【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:菅原リディ

12 / 100
011 勇者殺しのベルディア襲来

 一撃グマを討伐して一週間が経過した。一撃グマの肝は高く売れ俺にゆんゆんにアクアはキャベツで儲けたカズマほどではないにしてもそこそこの額を稼ぎ、まともなクエストが受けられなくてもそこそこの贅沢をしながら生活できるだけの余裕ができた。

 

「最近は森でのモンスターも活動してなくて生活費が減る一方ですけど。本当にあの時一撃グマを討伐しておいてよかったですね」

 

「そうだね」

 

 宿屋のゆんゆんの部屋でボードゲームに朝から興じながらそんな雑談をしていると。

 

「緊急、緊急!!!! 冒険者各員は直ちに武装し、戦闘態勢で街の正面ゲートに集まってください!!!! 」

 

 ルナさんの切羽詰まったアナウンスが街中に広がる。アナウンスの中には街の一般人は今すぐ避難するようにとの旨の内容もあった。

 

「よっぽどの事態みたいですね、急ぎましょうリョウタさん!! 」

 

「ああ、わかった、急ごう!! 」

 

 俺とゆんゆんはボードゲームを放り出して、正面ゲートに向かった。

 

 

 

「おお、リョウタ!! ゆんゆん!! 」

 

 正面ゲートに俺とゆんゆんが到着すると完全武装した冒険者の集団の中にカズマたちもいた。

 

「いったい何が? 」

 

「それが、あそこにいるやつ、魔王軍の幹部らしいんだ。そいつが何でかここに来たんだよ」

 

 カズマが指さす方を見ると、前方20メートルほど離れた先に灰黒い鎧に身を包んだ首のない騎士がいた。自身と同じく首のない馬にまたがり、小脇には、兜をかぶった頭部を抱えている。

 

「あれって……なんだ、アンデッドか? 」

 

「ああその一種のデュラハンだよ。首なし騎士だ。死の宣告とかしてくる奴」

 

 ゲームに詳しいらしいカズマがその知識を生かして説明してくれる。

 

「アンデッドなら神殺しが起動してるはずだ。……やっぱり」

 

 俺は鞘に入った神殺しの剣の柄に手を触れると、しっかりと能力が機能しているのが体に流れ込んでくる力で理解できた。

 

「でも変ですね。あそこにいるだけだなんて。街を攻撃するわけでもなさそうですし……」

 

 ゆんゆんがデュラハンを見てそうつぶやく。その他大勢の冒険者たちも何もしてこない魔王軍幹部を怪訝に思い同じようなことを口々に言っていた。

 

「だけど神殺しの剣は反応してるから敵意が無いってわけでもなさそうだ。警戒しておこう」

 

「わかりました」

 

「わかった、お前らも身構えとけよ」

 

 ゆんゆんとカズマが俺の忠告を聞き、カズマは自身のパーティーにもそれを伝達する。

 

「ええ!! 」

 

「はい」

 

「わかった」

 

 そんなことをしていると、デュラハンが突如、声を張り上げて。

 

「俺は最近この街付近の廃城に引っ越してきた魔王軍幹部、ベルディアという。貴様らに問いたいことがある!! ま、ままま毎日……毎日毎日毎日、ポンポンポンポンと、毎日欠かさず俺の城に爆裂魔法を放ってくる大バカ者は誰だぁぁぁぁぁ!!!! 」

 

 ベルディアと名乗った魔王軍幹部は爆裂魔法を使う者に嘆いた。

 

 どういうことだ?

