【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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高評価ありがとうございました!!

今回は長めです。それと、前話のあとがきにてルーンオブセイバーはルーンナイト専用という記述をしていましたが誤りなので消しました。ルーンオブセイバーはソードマスター専用のスキルで、職業内容が本作独自のルーンナイトにも使用が可能というのが正しいです。2020年5月16日1時30分までに読んでくれていた人、すいませんでした。


028 サキュバス

「なぁリョウタ、考えたんだが」

 

「なんだカズマ? 」

 

 ゆんゆんとゾンビメーカー退治をした翌日。俺とカズマは一緒に街を歩いていた。目的は日用品の買い出しだ。

 

「お前の錬金術を使って、その名の通り金を生成すれば金儲けできないか? 」

 

「それは……確かに言われてみればそうだな。早速やってみるよ」

 

 しかし盲点だった。錬金術と名がついているのだから金を錬成して売ればいいじゃないか。発想力の乏しい俺では思いつかなかった。さすがカズマだ。

 

 俺は石を拾うと錬金術を発動。念じて金へと錬成する。

 

「黄金錬成……完了!! 」

 

 俺は手のひらの上にできた金の塊を見て興奮とともに声を上げた。

 

「すげぇ!! なぁ早速金取扱店に売りに行こうぜ!! 」

 

「そうだな!! お金、お金!! 」

 

 俺たちは早速金取扱店に金を売りに行った。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

「まさかこの世界ではそこまで金の価値が高くないとは思いもしなかったな」

 

「アダマンタイトとかの方が高く売れるってどういうことだよって感じだな」

 

 金取扱店で金を実際に売りさばいた後、俺とカズマは意気消沈した。この世界では金はそこまで希少なものではないらしい。そのせいで1エリスにしかならなかった

 

「指輪一個分つくれる総量くらいだったんだがな」

 

「この世界では加工にお金がかかるからジュエリーが高いだなんて予想してなかった。アダマンタイトは見たことないから作れるかどうかも分からないし。……というか俺の錬金術は万能だけどどこまでできるのか限界がわからないんだよな」

 

「確か魔力を糧にして力を流し込んだ物質を望んだものに変化させるんだったよな。……望んだものっていうのがあいまいだな」

 

「一応複雑なものを作ると魔力の消費がその分多くなるっていうのはわかってるんだけどな。集中力も結構要求されてしんどい。あと魔法を錬成するのにも結構魔力を消費してるし、燃費がそこまでいいものではないな。……もし俺がいろんな物の設計を暗記できていればそれを作って売るんだけど……」

 

「俺らの世界にあったものでお前が再現できそうな程度の複雑さの物を今度作ってみるか」

 

「いいな。そうしてみよう」

 

 そんなことを話しながら街の中を歩いていると。見知った顔の2人が目に入った。

 

 キースとダストさんだ。

 

 2人は路地裏にたたずむ一軒の店の様子をうかがっている。その様がかなり挙動不審だった。

 

 気になった俺とカズマは顔を見合わせる。

 

「なんだあれ、ダストにキース、何やってるんだ? 」

 

「なんかめっちゃ挙動不審だな」

 

「声かけてみるか」

 

 カズマが2人に近づいていく。面倒ごとだったら嫌だなと思いつつも、俺もカズマの後に続き。

 

「よ、ダストにキース、こんなところで何やってるんだ? 」

 

「っ!! なんだカズマにリョウタかよ」

 

 キースが驚き顔をしたのち胸をなでおろす。

 

「脅かすんじゃねぇよ全く。……なんだあの残念な4人の美女は連れてないのか今日は」

 

 ダストさんがきょろきょろと周りを見ながらそう言った。

 

 なにが残念な美女だ。ゆんゆんは最高だぞ。ダストさん相手のため、いちいち口には出さないが心の中で言っておくとする。

 

「ああそうだけど。いったいどうしたんだ? 」

 

「……女がいないんだったら問題ねぇや」

 

 カズマの問いにダストさんがそうつぶやいた後、俺とカズマにダストさんとキースが耳打ちしてきた。

 

