【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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035 とてつもない体験

 オーガとの戦いは、俺とゆんゆんの参戦により完全に状況がひっくり返り、俺たちの勝利で終わろうとしていた。

 

「お前が最後のオーガだ。死ね!!!! 」

 

 最後の1匹と言うのもあり、俺は冒険者から集中攻撃を受けて弱ったオーガにルーンオブセイバーを食らわせて消し去った。

 

『うおぉぉぉぉぉぉ!!!! 』

 

 冒険者たちが勝利からくる歓喜の声を上げる。

 

「やったぜ!! 」

 

「けが人こそ出たがオーガ相手に、しかも25匹も相手にして死人が出てないぜ!!!? 」

 

「夢みたいだわ!! 」

 

 勝利の雄たけびを上げた後、今回の戦いの結果についての感想を口にしていく冒険者たち。

 

「リョウタさぁぁぁん!!!! 」

 

 ゆんゆんは、俺の方に駆け寄ると、思いっきり抱きしめてきた。

 

 ゆんゆんが、俺を、抱きしめた?

 

 突然の嬉しい出来事に頭が回らず混乱していると、俺から離れたゆんゆんが。

 

「リョウタさんが死ななくてよかったよぉ……」

 

 涙ぐみながら俺の手を握った。

 

「大丈夫。血が少ないせいで多少疲労感とかふらつきはあるけど生きてるよ」

 

 そっか、さっきは死にかけてたんだな俺。死にかけになってたせいでアドレナリンが出まくってたからか逆に死を全然意識できていなかったが、ゆんゆんの抱擁と包み込んでくれる手の温かさで今更死への恐怖を感じ少し背筋が凍る。

 

「やっぱり調子が悪い時は戦っちゃダメですね!! 気をつけましょう」

 

「はい」

 

 気を抜いていたわけではないが、遠因に先ほどの自分の在り方への悩みが無いとは言い切れないのでここは素直にゆんゆんの言うことを受け入れることにした。

 

 

 

 

 それから俺とゆんゆんは冒険者や馬車の御者たち、一般客から口々にお礼を言われ、もてはやされた。だいぶギルドでの経験もあって慣れてきたものの、俺とゆんゆんはその間、終始おろおろしていた。ゆんゆんはかわいいとして自分については毎度毎度無様だと思う。

 

 そして一通り洗礼が終わった後は、俺とゆんゆんは元の馬車に戻った。ただし、俺の隣にはクリスがいる。

 

「クリスが的確な指示を出してくれたおかげで助かったよ。ありがとう」

 

 俺は先ほど死にかけた際に、クリスが止血と言う的確な対応策を示してくれたことに感謝の意を伝える。

 

「私からも言わせてください。ありがとうございます」

 

 ゆんゆんは頭を下げた。

 

「いいよいいよ。それに実際に何とかしたのはリョウタ自身とプリーストさんだしね」

 

 クリスが笑う。

 

「それにしても君たち2人はいったいどうしてこの馬車に? カルタットの街に用事があるの? 」

 

「いや、その道中にあるリップルに用事があるんだ」

 

「……リップルにってまさか!? 」

 

 驚愕の表情を浮かべるクリス。

 

「あれ? もしかしてクリスさんもあのマントを? 」

 

「いや、そうなんだけどさ。二人もあのマントが欲しいんだね」

 

 頬の傷をかくクリス。

 

「うん。そういうこと」

 

「そっかー」

 

「じゃあ俺たちとクリスは、クエストの報酬をめぐるライバルになるってことか? 」

 

「……いやそう言うわけじゃない……かな? 」

 

 神妙な面持ちになるクリスはしばらく黙り込んだ。

 

 俺とゆんゆんがどうしたのだろうと顔を見合わせていると。

 

「2人はさ、何であれが欲しいの? 」

 

 真剣な顔でクリスが俺たちに問いかけてきた。

 

 まだ言葉の真意がくみ取れない。先ほど競い合う相手ではないと言ったのに、なぜそんなにも真剣な顔をして訪ねてくるのか理由がわからない。

 

「あれはグウェンっていう神器の1つなんだ」

 

 おもむろに口を開くクリス。

 

「神器なのか!? 」

 

「やっぱり……」

 

 なぜそんなことをクリスが知っているのか?

