【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
ベルディアが去って約4時間後。真昼間のギルドに併設された酒場の中で俺とゆんゆんとカズマたちは途方に暮れていた。理由は俺にかかった死の宣告だ。
あの後、アクアに手足の傷を治してもらう目的で試しにヒールをかけてもらったがやはりアクア由来のスキルは一切無効化されてしまった。そのためアクアの言っていた「神殺しの剣の呪いの影響を俺が受けている」というのはほぼ確定的になった。なので街中のプリーストに総当たりしてブレイクスペルをかけてもらったのだが、死の宣告の呪いの性能が桁違いすぎてどのプリーストのブレイクスペルも歯が立たなかった。
「このままだと俺、明日の朝9時ごろには死ぬのか……」
俺は再び訪れるであろう死に向き合っていた。正直死ぬのはそんなに怖くない。一度死んだ上に、これまで数々の命がけのクエストをこなしてきたからだ。しかし、心残りが多すぎる。もっとこの世界で生きていたいのだ。故に俺は人生の中で最も絶望していた。カエルに食われた時とは比較にならないほどだ。
「リョウタさん……」
隣に座っていたゆんゆんが俺の背中をさする。温かい。こんな温かさに触れているといっそうまだ生きていたくなる。
「やはり城に乗り込みます。そして私が必ずあのデュラハンを倒してリョウタの呪いを解かせて見せます」
「やっぱりそれしかないのか、俺は付いて行くとして、ダクネスにアクア、お前らはどうする? 」
「もちろん私も行こう。リョウタが死ぬのを黙ってみているわけにはいかないだろう」
「私も行くわよ。アンデッドを取り逃がしたことは女神として屈辱だわ!! 」
「わ、私も付いて行きます!! リョウタさんの呪いは必ず解かせてやるんだから!! 」
ダクネス、アクアに続きゆんゆんまでもが同調する。
「みんな、気持ちはうれしいがやめとけ。勝算が少なすぎる」
まだ生きていたいが大事なゆんゆんや、友達たちをわざわざ自分のために死地に送り込んでしまうというのは気が引ける。
「だとしてもです。……私のせいであなたが死ぬなど冗談ではありませんよ」
「めぐみんは責任感が強いんだなね……」
俺は抑揚のない声でめぐみんを褒めた。それを聞いて、さっきまでより余計責任を感じたのかめぐみんが悲しそうな表情をした。
「そんな顔しないでくれめぐみん。確かにこうなったのは君が原因だけどこうしようと思ってやったわけじゃないだろう……」
「そうですが……」
めぐみんは俺の言葉を聞いていっそう曇った。
「なぁリョウタ。正直俺はあのデュラハンとの戦いに勝算があるんだが」
カズマは俺にそう言って微笑みかける。勝算だと?
「……どういうことだ? 」
「え、あるのですか!? 」
「本当か、カズマ!? 」
「何か作戦があるんですか!? 」
わけがわからずみんな揃ってカズマに質問する。
「そりゃ私がいるんですもの、勝算なんてあるに決まってるじゃない。ねぇカズマ」
「うんそうだね。……あのデュラハン。あの時テレポートで帰ったのはなんでだと思う? 多分なんだが想像以上にリョウタが強かったから長期戦になると不利になると悟ったからじゃないのかって考えられないか? 技量ではリョウタが負けてる感じだったけどパワーやスピードなら本気になって剣を振り回してた時のデュラハンよりもお前の方が上って感じだったんだが……実際に剣で切りあってみてどうだった? 」
「確かに、技量で負けてその他で勝ってるって感じだった。と思う。正直、剣の腕なんてスキルまかせの我流なうえまだ経験も浅いからわからないけど直観的にそう感じた」
「だろ? とにかく……つまりだ。俺たちと一緒にお前もついてくれば勝算はあるんだよ」
「勝てるかもしれない……のか? 」
希望が見えてきた。俺は自分がまだ生きられるかもしれないことを知って心のうちから喜びが込み上げてくるのを感じた。
「ああ、ただやっぱり6人だけっていうのは少々心もとないからほかにも有志を集めてみようぜ」
こうして、俺たちは、有志集めを開始することになった。
のだが。
「一向に人が集まらないな」
俺と一緒にギルド内に突っ立っているカズマがぼやく。
