【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
「ああ生き返るー……今日生き返ったばっかりだけど」
夕方。湯船につかりながらそんなことを言う。
俺は大衆浴場を利用していた。理由は至極単純。カエルに食われた際についたぬめぬめを落とすためだ。このぬめぬめ、生臭くてきついのだ。
「ジャイアントトード、恐ろしい相手だな……。実入りはいいとはいえ正直あんなのともう戦いたくない」
しかし、報酬や難易度から見るにあれほど効率のいいクエストも他にはないのだ。
「やるとなると、明日のリベンジには矢をさらに用意したうえで、装備もカエルが嫌がるように錬金術で金属化、その状態で挑むしかないな」
俺は一人で作戦会議を開く。そんな中、よく考えれば今日のクエストで死にかけたのは、どこかで起こったとてつもない爆発のせいであって俺自身に大きな落ち度はないことに気づいた。
「あの爆発め……。もし、あの子がいなかったら……。あの黒髪赤目の女神様がいなければ今頃天使様のところに逆戻りだったじゃないか!!」
今日のクエストで不測の事態に備えるには一人では限界があるとを思い知らされた。もし、命が惜しければこれからはパーティーを組んでクエストに挑んだ方がいいだろう。
「でもコミュ障の俺がやっていけるかどうか不安だしなー」
そう言いながら俺は湯船から出ると、体中の水滴をふき取り、雑貨屋でぬめぬめの状態で購入した、新たな着衣。黒を主としたこの世界で一般的な服装に着替えた。
「うん、やっぱり一人でやっていこう」
そう決意しながら、購入したコーヒー牛乳を飲み干す。
俺は元ヒキニートのコミュ障。ソロプレイがお似合いだ。
「コミュ障と言えば……あの女神様もコミュ障ぽかったな。それになんだか急いでた感じだったし」
彼女は今頃どうしているだろうか。あの可愛くて美しい女神様は。
「命の恩人だし、ちゃんとお礼言いたいな。ちょっと探してみるか」
俺は大衆浴場を出てすっかり暗くなり始めた空のもと、あの女神様を探し始めた。
最初はあてもなく、そして半分は観光目的で街の中を命の恩人を探して彷徨い歩いていた俺だったが、彼女には一切遭遇することが無かった。
なので、俺は冒険者ギルドで、がんばって聞き込みをしていた。彼女の特徴は黒髪赤目で端正な顔立ちで魔法がとても強いこと。そのおかげで、二人の人物に絞り込むことができた。のだが……。
一人は、頭のおかしい子で有名な爆裂魔法という超威力の魔法を使う少女だった。曰く、爆裂魔法を異常なレベルで愛しており、そして爆裂魔法しか使えないとのことで、俺を助けてくれた女神さまとは別人だろう。ちなみに本日平原で爆発を起こした犯人は彼女とのことだ。もし会うようなことがあれば文句の一つでも言ってやろう。
そしてもう一人はギルドのパーティーメンバー募集の張り紙をし、常に定位置から張り紙を見つめていた。否、目を赤く輝かせ睨みつけていたらしい少女だ。しかしその少女は約二週間前に突如姿を消したらしい。つまりあの女神さまではない。
「2人とも違うとなるとあの女神様はどこにいるんだろうか?」
俺は困り果てていた。大層なお礼ができるわけではないが命を救ってくれたのだ。このまだ来て半日程度しかたっていない異世界ライフをつなぎとめてくれた恩人なのだ。
「どこにいるんだ女神様」
仕方ない。探すのは明日にしよう。今日はもう暗いから外で人を探すにしても見つからないだろうし。
そう思って、ギルドの中をうろうろしているとパーティーメンバー募集の張り紙が、目の前で一枚追加されたのが目に留まった。
特にやることもなく。そして、ソロプレイを決め込んだが命惜しさにやっぱり仲間が欲しい俺はそれが気になってつい目をやる。
まずは、新しく追加されたパーティーメンバー募集の紙を見てみるとそこには。
【アークウィザードです。パーティーメンバー募集してます。希望としては、会話が続かなくても大丈夫な人、毎日訪ねて行っても引かない人、目を合わせて会話ができなくても怒らない人。職業不問、年齢不問、レベル不問です。】
と書いてあった。
「なんだこれ、他と比べるとパーティー募集の紙というより友達や恋人の募集に見えるな。しかし要は誰でもOKということか、俺でも入れてくれ……る、かな?」
ふと、背後から強い気を感じた。プレッシャーという奴だろう。
俺は何事かと思い振り返ると、プレッシャーの主が目に入った。それは暗がりで赤目をかがやかせている。
「……もしかして、二週間前の黒髪赤目の睨みつけてくる少女か?」
俺は新しいパーティーメンバー募集用紙に書かれた、依頼主の待っている位置を確認すると、どうやら俺にプレッシャーを送ってきている人物で間違いなさそうだ。
「かかわらないほうが良さそう……でもどんな人間でもパーティーに入るのOKらしいしなー……。声かけてみるか」
俺は意を決して少女に近づいていくと、暗がりでよく見えなかった全体像があらわになる。
その人物は、少女で、黒髪で、赤目。黒いマントに黒い上着、ピンクのスカートをはいていてスラリと整った体型をしており、発育も良い、とにかくかわいい美少女……。つまりは!!
