【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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037 VSゲキドラス

「どうなってるんですかぁぁぁ!? 」

 

「俺にもさっぱりだよ!! 」

 

「悪魔相手に逃げ回らなければいけないなんて屈辱だよぉぉぉ!!!! 」

 

 俺たちは絶賛、ゲキドラスに追い回されていた。大量の稲妻と、竜巻。そして、爆発魔法を際限なく放ちながら迫ってきている。先ほど放ったディナイアルブラスターはゲキドラスの展開した球体魔方陣に防がれてしまい、そのうえバインドを解かれたからだ。

 

 ただ、ゲキドラスの攻撃は避けやすい攻撃ではあった。なにせ乱雑にただ撃ちまくっているだけなのだから。しかし俺はともかく、ゆんゆんにクリスは直撃すれば死は免れないため何にしたって危険ではあった。それに、仕掛けているトラップの魔方陣のいくつかがダメにされた。

 

「ニガサナイゾ」

 

 ゲキドラスは翼をはためかせながらその巨体にあるまじき速度で移動してくる。

 

「速すぎるよ!! これじゃあ、あたしのスキルバインドも使えない……。というかリョウタ、もっとスピード出さないと罠に誘導する前に追いつかれるよ!! 」

 

「そうですね!! リョウタさん急いで!! 」

 

「わかってるって!! 」

 

 俺は必死に全力疾走しながら後方から飛んでくる攻撃を回避し続ける。

 

「オマエタチ、スグシナナイ。デストラクターサマハカイシタノユルセナイ、ケド、タノシクナッテキタ」

 

 嬉しそうな声色でそう言うゲキドラス。

 

「よし、そろそろ罠に到達だ!! 」

 

「体感時間、長かったですね……」

 

「そうだね……」

 

 俺とゆんゆんとクリスは言い合った後、俺は自分の仕掛けた罠の上を通過する。そしてそれに数秒遅れてゲキドラスが通過しようとするその瞬間。

 

 魔方陣を起動させる。不可視だった魔方陣が可視化する。それはバンブーランス。竹の如く魔方陣から一気に伸びる大量の魔法の槍で標的を串刺しにする魔法だ。

 

「イタイ、イタイ……」

 

「痛いって言ってる割りに全然効いてなさそうですね……」

 

 右わきに抱えているゆんゆんが言うように、勢い良く伸びてきた槍が大量にぶつかっても、槍の方が折れてしまいダメージをまともに負っていないゲキドラス。しかも勢いを一切緩めずに俺たちに喰らい付いてくる。

 

「どうなってんだよ……くそ!! 次の罠だ!! 」

 

「次はグロウバインドだね!! 」

 

 グロウバインド。相手の生命力や魔力を吸ってより強固になる、絡みつく触手を発生させる魔法陣だ。

 

 先ほどと同じくゲキドラスが魔方陣の真上を通過する瞬間に発動させる。

 

「カラミツイテキタ、イタイ」

 

 生命力と魔力にあふれているであろうゲキドラスには効果てきめんだったようだ。見事にその場に縫い留められている。

 

「ウーン、ウゴケナイ」

 

「よし、みんな、ここで始末する。全員の最大威力をここで叩き込んで……」

 

「ナラコウダ」

 

 ゲキドラスが驚愕の行動をとった。

 

 爆発魔法の陣がゲキドラスの足元にグロウバインドの魔方陣に重なる形で展開される。

 

 そして、爆発した。

 

「「「は? 」」」

 

「コレデウゴケルゾ」

 

 何と自分に爆発魔法を浴びせて、グロウバインドを吹き飛ばしたのだ。 

 

 煙の中から各所にダメージを負ったゲキドラスが現れる。きっと俺たちに集中攻撃を浴びせられるのを読んであえてこの判断を下したのだろうが……。

 

「何という脳筋な発想、これがバカか……」

 

「いや、ある意味賢いんじゃないかな? 」

 

「バカと天才は紙一重とはよく言ったものですね……」

 

 そんなことを言い合いながら俺たちはゲキドラスに何もすることなく背を向けて再度逃走していた。

 

「だがグロウバインドはまだまだたくさん仕掛けてある。だから!! 」

 

 だから、また引っかかる。そう思っていた。

 

 考えが甘かった。

 

