【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:菅原リディ

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009 選びあいっこ

「なぁカズマたちは知ってるか? 魔王軍の幹部の一人が、湖の上の崖にある古い城を占領したらしいぜ」

 

 ギルドに併設された酒場の一角で、俺はカズマやゆんゆんと一緒に、昼間から酒を飲んでいる冒険者グループと話していた。

 

 最初はカズマと俺とゆんゆんだけだったところに酒を飲んでいる冒険者グループが加わって今に至る。俺とゆんゆんは完全にコミュ障を発揮して見事に聞き専になっていた。しかし。

 

「魔王軍幹部か……」

 

 ぽつりと俺が漏らす。

 

「なんだリョウタ、お前さん戦う気でもあんのか、意味深につぶやいて」

 

「いや、なんでもないんです」

 

 斧を装備したの戦士風の男にそんなことを言われて真顔で返答する。

 

 俺やカズマが倒さなければならない存在の一人だが正直戦う気はない。なにせ。

 

「魔王軍の幹部ねぇ。物騒な話だけど俺たちには縁のない話だよな。だってレベル低いし」

 

「ちげえねぇ」

 

「だよな!! 」

 

 カズマの言葉に冒険者たちが同意する。

 

 そう、カズマの言うように俺たちはレベルがまだまだ低い。魔王軍幹部などとはまともに戦いになるわけがない。それに俺のこの世界でやることはもっと他にある。ゆんゆんを護ることとかだ。

 

「魔王軍幹部ともなれば、アークデーモンだったりオーガロードやリッチーだったり絶対そんなのでしょうしね」

 

 眼鏡をかけた槍使いがそう口にする。

 

「リッチーかー……やっぱりリッチーてやばいんだな」

 

 ウィズさんのことを思い出し俺は冷や汗をかいた。

 

 魔王軍幹部級の存在に俺たちは相対してたのかよ。

 

「なんにせよ北のはずれにあるその廃城には近づかないほうがいい。なんでこんなところにやってきたのかは知らないが。相手は魔王軍幹部様だ。しばらく廃城付近でクエストをやるのは避けておこうぜ」

 

 

 

 

 

 

「全く話せませんでした……」

 

「カズマはすごいよな、だれとでも話せて。同じ元ヒキニートだとは思えない

 

 俺とゆんゆんはカズマや冒険者グループと別れて二人で自分たちのコミュ力のなさに嘆いていた。

 

「リョウタさんとめぐみんとは自然に話せるんですけどほかの人は難しいです」

 

「俺もゆんゆんとカズマ以外の人に対してはまだまだ委縮してしまう。どうしたもんかだな」

 

 コミュ障はこの世界で生きていく上では治しておいた方がいいものだ。情報収集をするうえで妨げになってしまう。このモンスターは柑橘類のにおいが苦手だから体につけておくと寄り付かないなどの冒険者として生きる上での豆知識。それら価値のある情報を仕入れ辛いからだ。

 

「コミュ力を上げる魔道具とかあったらいいのになぁ」

 

「そうだねぇ」

 

 俺はゆんゆんの夢想につくづく同意した。

 

「でも、話しやすい人がいるのはやっぱりいいですね。リョウタさん」

 

「ん? 」

 

「いつもありがとうございます」

 

 いきなりこの子は女神な顔してなんてことを言い出すんだ。全く。

 

「こちらこそありがとう」

 

 俺は照れて、ゆんゆんの顔をまっすぐ見れないまま、お礼を述べた。

 

 

 

 

 

 それから数日して。俺とゆんゆんはあの時収穫したキャベツの報酬を受け取ることになった。

 

「どうぞリョウタさん、ゆんゆんさん。報酬の40万エリスです」

 

 窓口でルナさんにいきなり高額のお金を渡される俺たち。

 

「何に使おうかなぁ? 」

 

「すごい額だな……キャベツ捕まえただけなのにこんなにもらっていいんですか?」

 

「お2人が捕まえたキャベツは経験値豊富だったのでこの額なんですよ」

 

 ルナさんがそう言って微笑んだ。

 

「なるほど。キャベツ来てくれてよかった」

 

「貯金しましょうか? 」

 

「俺は装備を整えるためにも使うとするよ」

 

