【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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010 聖なるグーの威力

 俺とゆんゆんが装備を整えた翌日。ギルドに併設された酒場の一角にて。俺とゆんゆん、カズマたちはたまたま会ったので話していた。カズマたちもキャベツ狩りの報酬を無事受け取ったようで各々装備を整えたりしたようで……。

 

「なぁカズマ見てくれ、報酬が良かったから修理を頼んでいた鎧を少し強化してみたんだがどう思う? 」

 

「なんか成金っぽい。貴族のボンボンが付けてる鎧みたいだ」

 

「私だって、普通に褒めてほしい時もあるのだが……カズマはどんな時でも容赦ないな……ハァハァ……」

 

 落ち込んだり興奮したりと忙しいダクネス。

 

「ちょっと、はしたないわよめぐみん、その動き止めなさい!! 」

 

「無理です押さえられません!! このマナタイト製の杖の色つや、ははぁぁぁぁ。この杖で爆裂魔法を撃つのが楽しみで仕方がありません」

 

 ゆんゆんに注意されるめぐみんは新調した様子の杖を抱きしめ股と頬をこすりつけている。

 

 動きが実にエロくて眼福だ。あとやっぱり紅魔族はおかしい(ゆんゆん以外)。

 

 ちなみに一発屋で爆裂魔法を放ったら何もできなくなるめぐみんと防御しか本人曰く取柄のないダクネスがキャベツ狩りで儲けた理由はそれぞれ、めぐみんが爆裂魔法でキャベツを追ってきたモンスターをまとめて始末したことと、前線を立て直すきっかけを作ったことを評価されて。ダクネスはキャベツを追いかけてきたモンスターを片っ端から自分へと引き寄せていたことが評価されて報酬が出たからとのことだ。

 

「おいめぐみん、変態性がダクネスを超えてるぞちょっと自重しろ」

 

「くっ!! 私は普段からカズマにこのようないやらしい振る舞いをしているように思われているのか」

 

「うん、思うよ」

 

「んんっ!! 」

 

 カズマのそっけない即答にもだえるダクネス。

 

「大変だなカズマ……お前のパーティー癖が強くって」

 

「本当だよ。それに比べてゆんゆんはいいな優等生で。どっかの一発屋と違って本物の魔法使いだし」

 

「おい、だれが偽物の魔法使いなのか聞こうじゃないか……!! 」

 

 エロい動きをやめてカズマに突っかかるめぐみん。それを無視するカズマはため息をつきながら。

 

「絶対このパーティーで魔王討伐とか無理だわー……」

 

 そう言ってうなだれた。

 

 ……失礼ながらそうだろうな。

 

「元気出せカズマ」

 

 俺はカズマの背中をやさしく叩いた。

 

「うん」

 

 そんなことをしていると。

 

「なんでよぉぉぉぉぉ!! 」

 

 聞き覚えのある叫び声がギルド内にこだました。

 

 この声は言うまでもない。アクアだ。

 

「どうしたんだろうな? 」

 

 俺たちにそう問いかけるダクネス。

 

「さぁ? なんだろうね……」

 

 だいぶ話すのに慣れてきたダクネスに俺は返答する。

 

「ああ、嫌だなー。絶対なんかあったぞアクアのやつ」

 

 カズマが頭を抱えてアクアの声のした方を見る。俺たち全員がそれに続いて声のする方を注目する。

 

 アクアがルナさんの胸ぐらをつかみ、いちゃもんをつけている。

 

「どうして報酬が5万ぽっちなのよ!! 」

 

「それが、アクアさんが捕まえたのは全部レタスでして……」

 

「何でレタスが混じってるのよぉぉーうわぁぁぁん!!!! 」

 

 何というか本当ににぎやかな女神様だ。

 

「なんだかアクアさんっていつも泣いてる気がします……」

 

 そう言って苦笑するゆんゆん。

 

 やがて、ルナさんとの押し問答を終えて泣き止んだアクアは、こっちを見てにこやかな笑顔を作りながら歩いてきた。

 

「ああ、こっち来る嫌だなー……」

 

「まあまあ、そう言ってやるなカズマ」

 

 カズマの言うように、アクアの視線は彼に向けて固定されている。

 