 ゲキドラスは別のグロウバインドに足を突っ込んだ瞬間、魔方陣が起動して可視化するそのタイミングで横にステップを踏んでグロウバインドを回避したのだ。

 

「オレバカダケド、ソレアタルトアブナイノワカル」

 

「一瞬のうちに起動するクリエイターの魔法を見てから回避してるの!? 」

 

 ゆんゆんが嘆く。

 

「もしかすると勘で避けてるのもあるかもね!! 」

 

 俺はそう言いながらゲキドラスの能力の高さに舌を巻いた。

 

「とりあえず一度見た魔方陣は効かないと思ったほうが良さそうだね」

 

「そうだねクリス!! 」

 

「でもどうにか足止めしてディナイアルブラスターとかを叩き込まないと倒せませんよ? 」

 

「そこはトラップオブプレッシャーとピットフォールのコンボトラップに賭けよう」

 

 トラップオブプレッシャーは超重力を発生させる魔法陣で、ピットフォールはその名の通り落とし穴を作る魔方陣だ。

 

 なんとしてもそこまで誘導しなければならない。

 

 ゲキドラスは多数仕掛けたグロウバインドに引っかからずに俺たちを稲妻と竜巻を放ちながら追い続ける。そして俺たちは攻撃に当たらないように縦横無尽に逃げ続ける。

 

「次のトラップは、位置取りから考えてインビジブルクリフとフェイントオブバーナーの重ね技だね!! 」

 

 クリスの言うように、次にゲキドラスに仕掛けるトラップはあの二つだ。超重力と落とし穴コンボでないのが残念だがダメージを与えられるという点では期待ができるコンボだ。

 

「ああ!! 」

 

 2種類の魔方陣を仕掛けた場所に進路を変えて移動していくと。

 

 ゲキドラスは俺たちの前方に爆発魔法の陣を複数展開する。

 

「ああ!? このままだと爆発範囲に入っちゃう!! 」

 

 このまま走れば爆発魔法の効果範囲に入ってしまう。

 

「飛ぶぞ二人とも!! 」

 

 俺はその場で足を止める。勢いがつきすぎていてややスライディングするが。俺は何とか停止するとジャンプする。その瞬間目前で爆発魔法が発動して熱波と衝撃波が俺たちを襲った。

 

「くっ!! 」

 

 俺は二人を強く抱き寄せると、空中で反転し背中で爆発魔法によって起きた衝撃を受け止める。それと同時に、空間にガーターを地面に対して垂直に展開し、疑似的な壁を形成。それに足を押し付けて衝撃でゲキドラスの方へ飛ばされないようにする。

 

「あっつ!! それに足が超痛い!! 」

 

「リョウタさん!? 」

 

「大丈夫リョウタ!? 」

 

 俺は痛みに耐えながら頷くと着地し、再びゲキドラスに背を向けると眼前のクレーターを大きなステップで越えて、再び駆ける。

 

「オイカケッコ、タノシイ」

 

「こっちは全然楽しくないよ!! 」

 

 クリスが追ってくるゲキドラスに振り返って睨みつけながらそう言う。

 

 そんな中、ついに大ダメージを与えられるトラップの範囲内にゲキドラスが入った。

 

「よし!! くらえ、インビジブルクリフ!! 」

 

 俺は地面に設置してある次なる罠。インビジブルクリフを発動した。それは魔方陣の上に不可視で頑丈な、魔力の壁を展開する魔法。おそらく魔法陣を見て回避しようとしたのだがそれが間に合わずゲキドラスは見事に壁に激突する。

 

 さらに、インビジブルクリフのその周囲の空間にあらゆる角度で設置した、いくつものフェイントオブバーナーが火を噴き、動きを無理やり急停止されたゲキドラスを炙る。

 

「ア、アツイ、イタイ」

 

 さすがに、インビジブルクリフにぶつかった直後だったため、防御に使っている球体魔方陣の展開ができなかった様子のゲキドラスはオーガですら吹っ飛ばすほどの推進力を与える超高温の炎を多方向から受けてダメージを負った。

 

「見た感じですけど表面上は結構なダメージを与えられましたね!! 」

 

「ああ、成功だ!! 」

 

 俺は二人を両脇に抱えた状態でゲキドラスから距離をとりながら観察する。

 

「追撃します、ファイヤーボール!! 」

 

 ゆんゆんが後方に手をかざし、フェイントオブバーナーに、炙られ、翻弄されているゲキドラスに追い打ちをかける。

 

