【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
「さすがに木っ端みじんにはできなかったけどビームを発射してた複眼もぶっ壊れたし足もないからもう動かないだろ。お疲れ様、リョウタ、ゆんゆん」
カズマが俺とゆんゆんに駆け寄ってきた。背中には行動不能になっためぐみんを背負っている。
「ありがとうございます、カズマさん。めぐみん……すごかったわよ」
ゆんゆんが若干恥ずかしそうにめぐみんを褒める。
するとめぐみんは意外な返答をしてきた。
「いえ、さすがにリッチーのウィズに威力で負けてしまいました。悔しいです……」
そうだったのか。
「でもデストロイヤーをぶっ壊して行動不能にしたんだ。大金星だねめぐみん」
俺はめぐみんに笑いかけた。彼女は「むう」と唸り微妙そうな表情のままだった。
「さてと、おーいダクネス!! 終わりだ。こっち来いよ」
カズマがダクネスに声をかけながら近づいていく。俺とゆんゆんもそれについて行った。するとダクネスは。
「まだだ、まだ終わっていないぞカズマ」
ダクネスが不吉なことを言った。
「やめてくれよダクネス。なんか起こったらどうするんだ」
「何かが起こる予感がするんだ。私の危険をかぎつける嗅覚がまだ香ばしい危険を感知している」
俺の言葉にそう返答するダクネス。
マジで止めてくれよ……。デストロイヤーの中からなんか出てきたりとかしそうじゃないか。こうロボットアニメ的な感じで。
俺がそのようなことを考えていると。
『被害甚大につき自爆装置を作動させます。乗組員は直ちに避難してください。タイムリミットまで残り30分』
そのような信じたくないアナウンスがデスロイヤーから流れ出たのが聞こえた。
「「なにー!? 」」
俺とカズマは驚愕で叫んだ。
もともと対魔王軍用の兵器なのだから冷静に考えれば機密保持のためにそのような機能が取り付けられていてもおかしくない。
「え自爆装置ですか!? 」
「なんという。デストロイヤー作った人はわかっていますね」
「確かにロマンがあると言えばある気がするが現状褒められたもんじゃないぞ最悪だ!! 」
俺はめぐみんにツッコミを入れる。
「ダクネス避難するぞ!! 手に負えないだろこれはもう」
「カズマ。それはできない。領民より先に騎士が避難するなどできる物か」
「まだいうか!! 」
「それに街を吹き飛ばすほどの爆弾にさらされていると思うとどうだ……。私は辛抱たまらんぞ!! いってくりゅぅぅ!! ひぃぃぃぃぃっ!!!! 」
カズマとダクネスのやり取りは最終的にデストロイヤーに突撃していく際のダクネスの奇声で締めくくられた。
「ねぇダクネス行っちゃったけどどうするのよカズマ!? 」
アクアとウィズさんがこちらに近づいてきた。
「みなさん。制御装置を見つければ自爆を止められるかもしれません」
ウィズさんが提案をする。しかし爆裂魔法を放った後なのにぴんぴんしているというのはすさまじい魔力量だな。
……逃げても逃げ切れるか分からない爆発。ならば爆発しないように止めたほうが最善か。ダクネスも行ってしまったから1人にするわけにもいかないし。彼女は仲間だ。
「仕方ない、行くぞみんな、中から止める!! 」
俺と同じように考えたのだろう。カズマがそう叫ぶ。すると。
「俺たちも協力するぜ。ダクネスさんが行っちまったしな!! 」
「爆発する前に中から止めようって魂胆だろ? 付き合うぜ!! 」
「この街を消し去られてたまるかってんだ!! 」
「ここでこの街に恩返ししなきゃな!! 」
