「おお!! これが勇者王!! かっこいいですね、今まで見てきたどのゴーレムよりもかっこいいです!! 」
「リョウタさん絵上手!! 」
めぐみんがそのデザインに驚嘆しゆんゆんが俺の画力を褒めてくれる。
悪霊退治の翌日の昼。俺は屋敷でめぐみんに僕らの勇者王のイラストを描いていた。
昔から絵は得意な方だった。それが生きた瞬間は美術の授業以外だと今日が初めてだった。正直かなり嬉しい。
そんなことを考えながらリビングの壁掛け時計に目をやると時間が近づいているのに気づいた。絵を描くのに熱中しすぎて忘れるところだった。
「さてそろそろ約束の時間だ。俺はちょっと出てくるよ」
「ん? 約束?」
「どうしたんですか? 」
「大したことじゃない。ダクネスと約束があるんだ。じゃあちょっと行ってくる」
急がなくてはならないので詳しい説明は省く。
俺は屋敷からアクセルの平原……否、今は雪原に向かった。
「来たかリョウタ。真面目なお前のことだから時間の少し前に来ると思っていたんだが少し意外だったな」
「申し訳ない、めぐみんとゆんゆんに俺の絵を書いて見せてたから遅くなった」
「いや、謝る必要はないぞ、時間に遅れたわけではないしな。それにむしろ遅れてくれて私を1人この雪の積もった寒々しい平原に置き去りにしてくれても構わなかった」
真顔で変なことを言い出すダクネス。いや、真顔というより若干にやけ顔だった。
「本当に性癖に振り回されてるよな君は」
「んん!! 」
また喜んだ。まぁいいや。
「さて、ダクネス。クルセイダーのスキルを教えてください」
ゆんゆんメモにあった通りに、まずは防御力を向上させられるクルセイダーのスキルを習得することにした。
「うん、いいだろうリョウタ。ルーンナイトに転職したお前にクルセイダーのスキルを伝授しようではないか!! 」
そう、俺は冒険者から魔法職と近接職の両方のスキルが習得できるルーンナイトになった(クソチートな職業に思えるがスキルポイントの要求量が『冒険者』と同じくやや高めという欠点がある)。ルーンナイトになったと言っても冒険者カードをいじっただけなのでいまいち最初は実感が無かったのだが、これまでさんざん世話になってきた敵感知やアーチャー系のスキルと言ったものがスキル欄から消滅したこと。そして、明らかに各ステータスが大きく向上していたことでしっかりとルーンナイトになったことを自覚した。
「まずは物理耐性だな。さぁリョウタ!! 私を遠慮なく切りつけるといい!! 」
「あの、ルーンナイトになって筋力のステータスも上がってるからかなり痛いし下手したら大けがすると思うんだけど」
「なに、私はあのベルディアのダークオブセイバーにも耐えたのだ。信じろ……まあそれは魔法耐性のおかげだが、とにかく頑丈さには自信があるから大丈夫だ」
そう言われると確かに安心だ。遠慮なくやろう。……遠慮なくと言っても手加減はするが。
「わかった、行くぞ!! 」
まさか、ルーンナイトになって始めてやるのが仲間を斬ることとは。
俺は神殺しの剣をダクネスに肉薄すると一気に振り下ろした。ダクネスはそれを右腕を振り上げて受け止める。すると鎧をまとっていない部分に一閃が命中したにもかかわらず服が切れるだけで彼女の身には傷一つついていなかった。
「なかなかいい一撃だった。腕に響き渡る衝撃がすさまじかったぞ!! まだヒリヒリして気持ちいい」
「それはよかった。っと、これが『物理耐性』か」
俺は冒険者カードを操作して物理耐性を習得する。
「さあ次は魔法耐性だな。リョウタ、得意の魔法があればそれを私に撃ち込んでくれ」
「得意の魔法と言えば、これか、クリエイトファイヤー!! 」
クリエイトウォーターを錬成。火炎放射へと変えてダクネスに浴びせる。
「あつ、あつ、熱い!! いきなり来るとはなかなか鬼畜だな、リョウタ」
「あ、ごめんついノリで……」
ダクネスは熱いと言っていたがその身は魔法の炎にあぶられても一切のダメージを受けておらずピンピンしていた。