「モットアツクナッタ、ツライ」

 

「だいぶ効いてるみたいだな……」

 

 やがてインビジブルクリフとフェイントオブバーナーが効力を失う。体の各所にひどい大やけどを負った様子のゲキドラス。

 

「イマノオボエタ、ツギハアタラナイゾ」

 

 心配するな、そのコンボは一つしか用意していない。

 

 俺たちに稲妻と竜巻を放ちながら飛び迫ってきたゲキドラス。しかもさっきまでとは違い結構正確な狙いの攻撃で回避し辛いものだった。ゲキドラスからすれば少し本気を出さないと危ないと判断したからだろうか? と言うかこれまで手を抜いていたのか?

 

「二人は迎撃を!! 」

 

「はい、ライトニング!! 」

 

「ウィップフェザー!! 」

 

 俺が全力疾走する中、ゆんゆんがライトニングで稲妻を、クリスがウィップフェザー……ウィップを新体操のリボンの如く回転させて風を作り出すスキルで、迫ってくる稲妻と竜巻を迎撃する。ただし威力がゲキドラスの物の方が上のため、徐々に押され始めたので、二人は気合を込めてスキルのパワーを上げて押しとどめる。

 

「チカラクラベ、マケナイゾ」

 

 ゲキドラスは、そう言うと稲妻と竜巻の勢いを爆発的に上昇させる。

 

「押し切られるよリョウタ!! 」

 

「仕方ない、罠に使う予定だったこれで凌ぐ!! 」

 

 魔方陣を仕掛けた場所に到達すると、落とし穴を作る魔法、ピットフォールを起動。深さ2メートルほどのその中に3人で飛び込む。その瞬間頭上を轟音とともに稲妻と竜巻が通り過ぎていった。

 

「オイカケッコ、オシマイダ。ツギハナグリアイスルゾ」

 

 ゲキドラスが俺たちを見下ろす形で陣取る。

 

 しかし。

 

「トラップオブプレッシャー起動!! 」

 

 俺は本来ならピットフォールと同時に発動するように上方に仕掛けておいた魔方陣を起動させる。トラップオブプレッシャー……超重力を発生させる魔法でゲキドラスに膝をつかせた。

 

「オ、オモイ」

 

「間抜けが!! お前を落とすための落とし穴だぞ。そのためにこんな魔法陣が仕掛けてあっても不思議じゃないだろ!? 」

 

 俺たちはジャンプで穴から抜け出す。すると片膝をついているゲキドラスが出迎えた

 

 とどめを刺すためのコンボだったこの2つの魔方陣が起動した以上やるしかない。

 

 ゲキドラスに向けて、俺たちは目配せなどをしたわけでもなく同時に攻撃を叩き込んだ。

 

「ディナイアルブラスタァァァ!!!!!!!! 」

 

「ライトオブセイバー!!!!!!!! 」

 

「ワイヤートルネード!!!!!!!! 」

 

 それらが命中し大爆発を起こす。

 

「これでどうかな!? 」

 

「倒しきってなかったらいけないからもう一回だ!! 」

 

「はい!! 」 「了解だよ!! 」

 

「「「くらえぇぇぇぇぇ!!!!!!!! 」」」

 

 粉塵の巻き起こる中、見えないゲキドラスに向けて再度同じ技を撃ち込む。

 

 そして俺は、2人を抱えて距離をとった。

 

 ゲキドラスはどうなった?

 

 俺はゆんゆんとクリスをわきから降ろすと、いつ攻撃が飛んできてもいいようにガーターを発動した状態で身構える。

 

 サーチには……、まだ反応があるな……。

 

 煙が晴れていく。するとトラップオブプレッシャーの魔方陣が消失しているのとゲキドラスの姿が一瞬確認できた。体中ボロボロでダメージを負っているようだったのだがそれはフェイントオブバーナーにあぶられた時と変わっていない。つまり先ほどの連続攻撃は防がれたということだ。

 

 あの頑丈な球体魔方陣を突破しないとな……。

 

 そう考えていた矢先。

 

 気づくと俺はガーターを粉砕されてゲキドラスの剛腕に殴り飛ばされていた。おそらく瞬間移動としか言いようのない速度でゲキドラスが移動したのだろう。

 

「ぐわっ!? 」

 