他の冒険者たちは逃げるという選択肢はなかったようだ。サキュバスの店の存在が彼らに火を灯し続けている。それにダクネスが単身突撃したのも効果があったのだろう。キャベツの時と言い見た目が高貴だから(実際高貴な身分かもしれないが)人々を掻き立てる効果は高いなダクネスは。
「仕方ねぇなー!!!! 行くぞみんな!!!! 」
めぐみんを側の岩塊にもたれかけさせたカズマの一声に。
『おー!!!!!!!!』
多数の冒険者の声が重なった。
そして多くの冒険者がアーチャーの放ったかぎづめ付きロープを使ってデストロイヤーを上り始めた中で、我らがアクア様はというと。
「ねぇこの分だと私行かなくてもいいと思うんですけど。帰って明日から頑張りましょうよ」
「……何言ってんだ。行くぞ駄女神!! 」
「い、いやぁぁぁ!!!! 」
手を引っ張ったカズマに強制的に連れていかれた。
「私たちも行きましょうリョウタさん!! 」
「ああ!! 」
こうして俺とゆんゆんもデストロイヤー内部に突撃した。
デストロイヤーの甲板の上では大量のゴーレムが待ち構えていた。冒険者たちはそのせいで内部に入るのに手こずっている。
そんなゴーレムの集団相手に無双している奴が1人いた。ミツルギだ。
ミツルギは倍近い背丈のあるゴーレムの持ったメイスの一撃を巧みに躱し魔剣グラムを叩き込みゴーレムを粉砕する。
「なんだミツルギ。あんなに強かったのか」
「そりゃ神器を持った勇者だもの」
アクアがさらっとそばで呟く。
「あんたも似たようなものよ神殺し」
「自分の倫理観が中心だと思い込んでるやつと一緒にされるのはなんだか癪だが、神殺しの剣を振り回してるときは傍から見ればあんな感じなんだろうな……」
そんなことを言いながら。俺も神殺しの剣を引き抜いた。ルーンナイトとしてのパワーを発揮してゴーレムを破壊するためだったのだが。
「どういうことだ……」
「どうしたのよ? 」
「神殺しの剣が起動してる……」
「あら、じゃあこの気配は気のせいじゃなかったのね。このデストロイヤーの中に悪魔臭がするのよ」
「……警戒していこうみんな!! デストロイヤーの中に悪魔がいるかもしれない!! 俺が先行する!! 」
俺はできるだけ周囲に聞こえるようにそう言う。
「私も行くわ!! 昨日悪魔を取り逃がしたことが残念で仕方なかったんですもの!! この雪辱をここで晴らしてやるわ!! ということでゴーレムを何とかして神殺し」
「任せて!! 行くよゆんゆん!! 」
「はい!! 」
俺はゆんゆんとともにゴーレムの集団との戦列に加わった。ゆんゆんがブレードオブウインドでゴーレムを切り裂いていく。俺はというと神殺しの剣のパワーとルーンナイトのパワーを両方発揮してゴーレムを無理やり割り裂いていく。ゴーレムの装甲と神殺しの剣がぶつかるたびに大きな音を立てる。
神殺しの剣の起動状態的に考えて敵の悪魔の強さはざっとベルディアくらいだろうか? ディナイアルブラスターは撃てるな。
「すげぇ!! 」
「ミツルギさんとあの2人に続けー!!!! 」
俺たちの活躍にあてられた冒険者たちが活気づき、どんどんゴーレムが駆逐されていく。どうやらアクアが支援魔法を片っ端からかけまくっているのもあるだろう。
「俺もやるぜ!! スティール!! 」
カズマがゴーレムのパーツを一撃で抜き取り機能停止させる。
しかし。
「あぎゃっ!? 」
スティールしたパーツが重量のある物だったせいで重力に従い降下。カズマの右手がパーツの下敷きになり甲板に挟まれ苦しんだ。
「大丈夫かカズマ!? 」
俺はカズマの手の上にのしかかっていたパーツを蹴り飛ばす。
「助かったよリョウタ。痛てぇなぁ……。ヒールと」
