【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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021 少女たちを襲った悲劇

 神殺しの剣を構え、敵感知と千里眼を発動した状態で牧場の柵沿いに周囲を探索する。さすがに森に入るのは月明りも届かず暗いうえ、そこに生息しているモンスターのリストを調べてきていないため危険だと判断して侵入はしていない。

 

「リッチーとかそう言う存在がいるのかな? 」

 

 俺はアンデッドの中でも最高位の存在の名を口にする。

 

「どうなんでしょうねヴァンパイアという可能性もありますよ」

 

「そんなのもいるのか。まぁ出会ったとしたら今の最強状態の俺が滅ぼしてやる」

 

「最強状態というと具体的にどんな状態なんですか? 」

 

 ゆんゆんがあたりを見回しながら俺に聞いてくる。

 

 白狼を倒すために意識を集中した際に神殺しの剣が俺に伝えてきた情報の中に、ウイング展開による飛行可能というのがあった。そのほかにも枝分かれするビームの発射やバリアの展開、命中した標的を爆発させる斬撃波の射出、胞子状のエネルギービットの放出。これだけの技が使用可能になっている。

 

「とりあえず、ディナイアルブラスターの応用技がいくつも使えて、空も飛べるようになってると思ってくれたら」

 

「そ、それ本当ですか? 」

 

「そんなにとんでもないことができるようになっているのなら相当な大物ですね……。それにしても神殺しの剣。底が見えませんね」

 

 めぐみんが若干楽しそうにそんなことを言う。

 

「いや、これが底の一歩手前な気がする。そんな感覚が神殺しの剣から感じられる」

 

「だとしたらリョウタさん、めぐみん。私たちが相手にしようとしてるのって悪魔や邪神なんじゃない……? 」

 

「……その可能性もゼロじゃないね」

 

 まさか破壊神だろうか?

 

 いや、戦う運命にあるとは聞いてたが俺を狙ってくるとは色々考えづらい。俺が神を殺す力を持ってると知ってるのは現状、天界にいる存在不特定多数にパーティーメンバー。それだけだ。この世界にいるらしい破壊神がそれを知っているというのはおかしい話だ。

 

「大量にアンデッドがいるんでしょうか? でも集合墓地とかは近くにはありませんし……」

 

 ゆんゆんが考えこむ。

 

「量じゃなくて質で神殺しの剣のリミッターは解除されるから、たくさんいるからと言って強くなるわけじゃないんだ」

 

「だとしたらかなりの強敵だと思ったほうが良さそうですね。我が爆裂魔法で吹き飛ばしてやります!! 」

 

「そうだね、爆裂魔法はあらゆる存在にダメージを与えられるいわばもう1つの神殺し。戦いになったら真っ先に撃ってくれめぐみん」

 

「も、もう1つの神殺し!! いい響です!! 」

 

 めぐみんが1人盛り上がる。

 

「もう緊張感ないわね、もう少し冷静になりなさいよ……!! 」

 

「強敵と戦えるというのに胸躍らないあなたが紅魔族としてズレているだけです」

 

「むぅ……そんなこと言いながら逆境や想定外の事態に直面すれば真っ先に取り乱す癖に……」

 

「な、なにおう!! 」

 

 この2人の会話は見ていてかわいらしい。いつまでも聞いていたくなる。

 

 そんなことを思いながら俺たちの探索は続いた。

 

 やがて。

 

「あれ? なんだかあの岩の周り柵で囲んでありますね」

 

 ゆんゆんが指さしたのは、しめ縄のようなものが巻かれた全長3メートルくらいの大きな岩だった。牧場の柵と、増設されたと思われる岩から2、3メートル離れた位置に設置された柵に囲まれている。

 

「なんだか不気味ですね」

 

 めぐみんがそうこぼす。

 

「うん、なんだか嫌な感じがする……」

 

 ゆんゆんはそれに同意した。

 

「お、なんか文字が彫ってあるな、暗視でもあんまり読めないからもう少し近づいてみるか」

 

「そ、そうですね」

 

「わ、わかりました」

 

 怯え気味のゆんゆん、めぐみんを伴って岩に近づいていく。

 

 やがて文字が読めるほどの距離。約10メートルくらいに達すると、突然。

 

「「ひぃぃぃぃ!!!! 」」

 

 悲鳴が夜空に響いた。それは紅魔族の少女たち2人のものだ。

 

「ど、どうした? 大丈夫かい2人とも!? 」

 

「こ、怖いです、あの岩……」

 

「あわわわわ……」

 

 あれが怖いのか? あのしめ縄の巻かれただけの岩が? 確かに不気味だが……。

 

 普通こんなにおびえるだろうか?