「今から話すことは男性冒険者の間だけの秘密なんだが……」

 

 キースがそう言ってにやける。

 

「実はこの路地裏の奥の店にはサキュバスたちが経営するいい夢を見させてくれる店があるんだ」

 

 ダストさんもにやけながらそう俺たちに告げた。

 

「いい夢? それってどういうことだ? 」

 

「精神が保てないくらいのすんばらしい夢だぜ……!! 」

 

 ダストさんが俺の問いに意気揚々と答えた。

 

「マジですかダストさんそれってもしかしなくても!! 」

 

「淫夢か!? 」

 

 俺とカズマは声を上げた。

 

「「バカお前ら声がでかい……!! 」」

 

「「すいません」」

 

「とにかくお前らも入ってみるか? 大丈夫、みんなで行けば怖くない!! 」

 

 キースがそう言って親指でクイクイと店の方を指さす。

 

「「……いきます」」

 

 俺とカズマは決意に満ちた表情でそれに応答した。

 

 すると。

 

「なぁリョウタそう言えば俺のことなんでさん付けで呼んでんだ?そりゃ敬われるに越したこたぁねぇが……」

 

「それは、呼び捨てにするほど親しみを感じたくないからです」

 

 あ。つい素直に言っちまった……。

 

「そうかそうか……っておい!! そりゃどういうことだコラ!!!! 」

 

 チンピラが俺につかみかかってきた……!!

 

 

 

 

 

 ダストにとびかかられたがそれをカズマとキースが止めてくれた。その後、なんとかお互い落ち着きその場を治めた。

 

「ちっ、お前には教えるんじゃなかったぜ……!! 」

 

「すいませんダストさん」

 

「さん付け止めろよ!! 煽ってんのかてめぇ!? 」

 

「煽ってないですよ、ダストさん。いや(ダスト)

 

「そうそう。そうやって少しは親しみ持てよ、あの悪夢のようなパーティーを俺だって一度は共有してんだからな」

 

「わかったよ(ダスト)

 

 だがあの巻き上げられたお金の恨みは忘れはせんぞ(ダスト)

 

「お前さっきから、俺の名前呼ぶときに屑と書いてダストって言ってねぇか? 」

 

「気のせいだよ」

 

「おいお前らそろそろやめろ!! 俺たちは今から男の夢の世界の門を開けるんだぞ!! 」

 

「キースの言う通りだぞリョウタにダスト。俺たちは今からすんばらしい世界に足を踏み入れるんだ。清い気持ちで行こうぜ」

 

 キースとカズマが俺たちをなだめる。

 

「「そうだな」」

 

 そして俺たちは、サキュバスのお店の門を4人で同時に開いた。

 

 中に広がっていたのは……ファンタスティックなパラダイス空間だった。

 

「「「「すげぇ……!! 」」」」

 

 俺たちは感嘆の声を上げた。

 

 小さな翼と尻尾をはやした局部だけを小さな布で隠している多数のサキュバスが店内をうろついていた。どの娘もきれいな顔立ちをしている。

 

 店内は全体的に淫靡な印象を与えるピンクで染められており魔導照明もピンクだ。そしていいにおいがする。

 

 俺たちはもちろん、他のお客たちも顔が緩んでおり机に置かれたアンケート用紙のようなものに記入をしていた。

 

 なんだここは、圧倒される。これがああいうお店の雰囲気なのか!?