カズマがヒールを使う。するとアクアが突然泣き出した。
「うわぁぁぁん。私の存在意義をカズマが奪ったぁぁぁ!!!! 」
「あ。アクアの前で使っちまった」
カズマはアクアにひた隠しにしているのを痛みでついつい忘れてしまいヒールを使ってしまったようだ。
「カズマのバカぁぁぁ!!!! 」
カズマをポカポカ殴り始めたアクア。かわいらしいが今はそんなことをしてる場合じゃないだろう……。
俺は2人を無視してゴーレムを狩り続けた。
そして約1分後ゴーレムを全滅させた。俺とミツルギはディナイアルブラスターとルーンオブセイバーを、爆裂魔法によってすでに壊れかけていたハッチに叩き込み突入口を作る。
「道ができたぞー!! お前ら行くぜぇぇぇ!! 」
「ぶっ壊せぇぇぇ!!!! 」
冒険者たちがそこからなだれ込む。先頭にはめぐみんとダクネスを除いた俺のパーティメンバーとウィズさんにミツルギがいる。
『被害甚大につき自爆装置を作動させます。乗組員は直ちに避難してください。タイムリミットまで残り20分』
「驚いたよカガミリョウタ。君がベルディアを倒したと聞いていたがまさかこれほどの強さを持っていたとはね!! 」
「自慢じゃないがあの時よりも格段に強くなってるよ。それにしてもミツルギもあんなに強かったんだな」
「当然だよ。僕は強くなければならないんだ。女神様に選ばれた勇者だからね」
「お前人の話を聞かないところがあるのと、アクアについて勘違いしているのを除けば基本的にいいやつだよな」
「褒められてるのかな? 」
「一応」
状況が状況のためか過去のことを気にせずにやり取りが可能だったミツルギと話をしながらデストロイヤーの内部を駆け抜けていく。何らかの機器と思しき部分は走りながら壁に神殺しの剣を突き立てぶっ壊していく。ほかの冒険者たちは各々の判断でデストロイヤーの制御室を探して内部に散らばっていった。
俺たちもしばらくの間デストロイヤー内部を右往左往していると。
「魔力の流れからして制御室はこの近くだと思います!! 」
ウィズさんがそう進言する。
「よし案内してくれウィズ」
「わかりましたカズマさん!! 」
俺たちの先頭に立つウィズさん。
「制御室……!! 人がいるんでしょうか? 」
「どうなんだろうねゆんゆん」
やがて俺たちのパーティーとウィズさんとミツルギは制御室が先にあると思わしき巨大な隔壁に封鎖された場所に到着した。
「開き方がわからないなこれ」
俺はぱっと見でコンソールや鍵穴と言ったものが無かったためそう判断した。
「破壊しようぜ、リョウタ頼むわ」
「わかった、ミツルギも協力してくれ」
「ああ、わかっているよ」
「ディナイアルブラスター!! 」「ルーンオブセイバー!! 」
俺たちが各々の剣からビームを発射し隔壁を溶解させていると。
「うん? なんだこれ」
カズマが何かを足元で拾う。
「日記かしら」
「読んでみませんか? まだ時間もありますし。もしかしたらデストロイヤー自爆停止のカギがあるかもしれません」
アクアとウィズがそれを覗き込む。
カズマは日記を開く。横目で見ている分だとこのデストロイヤーの開発者の日記のようだ。
「ちょっと待ってね読んであげるわ」
アクアがカズマから日記を受け取るとその中身を読み始める。
「ありがとうございます女神様」
「なんのなんの」
「それでなんてあるんだそれには? 」
俺は作業に集中しつつも耳を傾けた。
それにしてもディナイアルブラスターとルーンオブセイバーを喰らい続けても簡単にぶち抜けないほど頑丈な隔壁とは恐ろしいな。外のハッチも爆裂魔法の余波を喰らってなければこれくらい時間がかかったかもしれない。
