【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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 前話にて文章面で重大な失敗をしてしまったので2020年4月25日の朝7時ごろに修正しています、詳しくは前話のあとがきをご覧ください。ご迷惑をおかけします。


014 見たかった笑顔

 大広間に備えつけられた階段の先にはベルディアが待つであろう大きめの部屋があった。なぜベルディアがいると推測したかというと敵感知に引っかかる強力な存在が一つだけ存在しているからだ。

 

「あのデュラハン、律儀に待ち構えてんな……あんだけ暴れまわったから当然か」

 

 同じく敵感知でベルディアの存在を察しているカズマが半分感心、半分呆れたようにつぶやく。

 

「一切動かないし多分そうだろうな」

 

「これからどうしますか? 」

 

「魔道具も少ないからプランBでいくぞ」

 

 作戦プラン。それはベルディアの精神性を考慮したうえでカズマが中心となり俺たち(知力の低いアクアを除く)が立案したものだ。まず。

 

「プランBね!! 真正面からねじ伏せてやるわ!! 」

 

「ちょっと待てバカ!! 」

 

 そう、アクアが突入して……ではない。アクアは部屋の外で待機のはずだ。

 

「駄女神様ストップ!! 」

 

 アクアに俺も声をかけるがアクアは聞く耳持たず階段を一気に上り扉を開いた。

 

「ちくしょう!! 指示通りに動けよって道中念押ししてたのに!! あの駄女神、絶対プランなんか忘れてるだろう!! 」

 

「もしくは作戦会議の中にあったアクアを単身突撃させて浄化するって案を本来のプランBを忘れて実行してるのかもな!! 」

 

 カズマと俺が叫ぶ中、アクアが部屋の中に駆け込んでベルディアに。

 

「セイクリッドターンアンデッド!! 」

 

「よくきたぎゃぁぁぁぁ!!!! 」

 

 セイクリッドターンアンデッドをかける声がした。

 

「ど、どうするカズマ? 」

 

 焦るダクネス。ほかの全員も同様であった。

 

「どうもこうもあいつ一人だとやられるだけだ、ここは行くしかないだろう!! 」

 

 俺たち全員も仕方なくアクアに続いて部屋に駆け込むとそこには驚愕の表情を浮かべるアクアと、床の上を苦しそうにを何度も転がりながら、鎧の隙間から黒い煙を吐き出しているベルディアがいた。

 

「どうしようカズマ、私の攻撃が効いてないわ。プランBは私が突撃して単身デュラハンを浄化するって話だつたのにこれじゃあ作戦失敗よ!? 」

 

「お前、リョウタの言うように作戦の初期案を間違えて覚えてたんだな!! というか……結構効いてないか? ターンアンデッド……」

 

 ベルディアは苦しそうに、グレートソードを支えにして立ち上がり叫んだ。

 

「お前、駆け出しの低レベルなアークプリーストのはずだろう!? なぜそんなに強力な力を持っているのだ!! 」

 

 確かにアクアも駆け出し冒険者らしくレベルは低い。しかし、彼女のステータスは一撃熊を格闘で気絶させるほどのものだ。きっと女神だからステータスがカンストしているのだろう。

 

「まぁいい、それよりもまず貴様らをなめていたことを謝罪せねばな。次々と配下を浄化しここまでたどり着いたのだ。その実力は駆け出しながら称賛に値する。まぁ勇者が一緒にいるのだからある意味当然の結果ではあるが。……そしてバカな方の紅魔の娘よ。よく来たな、約束通り聡明な方の紅魔の娘の死の宣告は解いてやる」

 

 ベルディアは手を天にかざすと「解呪!! 」と叫んだ。

 

 しかし何も起こらない。

 

「ど、どういうことだ、解呪できないだと!? あ、いや、もうすでに解呪されている!? 何故だ!? 」

 

「プークスクス!! そんなの私がアンタが帰った直後にセイクリッドブレイクスペルではねのけたわよ。そうとは知らずにかっこつけて『解呪!! 』だなんて笑えるわ!! プークスクス!! 」