 俺は森の中を何度もバウンドして、やがて、クリスの提案で仕掛けたトラップオブブラストとチェーンバインドの魔方陣を下に設置した木々が積み重なった残骸に激突し停止する。

 

「リョウタさん!? 」

 

「リョウタ!? 」

 

「…………っ!! 」

 

 『二人とも俺のことはいいからゲキドラスに集中しろ』そう伝えたかったのだが、激突時に肺から空気を一気に奪われたせいでせき込み、言葉が出なかった。

 

「オレ、ハヤイゾ 」

 

「っ!? 」

 

 今度はクリスが瞬間的に後方に回り込まれた。

 

 ゲキドラスの野郎。追いかけっこを冗談抜きでただ楽しんでやがったのか。本気で動くとあんなに早いとか、パワーもあるうえに反則だろうが!! 

 

 そんな感想を抱きつつ、同時に俺は神殺しの剣があれほどの強さを持っている相手にもかかわらず今以上にリミッターを解除しないことに苛立ちを覚える。

 

 クリスは何とか身をかがめてゲキドラスの左拳をよける。だが衝撃波で体勢を崩し尻餅をついた。

 

「ま、まずい!? 」

 

「クリスさん!! 」

 

 ゆんゆんがライトオブセイバーを振るいゲキドラスからのクリスへの追撃を阻止する。

 

 ゲキドラスはゆんゆんに体の方向を向けて高速移動、彼女の眼前に移動すると両手を握って形作ったダブルスレッジハンマーをゆんゆんに振り下ろした。

 

 ゆんゆんは地面を転がることでその一撃を回避、すぐ隣でダブルスレッジハンマーが炸裂して雪と土を巻き上げる中、体勢を立て直すとマジックワンドから直接ライトオブセイバーを発動し、それで切りかかる。

 

 だが、ゲキドラスの動きはとてつもなく速い。ゆんゆんの一斬をいともたやすく回避すると疾風を纏った右腕を横なぎに振るう。

 

 ゆんゆんはなんとかそれの直撃を回避するが、疾風のあおりを受けて吹き飛ばされる。

 

「きゃぁぁぁ!!!! 」

 

「っ!! ゆんゆん!! 」

 

 俺は全身の痛みを無視して一気に疾走、ゆんゆんの後ろに回り込み彼女を抱き止める。

 

「よしっ!! 」

 

「ありがとうございますリョウタさん……」

 

「うん、大丈夫ゆんゆん? 」

 

「なんとか」

 

「ナカヨク、キエロ」

 

 ゲキドラスが爆発魔法のエネルギー塊を複数俺たちに射出する。

 

「うおぉぉぉぉらぁぁぁぁ!!!!!!!! 」

 

 俺はゆんゆんをやさしく、しかし瞬時に地面に降ろすと、ディナイアルセイバーとライトオブセイバーの二刀流でそれらすべてを切り払う。

 

 切り払われた爆発魔法はその場で大爆発を起こす。その爆炎の中をゲキドラスが突っ切って眼前に現れる。

 

 俺はゲキドラスの帯電した左腕の殴打を、神殺しの剣で受け止める。そしてディナイアルセイバーを発動。電撃とディナイアルセイバーが打ち消しあい強烈な瞬きが発生する。

 

 しかし、単純なパワーで押し負け、俺は後方に弾き飛ばされる。

 

「このタイミングなら!! バインド!! 」

 

 クリスがゲキドラスの意識が俺に向いていることによってできた一瞬をついて両足を縛り上げ、バランスを崩させる。

 

「マタコカサレタ」

 

 その隙に。

 

「ライトオブセイバー!! 」

 

 ゆんゆんはライトオブセイバーで切りかかるが疾風を纏った右腕を地面に叩きつけることでその場から跳ね飛び、ゆんゆんの攻撃を緊急回避するゲキドラス。

 

 なんてトリッキーな奴なんだ。ただバカなだけで戦闘に関してはセンスに満ち溢れている。

 

「フットベ」

 

 そして上空に座した状態でクリスとゆんゆんに爆発魔法のエネルギー塊を雨のように降らせる。

 

「ディナイアルブラスター!! 」

 

 俺はそれを横から放った極太のディナイアルブラスターで飲み込み消滅させる。

 

「二人は下がれ!! 勝てない!! 」

 

「リョウタさん!! リョウタさん一人でも勝てる相手じゃないです!! 」

 