 

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 

 俺たちを次々とサキュバスたちが手を引いて誘導していく。俺を誘導するのはゆんゆんとスタイルが近いと思われる茜色のセミロングの髪をしたサキュバスだった。つないだ手は柔らかい。

 

 俺とカズマは間仕切りの施された隣り合った席に誘導された。

 

「お客様は当店の利用は初めてでしょうか? 」

 

「はいっ!! 」

 

 俺は声が裏返らせながら返事をする。隣で接客を受けているカズマも同様に声が裏返っていた。それはそうだ。こんな大人な雰囲気の店で、おまけにこんな格好をした美女に対応されるのだから声が裏返らないわけがない。童貞には刺激が強すぎる空間なのだ。

 

 それから茜色の髪のサキュバスからお店の説明が始まった。

 

 このお店は男性冒険者との共存共栄で成り立っている店。喫茶店に偽装しているが真実は淫夢を見せるお店だ。男性冒険者から賃金をもらい、いい夢を見せることでほんの少し精気を吸い取るらしい。この街で生きていく上で必要な最低限のお金さえ報酬としてもらえればいいらしく俺たちが払わなければならないお金はたったの5千エリスほどだ。こういうお店の相場を考えれば異様なほどに安い。

 

 見せてくれる淫夢は様々なことが設定可能であり、夢の中の性別などの状態からシチュエーションの指定まで自由なんだそうだ。そして、相手の外見や年齢も指定し放題である。夢だから条例など関係ないのだ。

 

「なんという。素晴らしいお店なんだ」

 

「ありがとうございますお客様。さぁこちらのアンケート用紙にお好みのままに、欲望の赴くままにご記入ください」

 

 艶やかにほほ笑む茜色の髪のサキュバス。

 

 書く内容など決まっている。すべてを自由に書けるというのなら、ならばぁ、答えは1つだ!!!!

 

「お客様絵がご上手ですね」

 

「数少ない取り柄なんですよ」

 

 俺はゆんゆんの似顔絵を最高速で描いた。大まかな特徴をとらえて描いた絵だが短時間でかいたにしてはかなり良くできているだろう。

 

「顔はこんな感じで身長やスタイルは……その、君みたいな感じでお願いしたい」

 

「かしこまりました」

 

 そう言って茜色の髪のサキュバスはニコニコ笑った。

 

「口調は、です、ます口調。性格は穏やかでおしとやかで控えめな感じ。シチュエーションは適当で構いません……と。コースは3時間コースで住所は……よしできた。できましたよ……!!」

 

 俺は心の中で狂喜乱舞した。夢でとはいえ愛してやまないゆんゆんと夢の中で楽しいことができる。

 

 それから俺は会計を済ませた。アンケートに長々と書き込んでいたカズマたちを待った後、店を出る前に注意としてお酒などは熟睡されると夢を見せられないため控えめにしてほしいと言われた。

 

 大丈夫。俺お酒飲まないから。

 

 

 

 

 

 

「どんな夢にしたリョウタ? 」

 

「ゆんゆん」

 

「やっぱりか」

 

 俺とカズマはダストにキースと別れた後、帰路についていた。

 

「カズマはどうなんだ」

 

「世間知らずのきれいなお姉さんにした、スタイルとか見た目はダクネスみたいな感じで」

 

「なるほど。なかなかいい趣味だ」

 

「そりゃどうも。お前はぶれないなリョウタ」

 

「ゆんゆんがかわいいのがいけない。ゆんゆんが悪いんだよ」

 

 そう言えばダクネスがカズマが好みのタイプだと言っていたのを思い出した。カズマとダクネス。案外相性がいいのかもしれない。将来的に2人が結ばれたりして。

 

「カズマには近いうちに春が訪れそうだな」

 

「どういう意味だそれ? 」

 

「なんでもない。今日は早めに寝ないとな」

 

「そうだな、今から楽しみだ」

 

 カズマがにやけ顔でそう言った。

 

 

 

「カズマ、神殺し。おかえりなさい。喜びなさいな。今日はカニよ!! 霜降り赤ガニよ!! 」

 

 夕方になって帰宅するとアクアがテンション高く迎えてくれた。リビングの机には大量のカニが並んでいる。とてもおいしそうだった。

 

「霜降り赤ガニ? 霜降り肉じゃなくて? 」

 

「ええ、カニよ。とってもおいしいカニなの」

 

 俺の質問に答えるアクア。肉じゃなくてどうやらカニで間違いないようだ。サンマが畑で取れたり野菜が空を飛んだりと比べれば些細な問題だろう。おいしいというのならなおさらだ。