 

 めぐみんもゆんゆんもがくがくと体を震わせ、涙目になっていた。何かの拍子に今にも泣きだしてしまい、逃げ出すのではなくその場に崩れて落ちてしましそうな。そんな風な怯えようだ。

 

「よしいったん下がろうか、とりあえずこの岩がおかしいことはわかった」

 

「「きゃぁぁぁぁーーー!!!! 」」

 

 俺がそんな提案をした直後、2人は悲鳴を上げる。そして俺に縋りついてきた。

 

「ちょっ!! 2人とも!? 」

 

 なんだこの岩、女性を恐怖させるような呪いでもかかってんのか? だからこの2人がこんなに恐怖失禁でもしそうな勢いで俺に抱き着いてきたのか?

 

「何これ、何これぇ!!!? 私の中に入ってこないで!!!! 」

 

「いやです、いやです、いやです!!!! 私はだいじょうび、わたしはだいじょうび……」

 

 それにしても大きいのと小さい柔らかなふくらみが俺の身体に触れていてこれは非常に素晴らしい、ではなく、心配だ。2人とも言ってることもなんかおかしいし。

 

 俺は男としての本能の喜びをわずかに感じながらも、2人のことが非常に心配になった。

 

 この怯えようは尋常じゃない。

 

 なので。

 

「ここは退散する!! 」

 

 俺は2人を両腕で抱き込むと、強化された身体能力を生かしてバックステップを踏みながら、一定の距離をとると、その後は岩に背を向け宿舎として提供されている事務所まで退散した。

 

 

 

 

「大丈夫かい二人とも? 」

 

 事務所内でゆんゆん、めぐみんの二人はお互いの両手を絡ませた状態で寄りかかりあい座り込んでいた。

 

「だいぶ……落ち着きました」

 

「うう、あうぅぅ、私も同じくです」

 

 ゆんゆんそしてめぐみんの順で俺の言葉に返答する。2人ともまだ震えている。

 

「何があったかわかるかい? 」

 

 俺はしゃがみ込み目線を合わせてできるだけ優しい口調で語り掛ける。

 

「あの岩に近づくとなんだか……私の中に怖い誰かが入ってくるようなそんな感じがしたんです。あれは破壊神デストラクターの封印用要石に違いありません……」

 

「……たぶんゆんゆんの言う通りです」

 

 疲れ切った声でそんなことを言い出したゆんゆんの言葉を肯定するめぐみん。

 

「紅魔の里に破壊神デストラクターの要石があるのはこの前私が言ってた話で知ってますよねリョウタさん」

 

「うん」

 

 確か紅魔の里には破壊神の残機と力の4割が封印されてたはずだ。

 

「紅魔の里では破壊神デストラクターの要石だけには近づきすぎないように厳命されてるんです。体を乗っ取られるからって」

 

「乗っ取られる? マジでか」

 

「紅魔族の身体が生まれつきアークウィザードになれる素質を秘めているから依り代としてちょうどいいのでしょう……。乗っ取ると言っても……正しく言うならデストラクターの意のままに動く人形にさせられると言った方が正しいですね」

 

 めぐみんがうつろな目で補足する。

 

「さっきのは多分、デストラクターの乗っ取りだと思います。……こわかったよぅ」

 

「私も怖かったです……」

 

 2人が抱き合う。眼には涙が浮かんでいる。きっと想像を絶する恐怖があったのだろう。

 

「よしよし」

 

 俺は気づいたら2人の頭を撫でていた。

 

 こういう時に頭を撫でられたら少しは安心感が高まるだろう。

 

「リョウタさんありがとうございます」

 

「ええ、さっきも私たちをあの場から引き離してくれたこと感謝しますよリョウタ」

 

 かなり落ち着いてきたかな。ならそろそろ言うか。

 

「2人とも、だいぶ落ち着いたから言うが、まずは自分が冷静さを欠かないように心してほしい」

 

 これから重要なことを言わなければならない。

 

「「ん?」」

 

 2人は何を言っているのだろうという表情をしたのち、言われた通り気を引き締め、強めの顔つきになる(最もまだ不安げだが)。

 

