても神秘的に感じていた。
全員が見惚れている中、横を見た小吉が発見したのは
「…おい!あれ…」
古びてボロボロになっていたバグズ一号の姿だった…
デイヴスはその機体を見ながら言う
「…これは調べる必要があるな。
副艦長、皆に伝えてくれ」
「はい、わかりました」
「もしかすると少しでも
デイヴスはこれからどうするかを考える為にも探索は必要だなと感じるのであった。
副艦長、明明はバグズ一号の中を探索することを隊員達に伝え、それを聞いたティンが言った。
「行きましょう!それに…もしかしたら動くかも…!」
「そう願いましょう…」
明明は静かにそう呟いた…
「では、今からバグズ一号の内部を探索する!」
デイヴスはそう告げ、隊員達を引き連れてバグズ一号へと向かった。
ティンの会話だらけになってしまった…
気をつけなければ…