 

「いったいどうしたんだこのカニたち」

 

「ダクネスの実家から引っ越し祝いといつもダクネスがお世話になっているパーティーのみんなへの感謝の気持ちとして送られてきたのですよ!! あ、高級酒もセットでついてきました」

 

 俺の問いに嬉々とした表情で答えるめぐみん。よほど食べるのが楽しみなのだろう。俺も同じだ。

 

「ダクネスの御両親に感謝だな。よし、さっそくいただこうぜ」

 

 カズマもまた目をらんらんと輝かせていた。

 

「ああ、いただいてくれ。」

 

「みんなでカニパーティー楽しみです!! 」

 

 それから俺たちはカニを食べ始めた。

 

「霜降り赤ガニおいしいですよ!! まさかこんなにおいしいものを食べられる日がこようとは思いもしませんでした!! 」

 

 めぐみんはうれしそうにカニの足にむしゃぶりついた。かわいらしい。

 

「どんどん食べてくれ。カニは大量にいるからな」

 

 ダクネスはその様を嬉しそうに眺める。

 

「おいしいです……!! 」

 

 ゆんゆんも実においしそうにカニの足を食べる。

 

「俺もいただきます!! 」

 

 カニの足から身を取り出し口に運ぶ。その味は今まで食べたどんなカニよりもおいしかった。

 

「うめぇ!! 」

 

 俺が歓喜とともにより多くのカニの足を食べていくと。

 

「カズマこっちに火をちょうだい。今からこの高級酒のおいしい飲み方を教えてあげるわ。甲羅酒にしてに飲むの!! 」

 

 アクアが小さな手鍋の炭に火をつけるようにカズマを促す。

 

「ほれティンダー」

 

 カニの足を食べながらカズマがティンダーで炭に火をつけると、アクアはその上に置いたカニの頭部の甲羅にお酒を注いでいき。

 

「いただきます……ふわぁ……!! 」

 

 やがて温まったところでその酒を口にするアクア。

 

 なんだろう。あのお酒すごくおいしそうだ。人生で初めて飲みたいと思った。

 

「おお、確かにこれは美味いな!! 」

 

 同じく甲羅酒を口にしたダクネスが感嘆の声を上げる。

 

「やばい、飲んでみたい。でもお酒か……」

 

 俺の中で葛藤があった。なにせお酒は20歳になってから。という常識がなかなか頭から離れてくれないからだ。そんな俺に。

 

「リョウタは私と同い年なのだろう? なら十分大人だ。気になるなら飲んでもいいのではないか? 」

 

 ダクネスの甘い言葉が投げかけられる。

 

「……それもそうか」

 

 飲んでみるか。この世界の法律上お酒は何歳からでもOKだし。そう思いカニの甲羅に手を付けていると、何か葛藤している様子のカズマが目に入った。

 

「どうしたんだカズマ? 」

 

「もしかして霜降り赤ガニが口に合わなかったか? 」

 

「いやそんなことはないぞ。うん、おいしい、おいしいんだが」

 

 カズマが俺をじっと見つめてきた。それは何かを訴えかけてくるようなもので……。やがて俺はその理由がなんなのかを理解した。

 

「ああ、酒を飲んだらダメなんだった」

 

「どうしましたリョウタさん? 」

 

「いやなんでも」

 

 俺の言葉を不思議がって見つめてくるゆんゆん。そう俺は今日この子と夢の中でお楽しむ予定なのだ。酒なんぞを飲むわけにはいかない。酒を飲んで熟睡などしてしまえば素晴らしい体験ができなくなる。いや、甲羅酒も十分素晴らしい体験なのだろうが。

 

「飲んだら気分が良くなってきたわ!! 初披露の指芸を見てちょうだいな!! 起動要塞デストロイヤー!! 」

 

 アクアが、わさやわしゃと指を動かし、それにめぐみんとダクネス、ゆんゆんが感嘆の声を上げる。

 

 そんな中で俺とカズマは。

 