「カーズーマーさーん。今回の報酬はおいくら万円かしら? 」

 

 アクアはまさしく女神な笑顔でカズマの顔を覗き込みながら彼の報酬額を聞く。

 

 すると、予想だにしない一言をカズマが言い放った。

 

「……100万ちょいだ」

 

「「「「「100万!?」」」」」

 

 俺にゆんゆんにアクアにめぐみんにダクネス。全員の絶句した声が重なる。

 

「カズマお前100万エリスも儲けてたのか!? キャベツ狩りで!? 」

 

「す、すごい……私とリョウタさん二人合わせて40万エリスだったのに」

 

「俺の捕まえたキャベツは経験値が豊富だったんだよ。それでこの額だ」

 

 俺とゆんゆんがあれだけ頑張って、捕まえたキャベツにも経験値もそこそこ詰まっていたうえで合計で40万だというのに、どれだけすごいんだカズマは。本人の努力なのか幸運値の差なのかあるいはその両方なのか。

 

 俺がカズマに感心しているとアクアは作った笑顔で。

 

「ねぇカズマさん? カズマさんってその前から思ってたんだけど、そこはかとなくいい感じよね? 」

 

「特に褒めるところが無いなら無理して褒めようとすんな!! ……言っとくがこの金の使い道は決めてるからな、分けないからな」

 

 カズマの一言にアクアの笑顔は凍り付き、そして再び泣き出した。

 

「カズマさぁぁぁん!! お願いよお金貸して!! 今回の報酬が相当な額になると見込んでたから私持ってたお金全部使っちゃったんですけど!! ていうか、この酒場に10万近いツケまであるんですけど!! 」

 

「知るかよ!! いいか、俺はこの金を使って、いい加減この馬小屋生活を脱出するんだよ!! これは新たな拠点を手に入れるための金だ、分けないからな!! というか、報酬を今回山分けにしないって言いだしたのはお前だろ!! 」

 

 協調性が無い女神だなおい。元ヒキニートが言うのもなんだが。

 

「だってだって!! 私だけ報酬独り占めできると思ったんだもの!! 」

 

「最低だなお前……」

 

 ひきつるカズマの顔。めぐみんやダクネスも呆れていた。ゆんゆんもまたアクアを見る目が悲しかった。

 

「お願いよぉぉカズマさん!! ツケ払う分だけでいいからお金貸してよぉぉぉ!! そりゃカズマも男の子だし馬小屋で夜中ごそごそしてるのも知ってるから、早くプライベートな空間が欲しいのはわかるけど!! 」

 

 え、今なんて?

 

 それってアレしてるってことだよな!? そんなのをこんな場でばらされるなんて不憫でしかない!!

 

「いかんぞカズマ!! その女神を黙らせろ!! 」

 

「わかってる!! よーしアクア!! 5万でも10万でも出してやるから黙ろうか!! 」

 

「ん? どういうことだカズマ? 」

 

「ダクネス、聞いて差し上げるな」

 

 俺はダクネスに無表情で語り掛ける。するとダクネスは気圧されたのか、「あ、ああ」と言って顔を逸らした。

 

「どうやらアクアにカズマは弱みを握られているようですね……どうしたのですかゆんゆん。そんな顔を真っ赤にして」

 

「よ、夜中にごそごそって……それって……」

 

「よーしゆんゆんも黙ろうか!! お金ならいくらでも出すから!! 」

 

 カズマがゆんゆんに縋りついた。

 

 めぐみんの言うように顔が真っ赤なゆんゆんはどうやら気づいてしまっているようだ。やっぱりエッチな子じゃないかゆんゆん。

 

 

 

 その後、俺とゆんゆんは森でのクエストを探して掲示板を見ることになった。カズマたちは魔王軍幹部が引っ越してきたせいで弱いモンスターが隠れてしまっているらしく引き受けられる依頼が無いとのことなので各々好きなことをすることになったようだ。アクアは借金は無くなったが無一文なのでクエストが無いことを嘆きながらバイト雑誌をめくっている。

 

「アクアさん、なんだかかわいそうですね……」

 

「仕方がない自業自得だ。ところでゆんゆん? 」

 

「はい? 」

 

