【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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024 お屋敷

「これが新居か……」

 

 俺は立派な屋敷の門の前で呟く。

 

「すごいですね。ここに本当に住んでもいいんですか? 」

 

「ああ、悪霊を祓ってくれれば、イメージが回復して買い手がつくまでの間住んでてもいいんだとさ」

 

 ゆんゆんの疑問に俺は答える。

 

 そう、ウィズ魔道具店にやってきたのは不動産屋の社長だった。ウィズさんが元は高名な冒険者だったこともあり困ったことがあれば彼女に相談していたとか。そして、その困ったことというのが、この目の前にそびえたつ元貴族の別荘に悪霊が取り付いていることなのだ。この別荘を売りに出していたのだが、大量の悪霊がどこからともなくやってきて祓っても祓っても何度も住み着くらしく、幽霊屋敷として有名になってしまったらしい。ちなみに最近アクセル全域でこのような悪霊被害が報告されているとのことだ。

 

 ウィズさんがアクアのセイクリッドターンアンデッドのせいで本調子ではなくなってしまっていたため、ウィズさんの代わりに俺たちが除霊を引き受けたところ、その過程で俺たちが現在宿無しの境遇だと不動産屋の社長が知ると、ベルディアを倒した功績もあってか、報酬として悪評が消えるまで屋敷に住んでもいいことになったのだ(ちなみに社長さんが入店してきた際はアクアがウィズさんの上に馬乗りになっているという状況だったので社長さんはかなり困惑しており変な誤解を解くのに時間がかかった)。

 

「何と太っ腹な不動産屋の社長だな」

 

 ダクネスの言う通りだ。本当にそう思う。これもエリス様のブレッシングとカズマの幸運値のおかげだろうか?

 

「いい屋敷ですね。さっそく中に入って掃除をしましょうか」

 

「なーう」

 

 頭にちょむすけを乗せためぐみんがみんなにそう提案する。

 

「そうだなーって何やってんだアクア……」

 

 カズマが両手を突き出し神妙な面持ちをしているアクアに驚く。

 

 本当にこの女神さまは何をやっているのだろうか。

 

「霊視してるの」

 

 そう答えた女神様にしばしの間全員が注目していると。

 

「見える、見えるわ。この屋敷には貴族の隠し子が幽閉されていたようね。悪霊ども以外にもその子が幽霊となってこの屋敷にとりついてるわ。名はアンナ=フィランテ=エステロイド……」

 

 突然そんなことを語り始めた。長々と語るアクアはアンナという少女の細かな背景を次々と口にしてゆく。

 

 内容としては、事実だったらなかなかに不憫な身の上のようだったが。

 

「何でそんなに細かくわかるんだよ……」

 

 カズマはあきれ顔でそう言うと屋敷の門を開けた。同じくあきれ顔のめぐみんとダクネスがカズマに続く。ゆんゆんはどうしたらいいのかわからない、友達の話を途中でほっぽり出していいものかと悩んでいる。俺はというとなんだかんだで気になったので一応真剣に聞いてみてはいる。

 

「おい、リョウタ、ゆんゆん。たわごとなんか聞いてないで早く部屋の掃除でもしようぜ」

 

「……長くなりそうだしそうするか。いこうゆんゆん」

 

「え、あ、はい」

 

 俺とゆんゆんはカズマの誘いに乗ると屋敷の掃除を開始することにした。

 

 

 

 

 

「もうほとんど日が暮れちまったな。お疲れ様みんな」

 

 カズマがリビングで、いまだに霊視を門の前で続けているアクアを除いた俺たち4人を労った。

 

 掃除の内容としては簡単な掃き掃除と雑巾がけ程度で終わり、屋敷のサイズこそ広かったものの楽だった。

 

「思ったより汚れてなくてよかったよ」

 

「そうですね。大きなお屋敷ですけどそのおかげで早く終わりましたね」

 

 俺の言葉にゆんゆんが頷きそう言った。

 

「さてこれからはどうするみんな? 」

 

「とりあえず部屋の割り当てでも決めましょうか? 」

 

 ダクネスの疑問にめぐみんが答えた。

 

 それから外で霊視を続けていたアクアも呼び寄せ部屋を振り分けた。

 

 各部屋にはベットなどのある程度の家具が残されている。なので、どの部屋でもOKだったので各自が気に入った部屋を自分の物にした。

 

「お友達と一緒に同じ家で生活できるだなんて夢みたい……幸せ」

 

「何を言っているのですか、あなたは全く。ぼっちをこじらせすぎですよ……」

 

 恍惚とした表情を浮かべて部屋に向かうゆんゆんに側を歩くちょむすけを頭に乗せためぐみんが突っ込む。同じ方向に部屋があるため側を歩いていた俺もそれに同意だった。

 

 ゆんゆんはぼっちほこじらせているせいかこのような状況を異様に喜ぶ習性がある。別にいけないとは言わないが、今までのことを思うと不憫で仕方がなくなるのでやめてほしい。

 

 だがゆんゆんと一つ屋根の下で生活か。ほかにも仲間たちがいるとはいえこれはテンションを上げざる負えない。素晴らしい。

 

 素晴らしいと言えば寒さをしのげることも素晴らしいことだ。次の日を凍死して迎えていないか心配しながら過ごす馬小屋生活はもう終わりだ。これからは快適な生活が約束されている。あの宿屋時代と同じ生活が保障されている!!