 

 ベルディアを煽るアクア。まぁ敵が冷静さを少しでも欠いてくれた方がこの先戦いやすいだろうから悪くはないのだが……。

 

「お、おのれ、バカにしよって。それじゃあ何のために来た貴様ら!? 」

 

「もちろん、リョウタさんの呪いを解いてもらうためよ!! 」

 

 ゆんゆんがベルディアに指さして叫ぶ。

 

「それはできない相談だ。そいつは勇者。今でこそまだ駆け出しだが成長すれば魔王様の脅威となる存在だ。……というか、お前にかかった死の宣告をそこのわけのわからないアークプリーストが払いのけられるのなら、なぜここまで来たのだ? 」

 

「私のセイクリッドブレイクスペルでは解呪できなかったからよ!! 」

 

 実に悔しそう、そして恨めしそうに吐き捨てるアクア。

 

「はっ!! どうやらまぐれで聡明な方の紅魔の娘の呪いは解呪できたようだな。駆け出しプリーストよ」

 

「なんですって!! 」

 

「それで貴様らはどうする? 俺は朝言ったように弱者を刈り取る趣味は無い。今ならまだ間に合うぞ? 大人しく帰るのであれば見逃してやる。……そこの勇者以外はな!! 」

 

 ベルディアがグレートソードを構える。

 

「勇者よ、ここまで来たのだ、その生への執着と胆力に敬意を表し俺が自ら再び相手をしてやろう!!」

 

「望むところだ、ただしお前の相手は俺一人じゃないけどな!! 」

 

「さっきから弱者弱者と見下しやがって、舐めんじゃねぇ!! 弱者なりの戦い方を見せてやる!! 」

 

「そうか、勇気があるな、最弱職の冒険者よ。だがそれは蛮勇だ!! 」

 

 ベルディアがグレートソードを俺たちに向けて宣言する。

 

「さぁ勇敢なる冒険者どもよ、その勇者の呪いを解きたくばこの俺を倒してみるがいい!! 」

 

「いくぞみんな!! 」

 

 俺はゆんゆんとカズマに目配せした後、神殺しの剣を引き抜き、ベルディアに突撃した。

 

 俺の伝えたかったことは、『予定は狂ったがプランBを今から実行する』ということだ。知力が高く人間としての相性もいい彼女らなら気づいてくれるはずだ。

 

 ベルディアは突撃してきた俺にグレートソードを振り下ろす。俺はそれを神殺しの剣で受け止める。そして、鍔迫り合いが始まった。

 

「やはり大したパワーだな勇者よ!! 」

 

「おほめにあずかり光栄です、魔王軍幹部殿!! 」

 

 ベルディアにそう返答しながら何度も剣をぶつけ合う。足りないスピードとパワーを完全に技量で埋められているため一進一退の攻防が続く中。

 

「エアハンマー!! 」

 

 ゆんゆんがマジックスクロールから中級魔法、エアハンマーを発動した。エアハンマーは圧縮された空気の塊を対象にぶつける魔法だ。俺と鍔迫り合いをしていたせいで対応できなかったベルディアはそれに激突され、広い部屋の奥へと叩きつけられた

 

「ぐぅ……何という威力。さすがは紅魔族だな……」

 

 ゆんゆんは俺の目配せの意図をわかってくれていた。そう、まずはベルディアから極力距離をとる必要がある。あとはカズマの方だが。

 

「クリエイトウォーター!! フリーズ!! ついでに凍結ポーション!! 」

 

 体勢を整えようとしていたベルディアに向けて冷凍コンボを叩き込み動きを封じるカズマ。そんな彼はめぐみんの方を向くと。

 

「よし、めぐみん爆裂魔法だ!! 」

 

 カズマもわかってくれていた。見事にめぐみんに指示を出す。

 

「わかりました、撃っていいんですね!! 」

 

 めぐみんが歓喜に打ち震える中、杖を構え詠唱を開始した。

 

「正気か貴様ら、こんなところで爆裂魔法を撃つだと!? 」

 