 

 俺がベルディアの怒りの理由を理解できず戸惑っていると、俺の横で息をのむ音がした。その音を出したのはゆんゆんだ。

 

「どうしたゆんゆん? 」

 

「い、いえ……まさかその大バカ者って……」

 

 ゆんゆんがある方向を向く。

 

「爆裂魔法……」

 

「爆裂魔法といえば」

 

「いるな爆裂魔法使うやつが」

 

 他の冒険者もある一方向を見始めた。

 

「爆裂魔法と言えば……めぐみんか」

 

 俺はゆんゆんや他の冒険者に遅れて爆裂魔法で思い当たるただ1人の人物の方を見た。視線が集中しためぐみんは冷や汗をかきながら、そっぽを向く。すると、その方向がたまたまウィザードの少女の方であり、その子の方に冒険者全員に視点が移動した。

 

「えっ、私? なんでみられてるの? わ、私、駆け出し冒険者だし爆裂魔法なんて使えないよ!? い、いや、まだ死にたくない!! 小さい弟たちだっているのに……!! 」

 

 ウィザードの少女は泣き始めた。そりゃそうだ。冒険者全員からお前が犯人か、さっさと前に出ろと言いたげな視線を向けられているのだから。

 

 どう考えても犯人はめぐみんだろう。ゆんゆんはめぐみんの方をじっと見ている。

 

 めぐみんは震えていた。顔も青ざめている。極度の恐慌状態と見えた。

 

「めぐみん、大丈夫? 」

 

「…………」

 

 しかし、一度深呼吸しめぐみんは何を思ったのか冒険者の輪の中から外れベルディアの前に歩み出た。

 

「ちょ、ちょっとめぐみん!! 何考えてるのよ!! 殺されちゃうわよ!! 」

 

 ゆんゆんがめぐみんに駆け寄る。おいゆんゆん、前にうかつに出るんじゃない!!

 

 俺もゆんゆんが心配で……うかつにも前に出た。

 

「用があるのは爆裂魔法の使い手だ関係ない者は下がれ」

 

 ベルディアは俺たち3人に低い声でそう言った。

 

「あなたの用のある爆裂魔法使いは私です!! 我が名はめぐみん!! アークウィザードにして爆裂魔法を操る者!! 」

 

「……めぐみんってなんだ? ああそう言うことか、その芝居がかった名乗り、貴様紅魔族だな」

 

「いかにも私は紅魔族です。そして私があなたの城に爆裂魔法を放っていた犯人です」

 

 めぐみんの堂々たる犯人宣言。ゆんゆんは「めぐみんはバカなの!? 」とそばで嘆く。

 

 デュラハンはというと。

 

「そうか……お前が犯人かぁぁぁぁ!!!! 俺が魔王軍幹部だとわかっているのなら堂々と攻めてくるがいい!! それができないなら街で震えているがいい!! ねぇ何でこんな陰湿な嫌がらせみたいなことするのぉ!? 雑魚しかいない街だと思って放置しておれば、毎日毎日爆裂魔法を放ちよって!!!! 頭がおかしんじゃないのか貴様!! 」

 

 めぐみんに向かって激昂した。

 

「す、すすすいません、この子頭がおかしい子でして、もう爆裂魔法を撃たせたりしないので許してくださらないでしょうか? 」

 

 ゆんゆんが涙目でベルディアに訴えかける。

 

「ほう、素直に謝るか。よし、聡明な方の紅魔の娘よ、貴様に免じてその爆裂魔法などというバカな魔法を使うバカが謝り今後俺の城に爆裂魔法を放たないというのなら許そうではないか。さぁ爆裂魔法使いよ、俺に謝罪せよ!! 」

 

 ゆんゆんの涙目を見れば誰だってこういう判断をするよな、うん。ナイスだゆんゆん。

 

 俺はゆんゆんの涙目をかわいいと感じながらそんなことを心の中で呟いていると。

 

「今、爆裂魔法をバカな魔法とおっしゃいましたか? 」

 

 めぐみんがわなわなと震えながら問いかける。

 

「ああ、確かに言ったぞ? それがどうした……? 」

 

 その返答に、……めぐみんはキレた。彼女はベルディアに食って掛かる。

 

「私は爆裂魔法をこの世の何より愛しています!! それをバカにするとは許せません!! こちらには対アンデッドのエキスパートだっているのですよ、今からあなたを成仏させてもらいます!! ふふアクア、お願いします!!!! 」

 

「おいおい!! 丸く収まりそうだったのに、バカなのかいめぐみん!! 」

 

 俺はめぐみんの愚かさに舌を巻いていた。好きなのはわかるがさすがにこの場では自重するべきだろう!! おまけに喧嘩を売るとは……。

 