 

「リョウタ。あなたもあなたでにやけすぎですよ。快適な暮らしがおくれる喜びと、ゆんゆんと同じ屋根の下で暮らせる喜びでテンションが上がるのはわかりますがね」

 

「うん。うん!? 」

 

 ちょっと待て。話の後半なんて言っためぐみん!?

 

「何を焦っているのですか? 」

 

 めぐみんが俺をほほえましいものを見る目で眺めたあと。

 

「あなたがゆんゆんに好意を抱いていることなどみんな気づいていますよ」

 

 そう耳打ちしてきた。

 

「ちょっえっ。いや、多分わかりやすく好意が外に出てるのはわかってたけど、このタイミングで言う? ゆんゆんに聞こえたらどうするんだって……今のゆんゆんには聞こえないか」

 

 聞こえていたら困る存在。ゆんゆんはいまだに友達と一緒に屋根の下で暮らせる喜びに浸っておりめぐみんの発言を気に留めていなかった。

 

「なぁめぐみん? 」

 

「はい? 」

 

「ちなみにゆんゆんももしかして俺の好意に気づいてる? 」

 

 そんな質問を小声でしてみるとめぐみんはいたずらっぽく笑うと。

 

「さぁどうでしょうね、気づいているのか気づいていないのか、真相はゆんゆんのみが知ると言ったところです」

 

「気づかれても困るし気づかれなくても困る」

 

「ファイトです。応援しますよ」

 

「ありがとう」

 

 果たして俺の過去を。もはや自分の中で黒歴史と化し始めている自身の数か月前の過去の姿を知っても応援してくれるのだろうかこの少女は。

 

「どうしました? 」

 

「いや、なんでもないんだ」

 

「ゆんゆんのことでもそうでなくても何かあったら相談してくださいね。パーティーメンバーではありませんか」

 

「……本当にありがとう。めぐみんは優しいな」

 

「いえ」

 

 しかしめぐみん。爆裂狂なところを除けば本当にいい子だな。素晴らしい美少女だと思う。それこそゆんゆんに負けないぐらい。

 

「リョウタ。ところであなたの選んだ部屋をとっくに通り過ぎてしまっていますよ」

 

「あ」

 

 

 

 

 

 

 各部屋で休んでいた俺たちだったが、夜になるとあらかじめ買ってきていた食材をめぐみんとゆんゆんが調理してくれたのでみんなでリビングにてそれを食べると、俺たちは再び各自の部屋に戻った。

 

 相変わらずゆんゆんのご飯はおいしかった。しかしめぐみんも料理上手だったとは驚きだ。ただ彼女が作ったものは、やや薄味でゆんゆんの物と比べると節約術を使ってそうだったのが気になったが。

 

 それぞれにいろんな背景があるということか。

 

 そうしみじみ感じながら俺はベットの上でごろごろしていると。

 

「ふわぁぁぁ!!!! わぁぁぁ!!!! 」

 

 アクアの叫び声がした。否、悲鳴だ。

 

 俺は神殺しの剣を装備するとアクアの悲鳴がしていそうな彼女の部屋へと走った。

 

 アクアの部屋に到達すると、先に来ていた様子のカズマがアクアから事情を聴いていた。

 

「なんだそんなことか……」

 

「そんなことって何よ!! 私にとっては大事なお酒なんだから!! 」

 

 アクアがカズマに抗議する。

 

「とにかく私は、この家中の目につく悪霊をちょっとしばき回してくるわ!! 」

 

 そう言えば快適すぎて頭から消えていた。ここは悪霊屋敷で、除霊を引き受けた対価として住まわせてもらっていることをすっかり忘れていた。

 

 そう考える俺の隣をアクアが駆け抜けていき、あちらこちらでターンアンデッドを唱えまくり始めた。

 

「なんだったんだカズマ、リョウタ? 」

 

「いったいどうしてアクアはあんな血眼でターンアンデッドを? そりゃ、悪霊を退治しないといけないことにはなっていますが、あの様子は……」

 

「尋常じゃないよね……」

 

 遅れてやってきたダクネス、めぐみん、ゆんゆんが言った。

 

 するとカズマが事情を説明してくれる。

 

「あいつの大事にしてた高級シュワシュワの酒瓶が何者かに空にされたんだとさ。それが悪霊の仕業に違いないっていうことでいきり立ってる」

 

「「「なんだそんなことか」」」

 

「み、みなさん」

 

 心配して損した。幽霊がさすがにお酒を空にするとか無理があるだろ。無理がある、よな?