 そう作戦の最初の一手は、威力はそのままに範囲を絞った爆裂魔法を叩き込むことだ。

 

 俺はめぐみんのすぐ後ろに瞬間的に移動するとめぐみんとダクネス以外の全員が集まってくるのを確認して手のひらを地面につけて錬金術を発動。集中した俺は、床を鋼鉄化し、さらに変形させて分厚い鋼鉄のドームを錬成していく。やがて、俺にゆんゆんにカズマにアクアをかまくらのように出入り口が開いた形のドームが包んだ。

 

「勇者、お前の力はいったい何なのだ!? 」

 

「詠唱終わりましたし狙いも付けました!! いつでも撃てますよ。リョウタは!? 」

 

 ドームの外のめぐみんが俺に叫ぶ。

 

「こっちもいつでもドームを閉じられる段階だ。撃てめぐみん!! 」

 

「わかりました!! 」

 

「させるか!! ダークオブセイバー!! 」

 

 冷凍コンボから脱出したベルディアの天に掲げたグレートソードに魔方陣がまとわりつき、そこから黒く輝く魔力が放出される。魔力は剣を形作りながら天井を突き破り俺たちへと届く長さまで達すると、それを彼は振り下ろす。狙いは爆裂魔法を撃とうとする目下の脅威のめぐみんだ。

 

 だが。

 

「はぁぁぁ!!!! 」

 

 こういう時のために外にいたダクネスが前に出て、腕を交差させてそれを受け止めた。

 

 ダクネスとダークオブセイバーのつばぜり合いが繰り広げられる中、めぐみんは。

 

「撃ちます!! エクスプロ―ジョン!!!! 」

 

 爆裂魔法を放った。

 

 ベルディアに魔力エネルギーの塊がぶつかる。それを見届けた後、瞬時に俺がダクネスを、ゆんゆん、カズマ、アクアがめぐみんをドームの中に引きずり込み、間髪入れずに俺はドームの穴を閉じた。

 

 爆発音と振動がドーム内に響き渡る。今頃外では瓦礫が吹き飛びそれがいくつもドームに直撃していることだろう。

 

「っ……、さすがに魔王軍幹部、かなりの威力だった……」

 

「ハイネスヒール」

 

 両腕にダメージを負ったダクネス。だがどこか満足げにつぶやく彼女の焼けただれたような腕の怪我をアクアがハイネスヒールで治療していく。

 

 やがて爆裂魔法による爆発音が鳴りやんだのを確認してドームを土に変えて崩した。

 

「ダクネスはめぐみんを連れて下がれ」

 

「わかった!! 」

 

 動けないめぐみんをまだダメージが抜けきっていないダクネスに任せると、俺とカズマは敵感知と千里眼を使ってベルディアの位置を確認しながら走る。その後ろにアクアとゆんゆんが続く。

 

 俺たちのいる最上階は、天井が吹き飛び、瓦礫が山積みになり、眼前の床には丸い大穴が開いている状態だ。そして大穴の中心。いくつか下の階で鎧が半壊し全身各所にダメージを負った状態のベルディアがいるのを見つけた。

 

「おのれ、よくもやってくれる……」 

 

 ベルディアはボロボロの状態で再度、ダークオブセイバーを発動しようとするが、それをゆんゆんがファイヤーボールで上から攻撃して阻止する。

 

「くそっ、地の利が悪いか!! 」

 

「よし次だ!! 」

 

「アクア!! 水だせぇぇぇ、お前の最大威力のな!! 」

 

「任されたわ!! 」

 

 最初の作戦とは少し違うが大まかな流れは同じにやる。爆裂魔法で倒しきれなかった場合、次はアクアの出番だ。

 

 アクアがベルディアを見下す位置に陣取ると悪だくみをする子供のような笑みを浮かべて。

 

「この世にある私の眷族たちよ水の女神アクアが命ず……セイクリッドクリエイトウォーター!!!! 」

 

「なん、だとぉぉぉぉ!? 」

 