「ああうまかった。ありがとうなダクネス。酒は次の機会にするよ」

 

「俺も今日はお酒を飲まないことにするよ」

 

「そうか、それにしてもカズマが飲まないとは珍しいな。やはりうちのカニは口に合わなかったか? 」

 

 純粋に申し訳なさそうにした表情のダクネス。そんな彼女を見て罪悪感をわきたてられたのであろうカズマは引きつった表情をする。

 

「そんな顔しないでくれよダクネス。そのあれだ、今日は知り合いの冒険者と飲み食いしたからもうお腹いっぱいなんだ。なぁリョウタ」

 

「あ、ああ。そんなところだ」

 

 カズマと俺はそんなことを言ったあと

 

「「ということで、俺たちはそろそろ寝るよ。ダクネス御馳走様。……おやすみ」」

 

 息ぴったりで同一の言葉を述べた俺とカズマは同時に立ち上がってリビングを後にした。

 

 不思議そうに俺たちの背を見つめてきている4人の視線に罪悪感を感じながら。

 

 

 

「あの誘惑はやばかったな」

 

「ああ。やばかった。というか俺の場合そもそもカズマがいないと誘惑以前の問題で夢のこと忘れて酒飲むところだった。ありがとう」

 

 廊下でそんなことを言い合う俺とカズマ。

 

「俺は鋼の精神を持つ男、カズマ。食の誘惑などには決して負けたりしない。ダクネスのあの顔はきつかったけどな」

 

「だよな。普段は変態発言でみんなをドン引きさせるくせにあれはずるい」

 

「うんうん」

 

 カズマは心底同意するという風に頷いた。

 

「さてこれから俺は寝ることにするよ。リョウタは? 」

 

「俺も風呂入って寝ることにする。緊張と興奮でまだ眠れるかどうか怪しいけど」

 

「俺もだよ。じゃ、おやすみ、いい夢を」

 

「いい夢を」

 

 俺とカズマはお互いにサムズアップして別れると、各々の部屋へ歩き出した。

 

 俺は風呂に入った後、自室に到着するとさっさとパジャマに着替え、布団の上に横になった。

 

 それから、何もしないゆったりとした、しかし内心は昂ぶりに昂ぶった状態で時間が過ぎていった。

 

 サキュバスとの約束の時間まではあとどのくらいだろう?

 

 何度も見た時計にまた目をやる。時計にはあと30分後には夢を見せる時間が来ると針が示していた。

 

「もうそんな時間かさっさと寝付かないとまずいな。まぁ幸い眠気はあるし焦ることは無い。大丈夫だろう」

 

 あくびをしながら布団の中でごそごそすること約15分後。

 

「あのリョウタさん起きてますか? 」

 

 ドアをノックする音とともにゆんゆんの声がした。

 

 まどろんでいた意識が急速に好きな人の声で回復させられる。そして、本能のままに。

 

「起きてるよ」

 

 と言ってしまった。

 

 ここは狸寝入りするのが最善手だろう俺よ。ゆんゆんだからと言ってうかつに反応してはダメだろ!!

 

 失態を犯した自分にそう言い聞かせながら、返事してしまったものは仕方がないので布団から出てドアを開ける。

 

「もう寝てしまっているかと思いました。でもまだ起きてたんですね。あ、もしかして起こしちゃいましたか? 」

 

 不安げな顔で聞いてくるゆんゆん。

 

「そ、そんなことは無いさ。いったいどうしたんだい? 」

 

 寝かけていたところを起こされたのだが、ゆんゆんなので文句は言わない。

 

「いえ、リョウタさんがあんなにおいしい食事を早めに切り上げたからどこか体調が悪いんじゃないかと心配になりまして。それで寝る前に声をかけてみたんです」

 

 少し照れた表情をするゆんゆん。

 

「そうだったのか。ありがとう。俺は大丈夫だよ」

 

「よかった」

 