「そうですか、なら私は……」

 

「あの後ろで待っている方がまだまだいますから窓口でお話しするのはその辺で……」

 

「「すいません」」

 

 俺とゆんゆんは2人でルナさんと後ろに並んでいた冒険者パーティーに謝罪して、酒場の席に座る。

 

「それでさっきの話の続きなんだが、装備を整えようと思うんだ」

 

「リョウタさんの防具、前衛なのに薄い金属のアーマーだけですからね……。心もとないですよね。トード系のモンスターには金属を身に着けているだけでも十分効果的ですが、私と一緒にこれからも森でレベル上げをするには前回初心者殺しに肉薄されたときみたいに危機に陥るかもしれませんし……頑丈な方がいいと思います」

 

「うん」

 

「私は新しいワンドでも買おうかな」

 

「いいね」

 

 ゆんゆんの使っているマジックワンドは結構使い古されていて色あせていた。新調してもいい頃合いだろう。

 

「あ、そうだ、リョウタさん。お互いの欲しいものを選びあいっこしませんか!? それってすごく友達同士らしいと思うんです!! 」

 

 目を輝かせながらゆんゆんはそんな提案をする。

 

「OKだ」

 

 断る理由が無いし、断ってはダメなやつな気がするから俺は即答した。

 

「やった!! 」

 

 喜んで満面の笑みになるゆんゆん。

 

 しかし友達か……。やっぱりゆんゆんから見て俺は友達なんだな……。

 

 ちょっと残念に思いながら、しかし心のどこかで安心しながら俺はゆんゆんと街へ繰り出した。

 

 

 

 

 

 

「緊張する」

 

「ん? どうしてリョウタさん? 」

 

「なんでもないよ」

 

 いざ街の外に二人で出てみると、装備の選びあいが、まるでカップルのやるようなことのようで緊張している自分がいた。

 

 ゆんゆんとこれではまるでデートだ。

 

 ゆんゆんとデート。デートか……。何という幸せ。そしてなんという想定外だろう。自分の人生計画に美少女とのデートなど存在していなかった(そもそも人生計画自体存在していなかった気もするが)。

 

「そろそろ鍛冶屋につきますね!! 私がリョウタさんに似合う鎧を選んで見せますね。友達として!! 」

 

 そんなに意気込まなくてもいいのに。嬉しいけど。

 

 というかゆんゆんにとって友達と何かをするというのはとてつもない楽しみなのだろう。なんというかめぐみんも言っていたこの子のチョロさ……付け入られそうな隙はここなんだろうな。

 

「ゆんゆん。友達ってワードを出されたからって何でもするようになってはいけないぞ」

 

「え? 藪から棒にいきなり何を? 」

 

「今のゆんゆん見てると『私たち友達だよね? だからお金くれよ』って言われても断らなさそうに見えるんだ」

 

「ええ!! そ、そんなことないですよ……」

 

 目を逸らすゆんゆん。なんだこの反応?

 

「まさかすでに経験済みなのか!? 」

 

「ちちち、ちがいます、というか変な言い方しないでください!! 」

 

 顔を紅潮させながら抗議するゆんゆん。あれ、俺変な言い方したっけ?

 

「と、とにかく大丈夫ですよ。友達はお金をカンパしたりしないもの。わかってます」

 

 今カンパって言ったか。お金くれよでこんな返事が返ってくるということは。

 

「……やはり経験済みじゃないか」

 

「も、もうリョウタさん!! 言い方!! 」

 

「言い方のどこに問題があるんだ!? というか、もうカンパとかしちゃダメだぞ!! カンパを迫ってくるような輩はそれ友達とは言わないからね!! 」

 

 まともに友達のいなかった俺の言うことではないかもしれないが。

 

「わかってますよ。もう大丈夫ですリョウタさん。それと言い方に問題あるのに気づかないんですか!? 」

 

「経験済みのどこに問題がって……あ」

 

 そういうことか。確かに言われてみればナニを経験したかどうかという風な言い方に聞こえなくもない。

 

「ごめんゆんゆん。それと、なかなかエッチだな君は。そんなこと連想するだなんて」

 

