【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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022 キールダンジョン

「ダンジョンに行こうと思う」

 

「いやですよ。私が何にもできなくなるではありませんか。爆裂魔法もファイヤーボールもダンジョン内では危険すぎて使えませんよ」

 

「いきます」

 

「いやです!! 」

 

「お前荷物持ちでも何でもするってパーティーに入る時言っただろうが!! ダンジョンに行くんだよ!! 」

 

「あうぅ」

 

 要石の一件から2週間後の朝。酒場でカズマがめぐみんと言い合いをする。しかしダンジョンに行くとはいったいどこのダンジョンだろうか? いやまずダンジョンってどこにあるんだろう。

 

「どこのダンジョンなんだ? 」

 

「このあたりのダンジョンとなるとキールダンジョンがありますね」

 

 ゆんゆんがそう言いながら朝食を口に運ぶ。

 

「キールダンジョン? 」

 

 キールは人名だろうか? 地名だろうか?

 

 そんな疑問を抱いているとカズマが。

 

「アクセルの冒険者にとっては練習用のダンジョンになってるところだよ。そこで俺は考え出したダンジョン攻略法が通じるかどうか試してみようと思うんだ」

 

「なるほどな」

 

 俺はどんな攻略法なのか気になりながらカズマの言葉に返事をした。

 

「これでうまく行けば他のダンジョンでも同じ方法で忍び込んでまだ調査が終わってないエリアで一攫千金を狙ってわけだ。俺の幸運値もかなり高いわけだし割と現実的だと思うんだけど」

 

「確かにお前の幸運値から考えれば現実的だと思えなくもないが、いったいどんな手段なんだ? 普通はクリスのような盗賊職がダンジョン攻略には必須だぞ」

 

 ダクネスがカズマに質問する。そう言えば名前の先ほど出たクリスだが、彼女は先輩から理不尽な要求をされて、それを片付けるために現在奔走しているらしいと聞いた。

 

「それはな、俺は冒険者だからアーチャースキルと盗賊スキルの両方が扱えるだろ。だから、千里眼と敵感知、それからテイラー達とのクエストでレベルが上がってたからその際に獲得したスキルポイントでクリスから教わった潜伏と罠発見と罠解除の3つのスキル。これら全部を動員して周囲を警戒しながら暗視で進み、罠とか敵からはスキルを駆使して回避する。って感じでダンジョンを攻略しようと思う」

 

「「ふむふむ」」

 

 ダクネスと俺はカズマの説明に納得した。カズマの言った方法なら確かに戦いを避けつつ安全にダンジョン攻略ができそうだ。

 

「ちなみに、今回は1人で潜ろうと思うからみんなには道中の警護だけ頼みたい。1人の方が効率良さそうだからな」

 

「ダンジョンに皆で入るわけではないのですね。よかったです。……役立たず呼ばわりはもうごめんですから」

 

 安堵した様子のめぐみん。

 

「それなら私も安心だ。私の剣はまだ冬将軍に壊されてから修理中だからな」

 

 鎧の手入れをするダクネスがほほ笑みながらそう言った。そんな彼女にカズマは。

 

「めぐみんは火力担当だからともかく、ダクネス。お前に至っては最初から戦力外だから心配すんな」

 

「っ!! 」

 

 ダクネスが顔を赤くする。辛らつな言われように喜んでいるのだろう。

 

「ねぇカズマさん。私の力が必要だと思うんですけど。私の曇りなき眼は暗闇でもある程度見えるし、ダンジョンの中には下級の悪魔も出てくるから私がいないとカズマさん詰んじゃうと思うんですけど」

 

「……でもお前連れて行くとアンデッドにたかられそうだしな」

 

「それは仕方ないじゃない。私の神聖で高貴な生命力が引き寄せちゃうんだもの」

 

「だったら俺が一緒に行こうか? 俺ならスキルポイントも余裕があるから潜伏さえ覚えとけばあとはカズマに任せて進めばいいし、対アンデッドや人外戦もこなせるし」

 

「じゃあそうするか。頼むぜリョウタ」

 

 カズマが笑顔を俺に向ける。

 

「私女神として悪魔がいるってぇーのに見過ごすわけにはいかないんですけど」

 

 すると、アクアがそんな面倒くさいことを言い始めた。

 

「……アクアお前に何を言っても無駄なのはわかってるが、一応言うぞ。お前がついてくると実験にならないんだが? 」

 

 カズマが嫌そうな声のトーンでアクアに言い聞かせる。

 

 しかしアクアは言い方が悪かったせいなのか食い下がる。

 