「女神様!! やっと会えた!!」
俺は黒髪赤目の美少女に駆け寄った。
間違いない、昼間俺を救ってくれた女神様だ!! 二週間前にいなくなった子と同一人物なのは驚きだが今はそんなことどうでもいい。
「え!! 女神様!?」
美少女は俺の突然の接近に驚いて体をのけぞらせる。
「こ、これは失礼」
俺は謝罪すると、かしこまった顔で。
「俺は涼太。君に昼間助けられた冒険者だ!! あの時は本当にありがとう!!」
頭を下げた。
「え、あ、あの時の冒険者さんでしたか」
「はい、本当に助かりました。ありがとう。ずっと探してたんだ」
「わ、私をですか!? な、なんで?」
「お礼を言いたかったから。ありがとうって!! 言えてよかったよ」
「そうでしたか。えっと、……どういたしまして」
少女は顔を赤くしながらうつむいて小さな声でそう言った。
「お礼がしたい。今はもう2万エリスしかないけど、俺にできることなら何でも言ってくれ。えーと君の名前は?」
「わ、私は……」
少女は赤面した状態で立ち上がると顔を引き締めた後、深呼吸をして一拍おく。そして。
「我が名はゆんゆん!! アークウィザードにして中級魔法を操るもの!! やがては紅魔族の長となるもの!!」
仮面をつけたどこぞのヒーローのごとくポーズを決めながら少女は叫んだ。
「かわいい」
「っ恥ずかしい……。って!! え、か、かわいい?」
「うん、とてもかわいい」
そう、とてもかわいかった。この世界で彼女以上にかわいいものは存在しないだろう。
「か、かわいいだなんてそんな……」
照れながら椅子に座り込む少女。ああ、この仕草もかわいい。
「いや、本当にかわいいよ。えーと」
名前はゆんゆんでいいんだよな?
「ゆんゆん」
「っ!! は、はい!!」
黒髪赤目で魔法を使いこなす。そして変わった名前と変な名乗りをするところから考えて。
「もしかして君は天使様が教えてくれた紅魔族なのか?」
「そ、そうです。天使様?はよくわかりませんが、紅魔族のゆんゆんと申します。……あの、私の名前や名乗りを聞いても笑わないんですね……?」
「だって可愛かったし」
「そ、そうですか? あ、ありがとうございます……」
机の上に突っ伏した後、組んだ腕で顔を半分隠しながら俺の方を見てくるゆんゆん。名前も見た目も声も性格も仕草もすべてがかわいい。なんだこの子は。
「あ、えーととりあえずお礼をさせてくれ。君は命の恩人だ。なんだっていい、君の望みを言ってくれ、金はそんなに持ってないけど、必要ならば明日以降のクエストで稼いだ金も君に貢ぐから!!」
「貢ぐだなんてそんな!? …………あのリョウタさん?」
「ハイなんでしょう!?」
ゆんゆんは立ち上がり顔を紅潮させながら質問してきた。
「なんだっていいんですよね?」
「もちろん」
そう即答するとゆんゆんは明るい顔をした後、再び照れた状態になり、やがて頭を下げて。
「も、もしよかったらなんですけど、お金とかはいりませんから、その……。リョウタさんが良ければ、わ、私の友達兼パーティーメンバーになってくださいませんか!?」
そんな素晴らしい提案をしてきた。
「喜んで」
精一杯の真摯な顔と声でその要求を俺は承った。
「不束者ですがよろしくお願いします」
びくびくしながらそう言うゆんゆん。
こうして、ゆんゆんという名の女神。あるいは女神という名のゆんゆんと俺はパーティーを組むことになった。
ゆんゆんは、俺がシンパシーを感じた通り、同じコミュ障で、会話が途切れたりすることも多かったが、口下手なのをお互いに察知しあった結果なのか、会話の途切れた沈黙の中でも気まずさを感じることなくストレスフリーな雰囲気でいられる。
理想の美少女すぎるだろ。ゆんゆん。正直、初恋をしてしまいそうだ。
そんなことを、ゆんゆんの対面の席で考えていると。
「そう言えば寝床が決まってないな……宿代二万で足りるかな?」
今更になって俺はそんな大問題に気付いた。冒険者初心者ガイドや、天使様によれば新人冒険者は稼ぎも少ないため、馬小屋を借りて夜の寒さをしのぐらしい。