「ここにあるクエスト、俺達でもきつくないかい? なんだよ、グリフォンとマンティコアの縄張り争いを止めてそのうえで両方とも撃滅せよって……こんなの初心者向けじゃないだろ……」

 

「あはは、そうですね。でもこの一撃グマ討伐クエストなら何とかなりそうですよ。何度か自警団時代に相手しましたし」

 

 標的の一撃グマは、一撃で人の頭を刈り取るほど強靭な前足がその名の由来のモンスターだ。討伐依頼の出ている個体は森に長らく生息していて今まで何人かの冒険者を退けてきた猛者と依頼書に書いてあったが討伐経験の経験豊富なゆんゆんがいれば何とかなるだろう。

 

「なるほど、なら受けてみるかそのクエスト」

 

「はい!! 私たちならやれますよ、リョウタさんに選んでもらったマジックワンドもありますしね!! 」

 

「うん、そうだね。俺にもゆんゆんが選んでくれた鎧があるから防御は万全だ」

 

 二人で顔を見合わせたあと、やがて笑う。そんな心地のいい雰囲気の中に、割って入るものがいた。

 

「ねぇお二人さんちょっといいかしら? 」

 

 それはさっきまで半泣きでバイト雑誌で仕事をあさっていたアクアだった。

 

「何用ですか、アクア様」

 

 何となく雰囲気を壊されて腹が立ったのでよそよそしく様付したがアクアは逆に調子が良くなった。

 

「あら、私を様付で呼ぶだなんていい心がけね。ねぇ神殺し。あなたアクシズ教に入信する? 」

 

 ニコニコとしたかわいらしい笑みでそんなことを言ってくるアクア。

 

「アクシズ教? 」

 

「アクシズ教はこの私、女神アクアをご神体とする宗教で、その教義は……」

 

「アクシズ教は絶対だめですよリョウタさん!! あそこ変な人しかいませんから」

 

 ぴしゃりとゆんゆんが言い切った。

 

「ちょ!! ゆんゆん!! 私の信者たちはみんないい子ばかりよ!! 変な子じゃないわ!! 」

 

「ごめんなさい。でも身に染みてあの人たちのおかしさは味わったので……」

 

 遠い目をして語るゆんゆん。いったい過去にアクシズ教徒とか言うアクアをあがめる存在と何があったのだろうか? 今度聞いてみよう。

 

「納得いかないけれど、まぁいいわ。神殺しにゆんゆん。私を臨時パーティーとして雇う気はないかしら? 」

 

「「臨時パーティー? 」」

 

「ええ、一撃グマと戦うんだったらこの偉大なアークプリーストにして女神のアクア様がついていたほうが安心できると思うの。主に怪我や死亡時に役に立つわ。雇いなさいな!! あ、もちろん報酬は山分けでいいわよ」

 

 確かに回復役がいてくれた方が安心できる。問題行動が多いらしいが、一応女神だし信頼してもいいだろう。

 

「どうするゆんゆん? 俺は回復役がいてくれるならその方がありがたいしアクアには臨時でパーティーにはいってもらいたいんだが」

 

「そ、そそ、そうですね、あの、アクアさん。不束者ですがよろしくお願いします」

 

 臨時とあってもパーティメンバーが増えるとあってかなり緊張気味でどもりながら返事をするゆんゆん。

 

「よっし!! 決まりね、それじゃあ早速一撃グマ討伐に向かいましょうか!! 」

 

 

 

 

 

 

「何で私ばっかり狙われるのよぉぉぉぉ!!!! ブレッシングだってかけてるのにぃぃぃ!!!! 狙うなら前衛の神殺しを狙いなさいよ、いきなり後衛のアークプリーストを潰しに来るとかありえないしぃぃ!!!! アーもう早く助けて神殺し、ゆんゆん!!!! 」

 

 森の中、現在アクアが一撃グマに追い回されていた。

 

 経緯としては、ちょくちょく見つけたモンスターにアクアがちょっかいをかけては対峙する羽目になり道中かなりの戦闘回数を踏んだ俺たちは、ついに一撃グマに相対した。そして早速一撃グマの討伐を開始したのだが、長らく森の中に住み続けていた猛者ということもあり頭が回るのか、前衛の俺たちを無視して突撃し、いきなり後衛のアクアに牙をむいたというわけだ。