ギルドの掲示板にベルディア討伐の協力要請の張り紙をして、ほかにも直接いろんなパーティーに戦力になるように頼み込んでみたが、誰一人として集まらなかった。正確には参加を承諾してくれたものも数名いたのだがみな一度ベルディアに殺されている血気盛んな冒険者であり、もう一度よみがえることは天界規定とやらで不可能なため参加を辞退してもらった。
希望が消えてきた。俺はさっきまで強く心に合った生きられる可能性があることへの喜びが小さくなり、絶望モードへ移行し始めているのを感じた。
「おいリョウタ、表情が死んできてるぞ!! 」
「……ごめん」
「いや、謝らなくてもいいんだけどな。というかこっちこそごめん」
そんなやり取りをしている俺たちに。
「ちょっといいかな」
話しかけてくる青年がいた。
その青年の姿は藍色に金のエングレービングの施された鎧を身にまとい、腰に俺と同じく大層な剣を装備していた。だが目を引いたのはそこではなく、彼の髪と目、肌の色だった。
色白だが黄色人種の肌の色に黒い目。地毛と思われる茶髪の髪。つまり彼は。
「まさか日本人か? 」
俺は青年に問いかける。彼は笑顔でその問いに答えた。
「そうだよ、僕も日本人だ。僕の名は御剣響夜。女神アクア様に導かれて勇者をやってるものだよ」
「まさか同郷の者にまた出会うことになるとは……」
カズマが息をのんだ。
「聞いたところによると君たちは魔王軍幹部、勇者殺しのベルディアと戦うそうじゃないか。僕らも協力させてくれないか? 人々を恐怖に陥れる魔王軍と戦うのは僕らの使命だからね」
「私はクレメア、よろしく!! 」
「私はフィオです、よろしくね」
黄緑髪のポニーテールと、ピンク髪の長めのおさげをした少女たちがミツルギの後ろから現れ挨拶する。
「それはありがたい。それとミツルギあんたもチート持ちなんだろ? 」
俺は歓喜しながら尋ねる。
「ああ、この魔剣グラムがある。これは女神様から頂いた僕の大切な剣だ」
ミツルギは笑顔で俺たちに腰の剣を抜き放ち、見せてきた。俺の物とは対照的に、聖剣と言ったたたずまいの剣だった。
「そうか、アクアからチートを授かったのか。……ちょっと待てミツルギ」
「なにかな? 」
カズマが怪訝な顔をしてミツルギに問いかける。
いったいどうした? 何か怪しむような要素でもあるのだろうか?
「お前ら、さっきベルディアが来たとき何してた? 」
言われてみれば確かに気になる。
「ベルディアがこの街にやってきたと聞いて、王都からここに戻ってきていたところだったんだ。それでさっきの戦いには参加できなかったんだ」
「それならいい。悪いな。……俺は佐藤和真だ。よろしく」
怪訝な顔から一転。笑顔でミツルギに自己紹介するカズマ。それに続いて俺も自己紹介をした。
「俺は加賀美涼太だ。よろしく頼む」
「よろしく。それと1ついいかなカズマ」
「なんだ? 」
「女神様をアクアと呼び捨てにするのはいくらなんでも失礼じゃないか? 第2の生を与えてくれた上、強力な力まで授かっておいて」
ミツルギは渋い顔でカズマにそう注意する。
それを聞いた瞬間、カズマは真顔になりミツルギに反論した。
「いや、お前。あれの正体知ってるのか? 女神とは程遠い酷いもんだぞ。それに俺はチートなんかあいつから授かってない!! 」
「どういことだい? それに随分女神様のことを知った風な言い方だけど」
「だって、俺、あいつを物としてこの世界に持ってきたし」
「は? 」
ミツルギが目を丸くした。しばらく俺たちの間に沈黙が流れる。やがてその静寂をぶち破るかのように、ミツルギの絶叫がギルド内に響いた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!? 」
「つまり君は女神アクア様を……あの御方を物扱いしてこの世界に連れてきたうえ、あまつさえ馬小屋生活を強いてるというのか!? 」
「そうなる」
「なんんてことだ、君ってやつは……」
カズマが、ミツルギにこれまでの経緯を話し終えると、ミツルギは頭を抱えていた。
「でも仕方なかったんだ、あいつ俺の死に方を煽ってくるし引きこもりのニート扱いしてくるしで相当嫌な奴だったんだよ。それで俺は腹いせにあいつをこの世界に引きずり込んだわけだ」
