【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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002 黒髪紅目の女神様

「ここが異世界か……」

 

 俺はさっきまで自室で着用していた黒いジャージ姿。ポケットには10万エリスの札束と、左腰に神殺しの剣と思われる剣を鞘に入れてぶら下げた状態で、真昼間の林の中……正確には林道の中心にいた。

 

 神殺しの剣は全体が真っ黒で、赤い菱形の宝石が埋め込まれた仰々しいデザインのブロードソードだ。

 

「ここはおそらく、天使さまが言ってた駆け出し冒険者の街……アクセルの近隣の林だな」

 

 さて、さっそくギルドへ登録に参ろうか。どっちに行ったらいいのか自然とわかるし。多分脳内に言語等と一緒に情報が流し込まれたのだろう。それにしても頭がパーにならなくてよかった。

 

「と、その前に」

 

 さっそくもらった錬金術を試してみよう。神殺しの剣はアンデッドとかが周囲にいないのでお預けだ。

 

 試しに俺はしゃがみ込んで地面に触れる、そして、鉄へと変われと念じた。その瞬間、体内から何かが消費される感覚に襲われる。おそらく魔力が消費されているのだろう。

 

 それと同時に。

 

 触れた先から地面が鉄へと変わっていった。

 

 俺が錬金術を念じて止めると、ぴたりと地面の変化が収まる。

 

「なるほどな。じゃあ……」

 

 次はもっと複雑なものを。

 

 俺は新たに土をつかんで今度は適当な鉄製のペンダントをイメージしながら錬成してみる。するとイメージ通りの形にはいかずグニャグニャと曲がったペンダントができた。

 

「いいなこれ。練習はまだまだ必要だろうけど、本当にいろんなことに使えそうだ。さて、一応試してみたし、効果も把握した。ギルドに向かうか」

 

 俺はそう言いながら林道を歩き、冒険者ギルドへを目指した。

 

 

 

 

 ここがアクセルの街。洋風な街並みだけど、思った以上にファンタジーな感じだ。なにせ、一見中世っぽいのに街にはいろいろ文明レベルがちぐはぐなものがある。あとケモミミとかエルフ耳の人もいる。すごい。

 

 それが俺がアクセルの街に来て抱いた感想だった。それにすごく安全そうであるとも感じた。

 

 俺は一度立ち止まって周りを眺める。

 

「治安がいいのに越したことは無いけど、平和そうなのは拍子抜けだな。魔王の城から一番遠い街っていう立地条件が関係してるのか」

 

 それにしても。

 

「なんだろう、周りの人々から凄い奇特なものを見るまなざしにさらされている気がする」

 

 いや、気がするではなく、実際にそうだ。おそらくジャージ姿が珍しいのと、それに似合わない仰々しい剣の相乗効果が原因なのだろう。

 

「止めてくれ、街の人。そういう視線は引きこもりニートの俺には効く。止めてくれ」

 

 まぁこんなこと言ってる方が余計奇特な人間に見られるだろうから無言でギルドに行こう。

 

 俺はギルドへといそいそとしながら向かった。そして。

 

「冒険者ギルドか。すごいな」

 

 冒険者ギルド。街の中でもひときわ大きな施設に圧倒されながら、ギルドの中へと足を運ぶ。

 

 中には荒仕事なだけあって、屈強だったり乱暴そうな見た目の人間が相当数いた。逆にそれらとは相容れない華やかな装いの者もいる不思議な空間が広がっていた。

 

「本当にすごい。ファンタジー空間だな。……さて、登録登録」

 

 俺はギルドの窓口に向かいルナという名札を付けた受付の美人なお姉さんに冒険者になることを伝え、手数料を支払うと冒険者カード発行用の水晶のついた装置に手をかざすことになった。

 

 なんでも天使さまの説明してくれた事前情報によると、冒険者とは職業(クラス)を選択できるらしい。冒険者登録時に選ぶが、レベルアップ等でステータスアップすると職業の変更が可能になるとのことだ。

