【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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とんでもないミスを読者様から指摘されましたので修正しました。あとがきにて詳細を書いています。


013 とある少女と青年の決意

 結局有志を募るのはやめて6人でベルディアの城に乗り込むことになった。その後作戦会議で対ベルディア用の戦略をいくつか立てた(ほとんどのプランにおいて、大火力を連続で叩き込みそれでもベルディアが生きていれば俺が接近戦を挑んで撃破するという流れになっている)。その後マジックスクロールを中心とした魔道具を購入した。

 

 今は夕方。俺は宿屋で荷物を整理していた。理由は至極単純。この後デュラハンとの戦いで死ぬかもしれないからだ。ほかのみんなも似たようなことをしている。

 

 この世界で購入した雑貨を見ているとゆんゆんとの楽しい日々が思い出されてくる。

 

「いろいろあったな。この世界で。濃い日々だった」

 

 転生して、カエルに食われて、ゆんゆんに救われて、彼女とパーティーを組んで、クエストをこなして……。そしてゆんゆんを好きになった。

 

「まだ1か月もたってないんだよな」

 

 こんなところで死んでたまるか。自分自身のために。そしてゆんゆんを一人ぼっちにしないためにも何としてもベルディアとの戦いに勝利しよう。

 

「リョウタさん、準備できました。リョウタさんはどうですか? 」

 

 扉の外からゆんゆんの声がする。

 

「今終わったよ、ゆんゆん」

 

 俺は部屋の扉を開ける。そこには各所に魔道具を装備したゆんゆんがいた。

 

「重装備だな。いつもと比べるとやっぱり」

 

「そうですね。でも大事な戦いですから当然です」

 

 そう言って微笑むゆんゆん。やっぱりかわいい。

 

「待ち合わせの時間までまだあるし少し話をしないか」

 

「え? いいですよ。お話しましょう」

 

 それから俺とゆんゆんは並んでベッドにかけると時間の許す限り思い出話をした。この子と話す時間は俺にとってかけがえのない物。これが最後になるかもしれないと思うと弱気になりそうになるが、ゆんゆんが話の中で見せる笑顔で自分を奮い立たせた。

 

「そろそろ出発しましょうか」

 

「……そうだな。行くとしようか」

 

 俺は、壁に立てかけていた弓矢と神殺しの剣を装備し、ゆんゆんと同じように各所に魔道具も仕込む。

 

「リョウタさん……」

 

 先に部屋から出た俺の服の裾をゆんゆんが引っ張る。振り返ると彼女が俺の方をじっと見ていた。

 

「どうしたんだい? 」

 

 その仕草の愛らしさにかわいいと思いつつ、何故だか恥ずかしくなって熱を帯びる俺の顔。

 

「私を一人にしないでくださいね。これからも一緒にパーティーとして……パティーとして……ううっ」

 

 ゆんゆんが泣き始める。綺麗な涙が彼女の頬を伝って床へと落ちていく。

 

「泣かないでくれゆんゆん」

 

 俺は彼女の手を握った。自分でもほとんど無意識にそれをやったことに少し驚き、恥ずかしく思うがそれを無視して言葉を紡いだ。

 

「約束する。これからも君とパーティーでいる。そのために、必ず勝とう」

 

「……はい!! 」

 

 ゆんゆんが涙を、つないでないほうの手でぬぐい、愁いを帯びた笑顔を見せた。それをしっかり俺は目に焼き付けた。そしてこんな笑顔じゃなくて本当の心の底から笑った笑顔を見られるようにしようと胸に誓った。

 

 俺は「それじゃあ行くか」と前を向いて進みだすと、ゆんゆんが俺の手に何かを握らせた。

 

「これは? 」

 

 それは小さな筒状のペンダントだった。

 

「あのリョウタさん、これお守りです。紅魔族に伝わる伝統的なもので、強力な魔力の持ち主の髪の毛を入れておくという物なんですが、リョウタさん……どうぞ。受け取ってください」

 

 もじもじしながらそう言うゆんゆん。

 