「ふざけているのかサトウカズマ!! 」
ミツルギが人目もはばからずカズマに激昂する。それに負けじとカズマも声を上げて。
「ふざけてるもんか!! 大体いつもふざけてるのはあいつの方だ!! 」
「そんな世迷言を。あの御方がふざけるわけないだろう!! 」
いや、ミツルギよ。残念なことにあのアクアは。
「アクアは確かに女神だけど普段から確かにふざけてるぞ。実際に見ればわかる」
俺はカズマを援護した。
「君までそんなことを言うのか、カガミリョウタ!? 」
「うん、あれの本性は酒飲んで騒ぐのが大好きでお金にルーズな駄女神だよ」
「だ、駄女神……!? 」
「誰が駄女神よ!! 」
騒ぎを聞きつけたのか、俺とカズマのように有志を集めていたアクア・ダクネスペアとゆんゆん・めぐみんペアがこちらに集まってきた。
「あ、アクア様、本当にこの世界に!? 」
ミツルギが驚愕の表情でアクアを見た。
「……あんた誰? 」
それとは対照的に冷淡な顔でミツルギに何者かと問いかけるアクア。
「何言ってるんですかアクア様!! 僕です、御剣響夜ですよ!! あなたに魔剣グラムをいただいた!! 」
アクアは首をかしげている。
「いったいどうしたんだカズマ、リョウタ」
「いや、彼らが俺の呪いを解くためのベルディア討伐に参加してくれることになったんだけど、アクアの話になったとたんに揉め始めたんだよ」
俺は状況を把握しようと説明を求めてきたダクネスにそう言った。
「アクアの知り合いなのですかこの人は? 」
「ううん……あ、思い出したわミツルギさんね。いたわねそんな人も。ごめんね、何人もこの世界に送り込んできたものだからすっかり忘れてたわ」
「そ、そうですか」
ミツルギは深く落ち込んだ。
お気の毒に。
「ええっと、とりあえずお久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として日々頑張っています。職業はソードマスターでレベルも37まであがりました」
「それはよかったわね、おめでとう!! 」
アクアがまさに女神と言った表情でミツルギに笑いかけた。それを見たミツルギは少し微笑んだ後。
「ところでアクア様、今馬小屋で寝泊まりしているというのは本当ですか? 」
「うんそうよ。カズマと馬小屋生活をしているわ」
「何ということだ……。アクア様、パーティーを移籍しませんか!? 僕のところに来てください!! そうすればあなたにそんな不自由な生活をさせませんので」
「おい貴様、礼儀を知らないのか。アクアのパーティーメンバーの前でいきなりそのようなことを口走るなど言語道断だろう」
怒り心頭と言った様子のダクネスがミツルギに食って掛かった。しかしミツルギは何食わぬ顔で。
「あなたは……見たところクルセイダーですか、それに後ろの二人の女の子たちは紅魔族のようだね。君たちも僕のパーティーに移籍するといい。こんな女神様に無礼を働くような輩たちと一緒にいてはいけない」
失礼な。無礼を働いたことなんて一度もない。礼節を持って接したことも一度もないけどな。
そんなことを考えている俺の横にゆんゆんが来て「大丈夫なんですか? この状況……」と聞いてきた。もちろん大丈夫ではない、まだまだもう一悶着はありそうだ。
「とりあえず様子見しよう」
一方で、パーティー移籍を勧められたアクアめぐみんダクネスは何かをささやきあっている。やがて。
「私たちは満場一致で貴様のパーティーには移籍しない、カズマのパーティーメンバーのままでいる。お前のような礼儀を知らぬ輩とは共にいることなどできない」
ダクネスがぴしゃりと言い放った。
「そう言うことらしいから、ミツルギ、俺のパーティーメンバーは全員お前のところにはいかないそうだ」
「な、なんだって、本当にいいのか君たちは、こんな男たちと一緒にいて。せめて僕のパーティーが嫌なら他のパーティーに……。そう言えば、紅魔族のもう一人の女の子、君はどうなんだい? 」
「わ、私はこの人たちとは別のパーティーです。このリョウタさんとコンビでやっていますので。それに今リョウタさんのピンチなのでこんな、くだらないことを言い争っている場合ではないんです」