「エッチ!? どこがですか!? 私はそういう風に聞こえるから抗議しただけでして……。というか、エッチさなら私のスカートを『窃盗』したリョウタさんの方がエッチじゃないですか!! 」

 

「ちょっ!! 周りに人がいるからそれを言うのはやめてくれ!! せめて一般人にはわかりづらいスティールと言ってくれよ!! 」

 

 俺は、周囲にいた街の人に白い目で見られることになった。

 

 そんなこんなありながら俺たち二人はまず鍛冶屋に入店した。ゆんゆんが店の人に許可をもらい様々な鎧を吟味していき、やがて一着の鎧に目を付けた。

 

「これなんかどうですか? 頑丈さと身動きのしやすさから考えてピッタリだと思います。色的にもリョウタさんの黒を基調とした普段着にもメリハリがついて合ってると思いますし……」

 

 ゆんゆんが選んだのは要所要所に装甲が割かれたタイプの白色の鎧で、今俺が付けている元革製の金属アーマーよりも格段に生存率を上げてくれそうなものだった。

 

「早速試しに装着してみるよ。店主さん、いいですかね」

 

「おういいぞ、兄ちゃん」

 

 店主さんに許可をもらって試しに装着する。結構重いがフィット感や護られてる感があって悪い感じはしなかった。何よりゆんゆんが選んでくれたのだ。悪いと感じるわけがない。

 

 俺は装着した状態で試しに少し歩いてみる。

 

 うん、いい感じだ。

 

「これにするよ。ゆんゆん」

 

「はい!! 」

 

 俺が気に入ったのがうれしいのかとてもいい笑顔を見せるゆんゆん。俺は彼女にお礼を言う。

 

「選んでくれてありがとね。店主さん、これ一着ください」

 

「毎度あり!! 13万エリスだよ」

 

 こうして俺は新たな鎧を手に入れた。

 

 

 

 

 

「次は俺の番だね」

 

「お願いします」

 

 俺とゆんゆんは鍛冶屋の次は魔道具店に来た。最初はウィズさんの店に行くという案もあったのだが、前回のことを根に持たれていて報復されてはとてもではないが敵わないのでアクアと一緒の時に行くことにして今日は断念した。

 

「えっと、マジックワンドを見せてください」

 

「どうぞこちらの棚です」

 

 店員に言われた棚を見ると多種多様なマジックワンドが並んでいた。どれも先端にマナタイトや水晶と思わしきのパーツが取り付けられていてきれいだ。

 

「どれにしようかなっと」

 

 ゆんゆんの色のイメージは紅魔族なのだが紅というよりピンクや黒のイメージだ。したがって彼女に似合いそうな色は個人的には白だ。

 

 なんだか俺の鎧を選んだゆんゆんと同じみたいだなと若干苦笑しつつ、彼女に似合いそうなマジックワンドを探す。

 

 その間ゆんゆんはそわそわしながら俺の方を見つめ続けていた。

 

「……そんなに見つめられると選びにくいんだけど」

 

「す、すみません……」

 

 ゆんゆんは顔を赤くして縮こまる。

 

 俺は気を取り直して商品のマジックワンドたちとにらみ合う。

 

 ゆんゆんに似合うやつ、ゆんゆんに似合うやつ。失敗は許されない。ここで失敗すれば人生の汚点となるだろう。失敗続きのダメな人生だがここでだけは失敗できない。

 

 俺の頬に変な汗が流れるのを感じながら、一つのマジックワンドを俺は指さした。

 

「こ、これとかどうかな、ゆんゆん? 」

 

「あ、はい」

 

 俺が選んだのは薄紫色の水晶が先端についた白いグリップに金の装飾のついたワンドだ。

 

「いいですね!! 綺麗……」

 

 どうやらお気に召した様子だ。

 

「これにしますねリョウタさん!! あのこれください!! 」

 

 店員にマジックワンドを手に取り、差し出すゆんゆん。

 

「ありがとうございます。そちらのマジックワンドは27万エリスになります」

 

「に、27万!? 」

 

「あ、そういや値段なんてものがこの世にはあったことを忘れてた」

 

 何という失態だ。予算は20万エリスと決まっていたのに……だがしかし!! ゆんゆんが気に入ってくれた以上、これ以外のマジックワンドという選択肢はない。

 