 

 俺の選べる職業はいったいなんだろう。

 

 そんなことを考えていた俺にルナさんが。

 

「その、魔力はレベルの平均と比較すると高いほうですが……基本ステータスがかなり低いので、リョウタさんが選べるのは職業、『冒険者』か『ウィザード』の二つですね……」

 

「今なんと? 」

 

「その、お気の毒ですが基本ステータスがかなり低いので、リョウタさんがなれるのは職業『冒険者』か魔力の高さが生かせる『ウィザード』だけです……あ、でもスキルポイントは初期にしては結構多めにありますよ」

 

「……ステータスが低いのはあれか? ヒキニートだったからか? 」

 

「え、ヒキニートだったんですか? 」

 

「え、あ、はい」

 

 俺とルナさんの間に微妙な雰囲気が流れる。

 

 やがてルナさんは取り繕った笑顔で。

 

「もしかして社会復帰のために冒険者を目指されたのですか? 」

 

 そう問いかけてきた。

 

「あ、あはは、その通りです」

 

 俺もまた取り繕った笑顔でそれに対応した。

 

「そ、そうですか。社会復帰頑張ってくださいね。どうぞ冒険者カードです」

 

 俺はルナさんから冒険者カードを受け取って、心の中で少し嘆いた。

 

 

 

 

「錬金術はスキルとして登録されてんのか」

 

 俺はギルドに併設された酒場にて、冒険者カードのタッチパネルをいじりながらつぶやく。

 

「お待たせしました、ステーキです」

 

「あ。ありがとうございます」

 

 ウェイトレスさんが注文していたステーキをテーブルに運んできてくれたので礼を言って、俺は昼食を食べ始めた。

 

「しかし、まさか魔力が平均より高いとは思わなかった。でも、とりあえず器用貧乏な職業の『冒険者』にしとくか。いろんなスキルを覚えられるっていううまみはあるし。最弱職(笑)だけど」

 

 俺は冒険者カードの職業欄をタッチして冒険者を選択した。

 

 これから俺の冒険者ライフが始まる。

 

 

 

 俺はギルドで食事を終えた後、ヒキニート生活で培ったコミュ障特有の他者への恐怖心を抑え込みギルド内の他の冒険者にたのんで、賃金を払ってスキルをいくつか習得後、一度ギルドを離れて武器や防具を買いそろえた。あくまで最弱職『冒険者』が装備できる程度の物なうえ、お金も少なかったので上等なものは買いそろえられなかった。

 

 ただ、お金が少なかった理由の一つとしては、スキルを習う際に頼んだ相手のうち一人がチンピラで、結果絡まれてしまい多めに支払わざる負えなかったという事情がある。お金で解決できてよかった反面、後からの後悔が大きかった。まぁ彼からも一応スキル『両手剣』を習えたので無駄ではなかった。そうプラスに考えよう。

 

 今の俺はジャージの上から軽い革製のアーマーを纏い、背中に弓と矢筒を。左腰に神殺しの剣を備えた状態だ。何というか神殺しの剣だけ自己主張が強すぎてバランスが取れていないが。

 

「さてと、食い扶持を稼がないとな。クエスト、クエストっと」

 

 ギルドに再び舞い戻ってきた俺はギルドで配布されている冒険者初心者ガイドをもとにクエストを選択してみる。

 

 ジャイアントトードを5匹討伐というクエストが一番儲けが良さそうだな。5匹討伐でカエル肉の買い取り込みで12万5千エリス。名前からしてただの大きなカエルだろうし、異世界転生最初の相手としてはまぁ妥当だろう。

 

 俺は依頼書を持って受付で渡すと、ジャイアントトード討伐を正式に受託した。受付の人にはソロパーティーであることを少し心配されたが。「大丈夫ですと」言い切った。だってパーティメンバーとか面倒だし、ヒキニートの俺には密接な関係を築くのはレベルが高すぎる。