「もしかして……」

 

 強力な魔力の持ち主と聞いてピンときた。まさかこの中には。

 

「私の髪の毛が入ってます。いや、でしょうか? 」

 

 やっぱり。いいものもらった。

 

「ぜんぜん、むしろ嬉しい。さっき作ったのかい? 」

 

「いえ、もともと渡そうと思って作ってたんですけどなかなか機会に恵まれなくてですね……」

 

「そうだったのか。何にしてもありがとう。大切にするよ。あと半日で死ぬけど」

 

「も、もうリョウタさん!! 」

 

「冗談だよ。冗談にするためにこれからの戦い頑張るぞ」

 

 俺はペンダントを首から下げた。

 

 

 

 

 

 

「準備完了だ。カズマたちの方は? 」

 

「俺たちも準備OKだ。いつでもやれるぜ」

 

 日が沈み薄暗くなった街の正面ゲートに俺たちは集まっていた。みんな完全武装の状態で万全な準備がされている。

 

「今回の戦いは俺の死の宣告を解くための戦いだ。みんなには無理をさせるし命を張ってもらうことになって申し訳ない」

 

 俺はそう言ってみんなに頭を下げた。

 

「そんなことないですよ……」

 

 責任を感じてか曇った表情のめぐみんが俺の肩に手を置いた。

 

「水臭いぞリョウタ。私たちは友だ。力を貸すぞ」

 

 ダクネスが笑顔を見せる。

 

「そんな辛気臭いこと言わないのよ神殺し。なんとかなるわよ。私がついてるんですもの」

 

 アクアがお気楽なことを言って場を和ませようとする。……いや、和ませようという目的ではなく本心からそう言っているのだろう。この自信に満ち溢れた顔を見るに。

 

「まぁ原因は俺とめぐみんにあるし、一緒に戦うのは当然だぜリョウタ」

 

 カズマが気持ちの沈んでいるめぐみんの背中をやさしく叩きながら言った。

 

「みなさん、リョウタさんの呪いを解くためにあのデュラハンを何としても倒しましょうね!! 」

 

 ゆんゆんが大勢の前では珍しく声を上げる。

 

 俺はそれぞれの反応を目にしながら自分がこれだけの人数の人に大事に思われていることがうれしくなってつい目元が潤んだ。

 

 いかん、泣くのはダメだな。ここで言うべきことはただ一つ。

 

「みんなありがとう」

 

 こんなにも誰かに思ってもらえているのだ。異世界転生して本当に良かった。無味無臭で乾燥して腐りきっていた元の世界では決してあり得なかったであろう感動を噛みしめて。

 

「じゃあ行こうか、決戦に」

 

 俺たちはベルディアのいる廃城へと向かった。

 

 

 

 

 

 廃城までの道のりは、いつも爆裂魔法を極めるためにその付近まで近づいていたカズマとめぐみんに先導される形になった。

 

 暗がりの中、おどろおどろしい紫色の光を各所の窓から放っている決戦の場所は湖の上の切り立った崖に築かれており、廃城と言われるだけあってボロボロで見るに堪えない建造物だった。だがそれを護るかのように魔力の半球状のバリアが展開されている。作戦会議の際に議題に上がっていた爆裂魔法でも城がなぜか傷つかない原因はこれだった。

 

「もうすぐですね。まずは爆裂魔法ですら防いでしまうバリアの突破ですがリョウタのスキルでなんとかできるんですね? 」

 

 バリアか結解が張られているのは予測済みだった。

 

「ああ。おそらくね」

 

 崖を登ると城の目前にたどり着いた。薄紫に輝くバリアが俺たちと城を隔てている。

 

「さっそくやってみるか」

 

「私がセイクリッドブレイクスペルでぶっ壊すのでもいいんじゃないかしら」

 

「お前がやると、バリアが全部吹っ飛ぶんだから襲撃に来たことを知らせてるようなもんだろうが!! できるだけ気づかれないように少しでも心がけといて損はない」

 