「なによ、ヒキニートの分際でこの私をなめないでくれる? ほかのみんなは信じないけどカズマと神殺しは私のことを本物の女神さまだってこと分かってるでしょ? というか、そんな私が心配して付いて行ってあげようっていうのに何が気に食わないのかしら? 」

 

「お前をなめてるとかそいうのじゃなくてだな!! 」

 

 これはあれだ。話が進まなくなる奴だ。

 

「ま、まぁお2人ともとりあえず冷静に」

 

 不穏な空気を察してかゆんゆんもそう言って2人を鎮めようとする。

 

「うーん、だったら、カズマが先に潜って実験した後、そんなに奥の方じゃない階層で待機。俺とアクアは遅れてそこに合流後適当にダンジョン漁って帰るってのでどうだ? 」

 

 俺は解決策を提案してみる。

 

「仕方ないわね。そうしましょうか」

 

「ああ俺も異論はない。リョウタの提案に賛成だ」

 

 よかった。喧嘩にならなくて。いつものようにこの後アクアが泣かされることになってそれを慰めたりするのが大変なことになるのが目に見えてるからな……。

 

 ゆんゆんも胸をなでおろす。

 

「じゃあさっそく、ダンジョンに行くか」

 

 カズマは楽しみそうにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 パーティー全員で山のふもとの獣道を進んでいく中で、前方を警備するためにいつものコンビを組んで進んでいく俺とゆんゆん。

 

「なぁゆんゆん。そう言えばキールダンジョンってなんでキールなんだ? 人名? それとも地名? 」

 

「キールダンジョンはですね、人名ですよ。……その昔キールというアークウィザードがいたんですが、彼はある令嬢に恋をしてしまうんです。そんな彼はお嬢様への恋心を忘れるためかのように魔法に打ち込みその結果、国1番のアークウィザードと言われるほどになったんです。そして彼は国に数々の貢献をして、ついにその功績をたたえる宴会が王城で開かれることになるんですが。ここからがすごいんです!!」

 

 なぜかテンションの高いゆんゆんが語る。

 

「王様になんでも願いを1つ叶えてやると言われたキールは、おそらくなんですが王様に嫁いでいたお嬢様が欲しいって言ったんです。それからキールとお嬢様の愛の逃避行が始まるんですよ!! そんな彼がリッチーになって立てこもったのがキールダンジョンなんですよ!! 」

 

 もしかしてこの子、ロマンチックなこういう話が好きなのだろうか?

 

「もしかしなくてもゆんゆん。そう言う話が好きだったりする? 」

 

「え!? あ、いえ、それはですね……ままぁ私も女の子ですしこういう話はその……好きです」

 

「ゆんゆんは乙女だな。かわいい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 照れたゆんゆんがうつむく。

 

「リョウタさんはこういうお話好きですか? 」

 

「まぁなんというか、面白い話だなとは思うよ。……お、避難所のログハウスが見えてきたな」

 

「ということはキールダンジョンに到着ですね」

 

 立派なつくりのログハウスに到着すると。カズマは早々に支度を済ませ。

 

「じゃあ、俺は先に入ってるな。地図にある……ここで待ってるから1時間したら入ってきてくれ」

 

「わかった。気をつけてなカズマ」

 

「私と神殺しが到着する前に死んだりとかしないようにねカズマ。まぁでも安心して、死んだら私がリザレクションをまたかけてあげるから」

 

「死んだらなんて話すんなよ縁起でもない。じゃあ行ってくる」

 

 カズマが松明など明かりは持たず、キールダンジョンの入り口に入りやがて奥の闇に消えていった。

 

「大丈夫でしょうかカズマさん……」

 

「カズマのことです。大丈夫ですよ」

 

「私たちは何をして待とうか? 」

 

「優雅にお茶でもすすりましょう!! このログハウスおいしいお茶があるみたいだし」

 

 カズマがいなくなった後、俺たちはログハウスの中で談笑した。ほかのパーティーとかも来るかと思ったが、どうやら練習用に使われるダンジョンなだけあって金銀財宝は狩りつくされているため人の出入りがそこまで多いわけでは無いみたいだ。ちなみに、大きなダンジョンや見つかったばかりのダンジョンの前では出店が開かれていたりするらしい。

 

「そろそろ1時間が来るな。出発しようかアクア」

 

 ログハウス内の壁掛け時計で時間を確認した俺はアクアに提案する。アクアは屈伸するとお茶を飲み干して立ち上がり。

 

「それじゃあ行きましょう!! 」

 

 自身の、蕾が先端についた杖を持つと意気揚々としてログハウスを出た。

 

 俺も後に続く。

 