 アクアの真下のベルディアに向けて突き出した右腕から超極大の魔方陣が展開されそこからダムの放流……いや、ダムが決壊したかの如き水の放水が始まる。

 

 高威力の水でベルディアを攻撃する、それが次の一手だ。カズマ曰くゲームではアンデッド系モンスターは流水が苦手らしい。その法則が当てはまらなかったとしてもこれだけの洪水を喰らってはただでは済まない。……作戦ではここまでの規模の水を出すようには指示してはいなかったが。

 

「ぐぉぉぉぉ!!!! 」

 

 ベルディアが真上から大質量の水を浴びる。あまりの水の威力ゆえに、轟音とともに床をぶち抜き、爆裂魔法の衝撃でガタが来ていた城を一気に崩壊させながらどんどん下の階に流されていくベルディアはやがて、城の最下層まで押し出されるとそのままの状態で水に押しつぶされ続けた。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!! 」

 

 アクアは気合のこもった叫び声をあげながらなおも放水を続ける。下の湖にはすでに大量の水が流れ込んでいる。

 

「よしアクア、もういいぞ……もういいって!! 城が完全に崩れるだろ!! そうなりゃ俺らまとめて生き埋めだ!! 」

 

 アクアの洪水を受けておよそ城の半分が崩壊してなくなっていた。これ以上続ければ城全体がなくなってしまう。

 

「わかったわ、これで倒せたかしら? 」

 

 アクアが放水をやめる。轟音が止んだ。

 

「フラグみたいなこと言うなよ、これで生きてたらヤバすぎだけどな……」

 

 カズマと俺は、敵感知でベルディアを……発見してしまった。

 

「まだ生きてるのか」

 

「リョウタ、やれるか? 」

 

「ああ、仕留める!! 三人とも援護を頼む!! 」

 

 最下層へと俺は飛び降りる。そこではベルディアがもはや原形をとどめているのが不思議なほどのひび割れた鎧を身にまとい立ち上がっていた。

 

「く、強い光が落ちてきただのと占い師が言うものだから調査に来てみれば……まさかこんなことになるとはな」

 

 ベルディアが自嘲気味につぶやく。

 

「まったく、雑魚ばかりだと思って舐めていたらこのざまだ、我ながら哀れだよ」

 

 ゆっくりとグレートソードを構えるベルディア。

 

「貴様は必ず倒す。その前に名を聞こうか、勇者よ」

 

「加賀美涼太だ!! 」

 

「そうか、……カガミリョウタ!! 貴様には俺の全身全霊を持って何としても排除してくれる!! 行くぞ!! 」

 

 ベルディアが俺に突っ込んできた。俺は神殺しの剣を構えてそれに対応した。

 

 本気らしく、ダメージを負っているというのに今までで一番の速度でベルディアは動いた。最後のあがきという奴だろうか? 

 

 神殺しの剣とグレートソードが何度もぶつかる。火花が散りまくり、大きな衝撃が腕に走る。その最中、ベルディアは俺の腹に蹴りを入れた、

 

 体勢を立て直す俺にベルディアは剣を振り下ろしてきた。何度もくり出されるそれをスピードとパワーで無理やり弾いていく。そして俺はタイミングを見つけいったん距離を置いた。

 

 その瞬間。

 

「援護です、ライトニング!! 」

 

「セイクリッドターンアンデッド!! 」

 

「ソゲキ!! 」

 

 ゆんゆんたちの攻撃が雨あられと上から降ってくるのをベルディアは、ジャンプしたりステップを踏んだりと、とにかくアクロバティクな軌道を描きながら回避する。

 

 これが魔王軍幹部の本気か!? 

 

「クソ当たらない!! 」

 

「俺の命に代えてでもこのカガミリョウタだけは倒すのだぁぁぁぁ!!!! 」

 

 ベルディアがグレートソードによる連続刺突を俺に見舞ってくる。あまりにも正確な攻撃故、俺は回避しきれずに体の数か所を切り裂かれる。

 

 滅茶苦茶痛い。斬られたところがすごく熱い。だが!!