 

「あの神器は身に着けた者に高い魔法防御力と飛行能力を与え、生地自体は高い魔法と、物理への防御力を誇る。そして本来の持ち主には透明になることもできる力までくれるものだよ」

 

「透明になれるというのは知らなかったな」

 

「そうですね……」

 

「いったいどこでそんな情報を? 」

 

 俺がクリスに何気なく問いかけるがクリスはいたって真剣な表情のままで、俺も表情が思わず引き締められる。

 

「あたしはね、リョウタ、ゆんゆん。女神エリスから神託を受けて持ち主を失った神器を回収してるんだ。このキャラバンにいるのもグウェンを回収するためなんだ」

 

 ……今なんて?

 

 俺とゆんゆんは面食らった顔で固まる。

 

「2人ともそんなに驚かなくても。神託を受けてるのはリョウタ1人だけじゃないってことだよ」

 

 微笑むクリス。なんだかどこかで見たことのあるような微笑み顔だな……。

 

「その、疑うわけじゃないんだが本当なのかそれ? 」

 

 正直、信じていいのかどうかわからない。突拍子もなさ過ぎて。

 

 そんな俺に、頭をかきながらクリスは。

 

「まぁ信じづらいのはわかるようん。でも、リョウタが天界からの神託を受けてることをあたしが知ってるのは不自然でしょ? ちなみに破壊神の件はエリス様から教えてもらったんだ。……そう考えるとどうかな? 」

 

 その言葉を聞いたゆんゆんは頬に手を当てながら少し考えた後。

 

「確かにそのことを指摘されると、信じれますね。リョウタさんが使命のことを話してるのはパーティーメンバーだけですし、エリス様が神託をしているのも事実ですから」

 

 そう結論付けた。ゆんゆんがそう言うなら俺も信じよう。疑う要素が無いし。それにしても、ゆんゆんがナチュラルに俺が神託を受けていることを疑いもなく信用してくれているのはうれしい限りだ。

 

「……なら信じられるな」

 

「信じてくれてありがとう」

 

 ニコッと笑うクリス。その仕草が何だかエリス様を思わせて少し驚かされる。

 

「それで、2人はなんでグウェンが欲しいの? 」

 

「え、えーと、その、強くなるためです」

 

 ゆんゆんがしりすぼみな語調でクリスの問いかけに返答する。邪道にも思う人がいる方法で強くなろうとしているのに気が引けているのだろう。俺は全然いいと思うが。

 

「強くなるため? 」

 

「私、昨日のデストロイヤー戦での破壊神討伐時にリョウタさんについていけなかったんです。まだ破壊神との戦いは終わってませんしパートナーとしてこのままじゃだめだと思って、少々邪道ですけど強くなれる方法であるあのマントが……グウェンが欲しいんです」

 

 ゆんゆんの答えを聞いたクリスはしばし沈黙し。

 

「なるほどねー。そう言うことならあたしはゆんゆんがグウェンを持つことに賛成かな。グウェンは回収しないでおくよ」

 

「え、いいんですか? 神託は? 」

 

「神器が悪用されることが無いように回収するのが私の役目であって……悪用とかされないのなら話は変わってくるよ。何より破壊神討伐のためだしね。……あと、あたしにもクエスト手伝わせてよ、このまま同じくリップルに行くんだし悪魔が人々を苦しめてるのを見過ごすわけにはいかないからさ」

 

「クリスさん……」

 

 クリスの発言から感じ取れる彼女の心の美しさからか思わず息をのんだ様子のゆんゆん。

 

「いいのかいクリス? 」

 