 

「とりあえずそう言うことだ。解散」

 

 カズマの一言に、唯一アクアを思いやっている様子のゆんゆんをのぞいて、部屋へと全員が帰っていった。

 

 それからはゆったりした時間が流れていった。

 

 アクアのあの様子のことだ、俺たちが何をするでもなく悪霊を全部退治してくれるだろう。そう思いながら俺は何も考えずに再びベッドの上でごろごろしていると、やがてゆんゆんのことを考え始めていた。

 

「ゆんゆん。俺の好意に気づいてくれてんのかな? だとしたら彼女は俺のことどう思ってるんだろう」

 

 あくまでゆんゆんが俺の好意に気づいているという前提だが。もしそうだとすれば俺はどんな風に彼女の目に映っているんだろう? 自分のために無駄な努力をするバカに見えるだろうか?

 

 いや、ゆんゆんに限ってそれは無いし、どうして俺はそもそもゆんゆんから軽視されている前提になっているんだ。これも過去の経験が原因か?

 

 いまいち自己を高く評価できない自分の性質に若干苛立つ。

 

「ヒキニート時代の気質を抹殺するんだったら、それ以前の過去も抹殺しないといけないか……」

 

 よく過去を乗り越えた先や受け入れた先に未来があると聞くが俺はそうとは思わない。というかそういう生き方はできそうにない。過去を封殺し、忘れ去ることで初めて未来に進みだすことの出来るタイプの人間なのだ。

 

 我ながら難儀な人格をしているとは思う。しかし、封殺することで確実に俺は前進することができている。その力の源はゆんゆんの存在だ。彼女がいるから俺は過去を否定して今に生きることができる。ゆんゆんの存在はそれだけ自分の中で大きなものであると言う他無いだろう。

 

「俺はゆんゆんを愛してる。……この思いをいつか伝えられるだろうか」

 

 何ともまぁ自分には訪れないと思い込んでいた恋愛に生きるという瞬間の到来に笑いを浮かべながら、キールの言っていた「恋は忍耐」という言葉を自分の中で反芻する。

 

 そんなことをしながら布団にくるまるり壁側を向いていると、カタンという音が背後でした。

 

 俺は突然の不意を衝くかのような音に身構える。その間にもカタンという音は何度も部屋の中に響き、どんどん俺の方に近づいてくるのがわかる。本能的にその音が不気味であると感じる。

 

 滅茶苦茶怖い。

 

 どう考えても心霊現象だろこれ!!

 

「アクア様、何やってんだよ、アクア様!! 」

 

 俺は対幽霊のエキスパートの名前を唱えながらどうするべきか迷っていると、カタンという音が突如止まった。

 

「……嫌な予感はするが、振り向かざる負えないよなこの場合」

 

 俺は恐る恐るではなく、意を決しって振り返った。

 

 すると。

 

 枕元にそびえる、霊気を放つ西洋人形と目が合った。

 

「っーーーーーーー!!!! 」

 

 こんな人形この部屋にはいなかった!!

 

 西洋人形がこっちを見て首をかしげた。

 

「消え失せろぉぉ!! 」

 

 俺は恐怖のあまり西洋人形にとびかかりその胴体をつかみ取ると、錬金術を発動し、西洋人形の胴体と首を引きちぎった。

 

 俺はベットの上に転がる西洋人形の残骸を足蹴りして落とす。

 

「はぁ、はぁ。よし、俺の勝ち!! 」

 

 恐怖でテンションがおかしいことを自覚しながらも、俺は勝利宣言をした。

 

「この怪現象、ほかのみんなにも起こってないか心配だな……。ゆんゆん……!! 」

 

 俺は部屋が単純に近いことと、本能に従いゆんゆんの部屋へと神殺しの剣を持って向かうことにした。神殺しの剣は人外の存在になら強い効力を発揮する。なのでお守りとしては最強だ。

 

「よし、行くぞ!! 」

 

 俺は部屋を飛び出すと……。

 

 眼前にいきなり大量の浮遊する西洋人形が現れた。敵感知の反応によると数は15だ。

 

「全部切り落としてやる!! 」

 

 俺はスキル両手剣を発動し神殺しの剣を振り回す。

 

 人形たちは簡単に切り裂かれ、ぼとぼとと地面に落ちていく。おそらく切った手ごたえの中に物質以外のなにかを切り裂いたというのを本能的に感じたのでとりついていた悪霊ごと始末できているのだろう。

 

「ゆんゆん!! ゆんゆん!! そっちは大丈夫か!? 」

 

 俺はゆんゆんの部屋の前にたどり着き、ドアをノックもなしに押し開くと。

 

「えっ!! リョウタさん!? 」

 

 カタカタと震える西洋人形を両手でつかんでいる。眼を紅く輝かせ嬉しそうな顔を浮かべるゆんゆんが目に入った。




 リョウタは何となく察している方もいると思いますが、スクールカースト最下位でした。それと両親の死がきっかけでヒキニートになりました。別にリョウタに両親への愛情が無いわけではありませんが、一般人と比べると親に対する情が薄めです。本編では描写する予定が無いのでここで書いておきます。

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