「馬小屋借りるか」
「あ、あの。そ、それでしたら私が予約してる宿の部屋に一緒に泊まりませんか!?」
「え、いいの?」
「いいですよ!! パーティーメンバーは仲間。それに友達は助け合うものですから!!」
いや確かに助け合うものだが。いいのだろうか? だって。
「ゆんゆんと同じ部屋で過ごすことになるんだよ?」
「あ、ごめんなさい……。舞い上がってました。そうですよね、まだであって間もないのに。……というかそもそも年頃の男女が同じ部屋だなんてそんなのダメですよね」
「い、いや、ゆんゆんが嫌でないなら俺は喜んで一緒に泊まらせていただくよ」
「ええっ!?」
ゆんゆんが落ち込んで焦ったのもあるが、何より美少女と同じ部屋で2人きりで過ごせるという状況に俺は焦りまくったのもあってつい本音を言ってしまう。
「そ、そうですか!? だったら一緒にお泊りしましょう。あ、ボードゲームもたくさん持っているんです!!」
ややゆんゆんがヤケ気味にそう言った。なんだろう、彼女も引き返すに引き返せないところまで来てしまった。そういう感覚なのだろうか?
「そ、そうなんだ、じゃあさっそく、も、もう夜だし……宿に行こうか」
「は、はい!!」
「たまたま、予約できた部屋がここしかなくってですね」
「それでベッドが二つあるわけか」
「そうなんですよ」
ゆんゆんに案内されて俺は宿についた。部屋には驚くことにベッドが二つ用意されていた。その理由はゆんゆんが急遽予約をとれた宿が二人部屋だったかららしい。ゆんゆん曰く二週間前までアクセルの街にいたが、修行の旅に出ていた。だが、大切なボードゲームの1つをこの宿屋に忘れていたのを思い出し回収にきたとのことだった。
「紅魔族は上級魔法が使えて初めて一人前ですから、今の私は中級魔法使いの半人前なんです……」
「それを何とかするためにより高いレベルのモンスターがいる別の街を拠点に活動してたのか」
「はい」
お互いのベッドに座って向かい合い、会話を楽しむ。
「あれ? 忘れ物取りに来ただけなのになんでこの街でパーティー募集を?」
「あれはですね、運試しと言いますか……明日の出発までにパーティーメンバーができないか最後の望みをかけて募集してみたんです」
「そしたら俺が来たわけか」
「そういうことです」
ゆんゆんは笑顔を見せた。
「ん? まてよ。なぁゆんゆんはこの街を拠点に活動する気なのか?」
「リョ、リョウタさんがパーティーに入ってくれたから当分はここで活動します。リョウタさんに合わせますよ。だってリョウタさんのレベルは……」
「予想通り低い」
「すいません!! 私失礼な想像を……」
「いいんだ。ちなみに今はレベル2だ」
「そうなんですね。あ、私はレベル9です」
「高いな、すごい」
俺はゆんゆんのレベルに感心する。
「紅魔の里……私の出身地で自警団に入っていたことがありまして、そこで高レベルモンスターをたくさん倒す機会があったおかげなんです。私魔法が使えるようになってからまだ大体1年くらいなんですよ」
1年でこのレベルは妥当なレベルなのだろうか? 基準が無いからよくわからん。
「リョウタさんはどこからいらしたんですか?」
どう答えるべきか?この世界には日本が存在しているわけじゃないし。
「極東の国からここまで来たんだ」
「そうでしたか、長旅だったんじゃないですか?」
「まぁね」
嘘をついているわけではないが騙しているようでなんだか申し訳ない気持ちになる。
俺の気分が沈んだのを察知してかゆんゆんは。
「あ、ごめんなさい、聞かないほうが良かったですか?」
申し訳なさそうに俺の顔を覗き込んだ。
この子は勘がいいな、あとかわいい。
「いやいいんだ、気にしないでくれ。ただ単にいい思い出が無いからちょっと思い出したくないだけなんだ」
適当なことではなく、ほとんど本当のことを言って取り繕う。
「そうなんですね、じゃあ聞かないようにしますね」