さすがはクルセイダーというべきなのだろうか? それともダクネスが異常に頑強なだけなのだろうか? そんなことを考えながら魔法耐性も習得する。
「さて次にリョウタに教えたいのは状態異常耐性なんだが、何か状態異常を起こせそうな魔法とかは使えるのかリョウタ? 」
「安心してくれ。しびれ状態を誘発することの出来そうな魔法がある」
「ほう、どんな魔法だ? さっそく私に撃ってくるといい」
「了解……。サンダーブレス!! 」
ウインドブレスの風を電撃に錬成した魔法だ。ライトニングには火力面で程遠いがそれでもこのパチパチはしびれを誘発させる程度の効果がある。
「ふむ。パチパチしているな」
それを受けたダクネスは完全にノーダメージの様子だった。俺は状態異常耐性が冒険者カードの項目に追加されているのを確認し習得した。
「できたよダクネス」
「そうかそれはよかった。では最後はデコイだな」
「確かモンスター寄せのスキルだよな」
「ああ。さてここで発動したとしてジャイアントトードは現れてくれるだろうか? 」
「出てきてくれたらありがたいよな。わざわざギルドでカエル狩りも一応受注しているわけだしさ」
「だな。では、やってみるぞ。デコイッ!! 」
ダクネスがそう叫ぶ。だがこの雪原では何も起こることが無くダクネスの声がただ響き渡るだけだった。
ダクネスの顔が赤く染まっていく。
「まあダクネス。こんなこともあるさ。そんなに照れないで」
「うう、恥ずかしい……」
そうダクネスを慰めていると。突然足元の地面が盛り上がった。
「おお、おおおおお!? 」
俺はわずかにだが隆起してきた地面に足を取られ膝をつく。すると地面はさらに隆起し3メートルほどの高さになった。俺はその瞬間悟る。
「おお、おおリョウタ……」
「俺今ジャイアントトードの真上にいるよね」
「ああ、真上で膝立ちしているぞ……」
「……死ねや!! 」
俺は神殺しの剣を真下のジャイアントトードの脳天に突き刺し絶命させる。
俺は崩れ落ちるジャイアントトードから飛び降りると、辺りを見回す。その際にいつもの癖で今はもう無い敵感知を発動しかけてしまったのは直さなければならないだろう。
「周囲に敵影は……4か」
4匹のジャイアントトードがこちらに迫ってきていた。俺は手早くデコイを習得すると神殺しの剣を構えて。
「ダクネス、俺は一番近い奴から討伐していく!! 金属鎧だからないとは思うが喰われないように気をつけろ!! 」
「ああ、わかっている!! 」
さて、ルーンナイトになって初の戦闘だ!!
俺は意気込みながら、スキル両手剣を発動し、一番手近に沸いたジャイアントトードを一斬のもと切り裂き絶命させた。
『冒険者』の時は神殺しの剣の元来の切れ味でジャイアントトードに対して一斬必殺だったが、現在はそれだけでなくルーンナイトとしての筋力による効果が上乗せされているのが感覚的にわかる。
「このままいく!! 」
そして俺は3匹目、4匹目とジャイアントトードの命をいとも簡単に連続で奪っていった。
最後に残った5匹目。俺はそれがいる方向に向き直るととんでもない光景を目にした。
「何やってんのダクネスさん!? 」
鎧を自ら外しジャイアントトードににじり寄っていくダクネスがいた。ジャイアントトードは自分に積極的によってくる獲物に逆に引いている。
「いや、それがジャイアントトードが私を食べてくれないんだ!! 金属製の物はすべて外したというのに……」
「そりゃ、ジャイアントトードだって食うものを選ぶ権利はある」
「っ!? 」
ダクネスが辛辣な物言いに普段とは違って喜ばず割とショックを見せる中、俺は神殺しの剣をジャイアントトードに投擲して抹殺した。
「なぁ、リョウタ。私はジャイアントトードにも選ばれないほどに残念な女なのか? 」
「あれは言い方が悪かったよ。そんなに落ち込まないでくれ」
同い年の美女を落ち込ませていると考えるとなかなかに堪えるものがある。いや18歳ってまだ少女なのだろうか? 某リリカルな魔法少女も19歳でも少女を名乗ってたし、もしかして少女なのだろうか?