 アクアを止めるカズマ。その横で俺はその薄紫のバリアに触れて錬金術を発動。穴をあけるようにイメージしながら錬成すると、見事にバリアに人が通れるほどのサイズの風穴があいた。

 

 暇を見つけては土くれやマジックスクロールの魔法を錬成してきた甲斐があった。おかげでうまく行った。

 

「おお、すごいなリョウタのスキルは」

 

 ダクネスが感嘆する。

 

「ああ、あってよかった錬金術」

 

「便利だな本当に。チートのどっちか一つ俺に分けてくれよ」

 

「それは断るし、そもそもできないし」

 

 神殺しの剣は、ミツルギの魔剣グラムと同じように俺を持ち主として限定していることが、ベルディアとの朝の戦いの際に力を発揮した瞬間、流れ込んできた力と一緒に情報として頭に入っていた。

 

 俺たちは錬成して穿った穴からベルディアの城へと陣形を作り入っていく。そしておそらくベルディアがいるであろう城の最上階を目指す。

 

 城の中は各所にろうそくや魔導照明が無いにもかかわらず明るい。なぜなら、廊下や壁に床、各部屋、調度品に至るまでがそれぞれの色とは別に紫色の輝きを放っているせいだ。

 

「ほんと薄気味悪いわね。魔王軍がいるにふさわしい場所だわ」

 

「本当ですね。それにしても敵襲は無いのでしょうか? 普通なら雑魚が迎えてくれそうなものですが」

 

 アクアが悪態をつき、めぐみんがフラグを口にする。

 

「おいめぐみん、そんなフラグみたいなこと言うから……本当に敵が来ちゃったじゃないか」

 

「え、これも私のせいですか!? 」

 

 敵感知に反応があった。交差路の角の向こうにいたらしく、反応があったすぐあとに角を曲がったアンデッドナイトたちがこちらに向かってきているのが目視で確認できた。同じく敵感知が使えるため先導していたカズマと顔を見合わせ頷きあう。

 

「ここはリョウタに任せるぞみんな。敵はアンデッドナイト20体だ。できるだけ魔道具やマジックスクロールはデュラハン戦に温存しときたいからな」

 

「わ、わかりました。リョウタさん頑張って」

 

 ゆんゆんの声援を背に受け、俺は神殺しの剣を引き抜くと。

 

「成仏しろ!! 」

 

 俺は強化された身体能力を以てして、一気にアンデッドナイトたちへと肉薄した。まず手近にいた3匹を横一線で鎧ごと肉体を切り裂く。それを受けた3体は光の粒子となって消滅した。

 

 神殺しの剣、やっぱり使える剣だ。

 

 そんな感想を抱きながら、勢いを殺さず、敵陣のど真ん中に躍り出る。その際に2体を串刺しにして消滅させる。そして、俺はその場で回転切りをして、さらに7体同時に消滅させ、残りのアンデッドに肉薄し各個撃破を行おうとするが。

 

「何でリョウタを無視してこっちにくんだよ……ソゲキッ!! 」

 

 アンデッドナイトたちは俺には目をくれず一直線にカズマたちの方へと向かっていった。俺の方が近場にいて危険だろうに、何故そんな行動をするのか。

 

「やむえませんね、魔道具を使いますよ、カズマ!? 」

 

「いや、ここは……」

 

「私に任せなさいな!! ターンアンデッド、ターンアンデッド、ターンアンデッド!! 」

 

 アクアが勢いよくターンアンデッドを何度も発動し、迫ってくるアンデッドナイトのことごとくの足元に魔方陣を展開する。そしてすべてのアンデッドナイトが浄化され消滅した。

 

「どんなもんよ!! 」

 

 アクアがどや顔を披露する。可愛いし凄いのだがなんだかなぁ……。

 

「よし、今後もアンデッド相手にはこんな調子で進んでいくぞ。魔道具はくれぐれも温存だ」

 