「ありがとう」
優しいなゆんゆんは。気配りもできて。……そう言えばこの子何歳なんだろうか? 俺の見立てでは、童顔だから年下だけど年齢自体は近い気がするのだが。
「ゆんゆんは何歳なんだ?」
「私ですか? 13歳ですけど」
「あれ?」
か、かなり幼い。ロリじゃないか。
「リョウタさんはおいくつなんですか?」
無邪気に聞いてくるゆんゆん。
「18です……」
こんなにも幼い子が一年前から自警団として頑張っていたことに、何も今までしてこなかった俺は恥ずかしかった。普段は汗水たらして働いている人を見ても何も感じないし気にならないことなのだが、きっとゆんゆんだからこそなのだろう。
「え、あの気分がますます沈んでますけどどうしましたリョウタさん? 大丈夫ですか? もしかして体調悪い?」
「え、あ、うん。致命傷じゃない大丈夫」
なににせよ俺より年下ならば、何としても護れるくらいには強くなろう。明日から頑張らなければ。
「とりあえず寝ましょうかそろそろ」
「そうだね」
今日は距離が離れているとはいえ女神な美少女と一緒に寝るのだ。かなり緊張するな……。
「どうしましたリョウタさん?」
「なんでもない、寝よう」
そう言って布団に入ると。今日いろいろあったからか、美少女が横にいることに興奮するよりも先に疲労感が全身を襲い。俺は一気に眠りについた。
「ライトニング!!」
翌日の平原で、俺が昨日のクエストで残していたノルマの1匹。ジャイアントトードをゆんゆんが雷撃の中級魔法で粉砕した。
「ふぅ、これでリョウタさんの受注していたクエストは達成ですね!!」
「……うん」
運動性の低下と引き換えに、錬金術で金属化したアーマーを装備しカエル対策を済ませたのだが……出番がない。
初心者ガイドいわく、中級以上の魔法を放つには詠唱が必要で時間がかかるため前衛職が踏ん張らなければならないらしいのだが、ゆんゆんはその才能ゆえか無詠唱で中級魔法を使って見せた。詠唱を破棄しているゆえに威力が低下しているというのに憎きカエルを一撃で粉砕する火力は圧巻だ。しっかりと詠唱すればどんな火力になるのか想像しただけでも恐ろしい。
「じゃあ新しくパーティーで受注したもう一つのジャイアントトード五匹討伐クエストも頑張りましょう!!」
元気な笑顔でそう言うゆんゆん。パーティーという言葉が強調されていたのは気のせいではないだろう。
「なぁゆんゆん。俺もレベル上げたいから次は俺にやらせてくれないかい? お互いの実力を知っといた方がいいだろうし」
「あ、そうですね。……はい、いいですよ」
念のためなのか魔法の詠唱をして手刀に風を纏わせたゆんゆんが返事をした。
「よし、それじゃやるか」
この子は俺より年下。年上としてこの女神を護れる強さを昨日欲したばかりなのだ。護られてどうする。しかしこんなことを考えるようになるだなんて、さっそく人間性が真人間みたいに変わり始めたな。ゆんゆんのおかげか。
「スキル発動、『弓』、『狙撃』、『千里眼』!!」
俺は気合を込めてスキル名を叫ぶと、こちらに向いていない遠くのジャイアントトードに向けて、矢を放った。
矢が命中しこちらに気づくジャイアントトード。例のごとく俺の方に大ジャンプをかましながら接近してくる。
「連射だ!!」
俺は矢を何発も放ちカエルを攻撃。そして、放ったうちの一発がちょうどカエルの頭頂部を串刺しにしてカエルを沈黙させた。
ゆんゆんに比べて実に地味だ。早く魔法とかもうちょっと派手なスキルを覚えたい。
「どうだった俺の活躍は?」
「えっと、すごかったです!! 弓矢の連射!!」
この子、心の底から褒めてくれてるな。優しい。実に地味だというのに。
「ありがとう。今の俺の実力はこんなもんだよ」
「わかりました。じゃあリョウタさんがどんどん倒してレベルを上げましょう。最初のうちはレベルが上がりやすいですから!!」
「了解だよ」
俺は残り4匹を狩るために先ほど倒したジャイアントトードから使える矢を回収した。