 

 

 

 

 

 アクセルの街の城壁の外に広がる平原にて、俺はジャイアントトードと思われる存在と遭遇した。否、遭遇してしまった。あまりにも想定外な存在に。

 

「デカすぎだろ約3メートルはあるぞおい!! 」

 

 今のところジャイアントトードとは大きな距離があるしその上気づかれていない。あるいは脅威として見定められていない。

 

「ここからキースに教えてもらった『弓』と『狙撃』と『千里眼』で狙い撃つか」

 

俺は弓を構えスキル『弓』を発動する。その瞬間、俺は弓矢など1度も射た経験もないのに体がきれいなフォームで弓を構え、ジャイアントトードに向けて矢を射出した。

 

「できれば一撃で脳天に刺さって、死んでくれますように……って、そりゃないか」

 

 『千里眼』は遠方の視認と暗視。そして、『狙撃』は幸運値が高ければ高いほど命中率が上がるし、場合によってはクリティカルヒットすることもある。だが残念ながら俺の幸運値は平凡だったため脳天にくし刺しということは無く、ジャイアントトードの前足に命中して終わった。

 

 ジャイアントトードは俺を敵、あるいは餌だと察知したのか、こちらに向けて突撃してきた。動きはゆっくりなのだが一回一回のジャンプ力が半端ではなく、どんどん距離を詰められていく。

 

「あれに食われたら死ぬよな……考えたくもない!! 狙撃!! 」

 

 俺は文字通り矢継ぎ早に矢を連射し、ジャイアントトードの身体の各所に命中させていく。そして。

 

「無力化完了。セーフ」

 

 矢を射られまくって串刺し祭り状態になったジャイアントトードは俺からもう数メートルの距離でついにあおむけになった。

 

「あとは息の根を止めるだけだ」

 

 虫の息となったジャイアントトードに近づき、とどめを刺す際に暴れられては困るため、クリスというかなり気前の良かった少女に教えてもらったスキル『バインド』で、ワイヤーを使って拘束する。ちなみにワイヤーは錬金術で縄を金属化した自作の物だ。ぐるぐる巻きになって完全に動きを封じたジャイアントトードの脳天を神殺しの剣で突き刺す。

 

「よし、ジャイアントトード討伐完了」

 

 なんだろう。あっさり倒せて拍子抜けだ。ソロパーティーでも何とかなるじゃないか。しかし神殺しの剣の初仕事がカエル殺しとは、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 

 そういえばレベルは上がっているだろうか? 

 

 俺は冒険者カードを見てみると、レベルが上昇し2になっていたのを確認した。スキルポイントも増えている。

 

「まだ初期レベルが低いし上がりやすいんだろうな」

 

 低レベルなほど上がりやすいと聞いたし。まぁ人間としても最底辺なのでどうせなら底辺ボーナスでもう少しレベルが上がってくれてもいいのにな。

 

 さてと残り4匹か。探して狩るぞ。

 そんなことを考えていた俺だったが。

 

 突然。ドカーン!! などでは表せないとんでもない爆発音が平原に鳴り響いた。戦争の映像資料などでしか聞いたこともないそれとともに地震とかすかな爆風が俺を揺らす。

 

「今のはなんだ!? 結構遠くでの爆発だったみたいだけど、かなりの威力があるみたいだし……」

 

 俺はあたりを見渡すと、左方の遠くで黒煙が上がっているのが見えた。いや、もはやきのこ雲だ。それが爆発の威力を物語っていた。

 

 すると……。

 

「おい嘘だろっ!! 」

 

 ジャイアントトードが地中から三匹ほど俺の周囲に現れた。しかも取り囲むようにしてだ。

 

 どうやら睡眠中だったようだがさっきの爆発で目を覚ましたらしい。しかし地中からカエルとは驚きだ。

 

