造られし害虫の王 ──The pest which is made── 作:バルシューグ
八話
『 あ あ あ あ'' あ''』
四人は唸り声をあげて敵に立ち向かう。連続での注射により四人の姿はよりベースの昆虫へと近づいた。
「奈々緒!お前は小吉の援護に向かえッ!ここは俺たちが抑える!」
「でも…!いいんですか!?」
デイヴスの言葉に疑問を持つように奈々緒は言った。
辺りには艦内を埋め尽くさんとする程にテラフォーマーが居るのだ、猫の手でも借りたい状況だろう。
「なに…入り口を見てみろ!
マリアとリーが援護に来ている…!
わかったなら行けッ!」
入り口の方を見ると、確かに二人が変態した姿で立っていた。
「…はい!」
二人が生きていた事に喜びを感じながらも奈々緒は小吉を助けに向かう。立ちはだかる者は容赦無しに糸で切り裂いた。
「行ったか…
お前らッ!こっからは本気で行くぞ!!!」
『おう!!』
デイヴスの声に合わせて四人は応えた。
サバクトビバッタの翅が黒く延長し、肉体への負担と引き替えに──
ティンの背中に大きな翅が現れる。
ティンの背後にテラフォーマーが迫る、が
──最古の害虫が目を醒ます
ティンは振り返り、テラフォーマーの腹部目掛けて腕を振るう。
その動作だけでテラフォーマーは上半身と下半身の二つに切り離れた。
サバクトビバッタは大量発生の際、食料の足りない生育環境に置かれると、翅が長く、真っ黒い体色の
『群生相』へと変化する。
飛行能力を得た群生相のバッタ達はとりわけ獰猛になり、草も人の食糧も全て食い尽くしていく。
ティンはその大きな翅を拡げ、空中を舞い、テラフォーマー達の元へと行く。
各地の文献では古来より、降雹や疫病と同様に数えられ───
──
ティンは空中からそのまま足でテラフォーマーを蹴り裂いた。
まるで紙を破くようにその肉体を両断されていくテラフォーマー…
ある者は下顎に渾身の力を込めた膝蹴りで頭部を破壊され、またある者は同族と共に瞬時に切り裂かれていった。
その増援にいこうとするテラフォーマー達はデイヴスの手によって肉体を砕かれる。
リーは薬の多量摂取によって強くなった爆風を使ってテラフォーマーの動きを止める。
たとえ、殺すことは出来なくとも──
ーー時間は稼げる。
マリアはその隙に迷彩効果で見えなくなった体を活かして、リーの能力で動きを止めたテラフォーマーに近づき、手に持ったナイフ二本でテラフォーマーの喉元を斬り裂いた。
──戦える!──
その場にいた五人は思った。
勝てる、と…
ティンの周りにいたテラフォーマーは全て切断され、絶命した。
薬の多量摂取により、内臓へのダメージからティンは血を吐く。
「ハァ…ハァ…」
膝を着き、意識は盲ろうとした。
戦わなければ…
ティンはそう考え、立ち上がった。
「おおお!!」
声を張り上げ、一郎はスキンヘッド型テラフォーマーに張り手を突き出す。それを上手く躱し、一郎の片足を足で挟んで折り曲げる。
「ぐ……ッ」
一郎は苦痛の声をあげ、その無表情に自分を見るテラフォーマーを睨みつけた。
一方、小吉は───
「ガァッ…!」
自らが繰り出した拳は躱され、テラフォーマーが繰り出した拳は顔面に命中した。
鼻と口からは血が垂れ、脳はその衝撃で揺れる。
強い…
小吉がそのテラフォーマーに抱いた想いはただそれ一つだった。
『───彼らに
ゴキブリを殲滅できるとお思いですか!?』
本多は声を荒げ、ニュートンにそう言った。
「……ひとまずは見届けるしかあるまい…
彼らの戦いを」
ニュートンはそれに対してそう答え、画面を眺めた。
「あ、
日本はそうじゃないんだよ…!!」
本多は自分の思いを吐き出してそう叫んだ。
「グ……グッ…」
小吉は毒針を掴まれ、何とか抵抗しようとしたがーーー
ビキッ
そのままテラフォーマーに毒針を折られ、その痛みの苦痛で表情を歪めた。
「ゴキブリは近づいている。
いや、と言うより…
ニュートンはそう呟いた。
「これも全て、決まっていた事か…
ラハブが地球に種を蒔いた時から───
啀み合う運命だったのだ。
同じ郷里を持つ筈の人と、ゴキブリは」
「コンの………!」
一郎はテラフォーマーの顔面を掴み、ギチギチと締める。
テラフォーマーの顔は歪み、皺が顔中に出来た。
「キモチ悪いツラしやがって……
よ おォオオ!!!!」
一郎はそう叫び、そのままあり得ない速さでテラフォーマーの顔面を地面に叩きつけ、首をへし折った。
その様子を見て安心した他の四人はそれぞれ構えをといた。
ティンは再び膝を着き、自らの体に違和感を感じた。
