【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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040 届けられなかった想い

 ユニアゼロ家で、アヤメリス様の1時間護衛を決めたときから、帰りの方法をカルタットからアクセルに向かうルートを王都からアクセルへ向かうルートへと変えることにしていた俺たちは、王都のとんでもなくにぎやかな馬車の乗り合い所にいた。ただしクリスはいない。クリスは王都でやることがある(本当は天界に今回の件の報告をしないといけないためと耳打ちしてきた)ので俺とゆんゆんとは別れた。

 

「アクセル行きのキャラバンは今日の便はもう出ちゃったみたいですね」

 

「明日の便を予約しとくか」

 

「そうしましょう」

 

 俺たちは乗り合い所の窓口で明日のアクセル行きの便に乗ると予約しお金を払う。

 

「さてこれからどうするかな」

 

「あ、あのリョウタさん、良かったら王都を一緒に回りませんか? ダメでしょうか? 」

 

「喜んで。観光するとしようか」

 

「はい!! あと、キャラバンを護った報酬で私たちの装備を新調しませんか? せっかく選んでもらってお金まで出してくれた私のマジックワンド……壊れちゃいましたし、リョウタさんの鎧も錬金術では……」

 

 ゆんゆんが俺の鎧に目を向ける。これまで俺は錬金術を使用し破損した個所を修復しながら鎧をだましだまし使ってきていたのだが(ゆんゆんが選んでくれたお気に入りのため)。さすがにゲキドラス戦で大きく損壊してしまっている。せっかくルーンナイトにもなって筋力にかなり余裕が出たのだし素材自体がこれまでよりも重くて頑丈なものに新調するのも悪くないだろう。もちろんゆんゆんに選んでもらってだ。

 

「ああ、ごまかしがきかなくなってきたから鎧もこの機会に新調しよう。ゆんゆん。また選んでくれないかな? 俺あんまりセンス無いから」

 

「わかりました!! でもリョウタさんってセンス無かったんですか? 」

 

「なんで俺が日常茶飯事この黒い衣装なんだと思う? それはね、センスが無いから最初に見立ててもらった店で同じ服を複数購入してたからなんだ」

 

「そうなんですか!? ということはリョウタさん私服なるものが冒険者服と一緒で、全く所持していないということですよね……? 」

 

「そういうことだよ。実際俺がこの服以外の物を着ていたときなんて冬将軍と戦った時の防寒着とパジャマ以外ないだろう? 」

 

「そうですね……。あ、だったら……!! 」

 

「どうしたんだい? 」

 

「わ、私が選びましょうか? リョウタさんの私服」

 

 何とありがたい。

 

「じゃあよろしくお願いするよ。ゆんゆんに選んでもらえるなんて嬉しい。あ、鎧の方もお願いするよ」

 

「わかりました!! ……あと、また私が選ぶからって喜んでリョウタさんったらもう……」

 

 ゆんゆんが赤い顔でうつむく。かわいい。

 

「とにかく行こうか王都の観光も兼ねて」

 

「はい!! 」

 

 俺たちはそうして街に繰り出した。

 

 

 

 街に繰り出してまず最初に、王都の宿屋で部屋を借りた。これは王都と言うこともあって早めに予約しておかないと部屋が無いという事態に直面しかねないからだ。

 

 そして現在俺たちは街の服屋や武具屋をめぐりながら戦闘スタイルについて雑談していた。理由はゆんゆんがグウェンを手に入れたからだ。

 

「私も防御力的に前衛もこなせるようになりましたから作戦の幅が広がりましたね」

 

「とはいえ、ゆんゆんの素の防御力は魔法防御以外上がってないから危険じゃないか? 」

 

「まぁ……言われると確かにそうですね。でも不意打ちにさえ気を付ければこなせます」

 

「確かにそうかもだが、6人パーティーで前衛が三人も……いてもおかしくは無いか。ゆんゆんが前衛になれば後衛が回復役のアクアに後方支援のカズマに、最終兵器のめぐみんって感じになるし。あれ? めぐみん、やっぱり普通にクエストこなす分だとあんまり役に立たないな……」

 

「そ、そんなことないですよ。大量のモンスターを一網打尽にできますもんめぐみん。インフェルノ並みのファイヤーボールと爆裂魔法があるんですから」

 

 慌てて親友のフォローに回るゆんゆん。優しい。

 

 しかしだ。

 