 ほほえむゆんゆん。何と優しい顔だろう。しかし俺のことを心配してきてくれるとは嬉しい限りだ。正直ゆんゆんはだいぶ俺のことを大事に思ってくれているのではないだろうか? そんな彼女とこれから後15分後には夢の中でナニをするわけだが。……名残惜しいがさっさとお引き取り願わなければ。

 

 俺はうれしさと気恥ずかしさと背徳感と罪悪感。それらを入り混じらせた状態で。

 

「ゆんゆん。今日はもう寝るとするよ。心配してくれてありがとう。おやすみ」

 

 早口でそう言ってドアを閉めようとするが、それをゆんゆんがドアに手をかけて止める。

 

「あの、リョウタさん。顔赤いですけど本当に大丈夫? 」

 

「そ、そうかな? 」

 

「はい。顔が真っ赤です」

 

 嘘だろ俺の顔。そんなに気分が出やすかったのか?

 

「もしかして熱でもあるんじゃ? 」

 

「そ、そんなことは無い。断じて。顔が赤いのはきっと気のせいだ」

 

 自分が顔に感情が出やすいタイプだったと知り、そのことで焦った俺は適当な言い訳を思いつけずに失言する。

 

「気のせいなんかじゃないですよ、それになんだか挙動不審ですし。風邪でもひいちゃいましたかね? 」

 

 なんだと? 俺が挙動不審に今はゆんゆんに見えてるのか。それはまずいな。ああ、とてもまずい。平静を取り戻せ俺。変に心配かけてこれでは話が長引くかもしれない。そうなってはサキュバスタイムに突入してしまう。

 

「だ、だ、大丈夫。い、いや、風邪ひいてるのかもしれない。移ったらいけないからゆんゆんは早く俺から離れたほうがいい」

 

「だ、大丈夫ですかリョウタさん? なんだか汗もたくさんかいてるみたいですけど……。もしかしてこの時期だからインフルエンザかな? 」

 

「インフルだったらなおのことヤバいだろう。ほらとっとと部屋に戻った方がいいよゆんゆん」

 

 俺は焦りを完全に表に出してしまっているのを自覚しながらゆんゆんに部屋に戻るように促す。

 

 あと、どうでもいいがこの世界にもあるのかインフルエンザ。

 

 ゆんゆんは俺の言葉を聞いてきょとんとした顔をしたのち、怪訝な顔をした。

 

「あのリョウタさん」

 

「なんでしょう? ほら早く俺から離れたほうがいいよゆんゆん」

 

「何か困ったことでもあるんですか? 」

 

「は? い、いやそんなことは絶対ないよ……」

 

 ゆんゆんの思わぬ一言に生返事を返す。そんな俺にゆんゆんは続けて。

 

「普段のリョウタさんならこんなにも私を突き放すような言い方しないですから。 私たちはその……えっと、パーティーで友達じゃないですか。何かあるなら言ってください。秘密にしないで。心配になります」

 

 心なしかパーティーで友達という言葉を言う際に目が泳いでたし若干戸惑っていたのは気のせいだろうか? もしかしてそんなに大事に思われてない? いやまて、今までのゆんゆんの言葉からしてそんなことは無い。勝手にマイナス方面に考えるな俺の経験則。……でも戸惑ってたのは気になる。だけどこんなこといちいち今は悩んでいる時間はない。

 

 俺は時計を見てタイムリミットを確認する。あと十数分で落ち着き、眠気を取り戻し、眠りにつく必要がある。果たしてできるだろうか? いや、やらなければならない。そのためにもゆんゆんには下がってもらわなければ。

 

 ゆんゆんのためにゆんゆんを遠ざける。なんだか不思議すぎる状況に変な笑いが出そうになるのをこらえて。

 

「大丈夫、本当に大丈夫だから。さぁさっさと部屋に帰るんだよゆんゆん」

 

「本当に大丈夫ですか? なんだか笑ってますよリョウタさんの顔。それにそんな言い方……」

 

 ゆんゆんがシュンとした顔になる。

 

