【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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015 借金生活

 ベルディア討伐から一週間後。

 

「秋の収穫祭……か 」

 

 俺は神殺しの剣を片手に呟く。

 

 俺とゆんゆん、それにカズマたちはクエストを受けていた。場所はアクセル近郊の果樹園だ。

 

「もう、大人しくして!! 」

 

 ゆんゆんが暴れるカベルネをつかみながら叫ぶ。

 

 今回のクエストは農家のカベルネの収穫の手伝い。歩合制のクエストで捕まえれば捕まえただけ金がもらえる。多額の借金を背負っている俺たちにとってはうれしい限りだ。……しかしフルーツなのに捕まえるという表現なのがおかしい。

 

「木から切り離したらすぐに檻の中に放り込まないといけないのが大変ですね、っ……また逃げた!! 」

 

「おらっ!! 」

 

 ゆんゆんがハサミで木からカベルネを切り離すと、カベルネは彼女の手から逃れ地面に落ちると今度は自力で浮遊をはじめどこかへ逃げようとするので俺は神殺しの剣でそれを切り落とした。本来ならスティールで捕まえるというのがベストな選択肢なのだろうが俺の幸運値ではうまくカベルネを捕まえられるか怪しいのでそれはしていない。

 

「できるだけダメージが少ない方が高く売れるから極力逃げられないようにするのがいいんだろうけど。なかなか難しいみたいだね」

 

「すいません……」

 

「気にしないで」

 

 ゆんゆんが真っ二つになり動けなくなったカベルネを捕まえると檻に放り込む。檻の中にはすでに20房近くのカベルネが放り込まれていた。

 

「俺の国のフルーツみたいに大人しくしてくれてればいいのに」

 

「いいですね。暴れないフルーツたち、ステキです」

 

 そう言いながらゆんゆんは次のカベルネに手を伸ばし……今度はうまく捕まえることができ、檻に無傷で放り込めた。

 

「おーい、リョウタ、ゆんゆん。そっちの収穫数はどんなもんだ!? 」

 

 離れた位置にいるカズマが声をかけてきた。俺はそれに対応する。

 

「20房だ!! そっちはどうだ!? 」

 

「45房だ!! しかも無傷で!! これは高い報酬が期待できそうだぞ!! 」

 

「カズマさんがスティールで取りまくりよ!! 私出番が無くて楽でいいわ」

 

 カズマとペアを組んでるアクアがそんなことを言う。

 

「……お前もカベルネ捕まえろよ。歩合制だぞ」

 

「仕方ないわねぇ……うぎゃ、反撃してきた、痛い痛い!! カズマさん助けてぇ!! 」

 

「やっぱお前なにもしなくていいわ」

 

 アクアがカベルネに攻撃されるのを「足手まといめ」と言わんばかりの表情のカズマが助けるのが見える。

 

「すげぇな45房」

 

「カズマさん凄いですね。……スティールかぁ……」

 

 スカートを押さえながらつぶやくゆんゆん。

 

「ど、どうしたんだいゆんゆん? 」

 

「い、いえ。もう私にスティールはかけないでくださいね」

 

「わかってるよ。もう君に丸1日口をきいてもらえないのはごめんだ」

 

 あれは辛かった。でもゆんゆんのパンツが見れたのは僥倖だったと言わざる負えない。

 

「リョウタさん今なんだかエッチなこと考えて……」

 

「めぐみんとダクネスの方はどうなってんだろう? 俺たちより多く捕まえてるかな? 」

 

 表情からか俺の心を読まれたので少し大きめの声で話題を逸らす。

 

「あ、今日はめぐみんとどっちのペアが多く捕まえられるか勝負してますし!! 負けないように頑張らないといけませんね!! 」

 

 ゆんゆんが張り切りながら、またカベルネを捕まえて檻に入れた。

 

「今日こそは絶対勝つんだから」

 

 目を赤く輝かせながらそう宣言するゆんゆん。

 

 それからも俺たちのカベルネ狩りは続いた。

 

 

 

 

「どうだっためぐみん!! 私たちのペアは70房よ!! 」

 

「くっ、こっちは52房です。なんでしょうまともに勝負する気は無くても負けると悔しいものですね……」

 

「すまないめぐみん。私が不器用なばかりに……」

 

 クエスト終了時刻になりカベルネの数を集計した俺たちは農家の人に取れ高を報告してるカズマを果樹園の外で待っていた。

 