 

「負けてらんねぇんだよ!!!! 」

 

 俺は徐々に連続突きのタイミングを見切り、神殺しの剣で弾いていく。

 

「貴様、戦いの中で成長しているな!! 」

 

 ベルディアは連続突きをやめて一瞬だけ距離をとると、ダークオブセイバーを発動し俺に振り下ろしてきた。

 

 それを神殺しの剣で受け止める。すると今度は様々な軌道でベルディアは魔力の刃を振り回す。そのたびに城の瓦礫が舞飛び、水浸しの床が熱量を受けて蒸気を起こす。しかしそれに俺は対応し神殺しの剣でいなし続ける。

 

「これも捌くか!! 面白い、面白いぞ、カガミリョウタ。おそらく最後に手合わせするであろう相手が強者でよかった!! 魔王様と邪神に感謝をささげるぞ!! 」

 

 ベルディアは小脇に抱えていた頭を本来首がついている場所にはめ込んだ。そして、朝見たような強力な連撃を繰り出してきた。それは確実に俺の息の根を止めようとする、首を狙った攻撃だった。

 

「うぉぉぉぉ!!!! 」

 

 俺は腕に走るダークオブセイバーを受け止める衝撃を感じながら神殺しの剣で連撃を捌き続ける。そしてチャンスがあれば可能な限り反撃を行ったが、籠手で受け流される。

 

 このままだとじり貧だ。ベルディアのさっきの言葉から察するにおそらく彼の命はもう長くはもたないのだろうが俺を殺すまでは何としてもその命を気力でつなぎ止めるだろう。

 

「さぁどうする? カガミリョウタ!! 」

 

 くそ、これじゃやられる!?

 

 俺が押し負けることを考えてしまった瞬間。

 

「リョウタばっかり見てると足元救われるぞデュラハン!! スティール!! 」

 

「何!? 」

 

 カズマがスティールを発動した。彼が狙ったのは、ベルディアのグレートソードだった。見事に奪ってみせるカズマ。

 

「やりぃ!! リョウタそのまま倒しちまえ!! 」

 

「サンキューカズマ!! 行くぜベルディア!! 」

 

 俺は勝利を確信し、ベルディアの胴を袈裟切りにするべく神殺しの剣を振り上げたのだが。

 

「それがどおした!! ツインダークオブセイバー!!!! 」

 

 ベルディアの両掌に真っ黒な魔力でできた剣が握られる。そして俺の一閃を剣を交差させて受け止めた。

 

「「そんなこともできるのかよ!! 」」

 

 俺とカズマがベルディアのスペックの高さに舌を巻く。

 

「魔王軍幹部をなめるなよ若造ども!! 」

 

 ベルディアが哄笑する。

 

 それから、手数を倍に増やしたベルディアの猛攻が俺を襲った。

 

「リョウタさんが!? 」

 

「ちょっとまずいわよカズマ、あのままだと神殺しの方がやられちゃうわよ!? 」

 

「でもこうも二人が密着したまま動き回ってるとなかなか狙いが定まんねぇし……」

 

 俺は2本の攻撃を1本で捌き続ける。だが、手数と技量、そして魔力の出力の高さに押されてどんどん体に傷を負っていった。

 

 このままだと確実に殺される。

 

 冗談ではない。まだ終わってたまるか。

 

 こうなれば……あれをやろう。

 

 まだ試していない最後の手段を使うことにした。

 

 今から放とうとするのは初見殺しの技のようなものだ、一度だけしかチャンスは無い。必ずものにして見せる。

 

「リョウタさん!! がんばって!! 」

 

 ゆんゆんの声が聞こえる。そうだ。あの子のためにも絶対に負けられない!!

 

「うぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!!! 」

 

 俺はベルディアの攻撃の合間を縫ってダメージを負うのを耐えながら気合を込めた一際重い斬撃を彼に加える。そしていったん距離をとり。

 

「離れたところでこの剣は届くぞ!! 」

 

 長大になったダークオブセイバーの交差切りをしゃがんで転がり回避する。そして高く飛び上がりベルディアの頭上に位置取る。

 

 ここで、これで、必ず、倒す!!