「これまずくね……」

 

 俺が冷や汗をかいた瞬間。三匹のジャイアントトードが一斉にとびかかってきた。

 

「やばい!! 」

 

 さっきの一匹を倒すために全部、矢は使ってしまった。飛び道具になるものが無い。

 

「……。ぎゃぁぁぁぁぁ!! 」

 

 俺は一目散にその場から逃げ出した。が、ジャイアントトードはしつこく俺をジャンプして追いかけてくる。

 

 季節は秋。越冬のためにきっと栄養満点の物を食べたがっているジャイアントトードは俺を追い回す。

 

 そしていよいよ俺が体力切れを起こしそれがきっかけとなってバランスを崩しコケると、三匹は俺の目前で長い舌を伸ばしてきた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ、く、食われる!! 」

 

 一度死んで吹っ切れた感があったと思ったが、あれは勘違いだったようだ。俺は今追い詰められて絶望している。

 

 くそ、あきらめるか!! 

 

 俺はぜぇぜぇ言いながら神殺しの剣を構えるとジャイアントトードの舌を寄せ付けまいとと振り回す。すると、予想外にもジャイアントトードたちは怯んで後ずさった。

 

「……もしかしてお前ら金属が嫌いなのか? 」

 

 カエルが刃物を危険物として認識できるとは思えないし、となると金属を嫌っているとみて間違いないだろう。これはチャンスだ。

 

「ほらどうした、かかってこい、ほら!! 」

 

 俺が調子に乗って剣をぶんぶんしながらにじり寄っていくと、どんどんジャイアントトードどもは後ずさっていく。

 

 このまま追い払えそうだ。

 

 そんな希望的観測をしていた俺に……真ん中の一匹が俺に体当たりを敢行した。

 

「ぐえっ!! 」

 

 俺は吹っ飛ばされ神殺しの剣を手放してしまう。さらに、ジャイアントトードの長い舌に絡みとられその口の中へと運ばれた。

 

「うわぁぁぁぁ!! 」

 

 俺は絶叫しながら暴れるがジャイアントトードは拘束を解いてくれる様子はない。

 

 これで俺の異世界生活も終わりか。そういやさっきスキル『両手剣』を発動してればもう少しましに戦えてたかもしれないな。実戦慣れしてないとこんなもんか。それにしても短かったなぁ第2の生。チートがあればなんとかなると思っていたがそんなに世の中甘くなかった。

 

「あきらめよう」

 

 俺がどんどん飲み込まれていきながら無表情でそんなことを口にした瞬間。

 

「ライトニング!! 」

 

 突然、清く澄んだかわいらしい少女の声が平原にこだました。それと同時に俺を飲み込んでいたジャイアントトードが横っ腹に電撃を受けて木っ端みじんになり俺は命の危機から解放される。

 

 次いで。

 

「ファイヤーボール!! 」

 

 またもや少女の声とともに、今度は残りの二匹のジャイアントトードに火の玉が命中。焼き尽くした。

 

 俺はジャイアントトードの死体から這い出て周りを見渡すと、一人の少女が目に留まった。

 

 ただの少女ではない。黒髪赤目で、黒いマントに黒い上着、ピンクのスカート、スラリと整った体型をしており、発育も良い、とにかくかわいい美少女だった。

 

「君は……? 」

 

「そ、その、大丈夫でしたか? 」

 

 見た目だけではなく反則クラスにかわいい声をしたその美少女は俺に語り掛けてきた。

 

「だ、大丈夫です」

 

「そ、そうですか良かった……。そ、それでは!! 」

 

 顔を赤くした美少女はそう言って俺に背中を向けると街の方へと走り去っていった。

 

「待ってくれ!! 君の名前は!? まだありがとうも言ってない!! 」

 

 そんな言葉を叫んでみたが、俺を救ってくれた女神の如き美少女は立ち止まることはなかった。

 


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