 前線向きではない盗賊職にとってはかなり危険だと思うのだが、正直戦力は多い方がありがたい。

 

「うんいいよ!! 」

 

 満面の笑みで答えるクリス。

 

「「ありがとうございます」」

 

「よろしくお願いするよクリス」

 

「任せてよ!! 」

 

 こうして一時的にクリスがパーティーに加わることになった。

 

 

 

 

 夜になって、キャラバンは進行をやめて夜間休憩をとることになった。

 

 現在キャラバンは休憩用に作ってある人口の洞窟に停泊している。

 

 俺とゆんゆん、それに俺たちと同じく護衛でもないのにオーガとの戦いに参加したクリスは今日のMVPとして担ぎ出され、冒険者たちが、焚火の周囲で開いた宴会の中心となってしまっていた(もちろん酒を飲まず外を見張っている冒険者たちもいる)。

 

「上級魔法を使えるだなんてさすが紅魔族ね!! 」

 

「君がいなけりゃ今頃どうなってたか考えたくもないよ……」

 

「あんなすごい威力なんだな上級魔法って」

 

「オーガの集団を一撃で丸焼きにしちまったのにはしびれたぜ!! 」

 

 ゆんゆんはこんな具合で褒め称えられおろおろしつつどこか嬉しそうだ。

 

 俺の場合は。

 

「オーガと真正面から殴り合うだなんてさすがはルーンナイトだな」

 

「しかもレベル45だろ、とんでもない実力者じゃないか!? 」

 

「その剣イカしてるねぇ!! 」

 

 こんな具合に褒められていた。

 

 ちなみにクリスも、俺たちほど大活躍したわけではないにしろバックアップとしてかなり目立った動きをしていたようで各位から称賛されている。

 

「3人はカルタットについたらどうする予定なんだ? 」

 

「いやカルタットにはいかない。リップルで降りて、街を苦しめてるらしい悪魔と戦う予定なんです」

 

 酒を勧められたので飲んだおかげか、テンションがやや上がり割としゃべれるようになった俺が軽い調子で答える。

 

「リップルかー、あそこはよくキャラバンのの休憩所として立ち寄ることはあるけどマジでなんもないところだぜ兄ちゃんたち。あ、領主がかなりかわいいってくらいだな」

 

「領主のアヤメリスって子はきれいでかわいらしんだけどな。性格もいいらしいんだけど手腕がなにせ悪くてあの街は財政難だぜ……報酬もまともに出ないって噂だしな」

 

「そんな街の救援に行くだなんて立派だなぁ。俺たちもその精神性を見習わねぇとな、同じ冒険者として」

 

 冒険者たちはリップルの評判などを口々に言っていく。

 

 領主の子がかわいいけど手腕がまるでよくないということがよく分かった。

 

「たいふぇんにゃまちみたいでしゅね……」

 

「そうだねって……ゆんゆん? 」

 

 気のせいか、今ろれつが回っていなかった気がするぞ。

 

「大丈夫か、ゆんゆん」

 

「らいじょぶれしゅよ」

 

「大丈夫じゃないな。お酒飲むのはいいけど飲みすぎはよくないよ」

 

 めぐみんがいないから邪魔してくる奴も居ないと言う理由で初めて飲んだようだが、飲みすぎたのだろうか? そう思ったが……。

 

「お、紅魔族のお嬢さんは酒がダメだったのか? 」

 

「え、でもこの子まだ一杯しか飲んでないわよ? 」

 

 マジか。下戸なんだなゆんゆん。そういうところもかわいい。

 

「ふぁぁぁ……。なんだかねむきゅにゃってきましゅた」

 

 船をこぎながら目をこすり、あくびをするゆんゆん。かわいい。

 

 他の男性冒険者たちもそう思ったのか、ゆんゆんのその仕草に息を飲む。

 

 美少女って何しても絵になるんだからずるい。

 

「ゆんゆん、眠いんだったら布団で寝よう、ほら、おいで」

 