 

「早く何とかしてぇぇぇ!!!! 」

 

 アクアが泣き叫びながら必死に一撃グマから逃げ続ける。逃がさんと言わんばかりに咆哮を上げながらアクアを追跡し続ける一撃グマ。

 

「何とかしたいのは山々なんですが、アクアさんがこうも逃げ回っていると魔法の狙いが定まりません!! ど、どうしましょう!? 」

 

「とにかくこっちに一瞬でも気を引いて抹殺するしかないだろうね!! 」

 

 俺は走りながら弓を構えて矢を放つ。何度も何度も放ち続け。やっと一発一撃グマに命中した。

 

 これでこっちに気を向けてくれと祈ったが、一撃グマはこちらに意を介さずアクアを追い続けた。

 

「いやぁぁぁ!!!! もういやよ!! こうなったら女神の神聖な拳でぶん殴ってやるわ!!!! 」

 

 そう言って全力ダッシュをやめて立ち止まるアクア。

 

「バカ!! 何してるんだアクア!! 立ち止まったら終わりだぞ!! なにがなんでも走れ!! 」

 

 道中無策に立ち回ってきたこの女神のことだから何らかの策があるとは思えないのだが。

 

「そうですよアクアさん諦めないで!! 」

 

 ゆんゆんもまた魔法を放ちながらアクアを諭すが、アクアは立ち止まったままだ。

 

「まずい!! 」

 

「アクアさん!! 」

 

 このままだとアクアが一撃グマの前足で頭を刈り取られてしまう。そうなっては彼女の正規のパーティーメンバーであるカズマたちに顔向けできない。

 

「足を止めるなぁぁぁ!!!! 」

 

 俺が精いっぱいアクアに叫ぶのだが彼女は聞く耳持たず、その場で構えると。

 

「神の力思い知れ!!!! ゴッドブロォォォ!!!! 」

 

 アクアが叫びながら拳を突き出した。その瞬間、俺とゆんゆんは目を疑う光景を見た。

 

 アクアの拳に神聖さを感じさせる光を放つ赤い炎がまとわりつき、一撃グマがその前足を振るうよりも早くその腹に拳が突き刺さったのである。そして、一撃グマは悲鳴を上げながら後方へと弾き飛ばされた。地面を数回バウンドして俺とゆんゆんのちょうど目の前に転がってきた一撃グマ。腹には拳の跡がくっきり残った状態でけいれんしていた。

 

「何という威力」

 

「すごいアクアさん……!! 」

 

 口々に今の状況を飲み込み切れずアクアのゴッドブローの威力にただただ驚く俺とゆんゆんはあおむけに倒れ伏した一撃グマと目が合った。

 

「……とりあえず死ね」

 

 俺は神殺しの剣を一撃グマの喉元に突き立てて横に切り裂いた。血が噴き出し、一撃グマは抵抗できずに悶えた後、絶命した。

 

 ふと冒険者カードを見るとレベルが7になっていた。

 

「よくやってくれたわね神殺し!! 理解したか一撃グマ!! これが神に牙をむいた罰よ!! 」

 

 子供のように一撃グマの死をはしゃぐアクア。

 

「アクアさんってステータスどうなってるんだろう……」

 

「さぁ? ただ神なだけあってきっとカンストしてるんじゃないかな? 」

 

「え、リョウタさん……その、あの虚言をやっぱり信じてるんですか? 」

 

 ゆんゆんから困り顔と懐疑的な視線を向けられる俺。

 

「……信じるのやーめた」

 

 その視線に耐えきれなくなり俺はそんなことをゆんゆんに向けて呟いた。

 

 まぁ実際、今日一緒にクエストしてみて女神らしさなんて今のゴッドブローのやばさ以外体感しなかったし、性格面ではいろいろ破綻しているのを思い知らされた。正直女神かどうかは戦闘能力以外疑わしいな。

 

 俺は性格以外は高スペックな女神アクアに憐みの視線を向けた。




アクア様って素晴らしいですよね。私はアクシズ教の教義のおかげでうつ病が少しマシになったので本当にアクア様を崇めています。

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