「バカとは何ですか!? あなたまで言うのですかリョウタ。紅魔族随一の天才ですよ私は!! 」

 

「天才ならこの状況を切り抜ける最善策が普通わかるだろう!! 君はバカなんだぁ!! 」

 

 そんなこと言い合っていると。

 

「仕方ないわね……!! アンデッドとあらば私の出番よ、あんたのせいで一撃グマに追い回される羽目になったんだから覚悟しなさいデュラハン!! 」

 

 アクアが叫びながら俺たちの横に並び立つ。その手には蕾がついた純白の杖が構えられている。

 

「ほう、アークプリーストか。だがこんな低レベルな街のアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはおらんよ」

 

 デュラハンが一瞬でアクアのクラスを言い当てると、呆れたという仕草をした。

 

「とにかく、爆裂魔法を撃たないというのであれば俺は貴様らを見逃してやる。どうだバカな方の紅魔の娘よ。もう爆裂魔法は俺の城に撃たんと誓えるか!? 」

 

「無理です。私たち紅魔族は日に一度爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

「ちょ、そんなわけないじゃない!! 」

 

「聡明な方の紅魔の娘の言う通りだぞ!! そんなバカな話があるかバカ!! とにかく、爆裂魔法を撃つのをやめる気はないと……そう言うことだな」

 

「はい。今の私は大きくて硬いものを攻撃することに病みつきになってしまったので。それにあなたの城に一度もダメージを与えられていないままなんて悔しいではありませんか」

 

 めぐみんが即答する。

 

 この子は本当にバカな子だ。

 

「ならばここはひとつお前を苦しませてやろう」

 

 ベルディアのめぐみんへと突き出した手が赤黒く輝き始める。何かが来る。ここはめぐみんに回避するように指示を出すべきだろう。

 

「めぐみん避けろ!! 」

 

「なんだか知らないけど私の力で浄化してやるわ!! 」

 

「間に合わんよ、汝に死の宣告を。お前は一週間後に死ぬだろう」

 

 そして赤黒い輝きはベルディアの手から高速で放たれ、めぐみんへとまっすぐ突き進む。そしてめぐみんに命中……しなかった。

 

「お前ら!! 」

 

「くっ、間に合わなかったか!! 」

 

 カズマとダクネスが駆け寄ってくる。

 

 赤黒い輝き。死の宣告を受けたのは……。

 

「あ、あぁぁぁぁ!!!! 」

 

「ゆんゆん!! 」

 

 ゆんゆんだった。めぐみんを押しのける形で庇ったのだ。めぐみんの悲鳴がこだまする。

 

 ゆんゆんは赤黒い光に一瞬包まれた後は力が抜けたようで地べたに座り込む。そんな彼女を介抱する心配そうな顔のめぐみん。

 

「ほう、しかし仲間意識の強い冒険者。まして同族であるバカな方の紅魔の娘にはこの方が応えそうだな。聡明な方には気の毒だがな」

 

「おのれよくもゆんゆんを!! 」

 

「クソっ、やられた、死の宣告かよ……」

 

 駆け寄ってくるダクネスとカズマの声がする。

 

 死の宣告……。ゆんゆんが死ぬ? この子が、一週間後に?

 

 そう思うと一瞬無気力になり、それに次いでとてつもない怒りの感情が自分の中で沸き上がったことが分かった。

 

「そんなふざけたことを……」

 

 俺の全身に力が入る。なぜ力が入ってるのかも分かる。俺が殺意を抱いたからだ。殺さなければならない。こんなふざけたことをした、こいつを、ベルディアを!!