 カズマの指示に全員がうなずきながら再び陣形を作り最上階を目指して走り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというもの。何度もアンデッドナイトの襲撃を受けた。ベルディアに備えて温存しておきたかった魔道具もじゃんじゃん使わなければいけないほどの羽目に合った。

 

 そして、なぜかはわからないが俺が集団の中心に突貫しているにもかかわらず、俺の存在を無視してカズマたちへと向かっていくアンデッドナイトたちの行動は謎だった。ダクネスはデコイを現状発動してないため本当に原因不明だ。

 

「何でリョウタの存在を無視したような動きをするんだろうな。お、今度は大所帯だな」

 

「数は……100か」

 

 おそらく道なりの前方にあるパーティー会場として使われるであろう大広間と思わしき場所に、それだけの数の敵がいることを敵感知スキルが伝えてくる。

 

「ここを通るしか……上の階には上がれなさそうだな」

 

 カズマが周りを確認した後、嫌そうな顔をした。

 

「だが窓からの景色を見る限りここを突破して上の階に上がればおそらくデュラハンがいるであろう最上階にたどり着けそうだぞ」

 

 ダクネスが窓からの景色を見ながらそう進言する。

 

「何体アンデッドがいようと私が浄化してやるわよ。行きましょ!! 」

 

「カズマさん、魔道具がみんな残り少ないですけどここでも使ってしまってもいいですか? 」

 

「ああ、OKだ。デュラハンのところまでたどり着けなかったら意味ないしな。それに魔道具が少なくなった場合のプランだって組んであるし、心配すんな」

 

「爆裂魔法以外の魔法を使用する日が来ようとは……」

 

 ゆんゆんとめぐみんがマジックスクロールや爆発ポーション、攻撃用の魔道具を手に持ち、アクアがターンアンデッドの準備をし、ダクネスが先頭にでる。

 

「私が突撃してデコイで引きつけよう。その間に皆は攻撃を」

 

「了解だダクネス。じゃあ俺はダクネスによってくる敵を遊撃するよ」

 

 俺は神殺しの剣を構えて返答した。ほかのみんなも頷いて返事をする。

 

「じゃあ合図と同時にダクネスが突撃して全員で一斉攻撃、いいな」

 

 カズマが先端に爆発ポーションを取り付けた矢を弓につがえながら全員に目配せする。

 

 そしていくばくかの沈黙の後。

 

「よし行くぞ、アクア、めぐみん、ゆんゆん。俺たち4人は後から入って攻撃だ。そしてダクネス、リョウタ、突撃しろ!! 」

 

「ああ!! デコイ発動。やぁぁぁ!!!! 」

 

 ダクネスが疾走。扉を蹴破り大広間に先行して突入する。俺もそれに続き、大広間に侵入すると隊列を組んだアンデッドの軍団が武器を構えて出迎えてくれた

 

「えっとアンデッドナイトの他にもアンデッドマギカにアンデッドアーチャーもいるな」

 

 千里眼を発動し、遠視を行い敵を見定めていく。

 

「ふっ、いいんだろう全員まとめてかかってくるがいい!! 」

 

 紅潮した顔で叫ぶダクネス。おそらくこれから負うであろうダメージが楽しみで仕方がないのだろう。……極力喜べないように俺がアンデッドを始末するが。

 

 しかし。

 

 アンデッドたちは大広間に入り込んだダクネスと俺をターゲットに……することなく、俺たちをスルーし再び後ろの、まだ部屋に突入していないカズマたちの方になだれ込んだ。

 

「なんだと!? 」

 

「どうしてだ、ダクネスがデコイ使ってるのに!? 」

 

 ダクネスはスルーされてショックを受け、俺はアンデッド軍団の動きに驚愕する。

 

 そこそこ大きな扉ながらも、さすがにその数故に詰まり、なかなか外に出られないでいるアンデッド軍団は数匹ずつカズマたちの方へ突撃しているようだ。

 

「どうなってんだよダクネス!! 」

 

「わ、私にもなにがなんだか!? 」

 

 カズマがダクネスに声を上げているのが聞こえてくる。

 