「ダンジョン内では閉所での戦闘になるので近接武器とかが使い辛いと思うので気を付けてくださいねリョウタさん」

 

 ゆんゆんが背後でそんなことを言って俺の身を案じてくれる。嬉しい。

 

「ありがとう。気を付けるよ」

 

「それじゃあカズマさんのところまで行くわよ神殺し!! 」

 

「了解」

 

 それから俺とアクアもダンジョン内へと潜入した。俺は千里眼による暗視と敵感知による周囲の索敵を行う。松明とかは使わない。

 

 何度か階層を抜けては階段を下りを繰り返す。

 

「それにしてもダンジョンって結構冷えるね」

 

「当たり前じゃない。地下だもの。それに今は季節は冬だし普通よりも寒いと思うわ」

 

「そんな肩だしの服でよく耐えられるね。アクア」

 

「私にはこの羽衣があるもの。これも立派な神器だから触れてる部分はとてもあったかいのよ。それ以外のところは正直冷えるけど。でもそれはあふれ出る生命力でカバーよ」

 

 そう言ってアクアは首元に巻いているピンクの羽衣を見せつけてきた。

 

「ねぇそう言えば神殺しは私のこと女神だって信じてくれてるのよね? やっぱり私が神々しさがあふれ出ているからなの? 」

 

「まぁ神々しさは……出ていると思うよ」

 

 俺はアクアの機嫌を損ねないように本心でないことを口にした。

 

 正直エリス様と比べると雲泥の差だ。ひどいレベルで女神とは思えない。強いて言うなら子供のような純真さはある意味神様らしいかもしれない。

 

「ふふん!! やっぱりそうよね。ねぇ神殺し、あなたそう思ってるんだったらこのアクア様をあがめてもっともてはやしてそして甘やかしてよ」

 

「それはできない。俺はアクシズ教徒じゃないしな、それに俺にとっての女神はゆんゆんだ」

 

 そこまで言って自分のミスに俺は気づいた。これではゆんゆんのことが好きだと言ってるようなものだ。

 

 アクアは憐れむような顔をして俺に耳打ちしてきた。

 

「ねぇ神殺し。悪いことは言わないわ。あんた元ヒキニートでしょ。ゆんゆんのことを好きになる自由はアクシズ教の女神の名のもとに保証してあげるけど、付き合ったりとかは無理だと思うの」

 

「……やめてくれよぉ……俺にだって釣り合ってないことくらいはわかるが好きになってしまったんだ。それにヒキニートの屑から脱却しようとあがいてるんだから夢を見たっていいだろ? 」

 

「夢で終わるわよきっと」

 

 何食わぬ顔でひどいことを言うアクア様。さっき嘘をついて神々しさがあふれてるとか言ったから罰が当たったのだろうか?

 

「というか、何で俺がヒキニートだってわかってたんだアクアは」

 

「私の曇りなき眼にかかれば簡単に見抜けるわよ。それにカズマと同じ独特のニート臭がしたんだもの。あんたはヒキニートである自分をどうにか抑え込もうという努力は見受けられるんだけど根っこがヒキニートだもの。どうしようもないわ」

 

「やっぱりヒキニートとしての根っこが出てるか」

 

「幸いこの私以外はそれを見抜けていないようだけれどね」

 

 それなら十分だ。相当頑張って過去の自分を封殺してゆんゆんから失望されない人間になろうと努力しているのだ。この女神は勘が良さそうだから仕方がないし、カズマは同じ元ヒキニートだから構わないとしてもほかの3人に元の姿を知られるわけにはいかない。

 

「カズマ以外には言わないでおいてくれよ、このことは」

 

「うん。いいわよ」

 

 さて、この話題は胸が苦しくなってきたので話を変えよう。

 

「そういや、アクアはエリス様の先輩なんだよな」

 

「ええそうよ。どうしたの? 」

 

「エリス様ってどんな御方なんだい? 話した限りだとスタイル良くて清楚でかわいらしい御方だったんだが」

 

「スタイル良くて清楚でかわいらしい? まぁ私には劣るけれど確かにそうよね。ああ、スタイルに関しては私にはるかに劣ってるわね。エリスの胸はパッド入りだから騙されちゃダメよ」

 

「パッドが入ってんの? 」

 

 マジかよエリス様。

 

「ええ。あとあの子頭が固いから悪魔やアンデッドにも一切容赦がない恐ろしい一面があるわ。どんな事情があろうと瞬間的に消し去ろうとするのよね」

 

「それはなかなかひどいな」

 

「でしょ? 」

 

 おそらくアクアのこの言いようを見るに後輩女神を貶めようなどという発想もなく、ただ純然たる事実を言っているようだ。

 

 マジかよエリス様!!