「普通のクエストで爆裂魔法やインフェルノを発射するような機会ってなかなかないだろう……」

 

「そ、そうですね」

 

 言葉につまるゆんゆん。

 

「と言うかゆんゆんは前衛じゃなくて飛行能力を生かした遊撃係が理想じゃないかな? あとは大火力魔法を空中から放つ航空支援係とか」

 

「コウクウ支援? 」

 

「上空から味方を支援するために爆撃とかを行うんだ。厳密には近接航空支援になるね。とにかく空から味方を支援する重要な役割だ」

 

「なるほど、飛行能力の方を生かして戦うんですね」

 

「そうすれば地上からの面制圧だけじゃなくて空中からの面制圧も可能になるから、一瞬で敵部隊を一掃できる。ゆんゆんが上からインフェルノ、俺が広範囲にルーンオブセイバーの斬撃波を放つみたいな感じで。まぁこれを実行すること=めぐみんの使いどころと被るわけだけど」

 

「アクセルの街周辺のモンスターなら、もう簡単に倒せちゃいますね」」

 

「と言うか考えてみると殲滅力からして俺たちって魔王軍との最前線で戦っても問題ない気がするんだよな……」

 

「アクアさんとカズマさんが嫌がりませんか? 」

 

「カズマはともかくアクアは、『私が天界に帰る日が近づくから大賛成よ』って言いそうだけど 」

 

「言われてみると確かに」

 

 ゆんゆんは納得したという仕草として手をポンと叩く。

 

「あ。でもゆんゆんはグウェンのおかげで3次元戦闘ができるから近接武装を持っててもいいかもな」

 

「そうですか? ダガーがありますけど……」

 

「いや、もっとリーチが長い武器がいいと思う。空から奇襲して一気に敵をズバッと抹殺する感じだから」

 

「それだと体重をかけられるアックスがいいでしょうか? いや、でも空から突撃する状況も考えれば……」

 

「この場合」

 

「「ハルバード」」

 

「「あ」」

 

 俺とゆんゆんは同じ答えに行きつき見事にハモる。

 

 そして同時に照れた。

 

 好きな子とこのように息が合うのはうれしいのだがなんだか気恥しいものがある。

 

「か、かぶっちゃいましたね、あはは」

 

「そ、そうだね」

 

 俺たちはお互いの顔を見合わせて笑った。

 

「じゃあ私、次の武器は魔法の補助もできる水晶のついたハルバードにしようかな」

 

「普通にマジックワンドも買っとこうよ。長槍戦斧だから、その名の通り閉所では使いにくいだろうし」

 

「そうですね。あの……また選んでくれませんか? 」

 

 照れてうつむきつつ、俺にそう言うゆんゆん。なんてかわいいんだろう。

 

「了解」

 

 そうしている内に俺たちは新たな服屋に到着した。ちなみに店を何軒も回っているのはゆんゆんが俺にしっくりくる服装をさせられていないからだ。

 

「今度こそリョウタさんに似合うコーディネイト。して見せますから」

 

「頼むよゆんゆん」

 

 店内に入ると、たくさんの服が並んでいる。その光景に何度見ても驚かされる。文明レベルこそ違えど日本の服屋と雰囲気が大差ないのだ。

 

「本当に不思議な感じだ」

 

「どうしました? 」

 

「いや、なんでもないよ。さぁゆんゆん、選んでくれ」

 

「はい!! 」

 

 そしてしばらくゆんゆんが俺を引き連れて店内を回りながら服を見ていく。その間に店員さんに話しかけられたりして緊張するゆんゆんが見れたりと楽しかった。

 

 やがて。

 

「これとこれとこれにしましょう!! 」

 

「お、決まったか、どんな感じだい? 」

 

「こんな感じです。このニットセーターにジーンズ。それにこのチェスターコートを肩掛けするんです」

 

「なるほどわからん。が、着てみよう」

 

 俺は服を受け取ると試着室にて着替えてみる。備え付けの鏡で俺の姿を確認すると。

 

「誰だお前は」

 

 そう言いたくなる男が一人いた。ゆんゆんセンスいいな、俺みたいなやつでも一端のおしゃれをしているように見える。

 

「ゆんゆん、出来たよ」

 

 試着室から出てゆんゆんに見せる。

 

「おお!! って、リョウタさん普通にチェスターコート着ちゃったんですね」

 

「ごめん肩掛けの意味が解らなくって」

 