「とりあえず、着替えよう。そのままだと風邪ひくよ……」

 

「「……あっ!! 」」

 

 最初は俺が何を言っているのかまるで分らないという風な顔をしていたが、数秒の沈黙の後何を言っているのか理解した。

 

 2人は恐怖失禁してしまっていた。よってスカートはもちろん、太ももをを伝って二ーソックスを濡らしてしまっていた。おそらくパンツも大変なことになっているだろう。

 

 正直、エロく感じる。

 

 2人とも顔が真っ赤にし。

 

「っ……!! や、やだぁ!! 」

 

「ぬ、ぬわぁぁぁぁ!!!! 」

 

 ゆんゆんがスカートを必死に手で隠す。

 

 そして、めぐみんはというと、目を赤く輝かせながら怒りに顔を歪め。

 

「お、おのれ!! 破壊神め、このようなことによくも追い込んでくれましたね!! 許しません、許しませんよ絶対に!!!! 」

 

 めぐみんが濡れた服のまま立ち上がり、俺の横を通り過ぎ事務所のドアを勢いよく開け放つ。

 

「お、おいめぐみん!? 」

 

「ちょっとどうするのよめぐみん!? とりあえず着替えないと……こんなおもらしした状態じゃぁ……」

 

「おんどりゃあぁぁぁ」

 

 めぐみんの怒りの叫びが響き渡った後。しばらく何かを小声で唱えるのが聞こえてきた。

 

 まさか……まさかっ!?

 

「エ゛ク゛ス゛フ゛ロ゛ー シ゛ョ゛ン゛!!!! 」

 

「「あ!!!? 」」

 

 めぐみんがおそらく要石のある方角に向けて爆裂魔法を放った。

 

 大爆発が起き、空気が震え、何もかもが吹き飛んでいるのが見える。

 

「ちょっと何してるのよぉぉ!!!! 」

 

「おい、めぐみん!! もし封印とかが解けたらどうするん……だ? 」

 

 倒れ伏しためぐみんが冒険者カードをこっちに向けてくる。

 

 そこには。

 

『破壊神デストラクターの力と残機の1割』と。討伐モンスターの欄に表示されていた。

 

「マジかよ……!! 」

 

「う、うそでしょ!? 」

 

「ふふふ、爆裂魔法は最強魔法。リョウタの言うようにもう1つの神殺しです。我にこのような辱めを与えた破壊神は滅びるが定め。レベルも上がりましたしスカッとしました」

 

 めぐみんのレベルは29から34に上昇していた。

 

「ま、まぁこんな目に合わせた破壊神が滅んで私はうれしいけど……リョウタさん。恥ずかしいのでしばらく外で待っててもらえますか? めぐみんも着替えさせないといけませんし」

 

「すみませんがお願いします。リョウタ、ゆんゆん」

 

 紅潮した顔でそう言う二人。

 

「了解」

 

 俺は苦笑しながらめぐみんをゆんゆんのそばにまで運ぶと、一旦事務所を出た。

 

 その際にゆんゆんが。「この歳で、しかもリョウタさんの前でおもらしだなんてもうお嫁にいけない」と言ってるのが聞こえた。

 

 大丈夫、俺がもらうから。

 

 

 

 

 

「ず、随分派手に白狼を退治したんだね……」

 

 翌日。経営者の人が牧場の惨状を見て絶句していた。

 

「「「すいませんでした」」」

 

 俺とゆんゆん、めぐみんはそろって頭を下げる。

 

「いいさ。まぁ柵がなくなったところは少し困るからその分報酬は引かせてもらうよ。でも、あの近づくと狂暴化してしまう岩も排除してくれたみたいだしそれは本当に助かったよ。ありがとう」

 

 優しい人で良かった。報酬減額程度で済んで。それにしても……。

 

「狂暴化? 」

 

 どういうことだろう。

 

「デストラクターの要石から力が漏れ出ているせいで一定以上近づいた生物は瘴気にあてられて強い破壊衝動を抱くんですよ。多分リョウタがその影響を昨日受けなかったのは神殺しの剣のおかげですね。ちなみに紅魔族が影響を受けないのは乗っ取りの方を優先されるからです」

 

「なるほど。とにかく今回は本当にすいませんでした」

 

「ごめんなさい」

 

「申し訳ないです」

 

 俺に続いてゆんゆん、めぐみんが再度頭を下げた。

 