そんなことを考えながら俺とダクネスはギルドの酒場で昼食をとっていた。
「何にしてもありがとなダクネス。おかげで防御力が向上したよ」
「いやいや。ああそうだ、スキルポイントを今あるスキルに割り振ればもっと性能を強化できるから私のような頑丈さ一辺倒のスタイルも取れるぞ」
「さすがにそれは……パーティーに完全なタンク役が2人だなんてダメだろ」
「あはは、そうだな」
しかしダクネスと会話するのもすっかり慣れたな俺も。
そんなことが頭をよぎるとふと思った。俺はダクネスのことをあまり知らないし、あとこんな2人きりで会話するような機会が無かったことに。
「なぁダクネスこの際だからいろいろ聞いていいかい? 」
「ん、なんだ? 答えられる範囲であれば何でもいいぞ」
「普段、よく用事があるって言ってどっかに言ってるけど何してるんだ? いや答えずらいならいいんだが」
「……すまない。正直に言うとさっそく答えに困る質問をされてしまっている」
ダクネスがシュンとする。
「そっか、ゴメン」
「いいんだ、そうだな……まぁなんというか子どもにものを教えている」
「マジでか? 」
「お前にスキルを伝授するのが昼前になったのもそれが理由だ。……答えられるのはこのくらいだ。これ以上は少し、いや、かなり問題があるので教えられない。仲間なのにすまないな……」
わざわざ頭を下げるダクネスに俺は罪悪感を感じた。
「いいさ。誰にだって秘密にしておきたいものはある。俺だってそうさ」
「そうか。ありがとうリョウタ。お前は優しいのだな」
「そ、そんなことないと思うよ」
こんな美女にそんなこと言われるのは正直嬉しい。ゆんゆん相手でもないというのに俺は照れてしまう。
「ところで秘密にしておきたいというのはゆんゆんへの恋心か? 」
ダクネスはいたずらっぽい笑顔を浮かべて俺にそんなことを聞いてくる。
おまわず俺は口に含んでいた飲料を吹きかけるが、すんでのところで抑える。
「……それはゆんゆんにのみ秘密にしておきたいことだからまぁみんなにバレても別にもういいやって感じのことなんだけどね」
「そうだったか」
「まぁなんだ。秘密にしてたいことと言えば俺の場合は過去のことかな」
「過去? 」
「うん、アクセルに来るまでの過去のすべてだ。いい思い出が特にないからさ」
それに今と比べていい人間ではなかったと断言できる。
「そうか、すまない。いやなことを言わせてしまったな」
「いいんだ、ダクネスも秘密の一部を教えてくれたしそれに見合った対価を支払わないとと思っただけさ」
「ますます気を使わせてしまった感じがするのだが……まぁいいか。ふふ、ありがとう」
ダクネスは優し気な微笑を浮かべた。何と言うか笑い方とか含めていろんな仕草に気品を感じるんだよなダクネス。
高貴な存在。貴族とか王族とかそういう感じの雰囲気がある。まぁさすがにそれは無いか。
「なぁダクネスは、どこ出身なんだい? 俺とカズマは日本ていう国でゆんゆん、めぐみんは紅魔の里。アクアは自称天界だけどダクネスの出身地は知らなかったからさ」
「アクセルだ。とだけ答えさせてもらおう」
「……お嬢様だったりとかする? テーブルマナーとかがすごくいいし何と言うか上品だからそう感じさせられるんだけど」
「い、いや、そ、それはだな、黙秘させてくれ」
「……了解。これ以上追及はしない」
もしかして当たりなのかもしれない。しかし、いいところのお嬢様が冒険者か。そう考えるとなかなかすさまじい状況だな。いや、貴族の中には武闘派な家柄のところもあるというのはこの世界の基礎知識として転生後にゆんゆんから聞いたりして身に着けているが、実際にそうかもしれない存在と出くわすとなるとなかなかに変な気分だ。
ん? 武闘派?
なんか違うよな。ドMだし。
「なぁリョウタ、恋をするというのはどんなものだ? 」
おもむろにダクネスが顔を伏せながら聞いてきた。
ゆんゆんもいないしここは真剣に答えても大丈夫なところだろう。
「いいものだぞ。俺はゆんゆんに出会って変わりたいと思えたしね」
「そ、そうか」
照れながら返事をするダクネス。
…………。
「もしかしてダクネスにも好きな人がいるのか? 」
「なっいや、ちっ、違う。別にそう言うことでは……。いや、リョウタが真剣に答えてくれたのだ私も真剣に答えようか……。まぁそのなんだ気になる存在がいないといえば嘘になる程度の物だ」
「マジですか……ちなみにお相手は? 」
まさか俺だったりとかは……ないな。
「か、カズマだ。カズマのことが気にはなっていると思う」
ほらね。しかしカズマかー。え、あのカズマを?
正直俺の友カズマは緊急時には頼りになるうえ、すごく仲間思いな優しい男だが、平常時はあまりぱっとしないゲスいニート気質な奴という一面が目立っている。そんなギャップにでもやられたのだろうか?
「ちなみになぜカズマを? 」
「いやぁ、あいつはそのなんだ、外見はパッとせず、スケベで、できるだけ人生楽に送りたいと人生舐めてるやつで、働きもせずに朝から酒を飲んでみたりと、その上借金まで抱えている」
「うん? 」
なんだろういろいろおかしい。悪いところしか上がっていない。あと、お酒を除けば過去の俺にも当てはまるのでグサグサ刺さってくる。
「その、好みのタイプなんだ。カズマが……」
「そ、そうなんだ」
なんて言ったらいいんだよ。良かったなカズマと心の中で言えばいいのか?