「それがいつも私があなたに味あわされ続けてた屈辱よ」

 

「イラッ……図に乗らないことですねぼっち」

 

「ええー!? 今はぼっちじゃないから、めぐみんだってパーティーメンバーだし……」

 

「……そうでしたね。おっと、同じパーティーと言ってもチームが分かれているのですっかりパーティーであることを忘れていましたよ」

 

 現在俺たちのパーティーは運用効率を考えて、戦闘能力バランスの振り分けの末に結局二チームに分かれて行動するということになっている(今回のようなクエストやめぼしいクエストが複数無い場合を除いて)。チーム割り振りはもともとのパーティー構成と同じだ。

 

「ひ、ひどい」

 

 ゆんゆんが傷ついたのか涙目になる。

 

 ……ここは少しめぐみんをからかってみよう。

 

「それは俺も仲間であることを忘れられてたってことでいいのかいめぐみん。だとしたら結構心のダメージがでかいんだけど」

 

「え、あ、いえ、リョウタのことは……」

 

 俺が落ち込んだふりをしてみるとめぐみんが焦り始める。……なんてかわいいんだめぐみん。

 

 すると。

 

「お前らー、報酬貰って来たぞ。報酬は10万2千エリスだー」

 

「おお、結構な額になったな」

 

 カズマが報告から戻り、ダクネスが結果を聞いて喜ぶ。

 

「あんな痛い思いして10万2千エリスですって? 嘘でしょう……」

 

 カベルネたちに手ひどい反撃を受けたのか髪の毛がぼさぼさになっているアクアが肩を落として嘆く。

 

「次はもっと楽で実入りのいいクエストを受けましょう!! フルーツはしばらく見たくないわ!! 」

 

「そんないいクエストがそうそうあるかよ」

 

 カズマがアクアの楽観的な一言に突っ込んだ。

 

 

 

 

「まさかアクアが言うような楽なクエストがあるとはな」

 

「ああ、びっくりだよ……」

 

 俺の言葉にカズマがうなずく。

 

 カベルネ狩りが終了して2日後。俺たちは楽かつ実入りの良いクエストを受けていた。

 

 クエストの内容はというと汚れた湖の浄化だ。水質汚染が深刻なためモンスターのブルータルアリゲーターが住み着き危険地帯と化している。

 

「それを何とかするためにアクアを檻に放り込んで水を浄化させる……か」

 

 俺は苦笑する。

 

「絵面はあれだけど、一番確実で安全な方法だ。檻の中ならモンスターに襲われても大丈夫だからな」

 

 カズマは自信ありげにそう言った。

 

 湖の浅瀬にアクアと彼女を覆う檻を放置して、俺たちは湖のほとりの木陰になっている場所で並んでいる。

 

 アクアは最初、クエスト自体には乗り気だったが作戦内容に不満を見せていた(本人曰く珍しいモンスターの気分)。しかし今は静かに浄化にいそしんでいる。

 

「アクア―!! 湖の浄化はどんな感じですか? 」

 

「順調よめぐみん!! 」

 

「浸かっているだけで浄化ができるだなんてアクアさんの能力凄いですね……」

 

「当然よ私は女神だもの!! 」

 

「自分を女神など言っていると罰が当たるぞアクア……」

 

「あたらない、あたらない。それをする権利は私にあるんだもの」

 

 ダクネスの咎める声に涼しい顔で切り返すアクア。

 

 まぁ、アクアの言う通り罰を与える権利は彼女が持っているのだろう。こんな女神に罰を当てられるだなんて、当てられたとすれば屈辱以外の何物でもないが。

 

「ねぇ神殺し。今私に失礼なこと考えなかった? 私電波を受信したんだけど……」

 

「考えてないよー!! 」

 

 罰当てられたら本当に屈辱なのでこれ以上失礼なことを考えるのはやめよう。

 

「トイレ行きたくなったら言えよー!! 」

 

 カズマが水につかり続けて体を冷やしているであろうアクアを心配してかそんなことを言うと。

 

「アークプリーストはトイレなんか行かないしー!! 」

 

 焦った顔でそんなアホな返答をするアクア。

 

「大丈夫そうですね。ちなみに紅魔族もトイレなんか行きませんよ」

 

「ええっ!? な、何言ってるのよめぐみん」

 

「お前らは昭和のアイドルかよ」

 

 …………。全くだ。今なんて令和の時代なのに。この世界基準で考えると違うが。

 