「とにかく俺たちも戦おうダクネス」

 

「そ、そうだな。騎士としてはこんな戦い方は少しあれだが今は是非もない。喰らえ!! 」

 

 ダクネスが爆発ポーションを詰まっているアンデッドの集団にいくつも投げつける。ポーションが炸裂する度に大量のアンデッドが燃えた。

 

 俺も行くか。

 

「フリーズガスト!! からのフレイムガスト!! 」

 

 マジックスクロールを広げ、上級魔法フリーズガストを発動する。フリーズガストは冷気を帯びた白い霧で、中に入った相手を氷漬けにする魔法だ。それを錬金術で錬成し直し赤い霧に触れたものを焼き尽くす効果に上書きする。それが見事に集団に命中し、ダクネスが焼いていたアンデッドたちを完全に焼き尽くした。

 

「この調子でいくぞリョウタ!! 」

 

「ああ!! 」

 

 ダクネスとやり取りしながらどんどん後方から一方的に攻撃を叩き込んでいると。

 

「いやぁぁぁぁ、なんで私ばっかり狙われるのよ!! カズマさんたしゅけてぇぇぇぇ!!!! 」

 

「おいこっち寄ってくんな!! というか今やっとわかったぞ!! アクア、アンデッドどもはお前の神気にあてられて寄ってきてたんだ。この疫病神め!! 」

 

「そんなこと言わずに私ばっかり矢や火の玉が飛んでくるんだから何とかしてぇぇぇ!! 」

 

「アクアさん今助けますから!! ライトニング!! 」

 

 ゆんゆんがおそらくアクアを援護したのだろう。

 

「このままじゃアクアがハチの巣黒焦げにされるかもしれないし一気に狩ろうダクネス」

 

「ああ!! 」

 

 俺は燃えるアンデッドの軍団に突撃し、とにかく切り裂き続ける。ダクネスもまた剣で薙ぎ払いまくっていた(どうやらアンデッドが一か所に集まっているおかげで不器用な彼女でも命中するようだ)。だがいかんせん数が多すぎるのと、胴を横一線するなどの決定打を与えない限りは体が欠けようが燃えようが消滅せずに動き続けるせいでなかなか数が減らない。

 

 クソッ!! らちが明かない!!

 

 心の中で悪態をついていると。

 

「リョウタ、ダクネス、アンデッドの近くにいるなら離れてください!! 」

 

 めぐみんの声がする。

 

「何か策があるのかめぐみん!? 」

 

「はい!! 」

 

「まさか爆裂魔法か!? ならぜひとも私もろともやってくれ!! 」

 

 ダクネスがそんな頭のおかしいことを叫びながら歓喜する。

 

「おいめぐみん使うなよ!! それは切り札のうちの一つだ!! 」

 

「わかっていますよ、大丈夫ですよカズマ」

 

 なぜだかめぐみんが悲しそうにほほ笑んでいるのを幻視した。

 

「ちょっと待ってめぐみん!! あなたまさか!? 」

 

 ゆんゆんの焦る声がする。どういうことだ? いったい何をするつもりだ!?

 

「ダクネス離れるぞ!! 」

 

「し、しかし!! 」

 

「いいから!! 」

 

 俺と一緒に突撃をかけていたダクネスの胴を抱えて後方に下がる。

 

 すると。

 

「ファイヤーボール!! 」

 

 めぐみんの声とともに一気にアンデッドが焼き尽くされた。それはさっきまでの俺とダクネスのくり出していた火炎攻撃など比ではないほどの業火であり、まだ60はいた動けるアンデッドを一瞬のうちに炭へと変えた。

 

「なんという威力だ。インフェルノ級の火力だったぞリョウタ。……さらされてみたかった……」

 

「バカなこと言うんじゃありません」

 

 俺がダクネスに注意していると、炭になったアンデッドどもが粉々になり崩れ去り、やがて光の粒子になったため、扉の向こうの様子が伺い知れた。

 