 

 俺は無謀な戦いだとわかっているのに気づくと神殺しの剣を構えていた。そして、殺意のままに体を動かし……。

 

「ほう? なんのつもりだ冒険者」

 

「ゆんゆんの呪いを今すぐ解け!! 貴様ぁぁぁぁぁ!!!! 」

 

 激昂しながら、黒く光り輝く神殺しの剣で切りかかる。その瞬間、全身の身体能力が強化されて、文字通り一瞬でベルディアに接近した。俺が先ほどまでいた場所では土煙が舞っている。

 

「何っ!? 」

 

 ベルディアはとっさに馬から飛び降りる。俺の神殺しの剣は首なしの馬の胴体を縦一文字に切り裂き、真っ二つにした。馬はどこからか悲鳴を上げた後、切断面から粒子となって消滅する。

 

 これが神殺しの呪いの力。アンデッドだろうが悪魔だろうが神だろうが殺せる呪われた力。

 

「その剣、浄化の力が秘められているのか? いやこの禍々しさ、呪いか!! だが!! 」

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!!! 」

 

 俺の愛する人を殺させるものか、術者が死ねば呪いが消えるのはセオリーだ。何としても殺す。

 

 ベルディアが取り出した幅広なグレートソードと神殺しの剣がぶつかる。その瞬間、俺たちを中心に衝撃波が広がる。その衝撃波は周囲にいたカズマたちを身構えさせるほどに強いものだった。

 

 いける。これだけの力が今の俺にはある。これならば!!

 

「ベルディアぁぁぁぁ!!!! 」

 

 俺は連続で斬撃を行う。それらすべてをグレートソードを片手で巧みに扱い、弾いていくベルディア。

 

「やるではないか、そのパワーにスピード、並みの冒険者ではないな、貴様の名はまさかミツルギ・キョウヤか!? 」

 

「ちがう!! そんなことは、どうでもいいんだよ!! 」

 

「そうか、とにかく楽しめそうだ、名も知らぬ勇者!! 」

 

「勇者!? 」

 

 俺は斬撃を刺突に切り替えて連続でくり出す。それを全てベルディアは見切り、避けきる。

 

「勇者とは貴様らのような黒髪黒目の強力な力を持った冒険者のことを言うのだよ!! 」

 

 ベルディアがグレートソードを突き出す。それを俺はバックステップで回避する。

 

 俺は体勢を立て直すと再びベルディアと斬り結ぶ。剣と剣が何度もぶつかり合いそのたびに火花を上げた。

 

 反応速度やパワーは打ち合った感覚からして俺の方が上のはずなのに仕留められない。……クソ、技量で完全に負けている。

 

「なんだか知らねぇがあの冒険者まともにやりやってやがる!! 」

 

「俺たちも加勢すれば押し切れるんじゃないか!? 」

 

「ちげぇねぇ、行くぞお前ら!! 」

 

 俺とベルディアの戦闘にあてられた数名の冒険者も前に出る。全員が前衛職のようで武器を構え、一斉にベルディアへと襲い掛かった。さらに。

 

「……ソゲキッ!! 」

 

「セイクリッドターンアンデッド!! 」

 

 カズマが弓矢による狙撃の援護。アクアが杖を構えてベルディアの足元に魔方陣を生成。セイクリッドターンアンデッドで攻撃する。

 

 それらを、ベルディアはことごとく避けきり、打ち合い、無傷で生き残る。

 

「何としても殺す!!!! 」

 

 俺も再度、今度は後方に回り込んで神殺しの剣を突き出して一刺ししようと突進するが、それを読んでいたかのようにベルディアは体をいなして回避する。俺とベルディアはすれ違う。

 

「やるではないか!! だがまだ技量が低いな貴様は」

 

「それがどうした!! 」

 

 俺は再度ベルディアに突撃、正面から斬りあうがベルディアの鎧に攻撃がかすることすら無かった。

 

「俺たちも続くぞ!! 」

 

「押し切ってやるぜ!! 」

 

 戦いに参加している他の冒険者が一気にベルディアに肉薄していく。

 

「彼我の戦闘能力差も計れん雑魚どもが!! 少し本気を見せてやるとしよう……!! 」

 

 そう言ってベルディアは己の頭を上空に放り投げ、グレートソードを両手で構える。放り投げられた頭は上空の一定の位置で固定され巨大な魔眼の描かれた魔方陣を展開した。

 

 何かが来る、上空からの魔法攻撃か? 