 

「女性ってかわいくてもやっぱり完璧じゃないんだな」

 

「当たり前じゃない。女を何だと思ってるのよ? あ、ちなみに私は完璧な存在だからね。完全無欠よ!! 」

 

 そんなことを話しながら歩いていると。

 

「すんすん、すんすん!! なんだか悪魔臭いわね」

 

「ああ、神殺しの剣にも反応がある。近くにいるね。悪魔か何かが」

 

 神殺しの剣だけではない。敵感知にも反応があった。

 

「来るわよ!! 」

 

「了解!! 」

 

 アクアが叫んだ瞬間。小型の悪魔、長い手足を持ち赤い目を輝かせたグレムリンが現れた。

 

 前方の階段から走ってきている。

 

「ここは私に任せなさいな!! エクソシズム!! 」

 

 アクアが退魔魔法を発動。アクアが突き出した杖の先から神聖な輝きを秘めた魔方陣が展開し、そこから光線が照射される。それが命中したグレムリンは悲鳴を上げながら消え去った。

 

「さすがは女神様だ。素晴らしい退魔力」

 

「そうでしょそうでしょ!! あ、今の私の神聖な力を感じてアンデッドたちが寄ってきてるみたいね!! アンデッド臭がするわ」

 

「それじゃあ倒しますか!! 」

 

 倒しまくってレベルを上げてルーンナイトに転職だ!!

 

「もちろんよ!! さぁ行くわよ神殺し!! 」

 

 それからアクアと俺は寄り付いてきた悪魔やアンデッドをことごとく粉砕してカズマの待つポイントへと向かった。

 

 

 

 

 

「遅かったなぁー。逆にお前たちがやられたんじゃないかとひやひやしたぞ」

 

 カズマのいる場所に到着した。カズマはにこやかな顔で手を挙げて俺たちを迎えた。

 

「そんなわけないじゃない。それよりカズマ。あんた1人で怖くなかった? 大丈夫? 」

 

 アクアが女神らしい一面と言えそうな優しいところを見せる。と言っても若干あおっているように思えなくないのがアクアクオリティだ。

 

「全然大丈夫だったよ!! 子どもじゃあるまいし。それに実験もうまく行ったぜ。罠はほとんど今まで来てた冒険者が外しまくってたみたいだからあんまりなかったけど、敵とは一切戦うことなく切り抜けられた」

 

「それはよかった。これで他のダンジョンに潜って一攫千金を狙って探索するってのも現実的になったわけだ」

 

「そうだな。まぁこのあたりにはなかなかダンジョンが無いから少し遠出しないといけなくなるけどな」

 

「ねぇ2人とも!! 合流したんだからさっそくお宝を探しましょう!! もしかしたら、もしかしたらだけどお宝があるかもしれないわ!! 」

 

「よし、まぁなんか無いか漁ってみたら帰るか」

 

「そうするとしますか。アクア、リョウタ。さっそく捜索だ!! 」

 

 それから俺たちは様々な部屋に潜り宝探しを始めた。途中ダンジョンもどきという宝箱などに擬態するモンスターに遭遇したりしたが、錬金術で高威力に変換したマジックスクロールの魔法の一撃で葬り俺の経験値の足しにした。

 

「ちくしょう。やっぱりろくなもんが無いな。取りつくされてる」

 

「だな。まぁ仕方ないだろカズマ。なんせ練習用ダンジョンって言われてるんだろ? ならもうとっくに何も残ってなくても不思議じゃないさ」

 

「ねぇ2人とも。なんだか、私たち、盗人してる気分なんですけど。後ろめたい気分になってきたんですけど」

 

 アクアが不安げな顔をしてそんなことを言う。それを聞いたカズマは。

 

「やめろよ。俺もそう思えてきてなんだか嫌になってきたじゃないか……」

 

 そうこぼし。いやそうな顔をした。

 

 すると突如。

 

「そこにプリーストがいるのか? 」

 

 男の声が壁の向こうからした。

 

 何事かと思って俺たちが顔を見合わせていると。壁が変形して開き、隠し部屋が現れた。

 

「なんだ、突然? 」

 

「敵感知には反応が無いよなカズマ」

 

「ああ。だけど気をつけろよリョウタ、アクア」

 

「この臭い。アンデッドね」

 

「マジかよ」

 

 だとしたらなんで敵感知に反応が無いんだ? 敵意が無いのか? ウィズさんとかのように?