 そこには、カズマとアクアが目を点にして、ゆんゆんが口をパクパクさせながら、めぐみんが一人片手を正面に突き出した姿勢でたたずんでいる。

 

「高速詠唱を取得していないので時間こそかかりましたが……紅魔族随一の天才たる我にかかれば中級魔法の行使など、たやすいこと!! 」

 

 そう叫ぶめぐみんの目は赤く輝きながらも涙でぬれていた。どうしてだ。

 

「あなた、爆裂魔法以外の魔法を覚えたのめぐみん!? 」

 

 ゆんゆんがそんなめぐみんに縋りつく。

 

「どうしてよ、あなたは爆裂道を極めるんでしょ!! 残ってるスクロールの中にもファイヤーボールはあったじゃない!! なのに、なのに。中級魔法なんか覚えてしまってあなたは!! 」

 

 めぐみん以上に涙を流し取り乱すゆんゆん。

 

「紅魔の里で無意味だなと思いつつも担任のぷっちんから習っていた甲斐がありましたよ」

 

「お前、爆裂魔法以外を覚えたのか……」

 

「な、めぐみん、お前あんなに爆裂魔法以外は習得しないと頑なであったではないか!? 」

 

「そうよ、いったいどうしちゃったのよ!? 」

 

 そうだ、めぐみんと言えば爆裂魔法以外を覚えない最強の一発屋。そのはずだ。なのに。

 

「今回は私のせいでパーティーメンバーでないにしても仲間のリョウタが死にかけています。私のせいで。……私は仲間を大切にしようと、爆裂魔法を撃った後は一人で動けなくなることを知って心に誓いました。だから!! 」

 

 大粒の涙がめぐみんの頬を伝って流れる。

 

「だから……こんな仲間がピンチの時は爆裂魔法一筋を捨てることもいとわないのです……」

 

 きっとめぐみんにとっては本当に重い決断だったのだろう。どうしようもなく爆裂魔法を愛していた彼女は、仲間の、俺のピンチにあたってその信念を曲げて爆裂魔法以外の魔法を習得した。

 

「なのにすいません。こんなに泣いてしまってごめんなさい……」

 

 めぐみんが押し殺した声で泣き始めた。

 

 ああ、俺は一人の人間の生き方を変えてしまったんだな。

 

「めぐみん。ごめんよ、ありがとう」

 

 抱えていたダクネスを降ろし、めぐみんに歩み寄る。

 

「謝らないでください。これは私なりのけじめです。爆裂魔法への愛が原因で仲間の一生を奪ってしまうかもしれない愚かな私への戒めなのです……」

 

「わかった、なら謝らない、でも、ありがとう」

 

「はいっ……」

 

 俺は本心ではいまだに申し訳ないと感じながらめぐみんに笑いかけた。こんな少し前まで目標も何もなく自堕落に生きてきた俺のためを思ってくれた彼女に心から感謝をした。そして、彼女の大きな選択を俺もまた自分への戒めにしようと思った。

 

 自分自身に誓おう。俺は元の腐った人間にはどんなことがあっても戻らない。何があろうとゆんゆんが必要としてくれる綺麗な人間のままで……あるいはそのように振舞おう。




 修正箇所について……

 現在、ペンダントをもらった後のリョウタのセリフが「冗談にするためにこれからの戦い頑張るぞ」になっていますが、修正前は「冗談にしないためにこれからの戦い頑張るぞ」となっていました。修正前のままだとリョウタが死ぬこと確定になってしまいますね。すいません。


 めぐみんの行動について……。
 このような展開になったのは、「この素晴らしい世界に爆焔を」にてめぐみんはゆんゆんに中級魔法を取得させてしまった過去があること。そして、仲間を大切にしようという旨の記述から考えて、自らへの戒めや仲間を助けるために爆裂魔法以外を取得するだろうと私が考えた結果です。めぐみんは筋を通す子ですからね。なお、今後めぐみんにファイヤーボール以外の魔法を追加で取得させることはありません。爆裂道をしっかり歩みます。
 

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