 俺がゆんゆんを布団を敷いてあるところまで、手を引いて誘導する。

 

「うぅん、わかったぁ」

 

「あはは、口調が変わっちゃってるね」

 

 クリスがゆんゆんを見て苦笑する。

 

「ほら、ちゃんと布団かぶって、でないと風邪ひくよ」

 

「うん……」

 

 ゆんゆんは布団の上で横になるとそのまま寝ようとしたので俺は掛布団をかけてあげる。

 

「お休みゆんゆん」

 

 そう声をかけ終わるころにはゆんゆんは寝息をたてていた。

 

 俺はその寝顔を見て思わず微笑む。

 

 するとそんな様子を見ていた女性冒険者が。

 

「お2人はカップルなの? 」

 

 そんなことを聞いてきた。

 

「あ、それ私も思った!! 」

 

「やけに仲睦まじいと思ったらカップルなのね」

 

 女性冒険者たちはこの手の話題が好きなのだろう、次々と話に乗っかってきた。

 

 俺は焦りながら。

 

「え!? いや、その、残念ながら違います……」

 

 そう言って肩を落とした。ゆんゆんと恋人かーいいなー。でも冷静に考えると真人間であることを心がけ続けるのが結構大変そうだ。

 

「傍から見てるとそう見えるぜ兄ちゃん」

 

 マジですか。

 

「と言うか『残念ながら』ってことは、君はこの子と恋人になりたいってことなんだね」

 

「……ハイ」

 

『ひゅーひゅー!!!! 』

 

『がんばれ!! 』

 

 クリスを含めた冒険者たちが俺を応援する。キールも言っていた、恋は忍耐だと。がんばろう。

 

 それから俺は、酒で気分が良くなった冒険者たちの冒険話をクリスと一緒に聞きながら楽しみ、見張り番にも自主的に参加。そして現在、寝るために布団に入ろうとしている時間は午前2時だった。

 

 すっかり静まり返った空間に一抹の寂しさを覚えながら横になる。

 

 俺の布団の位置はゆんゆんの隣だ。ゆんゆんの方を見る。かわいらしい寝顔についつい頭を撫でてしまい衝動に駆られる。

 

 まぁ、寝てるし、いっか、なでよう。

 

 俺は無言でゆんゆんの頭を撫でた。

 

 すると……。

 

「リョウタさん? 」

 

 ゆんゆんが目をあけた。

 

「え、起きてたの……!? 」

 

 俺は思わずそんなことを口にする。ゆんゆんはと言うときょとんとした顔をした後、ニヘラと笑い……。

 

 体を寝たままうまく動かして俺の布団の上に乗ると。

 

「リョウタさんぎゅー」

 

 そんなことを言いながら俺に抱き着いてきた。

 

 抱き着いてきた!? ゆんゆんが、俺に、日に2度も!?

 

 いや、回数の問題ではない。なんで抱きしめられているんだ俺。と言うかゆんゆんまだ酔ってるのか?

 

「ふぁぁぁ……あったかい。おやすみなさいリョウタさん」

 

 ふぁぁぁ……やわらかい。おはようございますゆんゆん。

 

 俺は徐々に感じていた眠気が一気に吹き飛び、意識が覚醒する。そして体があらゆる意味でがちがちになった。

 

「これはまずいって……!! おきろゆんゆん!! 」

 

 理性が崩壊する。してしまう。

 

「いやです。このまま寝るんです」

 

 そうぴしゃりと言い放つと、ゆんゆんは俺を強くホールディングし、俺の胸元に顔をうずめた。

 

「ゆ、ゆんゆん? 」

 

「すー、すー」

 

 かわいらしい顔でかわいらしい寝息をたてながら眠るゆんゆん。

 

 なんだろう。アレな気分も治まって穏やかな気持ちになるな、このゆんゆん見てると。

 

 仕方ない。

 

「おやすみゆんゆん」

 