 

 そんな予測を立てた俺だったがそれは外れた。

 

 ベルディアの本気とはすさまじい連撃だった。神の視点から状況を把握するベルディアの両手で握ったグレートソードからそれが繰り出される。そのことごとくが冒険者たちの首を正確に切り裂き死に至らしめた。

 

 そして、俺もまたその連撃を受けて手や足に切り傷を負った。

 

「リョウタさん!! 」

 

「っ……!! 」

 

 ゆんゆんの心配する声が聞こえる。首を切られずに済んだのは神殺しの剣でとっさにグレートソードを何度も弾いたからだ。そして切り傷程度で済んだのは防御力が神殺しの剣のおかげで押し上げられているからだ。

 

「反応速度も一級品か。防御力もかなり高い。……技量はまだまだだがお前を生かしておけば必ず我が魔王様を煩わせる存在になるだろうな……」

 

 ベルディアはそう言いながら己の頭をキャッチする。

 

「リョウタさん、私も一緒に前で戦います!! 」

 

 引き留めるめぐみんを振り払い、ゆんゆんが立ち上がってそう進言する。

 

「ゆんゆんはダメだ!! 絶対に!! 殺されるぞ!! 」

 

 俺はもちろんそれを止めた。だが。

 

「そんなのリョウタさんだって一緒です。そして一緒に戦った方が勝率は上がります!! 」

 

「ゆんゆん……」

 

 ゆんゆんの意見はもっともだった。確かに死を待つよりはここで一緒に戦った方が幾分かマシだ。

 

「ほう、聡明な方の紅魔の娘よ。大した胆力だ。貴様のように心の強き者には敬意を表すぞ」

 

 ベルディアの言うように、この子はどれだけの精神力がある子なんだろう。自分が一週間後に死ぬことにされているというのに絶望せずにあがこうという意思を持っている。

 

「なら一緒に行くぞゆんゆん!! 俺が前でゆんゆんが後ろだ!! 」

 

「はい!! 」

 

「俺も援護するぜリョウタ!! 」

 

「私も壁にくらいにならなれる!! 」

 

 ダクネスが俺の隣に並び立つ。カズマも後衛に回ってくれるようだ。

 

「第二ラウンド開始だベルディア!! 必ずお前をぶっ殺してやる!! 」

 

「いいだろう。かかってこい、と言いたいところだが!! 」

 

 ベルディアがゆんゆんに突撃した。

 

「後衛狙いかよ!! 」

 

 カズマがぼやきながら矢をつがえ。

 

「ゆんゆんはやらせるかぁぁぁぁ!!!! 」

 

 俺は大きく神殺しの剣を振りかぶってベルディアに肉薄する。が。

 

「バカめ!! これが狙いだ!! 」

 

 ベルディアが己の得物を俺に投擲した。とてつもない速度で迫るそれと、強化された身体能力故に加速していた俺は衝突する。防御力の上昇と鎧の存在もあって腹に突き刺さることこそ無かったが衝撃による大きなダメージを負う。グレートソードはベルディアの近くに吹っ飛び、俺はその場に倒れこんだ。

 

「リョウタさん!? 」

 

「お前はこの紅魔の娘に執着しすぎているからな。隙ができると思ったよ」

 

 そう言いながらベルディアはカズマが放った矢を片手でつかみ取り、ゆんゆんを徒手空拳でたたき伏せた。

 

「ぐっ!! 」

 

「ゆんゆん……っ!! 」

 

「このぉぉぉ!! 」

 

 ダクネスが大剣を構えてベルディアに驀進し、振り下ろす。が、それをステップで回避し腕をつかむと背負い投げでダクネスを投げ飛ばした。

 

 そしてベルディアは俺の方を向く。

 

 俺は反撃を行おうと体を動かそうとする。だが、痛みで体が動かなかった。そんな俺に。

 

「汝に死の宣告を。お前は明日、死ぬだろう」

 

 ベルディアは赤黒く輝く光をその手から放つ。俺の身体は赤黒い光がぶつかると同時に力が抜けた。

 

「なに……!? 」 

 

「お前には確実に死んでもらわなければならないのでな。死の宣告を使わせてもらった」

 

 死の宣告を俺にも? 俺は明日になれば死ぬということか?