厳しい表情でそう言い放つゆんゆん。
……嬉しいこと言ってくれる。それと当然とはいえ、ゆんゆんが移籍するなど言わなくて少し安心した自分がいた。
そして俺は、意を決してミツルギにあることを伝えようと思った。
「ミツルギ」
「なんだい、カガミリョウタ」
「ここまでこじれると実戦で連携なんか取ってられないだろうから一緒にベルディアを討伐するのは無しにしよう」
「ああこちらからも願い下げだね、それとサトウカズマ!! 」
「なんだよ」
ミツルギがカズマを睨みつけながら声を荒げた。カズマは平然とした顔でそれに対応する。
「アクア様をそんな境遇の中には置いておけない。君はアクア様を物としてこの世界に持ってきたんだろう。だったら、僕と勝負をしないか、僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったらなんでも一つ言うことを聞こうじゃないか」
「……あのなぁ、そんなことしてる場合じゃないんだよこっちは」
「そんなこと関係ないね」
こいつ人の話聞かないタイプだ。
「そうか、なら勝負だ、良し行くぞ!! 」
カズマがいきなり剣を抜きミツルギに攻撃を仕掛けた。
「ちょっ!! ギルド内ではなくいったん外で!! 」
そう言いながらも魔剣グラムを構えるミツルギだったが。
「スティール!!!! 」
カズマがスティールで魔剣グラムを奪い取った。
「「「へ? 」」」
そんな間の抜けた声が俺たちの間で流れる。その直後。
カズマが奪った魔剣グラムの腹でミツルギの頭をしばいた。
「が!! 」
ミツルギが声を上げた後その場に崩れ落ち、床に伏せた。どうやら気絶したようだ。
「「キョウヤー!!!! 」」
クレメアとフィオの叫び声がギルドに響き渡る。
「卑怯者!! 卑怯者卑怯者卑怯者っ!! 」
「あんた最低!! 最低よ、この卑劣漢!! 正々堂々勝負しなさいよ!! 」
フィオがひたすら罵倒し、クレメアが抗議する。
それをカズマは激昂しながら。
「最弱職の駆け出しの低レベル冒険者に、レベル37のソードマスターが勝負を挑むこと自体が卑怯ってもんだろが!! どっちが卑劣だよ!! 」
「「っ!! 」」
フィオとクレメアは黙り込んだ。
「それにな、こっちは友人の命がかかってる状況なんだよ!! 悪いが何でも言うことを一つ聞く約束だ。戦利品としてこいつをいただくぜ」
「な、それはキョウヤにしか扱えない剣よ!! 魔剣の加護はキョウヤにしか発動しないんだから、あんたが持ってったってただの剣よ!! 」
クレメアが自信満々にそう言い放つ。それを聞いたカズマはアクアに確認をとる。すると、確かにミツルギ以外の人間にはただの剣でしかないことが立証された。
「ふーん、でもま、売れば金になるだろう。こっちは装備を整えないといけないしもらっておくぞ」
「待ちなさいよ!! 」
「こんな勝ち方私たちは認めない!! その魔剣は返してもらうわよ!! 」
いまだに噛みついてくる二人。
一応カズマの勝ちだろうに。戦法は多少、いやかなり、卑劣なる意思を感じたが。しかしミツルギだってカズマの言うように卑怯にも普通なら絶対自分が勝てる勝負を仕掛けてきたわけだからお相子だ。
「まだ言うか!! ……よしいいだろう、真の男女平等主義者の俺は女の子相手でもドロップキックを食らわせられる公平な男。手加減してもらえると思うなよ。というか女が相手ならこの公衆の面前でお前らにスティールを炸裂させてやるぜ!! 」
カズマが叫ぶ。
「ス、スティール!? 」
「どういうことよ!? 」
「ほら感じてみろよ、このスティールの意味をよぉ、ほーら、ほーらぁ!! 」
カズマの突き出した手がいやらしく動き始める。それを見ためぐみんは赤面してスカートを押さえ、ダクネスは興奮し、フィオとクレメアは後ずさる。
やがて。その手つきから感じる身の危険に耐えきれなくなったフィオとクレメアは、ミツルギを置いて逃走した。
「ふん、薄情な奴らめ。俺のスティールの前に敵なし!! 」
カズマはゲスい顔で魔剣グラムを掲げながら叫んだ。
誤字報告ありがとうございました。
卑劣なる意思。略して卑の意思!!
ミツルギのことは別に嫌いではありません。かといって好きかと言うとそんなこともないです。