 俺は穏やかな気持ちでそう言って布団を体にかけて目を瞑った。女の子が添い寝してくれるという人生で想像もしなかった体験をしながら。

 

 

 

 

 

 朝。洞窟の中に光が差し込んでくる。

 

 俺はまともに眠れず一晩を過ごした(ゆんゆんよりも早く起きないと大変なことになるため早く起きるように意識していたという理由もある)。心は穏やかだったが、体の方はやっぱり興奮してしまい眠れなかったのだ。アレな気分は結局完全には鳴りは潜めなかった。何と言うかこういう時こそサキュバスサービスが欲しくなる。夢の中ですっきりできる素晴らしいあのサービスが。……まだ体験したことないけど。

 

 そんなことを考えながらゆんゆんのホールドを名残惜しいが体から外すと、布団を出て、さらに洞窟からも出る。そして朝日を浴びて軽くストレッチをしていると。

 

「え? エリス様!? 」

 

 神々しい後光に照らされているエリス様が視界に入った。

 

「え、リョ、リョウタ何言ってるの? あたしはエリス様じゃないよ!? 」

 

 違った。視界に入ったのは俺と同じようにストレッチをしていたクリスだった。後光に思えたのは夜明けの日の光で、エリス様に見えたのはクリスが銀髪で顔立ちもよく似ている美少女だったからだろう。それにしては声まで似ているとは。

 

「クリスか。ごめん、エリス様に似てたからさ」

 

「そ、そっかー」

 

 目を俺から逸らし頬をかくクリス。エリス様ほどの御方と間違えられたのが恥ずかしかったのだろうか?

 

「とにかくおはようクリス。早いんだな」

 

 俺は少し離れた位置にいたクリスに近づき朝の挨拶をする。

 

「おはよう。それと『早いんだな』はこっちのセリフだよ。あたしと同じで自主的に見張り番にも参加して寝るの遅かったのにこんなに早く起きて大丈夫なの? 」

 

「寝付けなかったからさ」

 

「そうなんだ。もしかして枕とかが寝心地悪かった? 」

 

「いや抱き枕は最高だったんだがね」

 

「抱き枕? 」

 

「なんでもない。しかし、朝から同じくストレッチとはなんだか親近感がわくな。同じく神託を受けてる者同士だし」

 

 親近感がわくだなんてセリフを気軽に言えるようになったのは大きな進歩だな。

 

「そ、そうだね」

 

 クリスはなぜかどもりながら返答した。

 

「どうしたんだい? 」

 

「なんでもないよ……」

 

 しっかし、本当にエリス様に似てるなクリスは。短髪だからわかりづらいだけで、顔はもはや瓜二つだ。

 

「なぁクリス、エリス様についてどう思う? 」

 

「藪から棒に何を!? 」

 

「いや、クリスがエリス様に結構似てるからさ、自分に似た御方についてどう思ってるのかと。もしかして似てることに自覚ないか? 」

 

「いや、まぁ髪の色とか一緒だなーって思ってたよ。でも目の色とか、ス、スタイルとか髪の長さは違うでしょ? 」

 

「いや、エリス様は確かな筋からの情報なんだがそのー……パッドを入れてるらしい。だから多分スタイルもスレンダーなクリスに近いんじゃないかな? 」

 

「ん? ナチュラルに喧嘩売ってるのかなリョウタは? 」

 

 ひきつった笑みを浮かべるクリス。

 

「そんなつもりは……」

 

 まずい、怒らせるつもりなんて一切なかったのだが。なんで怒った?