「わ、私もクルセイダーだからトイレなんて……」

 

「ダクネス張り合わなくてもいいだろ。心配するな紅魔族はちゃんとトイレに行ってる。クエストで確認済みだ」

 

「ふぇ、リョウタさん!? 」

 

 俺の一言に顔を赤くするゆんゆん。やがて涙目になりスカートのすそを押さえた。

 

 かわいい。

 

「りょ、リョウタ。何とデリカシーのない!! 」

 

 めぐみんもゆんゆんと同族だからか顔を赤くして抗議してきた。

 

 デリカシー? なにそれおいしいの? 君らが変なこと言ってるからからかいたくなるのさ。

 

「お前らがアホなこと言ってるからだろ」

 

 カズマは呆れた顔でそう一言。

 

「あ、あのリョウタさん? 実際に確認とかしてませんよね!? トイレをのぞいたりなんかリョウタさんに限ってないですよね!? 」

 

 ゆんゆんは不安げに声を荒げた。

 

「な!? そんな変態的羞恥プレイをしているのかリョウタたちは!? 」

 

「んなわけあるかダクネス!! ゆんゆん、トイレ行ってくるっていう申告はこれまでにクエスト中何度か聞いてるからさっきはああ言っただけで、のぞいたりなんかしてないよ!! 」

 

 そんなことしてみろ。君に嫌われてしまう。だから絶対にしない。

 

「で、ですよね。変なこと言ってごめんなさい……」

 

 ほっ、と肩をなでおろし安心するゆんゆん。

 

「リョウタさんに見られでもしたら恥ずかしくて死んでしまいます……」

 

 そして小声でそんなことを言った。俺に見られたりでもしたらとはどういうことだろうか?

 

 もしかしてゆんゆんも結構俺のこと意識してくれてる? のか?

 

 そんな淡い期待を抱いていると。

 

「ぎゃぁぁぁカズマさん、かじゅまさぁぁぁん!! 」

 

 アクアの泣き叫ぶ声が周囲に響いた。何事かと思ってアクアの方を見てみると。

 

「ブルータルアリゲーターが出て来たんですけどぉぉぉぉ!!!! 」

 

 ワニ型のモンスター。ブルータルアリゲーターの集団にアクアの檻が取り囲まれていた。そして。

 

「ちょ、来ないでよ!! うぁぁあ゛ぁぁぁあ゛ぁあ゛ぁぁぁ、檻に噛みついてきたぁぁぁ!!!? 」

 

 ブルータルアリゲーターたちは一斉にアクアに襲い掛かった。

 

 それからというもの。アクアは女神の特殊能力だけではなく『ピュリフィケーション』という浄化魔法まで使って湖を浄化し始めた。

 

「いやぁぁぁぁぁピュリフィケーション、ピュリフィケーション、ピュリフィケーション!!!! 」

 

 何度もピュリフィケーションを唱えるアクア。

 

「アクアーギブアップだったら言えよ!! 檻に括り付けてる鎖引っ張って助けてやるから!! 」

 

「いやよ!! 今やめたら時間が無駄になるし、報酬ももらえないじゃない!! 」

 

「……報酬のこと考える余裕があるなら大丈夫だな!! 」

 

 カズマとアクアがやり取りをする。

 

「あの檻の中少し……楽しそうだな」

 

「いくなよ」

 

 紅潮するダクネスを制止するカズマ。

 

「っあ゛ぁぁぁあ゛ぁぁ!!!! 今檻がミシッってゆったぁぁぁ!!!! ちょっとこいつら何とかしてぇぇ―!!!! 」

 

 檻が複数のブルータルアリゲーターのデスロールを喰らって振り回されている。

 

「た、助けてあげましょうみなさん!? 」

 

「うん、さすがにあれはかわいそうだ」

 

 ゆんゆんの言葉に俺も続く。

 

「でもブルータルアリゲーターって結構強力なモンスターらしいぞ。いけるのか? 」

 

「いけるさ、俺、ベルディアを倒したから今レベルが27だし。……じゃあちょっと行ってくる!! 」

 

「あ、ずるいぞリョウタ!! 私も行ってくりゅ!! 」

 

「私は援護します!! エアスライサー!! 」

 

 駆け出した俺とダクネスの背後でゆんゆんがエアスライサーを発動しブルータルアリゲーターのうちの一匹の首を風の斬撃波で斬り飛ばした。

 