 

 やれるだろう神殺しの剣。お前の切り札はまだ俺は使っちゃいない!!

 

「ばかめ、破れかぶれに飛ぶと隙ができるぞ!! 」

 

 滞空するということは動きが直線的になるということ。相手に読まれやすくなるということだ。

 

 きっとベルディアは経験差で今、勝利できると確信しているのだろう。だが違う。俺はそれを否定する。

 

 2本のダークオブセイバーが俺の胴めがけて迫ってくる。その熱量が肌に迫ってくるのを確かに感じる。

 

 だが、俺はその間に神殺しの剣の切っ先をベルディアに向ける。

 

 まだだ、ぎりぎりまで引き付けて、相手が油断した隙を狙う。

 

「リョウタ!! 」

 

「神殺し!? 」

 

「リョウタさん!! 」

 

 ベルディアの顔を見つめ続ける。そして彼はダークオブセイバーが俺の胴に触れる寸前で薄暗い兜の奥で勝利を確信した笑みを浮かべてた。

 

 ここだ!!

 

 俺が念じると同時に、神殺しの剣から極太の呪いのビームが放出された。それはダークオブセイバーを上回るどす黒さの光線に白い電撃がまとわりついたものだ。ベルディアの振るう剣よりも速く鋭く、そして大出力で彼に迫り、その身を飲み込んだ。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」

 

 ベルディアの断末魔の叫びとビームの轟音が周囲にこだまする。

 

 ディナイアルブラスター。神殺しの剣に備わった呪いの力が圧縮されたビーム発射機能。切り札と呼べる技!!

 

 ビームに飲み込まれたベルディアの身体がどんどん粒子となって削り取られていく。俺を切り裂くはずだったダークオブセイバーはすでに消失している。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!!! 」

 

 俺は重力に従って落下し、ベルディアの胸元を神殺しの剣でディナイアルブラスターを放出したままに突き刺した。

 

 その瞬間。

 

 ベルディアの身体が光の粒子となって爆砕した。その間にも過剰な威力を持つディナイアルブラスターは床や地面を削り取り貫通。そのまま下の湖にまで伸びた。

 

 やがて目標を失った神殺しの剣が機能を自動的に停止する。

 

「勝った……」

 

 俺は疲労感とともに勝利の言葉を紡ぎだす。すると、俺の身体から赤黒い輝きが染み出てきて天へと昇り消滅した。死の宣告が解呪されたのだろう。

 

 終わった、何もかもが。

 

「リョウタさん!!!! 」

 

「ゆんゆん!!!! 」

 

 俺と同じ最下層までいつの間にか降りてきていたゆんゆんが俺に駆け寄ってくる。そして俺を勢いのままに抱きしめた。

 

 あったかい。

 

 ゆんゆん、俺が愛した人。彼女とともに明日を迎えることができる。

 

「よかった、よかったです。勝ったんですね!! リョウタさんの呪いが解けたんですよね!! これで明日からもリョウタさんは生きてるんですよね!! 」

 

「ああそうだよ。俺はこれからも生きていく。そして君と一緒にいる」

 

 ……恋人関係でもないのにこんなこんな言い方をしてしまうのはどうだろうかと思ったが自然と口にしてしまっていた。

 

 ゆんゆんはどう思っただろうか。

 

 俺はゆんゆんの返答がつい心配になってしまったがそれは杞憂だった。彼女は俺の顔を覗き込むと。

 

「はい、これからも一緒にいてくださいね……!! 」

 

 心の底からの笑顔を見せた。

 

 俺は彼女の快い返事に安堵しながら、見たかった笑顔を見れて満足した。

 

「ありがとうゆんゆん」

 

 そう言って俺はゆんゆんを流れに任せて抱き返した。ああ、生きてるって感じがするな、人のぬくもりは。

 

「りょ、リョウタさん……わ、私恥ずかしくなってきました……」

 