「そうだよ!! 」

 

「それでもぉぉぉぉ!!!! 」

 

 俺は両足の拘束をほどいた瞬間のゲキドラスに前蹴りを命中させると、次いで体を引き裂くように錬金術を発動させる気で、左手で奴に触れようとするが、その前にゲキドラスがバックステップで後方に少しずれる。そして、体当たりを俺にかます。

 

「ぐほぁ!? 」

 

 俺は全身に響いたゲキドラスの体当たりによる衝撃によって全身にダメージを負う。が、今度は吹っ飛ばされないよう踏ん張り、その場を数メートルほどスライドするにとどまる。

 

 そして、なおもゲキドラスに接近戦を仕掛ける。

 

「オマエ、ガンジョウ。タノシイ」

 

 何度も食いついてくる俺を気に入った様子のゲキドラス。そんな中で。

 

「ゆんゆん、クリス下がれ!! 」

 

「ですけど!! 」

 

「何言ってるのさリョウタ!! 」

 

 クリスがバインドをゲキドラスに発射するが、俺のディナイアルセイバーの斬撃を帯電した左腕で握りしめて受け止め、空いている右腕から竜巻を発射しバインドの起動を逸らし命中を免れるゲキドラス。

 

「オレ、ソレモオボエタ。アタルトアブナイ。ダカラオトス」

 

「小癪だよ!! 」

 

 クリスが悪態をつく。

 

 そう言えばゲキドラスはディナイアル系の技も残機を削られるのを直感的に理解してるのか生身で受けたりしてないな。こいつ、勘がいい。

 

「リョウタさん。今回は破壊神戦とは状況が違います。あのときみたいにリョウタさんが互角に戦えてない以上パートナーとして最後まであなたのそばで戦いますから!! 」

 

「ダメだ!! 」

 

 俺はいったんディナイアルセイバーの放出をやめてゲキドラスの保持から神殺しの剣を自由にすると、今度は神殺しの剣で突きながらディナイアルブラスターを発射する。

 

 ゲキドラスは放たれたディナイアルブラスターをその巨体に似合わなさすぎるスピードで回避。そして帯電した左腕のストレートを俺に放つ。

 

 それを神殺しの剣の腹で踏ん張りながら受け止める。

 

「なんでですか!! 」

 

 ゆんゆんが、俺と押し合いをするゲキドラスに向けてファイヤーボールを発射する。同時にクリスがダガーを構えて突撃、ゲキドラスに一閃する。だがそれらすらもまるでボクサーの如く軽快なステップで回避するゲキドラス。反射神経良すぎだろ、忌々しい。

 

「君が死ねばすべて終わりだからだ!! 」

 

 俺はファイヤーボールに巻き込まれないようにバックすると、バーニングスラッシャーをゲキドラスに発射する。

 

「私が死ねば終わりって、またそれですか!? 私だってあなたが死んじゃえば終わりなのに!! 」

 

 ゲキドラスはバーニングスラッシャーをガーターで防ぎつつ、俺に迫る。

 

「なっ、ゆんゆん!? 」

 

 思わぬゆんゆんの言葉に俺は驚かされるがすぐにゲキドラスとの戦いに意識を集中し直し、帯電している左腕のストレートを身をかがめて回避する。

 

「リョウタさんは私が護るんです!! 私は護られてばかりじゃないんですからぁぁぁぁぁ!!!!!!!! 」

 

 ゆんゆんが激昂とともに超巨大なライトオブセイバーをマジックワンドから発動する。しかしそれだけでは終わらない。マジックワンドの水晶にひびが入り、やがて砕け散るが、その瞬間に直径10メートルはあろうかという大出力のライトオブセイバーが顕現する。

 

「下がって二人とも!! 」

 

「りょ、了解」 「わ、わかったよ!! 」

 

 俺とクリスは、一気にゲキドラスから距離をとる。その幾何かしないうちにゆんゆんの最強出力のライトオブセイバーがゲキドラスに振り下ろされた。

 

「オソイゾ」

 

 ゲキドラスはそう言うとライトオブセイバーを振り下ろしている段階のゆんゆんの後ろに回り込む。

 

「マズハヒトリ」

 

 疾風を纏ったラリアットをゆんゆんめがけて撃ち込もうとするゲキドラス。

 

 だが。

 

「ガーター!! 」

 