「いいですよ。でも、とても似合ってます」

 

「ありがとうゆんゆん。ちなみに肩掛けって? 」

 

「それはですね……」

 

 ゆんゆんが俺のジャケットを脱がす。そして肩にちょこんと乗せた。

 

「そのままの意味だったんだな」

 

「そうですよ」

 

 俺たちはそんなことを言い合って笑った。

 

 

 

 

 

 

 それから、その店でゆんゆんが俺に似合うと思われる服一式を多数購入した。ゆんゆん自身の服もいくつか購入した結果、多数の紙袋を下げた状態になった。それで動き回るのもあれなので一度宿屋に荷物を下ろす。そして次にすることは。

 

「次は武器ですね」

 

「ああ。鎧にハルバードにマジックワンド。買うものいっぱいだな」

 

「はい。あ、でもあんまり使いすぎるとみんなに怒られるかも……せっかく手に入った高額の臨時報酬なのに私たちだけで。しかも服選びに使っちゃったし……」

 

「今更だね」

 

「あう」

 

「まぁいいじゃないか。たまにはパーっと使ってしまおうよ。幸い高額な武具を買ってもまだまだあまりそうな額だしね」

 

「そ、そうですね」

 

「さて、ここの武具屋にでもしようか」

 

 俺たちはこれまで覗いてきた武具屋の中でも特に大きな武具屋に足を踏み入れた。日本のホームセンターほどは無いがそれなりのサイズの空間の中には多種多様な武具が並んでいる。

 

「武具のデパートみたいな感じか。すごいなここ」

 

「そうですね……。あ、マジックワンドのコーナーもある」

 

「どうするゆんゆん。選びあいだから、ここでいったん分かれて武具を選ぶかい? 」

 

「そうしましょう。どんなのにするかはお楽しみと言うことで……!! 」

 

「だね」

 

 それから俺たちは購入後は店の前で待ち合わせと言うことにした。

 

 俺はまず近くにあったマジックワンドコーナーを覗く。アクセルにあった物とは比べ物にならない精度の物が多く並んでいる。

 

「これがいいかな? 前のと似た雰囲気だけど装飾が豪華だしパワーアップした感じがあるし」

 

 俺は前にゆんゆんに選んだマジックワンドとよく似た雰囲気の物をつかみ取る。価格は33万エリスだ。

 

「さて、次はハルバードだな」

 

 しかし、魔石や水晶が取り付けられているようなハルバードはあるのだろうか? この世界の職業はナイトなら剣のようにストレートすぎるイメージがあるので、アークウィザードが扱えるハルバードがあるかどうかはわからない。もしかしたらオーダーメイドになるかもしれない。

 

 そんな心配をしながら槍系武器のエリアに行ってハルバードを選ぶ。

 

「デザインはカッコいいのが結構あるけど肝心の魔石や水晶がついた奴がなかなか見当たらないな」

 

 それからしばらくハルバードを探すうちに、いい感じのものを発見した。シルバーを基調としており重量はアークウィザードの筋力があれば振り回せるであろう物。穂先に、斧に、ピックの接合部分の中心には真紅の水晶が埋まっている。ちなみに近くに添えられた説明文にはルーンナイトの方推奨と書いてあった。

 

「なるほど、ナイト=剣みたいなストレートなイメージは俺が勝手に抱いてただけか。……これにしよう」

 

 俺は40万エリスするそのハルバードをワンドと同じくつかむと精算所で支払いを済ませた。その際に俺の鎧の状態を見た精算所の人から「鎧も選ばれては? 」と勧められたが、ツレが選んでくれていると言うと「あの熱心に鎧を見ているお嬢さんですか」と言いながらほほえましそうな目を俺に向けてきた。

 

 それからしばらく店の前で待っていると。

 

「リョウタさんお待たせしました。……結構待ちましたか? 」

 

 心配そうな顔で俺の方を見るゆんゆん。そんな彼女は大きな木箱を背負っていた。

 

「そんなことないよ。それよりどんなのを選んでくれたのかな? 」

 

「リョウタさんのイメージにあった物にしましたよ。早速装着してみてください!! 」

 

「ここでは邪魔になるから、公園とかに行こうか」

 

「そ、そうですね。ご、ごめんなさい!! 」

 

「気にしないで。あとそれ俺が背負うよ」

 

 木箱をゆんゆんから受け取ると背負う。その重量感からそれなりに高かったであろうことを想像した。

 