アクアが日記を読み始める。それは動力源がコロナタイトという石で起動しているという情報の他、低予算でデストロイヤーを作らされたことへの愚痴、そして焦りと苦悩が綴ってあり、最終的にはデストロイヤーがそのせいで暴走したこととその結果国が滅んだことにスカッとしたと記述があった。その記述がなんとも腹の立つもので「あ、国滅んだ、滅んじまった。やっべー!!!! でもすっきりした。これ作った奴バカだろう(笑)。おっとこれ作ったの俺でした」だった。
『なめんなー!!!!』
俺たちはデストロイヤーの開発者に怒りの叫びをあげる。
それにしても隔壁が破れない。
「くっ!! 頑丈だねこの隔壁は……」
「俺に任せてくれ……」
俺はミツルギにルーンオブセイバーの照射をやめるように言うと、錬金術を隔壁に触れて発動。人が通過できるサイズの穴を錬成して作り出した。
「最初からこうすればよかった」
神殺しの剣が目立ちすぎて錬金術は地味なんだよな。時々存在を忘れることがある。要所要所で使わないともったいないな。
「君は2つも特殊な力を与えられたのかい? 」
「まぁね」
驚くミツルギと会話しているとアクアが鼻をひくひくさせながら。
「なにかしら、いきなり悪魔臭が強くなったわね……!! 」
忌々しげにつぶやいた。
俺たちはアクアの言葉に気を引き締めながら制御室と思わしき部屋に突入する。縦にも横にもそれなりの広さを誇るその部屋に……男がいた。足を組んで玉座と思わしきものに腰かけている。その近くには白骨死体が転がっていた。
玉座に座っている男は黒髪。虹彩に金の輪が一つ輝く黒い目。白い軍服のような衣装に漆黒のマントという目立つ姿だ。
「よく来たな。破壊の因果を強く宿しているにもかかわらず……言うことをなかなか聞かないこの要塞を破壊するとは。素晴らしい破壊だ。まぁせっかく力を完全に取り戻すまで引きこもろうと思っていた我の居城を破壊したことは頭にくるがな」
男は不敵な笑みを浮かべて俺たちを称賛しつつ、不満を述べた。
「あなたはデストロイヤーの開発者ですか!? 」
ミツルギが剣を構え男を問いただす。
男は短く笑うと、立ち上がってマントをひるがえすと。
「否。我の名は破壊神デストラクター!!!! 我は破壊をつかさどるもの。破壊を導くもの。そして、破壊そのもの!!!! 」
大声で名乗りを上げた。
その瞬間に肌で感じることができるほどの魔力の波が俺たちに押し寄せてきた。
破壊神デストラクター。俺の倒すべき相手。こいつは神格を持った悪魔みたいなものだと言っていたからアクアが悪魔臭を感じたのだろう。問題はなんでこんなところに居るかだ。
本物か?
『被害甚大につき自爆装置を作動させます。乗組員は直ちに避難してください。タイムリミットまで残り15分』
「アクア本物なのかこいつは? 」
「ええ神殺し、こいつは正真正銘破壊神よ。紅魔族を依り代にして無いみたいだけれど間違いないわ!! 」
「ふざけんなよアクア!! 魔王と同じでラスボス級の相手だろ!! そんなのがデストロイヤーの中にいるとか。理不尽なゲームにあるやたら強い裏ボスじゃねぇか……!! 」
「私に当たらないでよ!! 」
俺とアクア、カズマがそんなやり取りをしていると。
「感謝しているぞ水の女神。お前のところの信者たちが我を封じていた要石に『異教の神は滅すべし!! まして悪魔もどきならなおさらだ!! 』など言ってブレイクスペルとエクソシズムをかけてくれたおかげで残機こそ1つになってしまったがそのタイミングで封印から逃れることができたからな」
破壊神が爆弾発言をした。アクシズ教徒ってのは本当にろくなのがいないみたいだな!!