 俺はワニたちの注目がこちらに向いたのをかまわず、ブルータルアリゲーターの背中に飛び乗ると、脳天に神殺しの剣を突き立てた。

 

 ブルータルアリゲーターを絶命させ次の標的に向けて接近する中で。

 

「おいめぐみんお前も援護しろよ」

 

「無理です。私のファイヤーボールは制御が甘くアクアとリョウタとダクネスを巻き込んでしまいます」

 

「練習しろよ」

 

「お断りします。毎日の爆裂魔法の威力が減るではありませんか」

 

「おい」

 

「威力は確かなのですからいいではありませんか。それにあれは私の切り札の一つです。そう簡単に発動するわけには……」

 

 そんなめぐみんとカズマのやり取りが聞こえてきた。

 

「カズマ!! お前も援護を!! 」

 

 俺は駄弁っているカズマに援護を要請する。

 

「ああごめんわかってるよ!! これでお前だけだな、何もしてないの。役立たずめ」

 

「ふぁっ!? 」

 

 ブルータルアリゲーターの首を斬り飛ばす中で、援護してくれているゆんゆんと矢をつがえるカズマとショックに打ちひしがれるめぐみんが見えた。

 

 

 

 

 

 ブルータルアリゲーターを完全駆除しレベルもさらに上がり29になった。

 

 檻を中心にブルータルアリゲーターの死体の山がいくつも積み上げられている。最初にいた数よりもはるかに大量のブルータルアリゲーターが襲い掛かってきたからだ。そして肝心の湖はというと完全に浄化され透き通った色になっていた。

 

「カズマ、何度も言うように私はこのパーティーの最大火力。いわば最終兵器であってですね。決して役立たずなどではないのですよ……。そりゃ私のせいでデュラハンとの戦いも勃発してしまいましたが、決して役立たずなどではないです……ないです」

 

「わかったからそんな悲しそうな顔して何度も言ってくるな!! 悪かったよ言い過ぎたから」

 

 カズマの言い放った一言に結構心にダメージを負ったのか半分自分に言い聞かせるようにカズマに縋りついてそんなことを言い続けるめぐみん。

 

 かわいい。

 

「というかベルディアの件。まだ気にしてるんだな。もういいよめぐみん。君は役立たずなんかじゃない。立派な戦力だ」

 

 しかしかわいそうなのでフォローする。

 

 めぐみんは俺の方を向くと。

 

「だって私のせいで親友と仲間を死の淵に追いやってしまっていたのですよ。責任はずっと感じてしまいます」

 

「親友!? めぐみんたらもう」

 

 親友と言われて体を喜びでくねらせるゆんゆん。

 

「間違えました。ライバルと仲間に訂正します」

 

 ゆんゆんにはツンデレだなこの子は。

 

「てか責任に感じてるなら今後あんなことが無いように爆裂魔法を封印するなりしろよ!? 」

 

「な、な、な。カズマ、私にアイデンティティを捨てろというのですか!? さすがにそれはできません!! 爆裂魔法の封印だなんてそんなこと。……そんなひどいこと言わないでください……死ねと言われているようなものです」

 

「あーもうまたそんな辛そうな顔をして!!!! 悪かった。罪悪感がすごいからその顔止めろロリっ子!! 」

 

「うう、このわれがロリっ子……」

 

 なんだろう、かわいそうなめぐみんはかわいいな。ついついもっといじめたくなる何かがある。だがやりすぎて嫌われたりしたら辛いので俺から何か言うのはやめておこう。

 

「お、おいみんなアクアの様子を少しは気にかけてやれ!! 」

 

「ん? アクアの様子? 」

 

 俺は戦闘中、ブルータルアリゲーターにデスロールを極められ喜んでいたダクネスの言葉に従って檻の中を見る。

 

「なんだ? 」

 

「なんです? 」

 

「アクアさん? あ……」

 

 アクアは。

 

「外の世界怖い。ここからもう一歩も出たくない。ここが私の居場所。居場所」

 

 うつろな目で体育座りのままそんなことをつぶやいていた。

 

 どうやら女神アクアはワニどもに集団で襲われ、逃げ場もなく檻をガチャガチャされた結果、大きなトラウマを植え付けられたようだ。

 

 助けに向かうのが少し遅かっただろうか?




 原作小説にはカベルネは登場しません。
 そう言えば原作者の暁なつめ先生のツイートによると、アイリス姫の頭のブドウにはエピソードがあるみたいですね。

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