 

 ベルディアの説明で俺の頭が身に起こっている事態を把握する。死の宣告をかけたベルディアは一仕事終えたという風にゆっくりと地面に突き刺さっていたグレートソードをつかみ上げ、背中に担いだ。

 

「許さない、よくもリョウタさんを……私の友達をぉぉぉ!!!! 今すぐ呪いを解いて!!!! 」

 

 体になかなか力が入らず這いつくばった俺の目の前でゆんゆんが怒り叫びながらベルディアにブレード・オブ・ウインドで切りかかった。マジックワンドから直接発生させているようでサーベルのように見えるそれをとベルディアのグレートソードがぶつかる。

 

「怒りに振り回された攻撃など!! 」

 

「きゃっ!! 」

 

 ゆんゆんのブレード・オブ・ウインドは簡単に切り払われその衝撃でゆんゆん自身が後方に転がされた。

 

 俺はやっと立ち上がると、転がるゆんゆんの後ろに高速で回り込み、抱き止める。

 

 追撃を加えてくるでもなくただその様子を見ていたベルディアはグレートソードを再度肩に担ぎめぐみんの方を向くと。

 

「さて、俺には弱者を刈り取る趣味は無い。魔王様の脅威も明日死ぬことになったわけだから帰らせてもらうとしよう。……そしてバカな方の紅魔の娘よ」

 

「っ!! ……な、なんですか? 」

 

 怯えた顔でベルディアの方を見るめぐみん。

 

「聡明な方の紅魔の娘の呪いを解いて欲しければ俺の城にこい。無事たどり着ければ聡明な方の紅魔の娘の呪いは解いてやる」

 

 そう言い残しベルディアは赤黒い炎に包まれるとこの場から消え去った。テレポートの一種だろうか?

 

 そんなことを考えながら俺はゆんゆんに肩を貸し立ち上がらせた。

 

「大丈夫かいゆんゆん? 」

 

「は、はい、大丈夫です。リョウタさんは? 」

 

「今のところなんともない」

 

 死の宣告を受けても体に変化は見られなかった。

 

「私も今のところは何ともなさそうです……。リョウタさん、死の宣告を受けてしまいましたね。しかも明日って」

 

「ああ。そうみたいだね」

 

 今のところ何の変化もないので実感がわかない。それよりもゆんゆんが死の宣告を受けたことが心配でたまらなかった。

 

「それよりもゆんゆんの死の宣告だ。俺のことはどうでもいい。君が死ぬようなことだけは何とかしないと」

 

「そんな、リョウタさんの命だって大事ですよ!! リョウタさんは私の数少ない、そして大事な友達なんですよ!! 」

 

 ゆんゆんが俺の手を両手で包み込むように握ってそう言った。

 

「ゆんゆん、リョウタ、ごめんなさい」

 

 そんな俺たちにめぐみんが頭を下げに来た。その体も、声も震えていた。

 

「俺のことはいいからゆんゆんをどうにかできないかな? 」

 

「そのために……今から私はあの魔王軍幹部の城に殴り込みをかけようと思います。そして爆裂魔法であの幹部を退治して二人にかかった呪いを解かせて見せます。待っていてください」

 

「勝算はあるのか? 」

 

「それはわかりません。ですがこれは私が招いた事態です。そして二人を巻き込んでしまった。これは何としても自分の手でどうにかしなければなりません。必ず二人の呪いを解きますよ」

 

 決意の表情をしためぐみんが頭を上げると彼女の瞳から涙が一筋こぼれた。よっぽど親友を死の宣告に合わせたのは応えたのだろう。そんな彼女に。

 

「お前ひとりじゃ行かせないぜ。俺もあれが幹部の城だってことを気づかなかった間抜けだしな」

 

「カズマ……」

 

 めぐみんの頭を帽子越しに撫でるカズマ。

 

「カズマも関係してたのか? 」

 

 俺は意外なことに驚きカズマに質問する。

 

「ああ、めぐみんをおぶって帰る役目で同行してたんだ。……そんなことより2人ともすまない」

 

 カズマが俺たちに頭を下げた。

 

「カズマ……」

 

「カズマさん……」

 