「「アクアー!! 」」
「私に当たらないでってば!! 」
アクアが涙目になる。
すると。
「っ、リョウタさん……」
ゆんゆんが突然俺に寄りかかってきた。その体はとても震えている。まるで要石の一件の時のように。
「大丈夫かゆんゆん!? 」
ゆんゆんの顔を覗き込む。顔は真っ青で、そしてその紅い両目には金の輪が点滅していた。
「はっ!! セイクリッドエクソシズム!! 」
アクアが思い立ったかのようにいきなり技の名を叫ぶとゆんゆんに光線を撃ち込んだ。ゆんゆんは特にリアクションは無く光線を身にまとった。
「何をするんだお前!! 」
俺は悪魔にしか効果のない魔法と知りながらもアクアを睨みつけた。
「そうだぞ、何考えてんだ駄女神!!!! ゆんゆんは仲間だぞ!! 撃つんだったらあいつに撃てよ!!!! 」
カズマも破壊神を指さしながらアクアに怒声を浴びせる。
「違うわよ!! 聞いて、今あいつがゆんゆんの身体を乗っ取ろうとしたのよ。だからそれを阻止するためにゆんゆんに魔法を浴びせたの!! 」
「その通りだ。ちっ!! 忌々しい水の女神だ……。我のせっかく相まみえた真の依り代の紅魔族。それも潜在魔力がかなり高い優秀な個体への乗り移りを邪魔してくれるとは。効果が持続しているうちはしばらく乗っ取れんか。……だが因子は埋め込んだ」
「アクアさんありがとうございます」
ゆんゆんはやや血色の良くなった顔でアクアに礼を言うと。もたれかかっていた俺から離れる。そして少し頬を染めた顔で。
「リョウタさんもすいません。急にもたれかかって」
そう言って笑顔を見せた。
「いやいいんだ。アクア、睨んでごめん」
「いいわよ。それよりあいつを滅ぼすわよ神殺し!! 」
「わかった!! 」
「僕もお供しますよ女神様!! 奴からは邪悪な気配を感じますからね!! 」
「ありがとう、マツルギさん……あ、ごめんね。名前違うわよね。えっと魔剣の人」
「は、はい」
名前を憶えられておらず気を落とすミツルギ。お気の毒に。
「ちょっと待てお前ら!! 破壊神も!! 今は争ってる場合じゃないだろう!! デストロイヤーが自爆すればみんなただじゃすまないだろ……!! 」
カズマが殺気立つ全員に言い聞かせるように声を上がるが。
「言っておくぞ。まず我は魂だけでこの世界にとどまることができる。爆裂魔法でもない限りは我の残った1つの残機を消し去ることなどできん。ここでこの不完全な身体が破壊されようとも問題ないのだよ」
「ちくしょう話が通じない奴だった」
カズマが嘆く
しかし俺たち諸共ここでデストロイヤーの自爆に巻き込まれても構わないとは。なんて嫌な奴なんだ。
「破壊の神様なんてのはねぇこの世に必要ないのよ!!!! 」
アクアが先端の花を展開させた状態の杖を前面に突き出し破壊神に突撃した。その速度はステータスの高さ故にとても速い。
「僕も続きます女神様!! 」
ミツルギもその後を追い、魔剣グラムを振りかぶった。
「俺も続く!! カズマとウィズさんは自爆システムの解除に急いでくれ!! 」
「っ、ああ……!! でもどうやってやればいいんだ……」
「カズマさん、自爆装置は魔力の流れから考えて動力源のコロナタイトと直結していると思います!! それを何とかすれば……!! 」
「わかった!! 動力源の方は俺たちに任せろ!! 」
「行かせん……!! 」
破壊神が動力部と思われる方向に走っていくカズマとウィズさんに向けて何らかの遠距離魔法を発射しようと手のひらに赤橙色の魔力をためる。そしてそれを発射した。それは球体状の魔力弾だった。
俺は魔力弾の方向に走りそして切り落とす。思った以上に高威力だったようで真っ二つになった魔力弾の爆発に巻き込まれ俺は少しやけどする。
「動力部の方に行ってしまったか。仕方がない、まずはお前たちと遊んでやるとしよう」
カズマとウィズさんが見えなくなりそうこぼした破壊神。
こいつは危険だ。ここで滅ぼさないといけない。ここで滅ぼして与えられた使命を完遂する。幸い強さはベルディアと変わらないというある意味拍子抜けなものだ。今のレベルアップした俺ならば、そしてゆんゆんにアクアとミツルギもいるのなら何とかなる。