 確かに今の言い方は悪かったかもしれない。それにしてもやめてくれよそんな顔。罪悪感と申し訳なさと、普段見ない顔が見れたことへの若干の喜びでどんな反応をしたらいいか分からなくなる。

 

 なにはともあれここはひとまず謝るべきだろう。ゆんゆんの心配する気持ちを無碍にしようとしているのに変わりはないのだ。

 

「ごめん」と俺が口に仕掛けた瞬間。

 

「曲者よ!! みんなこの屋敷に曲者が出たわ!!!! であえであえー!!!! 」

 

 アクアの叫びが屋敷に響き渡った。

 

「なんだ今の? 」

 

「行ってみましょう!! 」

 

「ああ!! 」

 

 曲者ということは侵入者か何か。つまり泥棒か何かだろう。

 

 そう思い、神殺しの剣は過剰だと判断して持たずに俺とゆんゆんは声のする方に駆けだす。

 

「おいアクア!! どうしたんだ!? 」

 

「何があったんですか? って……キャッ!! 」

 

 ゆんゆんが短く悲鳴を上げて顔を覆い隠す。

 

 声のする方に行くと呆然と立ち尽くしたタオル一枚腰に巻いただけのカズマと、そんなカズマを見てだろう。赤面しているめぐみん。そして自慢げな顔をしたアクアがまず目に入った。

 

 さらに。

 

 手と手をつなぎ合わせてしゃがみ込み恐怖に震える2人のサキュバスがいた。片方はロリ体系のサキュバスで、もう片方は俺を接客したゆんゆんにスタイルの近い茜色の髪をしたサキュバスだった。

 

「私の張った結解で身動きが取れなくなってたのよ。このサキュバスたち。きっとカズマと神殺しの精気を吸いに来たんだわ!! 」

 

「なぁカズマ」

 

「……なんだリョウタ? 」

 

「これって……」

 

「うん……」

 

 俺とカズマはすべてを察した。このサキュバスたちは俺たちに淫夢を見せるためにやってきてくれたサキュバスたちだ。

 

 カズマがサキュバスたちの前に盾になるかのように立ち塞がった。

 

 俺もそれに倣い、2人の前に立つ。

 

「ちょっと何やってるのよ2人とも!? 相手は悪魔なのよ!! 」

 

「そうですよ、カズマ、リョウタ。可愛くても悪魔。モンスターなのですよ。なのに庇うというのですか? 」

 

「悪魔はコミュニケーション取れるから友達になれるかもしれないけど……、めぐみんの言うようにモンスターなんですよ2人とも!! 」

 

 俺たちにそんな言葉を投げかけてくるアクアにめぐみんにゆんゆん。そして投げかけてくるのは3人だけではなく俺とカズマの背にいる2人のサキュバスもだった。

 

「お客さんたち。ダメですよ……」

 

「そうですよ、私たちがうまく忍び込めなかったのが悪いんです。お客さんたちに恥をかかせるわけにはいきません……」

 

 涙声でそう口にする茜色の髪のサキュバスとロリサキュバス。

 

 俺とカズマは頭を横に振り。

 

「「いけ」」

 

 覚悟を固めた巌のような顔でそう言った。

 

「「お客さん……」」

 

「「逃げろ」」

 

 カズマとともにファイティングポーズを前方の3人にとる。

 

「そんな、私たちはここで退治されますから……」

 

「どうかお気になさらないでください……お客さん……!! 」

 

 ロリサキュバスと茜色の髪のサキュバスは口々にそう言ったが俺たちは譲るわけにはいかない。俺たちの性欲のせいで失われようとする美しい命があるのだ。それを放っておくなどできない。

 

 俺は2人に逃げるように目線を送った。するとそれとほぼ同時に。

 

「今のカズマはそのサキュバスたちに操られている!! 設定がどうのとか言っていたから間違いない……!! おのれ、サキュバスめ、あのような辱めを……ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!!! 」

 

 激昂した状態のダクネスが怒気を体から放ちながらこちらに歩いてきた。

 

 まずい本当に殺意の塊になっている。実際は操られていないわけだが……何をやったんだカズマ。

 