 いつの間にか習得していた様子のガーターを発動しゲキドラスのラリアットを防ぐゆんゆん。

 

 しかしガーターは一瞬のうちに砕け散る。だがその一瞬でゆんゆんには十分だった。

 

「やぁぁぁぁ!!!! 」

 

 ゆんゆんは振り下ろした巨大な光の剣を、瞬間的に今度は横なぎに振るう。直径10メートルもの塊を今のタイミングでゲキドラスが避けきれるはずもなく。

 

「ガァァァァァァ!!!! 」

 

 ラリアットがぎりぎりのところでゆんゆんに当たらず、ライトオブセイバーの直撃を受けて悲鳴を上げることになったゲキドラス。その身がどんどん焼き焦げていき、体の中でも薄いパーツである翼が蒸発し、全身の皮膚が溶解し、肉や骨が露出していく。

 

「これで終わりです!! 」

 

 ゆんゆんのライトオブセイバーの放出が終わる。

 

 蒸発し煙を上げている、えぐり取れた地面の上。そこには大出力を受けて、派手で鮮やかだった緑と黄色のボディは焼き焦げて黒ずんでしまったゲキドラスが突っ立っている。

 

「ほ、本当にやったの? 」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「いや、まだだ!! 」

 

 ゲキドラスがもはや言語化できない叫び声をあげると、ゆんゆんに突撃した。

 

 俺はゆんゆんにゲキドラスが激突する前に間に割って入りディナイアルブラスターを放つが。

 

「何!? 」

 

 ゲキドラスはガーターを数枚重ねて展開した拳でそれを受け止めながら俺を殴り飛ばした。

 

 どんだけ器用なんだよ。

 

「リョウタさん!? 」

 

「ゆんゆん、前!! 」

 

 ゲキドラスが今度はゆんゆんに向けて殴り掛かる。クリスの注意喚起でそれに気づきライトオブセイバーで受け止めるゆんゆんだったが、パワー負けし、ライトオブセイバーごと後方に吹っ飛ばされる。

 

「ゆんゆん!? 」

 

「だ、だいじょう、ぶです」

 

 俺の近くに転がってくるゆんゆん。彼女は頭を木に強く打ちつけてしまい、血を流していた。

 

「クソが!!!! 」

 

 俺は地面に這いつくばった状態で悪態をつく。

 

 ゆんゆんは何としても護らなきゃいけないのに。なんでなんだ。なんでこんなことになってる!? ふざけるなよ。動け俺の身体。動けよ!! 

 

 ゲキドラスがおぼつかない足取りでゆんゆんへと近づいていき、彼女の真下に爆発魔法の陣を展開する。

 

 俺の身体が動かない。ダメージが大きすぎた。足の骨も折れている。神殺しの剣の回復能力があっても間に合わない。

 

 

 このままだとゆんゆんが死んでしまう。

 

「クリス!! ゆんゆんを…… クリス!? 」

 

 クリスは棒立ちになっていた。

 

 なにをしてるんだあの子は!?

 

 やがて爆発魔法の陣がひときわ輝き爆発を起こす瞬間。

 

「ゆんゆん!!!!!!!! 」

 

 俺は絶望の叫びを上げる。

 

 その時、予想だにしない事態が起こった。

 

 赤紫の閃光が突如ゆんゆんに飛来し、爆発魔法が直撃する前にもろともに姿を消した。

 

 標的を爆散させることなく地面を削り取る爆発魔法。

 

 俺はゆんゆん姿を探そうと必死に体を動かそうとすると、突然俺の横に着地する足音がした。

 

 それはクリスだった。その両目は爛々と赤紫に輝いており両腕には死を覚悟して目を固く瞑ったゆんゆんを抱いている。

 

 何が起こったのかわからないと言った顔で硬直しているゲキドラス。その隙にゆんゆんを俺の隣に降ろしながらクリスは。

 

「チャンスは作るから、ごほっ……リョウタはとどめを刺して……」

 

 血を吐いた。そして血涙も流している。しかし、そう言い残すとクリスは一気にゲキドラスに距離を詰める。

 

「は? 」

 

 俺はその速度に呆気にとられる。クリスの目元から赤紫色の残光が生じていた。さっきのゆんゆんを救い出した赤紫の閃光の正体は彼女だった。

 

 まて、クリスの目の色はスカイブルーだったはずだ。そもそもなんで赤紫色に輝いているんだ。

 