 

 

 

「まさかリョウタとゆんゆんがいてもクエストをしくじるとはな……」

 

「すまない」

 

「ごめんなさい」

 

 お昼。ギルドの酒場でカズマに今回のクエストの報酬が減額されたことを報告していた(もちろん2人がおもらししたのは伏せて)。

 

「まぁ普段から大量の金稼いでくれてるのはリョウタとゆんゆんだし、結果的に報酬も僅かばかり出たんだから文句はあんまり言う気はないけどな。だがめぐみん」

 

「なんですかカズマ? 」

 

「お前は毎回毎回クエストで爆裂魔法を放たなきゃ気が済まないのか!? ピンチの時以外もファイヤーボール使えよ……」

 

「今回は仕方ない。めぐみんを責めないであげてくれ。俺も悪いしな」

 

「……まぁリョウタがそう言うんだったらいいか」

 

「そうですよ。それに今回私は大金星を挙げたのです。見てください、カズマ、アクア、ダクネス!! 」

 

 うれしそうに破壊神を討伐したことを表示してある冒険者カードを見せびらかすめぐみん。

 

「あら!! よくやったわねめぐみん、あの邪神と悪魔の合いの子みたいな最低な奴の残機と存在を消し飛ばすだなんて。本当によくやってくれたわ!! 」

 

「ああ、すごいなめぐみん!! しかし……まさか牧場の要石を消し飛ばすとは。素晴らしい威力だな爆裂魔法は」

 

「なぁ、この調子で要石ごと爆裂魔法で破壊神を吹き飛ばしたら楽なんじゃないのか? というか懸賞金かかってるんじゃ!? 」

 

 カズマが嬉々とした表情でそんなことを提案する。

 

「おお、確かにそれなら安全だし、そのうえ金ももらえて最高じゃないか」

 

 俺もその言葉に思わず明るくなるが。

 

「残念ながら破壊神デストラクターに懸賞金はかかってないですね」

 

 ゆんゆんが申し訳なさそうにそう言った。 

 

「「マジか!! ……マジか」」

 

 今度はめぐみんが口を開く。

 

「それに、今回の要石は小規模で、封じていたのも力と残機の1割だけだったので爆裂魔法で破壊できましたが、ほかの要石はそうはいかないと思います。あの牧場以外の要石は封印されている力と残機の規模の割合が大きめなのでそれに応じて優れた魔法抵抗力を持っていますし、物理的にもとても頑丈です。それらを突破したうえで破壊できるかどうかも怪しい以上、今回のような賭けに出ないほうがいいと思います。無いとは思いますが万が一復活させてしまうということもあるかもしれませんから」

 

「ん、お前最後の方なんて言った? 」

 

「なんでもありません」

 

 カズマのツッコミにめぐみんは顔を逸らす。それを見たカズマはげんなりとした後。

 

「……だったらリョウタの神殺しの剣はどうなんだ? 」

 

「俺の神殺しの剣は確かに要石に封じられた破壊神に反応してたけど、1撃で要石ごと消滅させられるかどうかはわからない以上危険な綱渡りはするべきではないと思う」

 

「リョウタの言う通りだな、わざわざ封じられている物に積極的にちょっかいを出すものではあるまい」

 

「そっかー……ならやめとくか。いい案だと思ったんだが……」

 

「えー私はこの世から破壊神がいなくなってくれたほうがいいから積極的に手を出していくスタイルに賛成なんですけどー」

 

「……お前が言うと本当に手を出すべきではない気にさせられるよ……」

 

 カズマがアクアに何かを悟ったような視線を送りながらそう言った。




 おもらしする美少女ってそそるものがありませんか?

 余談ですが、めぐみんは「賭け」と言ってはいますが、実際のところは乗っ取られかけた際に要石の持つ力の程度を感じ取ったことで、要石を消滅させることが可能であることを確信したうえで爆裂魔法を放っています。

 また、基本的には要石がダメージを負うこと=封印されている力と残機にダメージが入ることなので、正規の手順を踏まない限り、要石が傷ついたり、完全破壊されたからと言って中身のデストラクターが復活することはありません。

 今の今まで要石を破壊するという選択を誰もしなかったのは、デストラクターの力が要石の防御力に直結しており、要石を破壊可能なレベルの火力を持っている爆裂魔法クラスの威力の魔法を使える者がいなかったからです。

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