「ゴッドレクイエム!!!! 」
「当たらんわ!! 」
破壊神は今までマントだった物を一対の蝙蝠のような翼に変形させて玉座の前から飛び上がり、突き出されたアクアの杖の一撃を回避する。
「飛ぶだなんて生意気よ!! 」
「弱いものほどうるさく吠えまわる。さすがは水の女神様だな」
「なんですって!!!? 」
アクアを煽る破壊神。
「女神様を侮辱するなぁぁぁ!!!! 」
ミツルギがルーンオブセイバーを射出する。それを破壊神は上空でうまく身をひるがえし回避する。
「ディナイアルブラスター!! 」
俺はディナイアルブラスターを身をひるがえしたせいで回避行動が難しいと思われる破壊神に向けてまっすぐ照射する。
それを破壊神は赤橙色の魔方陣を展開して防いだ。
「なるほど、神殺しの剣か。その力、相応の魔力を流さねば相殺できんか。それにその攻撃を喰らうと他の身体に乗り移る前に魂が殺される……お前は危険だな」
上空から俺を見下しながらそうつぶやく破壊神。
「この仮の身体を破壊してでもお前を破壊する必要がありそうだな……」
「仮の身体? 」
俺はディナイアルブラスターの第2射を発射しながら疑問を投げかける。この破壊神、結構よくしゃべるほうなので答えてくれそうだからだ。
「今の我の身体は紅魔族の代わりに高い魔力を有していた貴様と同郷の物の身体を使っている。我が魂と力のみ……いわゆるゴーストの状態でアルカンレティアを漂っていた際にいち早く我の存在に気づき挑んできた勇敢な愚か者の末路だ」
破壊神は見事な飛行でディナイアルブラスターを回避しつつ、不敵な笑みを浮かべてやっぱり答えてくれた。
「見たことのある顔をしてると思ったわ破壊神!! あんた確かワタナベさんだったかしら……。魔力上昇の能力をあげた日本人の身体を使ってるわね!!!! 」
アクアが空を飛ぶ破壊神を忌々しげに見ながらそう言うアクア。
「本当なんですか女神様!? だとしたら助けないと……」
「無駄だぞ魔剣使い。とっくにこいつの魂は取り込んである。それも完全にな!! 」
「破壊神の言う通りよ!! どうやら綺麗に融合されてるみたいね……。助けられないわ」
かわいそうにワタナベさん。
今度はディナイアルセイバーを振り回す。破壊神はそれを空中でステップを踏んで回避すると反撃に先ほどカズマとウィズさんに撃った魔力弾を片手から連射してきた。
俺たちに迫ってくる魔力弾を。
「ライトオブセイバー!!!! 」
射線に飛び込んだゆんゆんがライトオブセイバーの一閃で薙ぎ払った。ライトオブセイバーに激突した魔力弾は爆発して周囲を衝撃で揺らす。
「我のボディ候補よ。できればお前には戦いに参加してほしくないのだがなぁ。こいつらを破壊した後乗っ取らせてもらう予定だ。因子を埋め込み傀儡化した紅魔族は全員我が眷族どもに依り代かその手駒として割いているからな」
「ボディにされるなんてまっぴらごめんよ!! 」
「そうだ!!!! ゆんゆんの魂をお前に塗りつぶさせてなるものか!!!! 」
俺はゆんゆんに手を出されることに激しい怒りと不快感を感じ、それを吐き出すかのようにファイヤーボールを破壊神に撃ち込んだ。ファイヤーボールをよけるまでもないと言った顔で手刀で一閃した破壊神。
「紅魔族の魂は手が加えられていてな。我が完全に取り込むことが叶わぬから共存という形になる。まぁ傀儡化された時点で基本的には魂は壊れ精神が崩壊するから主導権は我にあるわけだが。……それでもともにすべてを破壊する様を楽しむことができるぞ。どうだ紅魔族の少女よ? 」
「絶対にお断りよ!! 」
「だと思ったよ」
にやけながら返答する破壊神は急降下してまずアクアに回し蹴りを叩き込んだ。吹っ飛ばされて後方の壁に激突するアクア。
「がはっ!? 」
「女神様!! 」「アクア!! 」「アクアさん!? 」
アクアは気絶した様子だった。
よくもやってくれたな……!!