とりあえずなんか言っておこう。
「キールも言っていた。恋は忍耐だと」
「いい言葉だな」
「だからがんばれダクネス」
「ああ、ありがとうリョウタ。これが恋なのかどうかはわからないがな……」
俺とダクネスはその後はあたりさわりのない会話をして昼食を楽しんだ。
「お、お帰りなさいリョウタさん、ダクネスさん」
「いったい何用だったんですか? 」
帰宅しリビングに入ると、2人でボードゲームにいそしんでいたゆんゆんとめぐみんが出迎えてくれる。しかしゆんゆんのあいさつがぎこちないのが少し気になった。
「ああ、今日の約束は……」
「リョウタにスキルを教えるという内容でな」
「そうだったんですね。よかったぁ……」
「え、何が良かったんだいゆんゆん? 」
胸をなでおろすゆんゆん。なぜそんな反応をするのだろうか?
「い、いえ、何でもないんです。少しその、リョウタさんが心配だっただけです」
「ん? ごめん心配かけた」
俺は上着を椅子に引っ掛けながら特に心配することでもないのにと思いながらゆんゆんに謝罪する。
「いえ、勝手に私が心配してただけですから。……約束もそんなことでよかった」
「え、最後の方なんて言ったんだゆんゆん? 」
「あ、いえ、何でもないんです。気にしないでください」
約束がどうのと言っていたが何だったのだろうか? まぁ余計な詮索はやめておこう。
「ゆんゆんは優しいのだな」
ダクネスにそう言われたゆんゆんは照れているのだがなぜかバツが悪そうな顔をした。
なんだろう、今日のゆんゆんはどこかおかしい。
「ゆんゆん大丈夫か? 何かあったのかい? 」
「え、べ、別に普通ですけど」
「そうなのかめぐみん? 」
俺がめぐみんに聞いてみると、ゆんゆんは何故か焦ったような表情を浮かべめぐみんを見つめた。さて、俺とゆんゆんから注目されているめぐみんはというと。
「はい、まぁこの半日普段通りのゆんゆんでしたよ。いつものぼっち気質なチョロい子でした」
ゆんゆんはめぐみんがそう言ったのに安心するそぶりを見せた後、めぐみんに発言の後半の方での言及に食って掛かり始めた。
「うん、いつものゆんゆんだな」
「その、ゆんゆんにおかしなところがあったか? 」
ダクネスが俺にひそひそと質問してくる。
「いや別に。ただ少しゆんゆんがいつもと違う反応をしたような気がしただけさ。思い過ごしだよ」
俺は笑ってそう返すと、そう言えばルーンナイトに転職したことをダクネス以外には伝えていないことを思い出した。
「そう言えばゆんゆん、めぐみん。俺ルーンナイトに転職したんだ」
「えっ!! そうだったんですか!? 」
ゆんゆんが驚く。
「そう言えばリョウタは転職間近だと言っていましたね。おめでとうございます」
「あ、それでダクネスさんのスキルを学んだんですね」
「そう言うことなんだ」
「やっとつじつまが合いました」
手をポンと合わせそんなことを言うゆんゆん。この仕草かわいい。
「なんかわからんがいらん心配をいろいろかけてたみたいだな。ごめんよ」
「あ、いえぜんぜん。いろいろ勘違いしたり、変な妄想したりしてこちらこそごめんなさい」
「勘違い? 妄想? 」
いったいどういうことだろう。
「な、何でもありませんさっきのは忘れてください。あ、私リョウタさんとダクネスさんのお茶入れますね!! 」
赤い顔で、半ば、まくしたてるように言ったゆんゆんはキッチンの方へと消えていった。
「本当に大丈夫なのか? ゆんゆんは」
「心配せずとも普段のダクネスの変態ぶりと比べればまともですよ今日のゆんゆんも」
「なっ」
ダクネスとめぐみんがやり取りをする中で、俺はやっぱり少しおかしいゆんゆんに首を傾げた。
乙女心はまだまだわからん。
さて、ゆんゆんがリョウタのことを完全に意識し始めました。恋し始めたゆんゆんです。ちなみに、暁なつめ先生のTwitterによるとゆんゆんの公式における理想の男性像は、毎日会いに行ってもウザがったりせず一緒にご飯を食べてくれて今日あった出来事をうんうんって聞いてくれてくっ付いて回っても怒ったりしない優しい人らしいです。幸いにもリョウタはゆんゆんに好きになってもらえてもそんなに違和感がない奴ですね。