「……抱き着いてきたのはゆんゆんじゃないか」

 

「そ、そうですけど。あう」

 

「もう少しこのままでいさせてくれ」

 

 俺はさっきまでマヒしていた生死の感覚がゆんゆんに触れていると是正されていくのを感じて涙がこぼれた。正直ベルディアとの戦いはすごく怖かった。死の宣告で余命が決められていて後に引けない状態まで追い込まれていなければあんな恐ろしいほど強い奴と戦うことなんてできなかっただろう。……と言っても、ゆんゆんが死の宣告を受けたときは我を忘れて襲い掛かってしまっていたが。

 

 俺が泣いているのを察したのかゆんゆんは抵抗することなくそのままでいてくれた。しばしの静寂が2人を包んでいると。

 

「お2人さん。見てるこっちが恥ずかしくなってくるからそろそろやめろよ……」

 

「カズマさん、このタイミングで突っ込んでいくとかマジでないと思うんですけど、空気読めなさすぎだと思うんですけど。美少女に抱きしめてもらえてる神殺しに嫉妬してるの? 」

 

 空気を読まない発言を同じく最下層に降りてきたカズマとアクアがする。ここは2人きりにしといてくれよ。そう思った俺だったが。

 

「うるせー違うわ、それに気づいてないかもしれないけどリョウタ。お前ボロボロなんだぞ。早くアクアに治してもらえよ」

 

 …………。

 

「痛ってぇぇぇぇぇ!!!! 」

 

 俺はゆんゆんから離れ地面に転がりもがいた。全身各所が痛い。今までアドレナリンで誤魔化されていたのだろうが、今は各所にできた切り傷が焼けるように痛い!! いかん、さっきまでの感動からくる涙とは別で、苦しみからくる涙があふれてきた!!

 

「ああリョウタさんがって……私の服にも血がべったり!! こんな大けがしてたんですね……えっと」

 

「アクア様、治癒魔法をかけてください!! 」

 

「無理よ、私由来の力はすでに神殺しの剣に呪われてるアンタには作用しないでしょ。カズマも神殺しも忘れてたの? 」

 

「そうでしたぁぁぁ!! 」

 

「あ、そうだったな」

 

 俺はヒールを自分にかけまくった。

 

「あ、ありました。リョウタさん使ってください回復用ポーションです」

 

 ゆんゆんがしゃがみこみ俺にふたを開けた状態のポーションを差し出す。それを飲み込むと多少体の痛みが引いたがそれでもまだまだ痛い。

 

「せっかく勝利したっていうのに世知辛い……」

 

「でもまぁそれが生きてるって証じゃないの。良かったわね」

 

 アクアが俺にほほ笑んだ。

 

「あの、終わりましたかー!? 」

 

「デュラハンは倒せたのか!? 」

 

 めぐみんとダクネスが上から声をかけてくる。

 

「おう、終わったぞー!! 」

 

 それにカズマが答える。

 

 ああそうだ、全員の顔を見て思い出した。まだ言ってなかったな。

 

 痛みをこらえて、今できる精いっぱいの笑顔を作り。

 

「みんな」

 

「「「「「ん?」」」」」

 

「ありがとう」

 

 心からの感謝を伝えた。

 

 こうして魔王軍幹部、勇者殺しのベルディアとの戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 ベルディアとの戦いから翌日。俺にゆんゆんにカズマたちでベルディアを討伐したことをギルドに伝えると魔王軍幹部が倒れたとあってギルド内の冒険者たちは大騒ぎになった。その時は口々に冒険者が俺たちを称賛し、宴会が自然とはじまった。

 

 俺とゆんゆんは騒ぎの中心にいることにコミュ障ゆえ委縮したがそれなりに楽しんだ。カズマは同じ元ヒキニートだというのにテンション高く周囲に溶け込み、アクアは、げろを吐くまで酒を飲み、めぐみんは酒を飲もうとしてみんなに止められ、ダクネスは照れながらも周りの称賛に喜んでいた。

 