「はっ!! 」
短く破壊神は笑うと、着地と同時に次に両掌に魔力を集め、そこから赤橙色のレーザーを放ち俺とミツルギに向けて振り回してきた。
「ちっ」「くっ!! 」
俺とミツルギはともに自分の得物でガードする。
「私は狙われてない……なら!! 」
ゆんゆんがライトニングを破壊神に向けて放つ。ライトニングはまっすぐ破壊神に突き進み命中するが特にダメージを与えられた様子はない。
破壊神はレーザーの照射をやめると、翼を使って急加速。地面を滑空しながら俺に回し蹴りを放ってきた。
俺は蹴りがアクアを後方の壁に激突させるほど威力を持っていたことを前提に考えて、魔方陣状のバリアを展開する魔法。ガーターを左手から発動し回し蹴りを受け止めると。
「ゼロ距離発射!! 」
ディナイアルブラスターを発射した。しかし破壊神はその身をフィギュアスケート選手のごとく滑らかにのけぞらせこれを回避する。
「ふん!! 」
そして俺に足払いを食らわせ、バランスを崩させた。
「死ぬがいい、神殺し!! 」
魔力弾を握った手をまるで掌打の如く打ち込んでくる。それよりも早く俺は神殺しの剣を不安定な姿勢で繰り出し破壊神を後退させる。それとほぼ同時に俺は地面に転げた。
「フォローする!! 」
ミツルギが完全にバランスを崩した俺に追撃が加えられないように近接戦を破壊神に挑むがそれを高速で空中に移動して相手にしない破壊神。
「助かったミツルギ!! 」
俺はミツルギに礼を言いながら立ち上がるとバーニングスラッシャーを発動。炎の斬撃波を破壊神に放つ。
「ルーンオブセイバー!! 」
ミツルギもルーンオブセイバーを発動し空中の破壊神に攻撃する。
さらに。
「これならどう!? インフェルノ!!!! 」
ゆんゆんが巨大な炎を中空に放射する。それは閉所において回避することが不可能なほどの範囲だった。
「無駄、無駄、無駄ァ!! 」
しかしそれらを赤橙色の魔方陣で防ぐ。さっきからあの赤橙色と言い、あの魔方陣の形と言い、見覚えがあるのだが……。
「あれって爆裂魔法の魔法陣なんじゃ!? 」
「爆裂魔法だって!? 」
「ゆんゆんもそう思ったか!! 」
そう言えば破壊神は爆裂魔法を操ると聞いた。まだ使ってこないのは閉所で使うと瓦礫に自分も潰されるからなのか、あるいは手を抜いているのかのどっちかだ。
「警戒しよう、あいつまだ本気じゃないかもしれない……!! 」
「わかりました!! 」「わかったよ!! 」
「ふっ!! その通りだ。我はまだ本気を出していない。まだまだ余力はあるぞ貴様ら」
そう言って高笑いを始めた破壊神。そんな彼だったが。
「ゴッドスロー!!!!!!!! 」
突然アクアの声がしたと思ったら、アクアの杖が破壊神の腹に激突した。
「なに!? 」
破壊神はそう言い残して先ほどのアクアのように吹っ飛び壁に叩きつけられた。
「プークスクス!! お返しよ!!!! 」
アクアはいたずらに成功した子供のような笑みを浮かべて。
「気絶したふりをしていたのよ。チャンスをうかがってて正解だったわ。破壊神もこの私の迫真の演技には気づけなかったようね。ざまぁみなさい!! 」
破壊神が床に落下した。
それから仰向けでしばらく動かない破壊神。
「まさか今ので終わり? 」
ゆんゆんが警戒しつつそう言う。
すると。
「くっくっくっ……フフフッ……ハハハ……ハーッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!! 」
哄笑しながら破壊神はゆっくりと立ち上がった。のけぞらせた上体を正しい姿勢に戻していく。
映像が逆再生されるかの如く、仰向けの状態からぬるりと立ち上がっていくその様があまりに不気味だったため全員が攻撃することも忘れて身構えてしまった。
そして。
「破壊の力を開放する!! 」
破壊神がその一言を言い終えた瞬間。彼の身体からすさまじい衝撃波が巻き起こった。
ガーターは本作オリジナルの魔法です。公式ではありません。
なお、21話のあとがきで、基本的に要石は正規の手順を踏まない限り中身の破壊神が復活することはないと書きました。ですが、それでも復活できてしまっているのは、アクシズ教徒たちがエクソシズムでダメージを与えるうえで、ブレイクスペルで要石の封印機能を先に低下させたため、破壊神が何とか要石から抜け出したからです。