 これじゃあまるであの方だ。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 クリスのダガーの一撃がゲキドラスの胸元を切り裂く。

 

 さらにクリスは身をかがめて。

 

「やぁ!! 」

 

 今度はゲキドラスの足を切り裂く。

 

「オレヨリ、ハヤイ? 」

 

「2人はやらせない!! 」

 

 さらにクリスは。もはや職業によるステータス上昇の値を大きく引き離した、人間を超えている速度で動き回る。まるで分身しているかのようにゲキドラスに全方位から斬撃を加えていく。ゲキドラスがこうも一方的に攻撃を喰らっているのはおそらく翼を失い機動力と運動性が低下していることも関係しているのだろう。

 

 全身各所の切り傷から血を吹き出すゲキドラス。さらに吐血するクリス。

 

「ナラコウスル」

 

 全面に球体魔方陣を展開するゲキドラス。クリスはそれに弾き飛ばされるが、しかし。体勢を立て直すと。

 

「ゴッドブロー……!! 」

 

 今なんて言った!?

 

 頑丈なゲキドラスの皮膚を切り裂きまくったことで刀身がボロボロになり使い物にならなくなったダガーを投げ捨てたクリスの拳に、神聖さを感じさせる光を放つ赤い炎がまとわりつくと、彼女はゲキドラスに驀進。そして、突き出されたその拳が球体魔方陣をぶち抜き、ゲキドラスの胸元に突き刺さる。

 

「グハッ!? 」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!! 」

 

 クリスの拳が突き刺さった部分から、亀裂が走り、神聖な赤い炎と白い光が漏れ出す。もがくゲキドラス。

 

 それと同時に、吐血するクリス。

 

「くっ!! 」

 

 クリスが苦悶に表情を歪める。その後、拳が突き刺さった部分が爆発しクリスとゲキドラスが対局の位置に吹き飛ばされる。

 

 クリスが俺の横のあたりに転がってくる。

 

「リョウタ!! ディナイアルブラスター撃てる!? 」

 

「あ、ああ、何とか撃てる!! 」

 

「じゃあ撃って止めを……げほっ!! 」

 

 寝転がった状態で、またクリスは血を吐いた。

 

 大丈夫か? と聞きたいところだったが優先順位はゲキドラスを倒すこと。声をかけたい気持ちをこらえてこらえて俺はまだ回復しきっていない身体。しかし何とか立てるまでになった身体を無理やり立ち上がらせ。

 

「ディナイアルブラスター!!!!!!!! 」

 

 ゲキドラスに向けて神も悪魔もアンデッドも消し去る最強の一撃を放つ。

 

「ザンキガキエテイク? オレ、ハカイサレルノカ? 」

 

 クリスの放ったゴッドブローの一撃で球体魔方陣すら展開する力を失っていた様子のゲキドラスをディナイアルブラスターが丸ごと飲み込み消滅させてゆく。

 

「スパリュード、テンロン……デストラクターサマ」

 

 ゲキドラスは仲間と主人の名前を口にした後。

 

 ボロボロだった身体を跡形もなく完全崩壊させて……。この世からいなくなった。

 

 神殺しの剣が機能停止する。俺はその瞬間に崩れ落ち膝をつく。

 

 そんな俺とゆんゆんにクリスが。

 

「どうやら残機も削り切れて完全に滅ぼせたみたいだね」

 

 そう言って口の周りに付いた自分の血を拭う。

 

「あ、ああ。それより大丈夫か二人とも!? 」

 

 ゆんゆんは頭から血を流しているし、クリスはさっきから何度も吐血していた。

 

「大丈夫……です」

 

 ゆんゆんはと言うとやや浮かない顔で返答した。

 

「なんとか大丈夫だよ」

 

 クリスは痛みによってやや引きつった笑顔を俺に向ける。

 

 二人とも立ち上がり、俺の方に近づいてくる。その足取りは疲労困憊と言ったものだった。

 

 こうして、俺たちはデストラクターの眷族の内の1体、ゲキドラスを倒した。




 今回出てきた数々のクリエイターの魔法はすべてオリジナルです。公式にはありません。

 あと、どうでもいい話ですが、ガーターは最初はプロテクションという名前だったのです。しかし、原作16巻にプリーストの魔法として出てきてしまったので名前を変えたという経緯があります。

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