「俺が足りない分は出すよ」

 

 ちょうど今の俺には7万エリスのあまりがある。これがあればちょうど買える金額だ。

 

「そんな悪いですよ」

 

「でもこれ気に入ってくれたんだろ。だったら俺もお金出すよ。俺が選んだワンドだしね」

 

「リョウタさん……いいんですか? お金くれとかいうのはダメとか言ってたそばからこれは……」

 

 戸惑いながら俺の方を見るゆんゆん。

 

「構わないよ。7万エリスは日ごろお世話になってる分のお返しのプレゼントだと思って」

 

 俺はきっぱりと言い切った。

 

 少しの間黙り込んだゆんゆんだったがやがて。

 

「わ、わかりました。それじゃあ、その、お金一緒に出してください」

 

「喜んで」

 

 こうして俺とゆんゆんは無事気に入ったワンドを購入することができた。

 

 

 

 

 すっかり夕方になってオレンジになった街の中を宿屋に向けて歩く俺たち。

 

 俺は鎧を装備した状態で。ゆんゆんはワンドを胸に抱えたまま歩いていた。

 

「えへへ、友達が選んでくれたワンドかー……大事にしますね。戦いには使わないようにしますもったいないですし」

 

「いやそこは使おうぜ、もったいないし」

 

 それにゆんゆんが使わないとなると俺もこの新しい鎧を使い辛くなる。

 

「でも初めて友達が選んでくれたものですし……。これは記念品として金庫に入れて厳重に保管しないと……」

 

 そわそわしながらマジックワンドを死蔵する宣言をするゆんゆん。

 

「その気持ちはうれしいけどさ。装備を整える目的で買ったんだから……使わないと宝の持ち腐れだよ」

 

「うう、わかりました。じゃあ傷つけないように細心の注意を払いながら使いますね」

 

 しぶしぶと言った風に俺の提案を聞き入れるゆんゆん。うーん心配だ。この子を見ているとマジックワンドを大事に扱うことを優先して身の危険に直結すらしそうに思えてくる。

 

「でも一番大切にしなきゃいけないのは自分自身だからねゆんゆん。間違っても危機的状況でそれを優先するようなことが無いようにね」

 

「リョウタさん……」

 

 ゆんゆんが突然足を止めて俺の方を見る。何事だろうかと思い。

 

「ん? どうしたんだい? 」

 

 と、聞いてみると。

 

「なんだかリョウタさんってお兄ちゃんって感じですね」

 

 少し恥ずかしそうにしながら、そんな予想外の返答が待っていた。

 

 お兄ちゃんか……。悪くない。でもなんでそんな風に思った?

 

「何でお兄ちゃん? 」

 

「私のこと、すごく心配してくれたりするところが、なんだかお兄ちゃんって感じがしました。私ひとりっ子ですけど、仲のいい兄妹ってこんな感じなのかなって思って」

 

「兄妹か……」

 

 妹がゆんゆん。だとしたらなんと幸せな兄だろう。こんなかわいくてかわいい妹など居たら片時も離れず側にいたくてたまらないだろう。

 

「ごめんなさい!! 変なこと言って」

 

「ぜんぜん!! それよりもお兄ちゃんって言ってみてくれ!! 俺に」

 

「ええっ!? 」

 

「いいから早く!! 」

 

 ぜひともゆんゆんに言われてみたいセリフだ。

 

「あうぅ……お兄ちゃん」

 

 もじもじしながら上目遣いでそう口にしたゆんゆん。

 

「……なんてかわいいんだ!! もっと言ってくれ!! 」

 

 俺は人目も気にせずにゆんゆんにお兄ちゃん呼称を求める。するとゆんゆんは羞恥心からか少し涙目になって。

 

「リョウタさん、私に前に『お父さん』って呼んでほしいって言ってきた方みたいです……」

 

「そんな奴もいたのか……」

 

 俺の頭の中が一気にクールダウンした。この子に悪い虫がつかないように護るのもまた俺のこの世界でのやることになりそうだ。

 

 ……すでに俺が悪い虫だとかは思ってはならない。




 買い物デート的なものです。
 現段階ではリョウタはゆんゆんにとって、めぐみんとは別ベクトルでの大切な友達と言った存在です。
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