「あ、じゃあそっちの長い包みは私が受け取りますね。えへへ。どんなハルバードか楽しみ」

 

「マジックワンドもね」

 

 そう言って俺たちはホテルでもらった王都の地図を見ながら公園へと移動する。その間に。

 

「お昼ご飯も買ってしまうか。この辺の露店で」

 

「屋台でですね!! わ、私露店で何か買うの初めてです」

 

 時刻は街の中にある時計からお昼3時くらいだったが、朝、霜降り赤ガニをそこそこいただいた後なので今ぐらいの時間帯がちょうどいい。

 

「串焼きにでもしようか。ゆんゆんどう思う? 」

 

「い、いいと思います。じゃ、じゃあ並びましょう」

 

「そんなに緊張しなくても」

 

「で、でも紅魔の里にはこういうところなかったですからつい……」

 

「そっか」

 

 それから俺たちは屋台の列に並び、串焼きを買い食いした。王都で味わう串焼きの味は思った以上にうまかった。

 

 

 

 

 

 公園に到着した俺たちは噴水をバックにしたベンチにかけて休憩していた。俺の隣には鎧の入った木箱がある。

 

「さて休憩して休めたしそろそろ武具の開封でもしようかゆんゆん」

 

「は、はい。気に入ってもらえるかなぁ? 」

 

「ゆんゆんが選んでくれたものなら何でも気に入るよ」

 

「え? そ、そうですか……」

 

 心なしか顔の赤くなるゆんゆん。

 

「じゃあ、私の方から開けますね」

 

「わかった。ほら開けてみてくれ」

 

 ゆんゆんがハルバードの包み紙をはがす。

 

 シルバーのボディに赤い水晶の目立つハルバードが姿を現した。

 

「綺麗ですね……!! 」

 

「マジックワンドの方も開けてみてくれ」

 

「はい」

 

 次はゆんゆんがマジックワンドの包み紙をはがす。中からは。ゆんゆんが愛用してくれていたマジックワンドの正統進化系のようなワンドが顔を出した。

 

「あ、これ前のワンドを意識してくれたんですか? 」

 

「実はそうなんだ。どうかな、どっちも気に入ってもらえてると嬉しいんだが」

 

 俺は少し不安げにゆんゆんに問いかける。彼女は笑顔になると。

 

「もちろん気に入りましたよ……!! すっごく嬉しいです。大切に使いますね」

 

「金庫に入れて保管じゃないんだな」

 

「も、もうリョウタさん……」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 ゆんゆんを少しからかうと、俺は木箱に手をかけて。

 

「俺もじゃあ開けるよ」

 

「は、はい」

 

 ゆんゆんは緊張した面持ちになる。

 

「よいしょっと。……これは」

 

「ど、どうですか? 今まで通り白を基調とした鎧です……リョウタさんに一番似合うものにしました」

 

「早速装着してみていいかな? 」

 

 めちゃくちゃかっこいいデザインなんだが。俺に似合うだろうか?

 

「は、はい。どうぞ」

 

 俺もまた緊張しながら古い鎧を脱ぎ、新しい鎧を装着していく。重さは以前よりもかなりある。しかし、決して重すぎるとかそう言うことは無いフルプレートの鎧。

 

 実際に装着してみると黒い腰マントもあった。

 

「これはかっこいいな」

 

「そうですか、よかったぁ!! 」

 

 ゆんゆんは満面の笑みを浮かべた。

 

 俺も笑みを浮かべながらゆんゆんに聞いてみる。

 

「似合ってるかな? 」

 

「はい、とっても。リョウタさん。かっこいいですよ」

 

「そ、そっかー」

 

 かっこいいと言われると照れてしまうな。しかし嬉しい。

 

「ありがとう。ゆんゆん」

 

「こちらこそ、本当にありがとうございます」

 

 俺たちは見つめあいながらそんなことを言い合った。

 

「「…………」」

 

 なんだろ、すごく気恥しい。

 

 俺は顔が熱くなるのを感じながら、古い鎧を木箱に詰めていき腰掛ける。

 

 ゆんゆんはと言うと、包み紙を公園のごみ箱に捨てると、マジックワンドを腰に差し、ハルバードを大事そうに抱えながらベンチに腰掛けた。

 

 しばらく俺たちの間に沈黙が流れる。

 

「ねぇリョウタさん」

 