「私も同行しよう。あのデュラハンの攻撃を受ける壁役にはなれるはずだからな」

 

 ダクネスが俺たちとめぐみん、カズマに微笑みかける。

 

 すると。

 

「そんな必要ないわよ」

 

 アクアがさらっととんでもないことを口にした。

 

「お前、ゆんゆんに死ねっていうつもりか!? 」

 

 俺は激昂した。しかしそれを聞いても驚くこともなければ動じることもないアクアは冷静なままで淡々と言葉を紡ぐ。

 

「私のセイクリッドブレイクスペルで呪いくらい解いてあげるわよ。そんなに興奮しないのよ神殺し」

 

「え、解けるのですか? 」

 

 めぐみんが驚きながらアクアを見る。それは俺を含めたその他の人間も同様だった。

 

「できるわよ。まずはゆんゆんからね。セイクリッドブレイクスペル!! 」

 

「きゃっ!! ……あれれ? 」

 

 ゆんゆんの足元に魔方陣が展開され光の柱が立ち上ると、ゆんゆんの身体から赤黒い輝きが染み出てきて天へと昇りやがて消滅した。

 

「さすがリザレクションも使えるアークプリースト様だぜ!! 」

 

「本当に最高だアンタ!! 」

 

「よっ!! アクア様!! 」

 

「そうよ、もっと私を褒め称えて!! えへへ」

 

 どういうことだ。

 

 俺は目を疑う光景を目にしていた。ベルディアに切り殺されたはずの冒険者たちが生き返ってアクアを褒め称えている。

 

「何でアンタら生きてんだ? 」

 

「私ぐらいのアークプリーストだと死体をヒールで修復してリザレクションかけて生き返らせるなんて造作もないことなのよ」

 

「な、なるほど」

 

 すさまじいな女神の性能……。俺がアクアの高スペックさに再び驚かされているとめぐみんの声がした。

 

「ゆんゆん!! 本当にもうなんともないのですか!? 」

 

「う、うん。心なしか体も軽くなったし、確かに何かが抜けていく手ごたえを感じたからもう大丈夫だと思う」

 

 そうだ、そんなことよりゆんゆんだ。

 

「ゆんゆん、もう本当に大丈夫なんだな!? 」

 

「はい!! 呪いも解けたみたいです。アクアさん……ありがとうございます!! 」

 

 ゆんゆんがほっとした表情を浮かべた後、アクアに勢いよく頭を下げた。

 

「なんのなんの」

 

「次はリョウタさんをお願いできますか? 」

 

「任せなさいな、さぁ神殺し次はあんたの番よ、セイクリッドブレイクスペル!! 」

 

 俺の足元にもゆんゆんの時と同様の魔方陣が浮かび上がるそして光の柱が立ち上り、俺の身体から死の宣告が……解呪されることは無かった。赤黒い光が浮かび上がるのだが俺の身体を渦巻いたままはがれない。

 

「どうしたアクア? ゆんゆんの時のようにはいかないのか? 」

 

 ダクネスが首をかしげる。

 

「ちょっと待ってね……神殺し、その剣をちょっと手放しなさいな」

 

「了解」

 

 俺は神殺しの剣を地面に突き立て手を放す。

 

「じゃあ行くわよ。もう一回、セイクリッドブレイクスペル!! 」

 

 再度俺にセイクリッドブレイクスペルがかけられるが、やはり解呪される様子はない。

 

「あ、もしかして……神殺しの剣を使ったせいであんたも呪われて、神を殺す呪いの効果のせいで私の力をはねのけてるんじゃないの!? 」

 

「え、マジか? 」

 

 神殺しの剣を使ったから呪われて……神、つまりアクア由来のスキルが効かなくなってるのか……?

 

「そ、そんな……私の大事な友達が……リョウタさんが……」

 

 ゆんゆんが俺の横で崩れ落ちた。

 

「俺が死ぬ? 」

 

 ゆんゆんの呪いが解かれて安心したからこそだろう。俺は絶望的な状況にある実感がやっとわいてきた。




魔王軍幹部の中では一番ベルディアさんが好きです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。