 カズマの方を横目で見ると彼が冷や汗を流しているのが見えた。

 

 そんなカズマに続き、俺も冷や汗を流すことになった。

 

「そっか、じゃあリョウタさんも操られてますね……。でないとリョウタさんが私にあんなひどい言い方するはずないもの。挙動不審だったり顔が赤かったのはそう言うことだったのね……!! ぜったい許さないサキュバス、よくもリョウタさんをぉぉぉ!!!! 」

 

 ゆんゆんが激しく激昂した。

 

 その様にアクアはゆんゆんを二度見し、ゆんゆんの親友であるめぐみんは体をビクッと震わせ少し不安げな顔でゆんゆんの方を見た。

 

 何ということだろう。ここまで怒ってくれて信頼してくれているのはとても嬉しいのだが……罪悪感がすさまじい。そして何よりガチギレしたゆんゆんは怖い……!! 後どうでもいいが俺は1日にいったい何度罪悪感を感じればいいんだ。

 

「カズマ、神殺し。どうやら洗脳されてる以上、少し痛い思いをしないといけないわよアンタたち」

 

「覚悟はいいですか? 私たちが言っている意味が理解できるかどうかわかりませんが……!! 」

 

「行くぞカズマ、リョウタ!! お前たちを正気に戻して後ろのサキュバスどもを何としてもぶっ殺す!! 」

 

「スリープの魔法を使って2人を眠らせます!! ダメなら気絶するまで痛めつけましょう!! 」

 

 女性陣全員が物騒なことを言う。特にダクネスとゆんゆんが怖い。

 

「行くぜ……!! 」

 

 カズマのつぶやきにサキュバスたちは「お客さん……!! 」と息をのんだ。

 

 正直痛い思いをするのは勘弁したいがここは仕方がない。この2人が逃げられるまでの時間は稼ぐ!!

 

「護る……!! 」

 

 俺とカズマは同時に飛び上がり、女性陣4人にとびかかった。もちろん傷つける気は毛頭ない。サンドバックになるだけだ。

 

「「しゃぁぁぁぁわっ!!!! 」」

 

「ゴッドブロー!! 」

 

「爆裂パンチ!! 」

 

「フンっ!! 」

 

「スリープ!! 」

 

 女性陣4人から強烈な攻撃を俺たちはかまされる。殴られ、殴られ、殴られ、強烈な眠気を与えられるが。それでも引けない。カズマと俺は立ち上がりカズマはアクアに、俺はゆんゆんにへと突撃した。

 

「リョウタさんごめんなさい!! えいっ!! 」

 

 俺はゆんゆんに背負い投げされて床に激突する。すごいな紅魔族の成績トップは!! 体術も一般人のそれではない!!

 

 そんなことを考えながら俺を痛みこそあるものの物理耐性のおかげでほとんどノーダメージなのをいいことに、ゆんゆんの足と、近くにいたダクネスの足を握り縋りつく。

 

「護るぅぅ!!!! 」

 

 必死の形相を浮かべて、洗脳されている演技をしながら2人を揺らす。

 

 それからは俺とカズマは2人のサキュバスが結解をどうにか破って脱出するまでの間、仲良くサンドバックになりボコボコにされた。

 

「サキュバスたちに逃げられてしまったか……」

 

「塩まいとくわ!! 」

 

「あのアクア。カズマとリョウタに回復魔法をかけてあげてください」

 

「2人とも青あざだらけですし……かわいそうです。あ、でもリョウタさんはアクアさんのスキルが効かないんでしたね……」

 

「そういえばそうでした」

 

 俺は4人のそんな会話を聞いた後、意識が途切れた。




 リョウタはまだ気づいていない。神殺しの剣の呪いで神や悪魔のスキルは攻撃スキル以外基本的には無効化されてしまうことを。つまりは淫夢は見ることができないということを。

 ということでサキュバス回でした。サキュバスサービス。現実にもあったらいいのにと思いませんか? 私は思います。日本がさらに少子高齢化しそうですが。

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