 

 自分の先ほどの言葉を思い返してみる。すると確かに喧嘩を売っているように思えた。

 

「すいませんでした。そんなつもりはなかったんです」

 

「なんであたしがイラっと来たか思い当たられるのもなんだか癪だけどまぁいいよ、許してあげよう」

 

「ありがとう。あと聞きたかったのは人柄とかだったんだが? 」

 

「そ、そう? いやーその、穏やかな感じの神様だよね、うん。逆に聞くけどリョウタはエリス様の人柄をどんな風に思ってるのさ? 」

 

「素晴らしい御方だと思うよ。心優しげで本気でこの世界の人々の行く末を心から考えてる。正直俺はエリス教徒になろうかと検討してるくらいだ」

 

「へぇー。それは、うれしいね。……あ、エリス教徒としてだよ? 」

 

「え、それはわかってるけど。なんかすごくうれしそうだなクリス」

 

 クリスは俺がエリス教徒になることを検討していると言った瞬間、非常に上機嫌な雰囲気になった。少々不自然に感じるほどに。

 

「いや、未来の同志が誕生するかもしれないと知ったら普通嬉しいよ、あははは」

 

「あの、おお、お二人ともおはようございます」

 

 わざとらしく笑うクリスに違和感を抱いていると、突如、ゆんゆんの声が俺たちの間に差し込まれた。

 

 ゆんゆんのその顔は意を決した、と言う感じで、おそらく彼女なりに俺とクリスの会話の間に口出ししていいものかと悩みながらの朝の挨拶だったのだろう。

 

「あの、その、お邪魔でしたか? 邪魔しちゃったんだったら謝ります、ごめんなさい……」

 

 卑屈になるゆんゆん。そんな、気にしなくていいのに。あと、どうでもいいがゆんゆんの平常運転な雰囲気を見るに昨日(正確には今日の深夜)のことは覚えてないようだ。安心だ。

 

「おはようゆんゆん。全然問題ないよ」

 

 優しげな顔を心がけて朝の挨拶を送る。

 

「おはよう。そんなに緊張しながら挨拶しなくてもいいのに。ゆんゆんは慎重派だね」

 

 クリスがそう言って笑う。

 

「だって、お友達同士の会話に割って入ったら、雰囲気を壊してしまってなんだか申し訳ない気もして」

 

「ふーん」

 

 クリスは目を細めてゆんゆんの言葉に相槌をうった後。ゆんゆんに近づくと彼女の耳元で何かをささやいた。

 

 その瞬間ゆんゆんは真っ赤になって。

 

「そ、そんな、盗賊だからってリョウタさんの心を盗んだりはしないって……!!!! 何言ってるんですかクリスさん!? 」

 

 手をぶんぶんさせながらそう言った。

 

「ちょっ!? せっかくリョウタに聞こえないようにささやいたのに言っちゃダメでしょ!? 」

 

 クリスも焦る。

 

 ん? どういうこと? 脈絡なさ過ぎて状況がつかめない。

 

「あのよくわからないんだがなんでそんなに焦ってるんだゆんゆん、クリス? 」

 

「「な、なんでもないです」」

 

 二人は見事にハモった。

 

「しかし、朝早いなゆんゆんも。と言うかあんまり眠れなかったのかい? 」

 

 俺の胸元で眠るのは、寝心地悪くなかっただろうか?

 

「アルコールのおかげでぐっすりと。い、いい夢も見れましたし……」

 

 恥ずかし気に俺の質問に答えるゆんゆん。

 

「どんな夢だったの? 」

 

 クリスが何気なしにゆんゆんに聞くと、ゆんゆんは俺の方を見てはにかんだ後。

 

「内緒です」

 

 照れながら。しかし、嬉しそうに言った。

 

 可愛すぎる!!

 

「リョウタ、変な笑いが出てるよ? 」

 

「な、何でもない、何でもないんだ」

 

 俺は自分ににやけ面を二人に見られたくないがために顔を手で覆って隠した。




 前回オーガの口調が難しかったと言いましたが、クリスも結構難しかったです。

 ところで皆さんは、創作物において、トレーニングとかではなく貰い物の力で強くなることを邪道だと思いますか? 私はその力を扱うに足りる人格や理由を持っているのなら貰い物の力で強くなることも悪くないと思います。例えばMCUのキャプテンアメリカとかですね。彼は最高にかっこいいと思います。

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