 そして数日後。俺とゆんゆんとカズマのパーティーはギルドに呼び寄せられていた。理由は一つ。特別報酬だ。ベルディアを倒したため俺たち2パーティーに計3億エリスが支払われることになったのだ。

 

 現在6人でルナさんの窓口にいる。

 

「ではみなさん、まずは3億エリスの報酬おめでとうございます」

 

 祝福しているはずのルナさんだがなぜか表情が微妙なものだ。

 

「なによ、辛気臭い顔してるわね」

 

 アクアがそれに突っ込む、

 

「ええとですね……皆さんには3億エリスの件とは別にもう一つ言わなければならないことがありまして」

 

「ん? なんですか? 」

 

 カズマがいったい何の件だろうといった顔でルナさんに質問する。

 

 確かに3億エリス以外呼ばれる理由に心当たりがない。

 

 ルナさんは申し訳なさそうに2枚の紙を取り出し俺たちに見せてきた。

 

 そこには0がいっぱい並んでおり小切手のように見えたのだが……それは違った。

 

「これ借用証書……ですか? 」

 

 生まれて初めて見るが、確かにこの世界の言語で借用証書と書いてあった。

 

 どういうことだ?

 

 俺意外の全員も固まっている。おそらくそこに書かれている金額を見てのことだろう。

 

「実は魔王軍幹部ベルディアの占有していた城の下の湖は塩水湖でして。……詳しい事情をお聞きした際に言われていたアクアさんの召喚した大量の水は真水だったため、それが流れ込んだ湖や、湖から延びる下流の川の魚等が大量死滅してしまい、いくつかの水産業に壊滅的打撃を与えていましてですね。……まぁ、魔王軍幹部を倒した功績もあるから全額賠償しなくてもいいから一部だけでも払ってほしい……と」

 

 そう言って俺とカズマに一枚ずつルナさんが借用証書を手渡す。そこに書かれた金額は一枚につき1億7000万エリス、合わせて3億4000万エリスの借金を俺たちがしていることの証だった。

 

「う、うそだろ、俺、報酬が出たらクエストに行く回数をグンと減らしてのどかに安全に暮らしていこうと思ってたのに。つまり俺たちのデュラハン討伐の金は消えて、さらに4000万の借金を抱えることになった……と」

 

「その、残念ながらそうなります」

 

 カズマの問いにルナさんが悲しそうに答える。

 

「え、嘘ですよね? 」

 

「残念ながら現実です……」

 

 俺の問いにルナさんが無慈悲にも現実を突き付けてくる。

 

「リョウタ」

 

「なんだカズマ」

 

「何としても借金返そう。手始めにパーティーを合併しないか? 」

 

「そうだな。四の五の言ってられん。合併だ」

 

 俺たちの過酷な異世界生活が始まった。

 

 




 ダークオブセイバーは本作独自の魔法です。公式にはありません。

 これで第1章終わりでも雰囲気的におかしくないのですがもう少し第1章は続きます。

 ここで神殺しの剣の性能について現在公開可能な設定を詳しく書きますね。

 神殺しの剣

 全体が真っ黒で、赤い菱形の宝石が埋め込まれた仰々しいデザインの呪いのブロードソード。神や悪魔、アンデッドに対して呪いによる特効を持っており、また、持ち主にとって敵だと思われる(神殺しの剣が勝手に判断する)神、悪魔、アンデッドに遭遇すると持ち主の能力(反射神経、筋力、魔力、防御力、魔法抵抗力)を呪いでブーストする。それ以外にも目標に対して強力な殺傷力を発揮する呪いの塊のビームを発射可能になる。リミッターがかかっており、敵のランク(数ではなく質)に応じてブースト機能やビームの威力が段階的に強化されるほか、その他機能も限定解除される。

 使用すると呪われて神や悪魔の攻撃スキルのダメージを呪いで軽減するほか、その他のスキルも基本一切受け付けなくなる(バニルのような大悪魔の本気は例外)。そのためアクアのスキルや例のサービスのお世話になることができない。

 という代物です。

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