……さっき蹴られた時に内臓を傷めたか…それとも…
ティンの様子がおかしい事に気づき、一郎は振り返り、マリアが駆け寄る。
デイヴスとリーは辺りに危険がないか見回し、一郎たちの方に視線を向ける。
すると、一郎の背後に動く物影の存在を確認した。
ティンもそれに気付き、驚愕の表情で一郎に声を掛けようとする。
「イチ…!」
そのただならぬ表情でまだテラフォーマーが生きていることに気づいて後ろに振り返るが…
喉元を掴まれ、力を込められる。
テラフォーマーはニマニマと笑みを浮かべて一郎の首を更に締める。
必死に振り払おうと抵抗する一郎だが、時間が経つほどに手に力は入らなくなり、とうとう抵抗すら出来なくなってしまった。
ティンは咄嗟に明明の腕を持ち、一郎の元に走った。
それをテラフォーマーは足を使ってティンに蹴りを入れようとするがー
「うっ…!」
マリアが両腕を使ってソレを受け止める。しかし、その衝撃で片腕は切断し、ポトリと落ちる。
その隙を狙ってデイヴスがテラフォーマーの足を掴み、力の限り折り曲げる。
更にティンが明明の腕でテラフォーマーの両腕を切り裂く事でテラフォーマーは地面に倒れる。
リーがそのテラフォーマーの前に立ち、ウッドが所有していた銃を構え、撃った。
「俺らの、勝ちだ」
「小吉!」
テラフォーマーと睨み合う中、小吉は自分を呼ぶ声に耳を傾ける。
「奈々緒!?何で…!」
声の正体に驚きつつ、テラフォーマーからは目を離さなかった。
「援軍よ、援軍!!
今からあたしが糸でそいつの動きを止める!その隙に───」
「わかった!」
小吉は奈々緒の言葉に頷き、構える。テラフォーマーも構えようとするがーー
「ぎじょ!?」
細くも強靭な糸がテラフォーマーを締め付け、身動き一つ許さなかった。
小吉は踏み込み、今だし切れる力の全てを拳に込めてテラフォーマーの頬を殴り飛ばした。
その威力は奈々緒の糸をも断ち切り、壁へとテラフォーマーを吹き飛ばす。
更に、壁をも破壊して外にテラフォーマーは突き出していった。
小吉と奈々緒はデイヴス達がいる場所に戻る。
そこでは首が千切れた明明の姿と、疲労仕切った一郎、マリア、ティンが佇んでいた。
「マリア!生きていたのか!……なあ?艦長は?」
小吉は尋ねた。
「艦長はリーと共に豪太の所に行った。小吉…三人が戻ったら撤退する」
一郎が答えた。
「そうか…リーも生きていたか!
……やはり、全てのゴキブリとその卵を破壊することは俺たちでは無理、いやまだ不可能だな」
「…ああ」
そう呟いた後、別の扉から三人が戻ってきた。
豪太はリーに方を担がれ、やっとの事で歩いているようだった。
デイヴスはその後ろで通常の一回りも二回りも大きなスキンヘッド型テラフォーマーの死体と、比較的損傷の少ないテラフォーマーの死体を数匹分持ち、歩いている。
「このバグズ二号に用意された脱出ポットは六つだ。
元々は豪太の任務用に余分に用意されていたがーー
その内、二つのポットにこのテラフォーマーのサンプルを入れ、残りの四つで俺たちは脱出する。
一人だけ一つの脱出ポットを独占出来るが、それは豪太が乗る事に決めた。おそらくこの場の誰よりも傷が酷いからな…
ティンも内臓の損傷があるようだが反対に介護も必要だろう。
豪太は再生出来る様だから介護も必要ない。
何か、他にあるか?」
デイヴスの言葉に反論する者はいなかった。
そして七人は脱出ポットに乗り込み、地球へと向かった。
「ゴキブリが火星であれほどの進化を遂げた…
それ自体は我ら人類は予想していなかった───
だが、同時にバグズ二号での検証により、明らかになったことがある…」
ニュートンはある場所に向かい、足を止めた。
その目の前にはある一種類の苔が存在していた。
「これは 既に我らが祖先が蒔いた苔ではない。
入れ替わっている!!」
ニュートンは苔を眺めながら呟いた。
「ラハブめ…死してなお、神気取りかッ…!!」
何かを睨むような表情でニュートンは静かに言った…
2599年、火星友人調査
バグズ二号計画、中断…
乗組員バグズ手術成功者、
15名中、生存者ーーー
───6名と1人
「日本に降りる気だな…彼らは…
U-NASAが歓迎しないと知っての事だろうが…
余計なものを持ち帰らなければいいがな…
備えなければ…
次なる脅威に───」
ニュートンはそう言い、歩いて行った。
しかし、豪太は忘れていた。
自らが乗って来たポットの存在を…
その中には食料として多くの生物が乗っていた事を…
これでバグズ二号編は終わりです。
次からの投稿は地球での出来事からです。