 やがてゆんゆんが口を開いた。それは何か大きな思いが詰まっている声色だった。

 

「ど、どうしたんだいゆんゆん? 」

 

 俺は少しどもりながらもゆんゆんの方を真剣に見据える。

 

「こんな楽しい日々を過ごせてるのはあの時リョウタさんが私の申し出を受け入れてくれたからですね。ありがとうございます」

 

 そんな言葉を紡ぐゆんゆん。

 

「こちらこそいつもありがとう。でも突然どうしてそんなことを? 」

 

「楽しい時間を過ごしたからだと思います。今も楽しいですけど。……私リョウタさんに出会って変われたんです。とっても引っ込み思案で煮え切らない私でしたがリョウタさんが一緒にいてくれたおかげで少しずつそれが解消されていって、今では人の目線をあんまり気にしなくても行動できるようになりました」

 

「最初からそうじゃなかったかい? 確かに人の目を気にしてたりはしていたけど、言うほどな感じではなかった」

 

 そう、ゆんゆんが言っているほど彼女は人見知りなどしていないように見えたが、そうではないのだろうか?

 

「きっと、そう見えたのは……そんな風に振舞えていたのはリョウタさんがどんな時も側にいてくれたからですよ。私と一緒で人と接するのが苦手なあなたが側で頑張っていてくれたからきっとそうだったんです……!! 」

 

 そうか。俺はゆんゆんから見ればしっかりとした人間に見えてるんだな。嬉しい限りだ。

 

 だが、それは本当に俺なのだろうか。俺は真人間を演じているだけ。そうなろうとしているだけの存在だ。俺はゆんゆんと一緒にいるとき常に必要とされる人間でいようとして……。正確には捨てられないようにしようと頑張ってるだけで、こんな感謝されるようなことは意図してできていない。

 

 俺はダメな人間だ。本当にダメな人間だ。こんないい子を。大好きで愛している女の子を騙している。

 

 しっかりと演じられていることへの達成感を味わいながら。それに激しい嫌悪感を抱きつつ、罪悪感に俺は苛まれた。

 

 やばい、自己嫌悪で吐き気がしてきた。頭も痛い。

 

「今だってあなたの存在が勇気をくれます。だから言えます。あのリョウタさん、私をこんな風にしてくれたあなたのことが……あなたのことが!! …………リョウタさん? 」

 

「俺は、俺は……どこだ? 」

 

「ど、どうしたんですかリョウタさん!? 」

 

 ゆんゆんが激しく動揺する声を俺に投げかけてきたことで、俺の意識は自分の心の内から外へと向き直った。

 

「な、何でもないよ。それよりゆんゆん何か俺に言おうとしてなかったかい? 」

 

「っ!! あ、いえ、何でもないんです。忘れてください」

 

 その顔はどこまでも辛そうで悲しそうで。今まで見てきたゆんゆんの表情の中で最も俺の心を痛めつけるものだった。

 

 いったいどうした!? なんでそんな顔してる!?

 

「ゆんゆん、大丈夫? 」

 

「……リョウタさんこそ大丈夫ですか? すごく辛そうな顔されてて、それにおかしなことまで言われてましたけど……」

 

「お、俺は大丈夫。大丈夫だから」

 

 そう俺は大丈夫だ。ゆんゆんが望むのなら。いや、必要とされるためにならいつまでだって嘘をつき続けてやる。

 

「それより君が、ゆんゆんが心配だ。本当にどうした? 」

 

「なんでも、本当に何でもないですから。心配しないでリョウタさん」

 

 涙目でそう言うゆんゆん。

 

 俺はこれ以上追及できなかった。

 

 その後、俺たちは無言で公園を出た。俺はこの日初めてゆんゆんと一緒にいて苦しいと感じる時間を過ごしながら宿屋に向かった。

 

 その日の夜はゆんゆんの辛そうな表情が頭から離れず眠れなかった。

 

 




 ゆんゆんが告白に失敗しました。ゆんゆんが告白に失敗しました!!

 さて、最初はいい雰囲気の買い物デートのようなものでしたが、いい雰囲気だったからこそ、ゆんゆんは告白しようと思い、結果失敗してしまいました。リョウタの嘘で塗り固めてきたこの数か月は確実に彼の心にダメージを与えまくっています。これからどうなるかご期待ください。

 余談ですが、リョウタの新しい鎧のデザインはSAOの整合騎士の鎧の肩マントが無いものだと思ってください。

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