 

「いかにも。私はリッチー。アンデッドの王だよ」

 

 先ほどの男の声が再び聞こえる。今度は隔てるものが無いためクリアだ。

 

「私の名はキール。このダンジョンを作った悪い魔法使いさ」

 

 カタカタと音を立てながら笑う深緑のローブに身を包んだアンデッドが部屋の中にいた。

 

 

 

 

 キールの部屋にはテーブルにイス、タンスと小さなベッド。そしてベッドの上に横たわった白骨死体があった。

 

 白骨死体の正体は、キールのさらっていった貴族のお嬢様。アクア曰く何の未練も残さずに綺麗に成仏しているらしい。

 

 さて。友好的に接するキールから、俺たちは何故このダンジョンを作ったのか聞いたところ……。ご機嫌取りで王のもとに嫁に出され、しかし愛されず、他の妾達とも仲がうまく行かずにいたお嬢様。そんな彼女にプロポーズすると2つ返事でOKがもらえたため、王国から彼女をさらったキールは追手の王国軍と壮大な戦いを繰り広げた果て、自分たちの居城としてこのダンジョンを建造したと言った。不自由な逃亡生活の中、お嬢様は終始笑って幸せそうにしてくれていたとのことだ。

 

 とてもいい話だった。それにとてもロマンチックな話だ。帰ったらゆんゆんにもこの話の真相を教えてあげよう。

 

 ひとしきり、長年の孤独を癒すかのように俺たちとの談笑を楽しんだキール。やがて彼は。

 

「私を浄化してはくれまいか? 君はそれができるだけの力を持ったプリーストだろう? 」

 

 アクアに向けて、そう頼んだ。

 

「まかせなさいな、あなたには本気も本気。最高の浄化魔法で浄化してあげるわ!! 」

 

 喜んでそれを引き受けたアクアは早速部屋の地面にチョークで部屋全体を覆いつくすサイズになっていた。

 

「いやぁ助かるよ。アンデッドが自殺するだなんてシュールなことはできないからね」

 

 そう言って笑う、お嬢様を護るためにリッチーとなった漢の中の漢、キール。

 

 彼はその後和やかな雰囲気になると。

 

「そう言えばリョウタ君。君は会話の端々から感じていたんだが君はもしかして恋をしているんじゃないのかい? 」

 

 なぜばれた。人生経験の差か?

 

「……はい。パーティーメンバーの中に好きな子がいます」

 

 俺は正直にそう言った。

 

「え、照れずに言っちまうのかお前? まぁわかってたけどさ」

 

 カズマがそう言って微笑む。

 

「そうかそうか。恋はいいものだろう? 自分を変えてくれる。恋心はどんなことだってやり遂げさせてくれる。……好きになった人のこと、しっかり護ってあげるんだよ」

 

「わかりました!! 」

 

 そう恋はいいものだ。ほんの数か月前の俺なら信じなかったかもしれないが、今ははっきりとそう言える。ゆんゆんに出会って俺は変わり始めている。もしかしたら変わっているように演じているだけなのかもしれないが、それでも彼女に必要とされる人間でありたいと強く思える。それは素晴らしいことだと感じることができる。

 

「頑張るんだよ。恋は忍耐さ」

 

 カタカタと音をたてて笑う人生の先輩に。

 

「はい!! 」

 

 俺もまた笑って答えた。

 

「魔方陣出来たわよ!! それじゃあ浄化するけれど、キール、いいわね」

 

「ああお願いするよ」

 

 微笑みながら椅子の上で頭を垂れるキールの前で、まさしく女神そのものな笑顔を見せるアクアが言った。

 

「水の女神アクアの名においてリッチーとなったあなたの罪を許します。浄化された末、あなたの魂は、胸が不自然に膨らんだ女神、エリスのもとに送られるわ。お嬢様とどのような関係でもいいから再び巡り合いたいと思うのならそこでお願いしなさい。きっとエリスはその願いを叶えてくれるわ」

 

「おお……感謝します」

 

 アクアは優しく微笑むと。

 

「セイクリッドターンアンデッド」

 

 アクアの声に合わせて魔法陣がきらめくと、キールを浄化しこの世から消滅させた。それと一緒にお嬢様の骨も消えてなくなった。

 

 アクアは女神でアクア様だった。そう思わせるほどに普段とはアクアの姿がかけ離れて見えた。

 

「……帰るか」

 

 カズマが優しげにつぶやく。

 

 俺とアクアは頷き、ダンジョンを後にした。




 アクア様って本当に女神だと思います。美しいし、かわいいですし、心も綺麗ですし。駄女神な一面も魅力だと思います。まぁ崇める分にはいいですけど、身近な付き合いはトラブルを呼び込みそうなので勘弁していただきたいですがね。

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