アクセルに帰ってきた翌日。すっかり家具が無くなり広々としてしまったリビングに俺は顔を出す。
リビングにはみんなががいた。カズマは内職し、アクアは暖炉の前で暖まり、めぐみんはちょむすけと戯れている。ゆんゆんはと言うと机に向かい、一人で壮大なトランプタワーを作っている。ゆんゆんは一人遊びが得意だ。それを極めすぎた結果がこれだ。
「おはよう、みんな」
「おはようリョウタ」
「おはようございます」
「おはよう神殺し」
「あ、おはようございますリョウタさん」
みんなが、そしてゆんゆんがあいさつとともに笑顔を向けてくれる。幸せだ。
「もしかして今まで寝てました? 」
めぐみんが俺の顔を見ながらそう言う。
「うん。実はね。寝すぎた」
寝すぎたと言っても時刻はまだ朝の9時だが。
「そうでしたか」
「ダクネスは帰ってきてない? 」
「残念ながら……帰ってきてないですね」
ゆんゆんが顔を背けながら言う。
「そっか……」
大丈夫だろうかダクネス。彼女がどうなっているか実際のところ分からないのだから本当に心配だ。
「まぁ、きっと帰ってくる。そう信じよう」
「ああ……無事かどうかはともかくな」
カズマが悲しそうな顔でそんなことを言う。
「ダクネス。うう、ダクネス」
アクアが涙目になる。
「泣かないでくださいアクア」
「そう、ですよ」
めぐみんとゆんゆんがアクアを慰めに入る。
「さてと、朝ご飯食べるか」
「ある物なんてお前らが王都で買ってきてくれたお土産の茶菓子ぐらいだけどな」
「……そうだな」
俺は王都で買ってきた茶菓子を口に運んだ。
うまい。
「俺たちこれからどうなるんだろうなカズマ? 」
「借金生活で心が折れる……前に俺の死刑がやってきて俺は死ぬのかもな」
「やめろよ。気持ちはわかるがネガティブすぎるぞカズマ」
「だってさ……」
そんな暗いやり取りをしていると。
「カズマ!! みんな!! 大変だ!! 大変なんだ!! 」
突然俺たちの陰鬱な雰囲気をぶち壊す大声がした。何事かと思い、声のしたリビングの入り口に目を向けると、声の主は、ダクネスやアヤメリス様を思い浮かばせる金髪碧眼に高そうな純白のドレスに身を包んだ長い三つ編みの美しい女性だった。
『誰? 』
俺たちは全員その女性を見て声を重ねる。
「あの、どこのどなたでしょうか? 」
「まさか、わが家からまた何か差し押さえようとしに来たの!? もう何もないわよ!! 」
めぐみんとアクアが口々にそうこぼすと女性は焦った顔で。
「私だ、ダクネスだ!! 」
そんなわけのわからないことを言った。
「は? ダクネスだと? 」
カズマがいぶかしんだ顔をする。
「くぅっ!! そんな顔で見つめないでくれカズマ!! 今はそれどころではないんだ!! 」
「あれ、こんな顔して喜ぶってことはもしかしてお前ダクネス、なのか!? 」
「そうだ!! さっきからそうだと言っている!! 」
ああ、ダクネスが帰ってきた。いや、この場合ララティーナと言った方がいいのか?
「お帰りなさいダクネスさん」
ゆんゆんが憐れみの視線をダクネスに向ける。
「まずはお風呂に入って体を洗ってくるといいですよ」
めぐみんもまた憐れんだ目でダクネスにそう告げる。
アクアはと言うとダクネスに触れてドレスを触った後。
「間違いないわ高級品よ」
そう言って目を背けた。
「苦労をかけたなダクネス。めぐみんが言っていたようにまずは体をきれいにしてくるといい」
「ちょっと待てお前たちはいったい何を言っているんだ? 」
戸惑うダクネス。……普段通りに接してやってくれとカズマは言っていたが一応身分が上の方なわけだし丁寧に接した方がいい気がする。
なので
「おかえりなさいませララティーナ様。ご苦労様でした、王都の茶菓子などどうです? ご存じかと思いますが絶品ですよ」
俺が丁寧な口調でダクネスもといラティーナ様を気遣うと、何とララティーナ様はいきなり悲しそうな顔をして。
「リョウタにはやはり私の身分で驚かせてしまったようだな。すまない。お前と以前2人っきりで話していた時に秘密にしていたのはこの身分のことだったんだが……その、できれば今まで通りダクネスと呼んでほしいし敬語はやめてもらいたいんだが、ダメだろうか? 」
美人に悲しそうな顔をされて俺は動揺する。
「い、いえ、申し訳ありませんでしたララティーナ様……じゃなくてダクネス!! 別によそよそしく接しようとしたわけじゃないからわかってくれ」
「そ、そうか、それならいいんだ。いや、うれしい。ありがとう」
ダクネスは気品のある笑顔を浮かべた。
「それと一体みんなは私に風呂に入ってくるようにだの何故言ってくるんだ? 」
ダクネス。まさか気にしてないとでもいうのかアルダープとかいうおっさんに弄ばれたのに!?
「いやだっておまえ、アルダープにひどい目にあわされてきたんだろ? 」
カズマが申し訳なさそうに涙声で訪ねるとダクネスは顔を赤くして大声でそれを否定した。
「そんなわけあるか!! 私があの男に弄ばれるだと!? そんな変な妄想はやめろ!! いくらあの男でも私にそこまで要求する勇気などない!! 」
「そうなの? 」
カズマが首をかしげる。
「そうだ!! 私は清い体のままだ!! ……そんなことよりもだ、これを見てくれみんな!! 」
ダクネスが差し出してきたのは一枚の紙だった。それは写真で、美青年が写っていた。
「なんだこのイケメンは? むかつく!! 」
カズマが写真を受け取り、その瞬間写真を二つにを引き裂いた。
「なっ、見合い写真に何をするんだぁ!? 」
カズマが写真を破ったことに悲鳴を上げるダクネス。
「おっと手が無意識に。すまんダクネス。アクア、直してやってくれ、お前こういうの得意だろ? 」
「いいわよー」
アクアが軽い調子で、引き裂かれた写真をどこから取り出したのか米粒を使って修復していく。実に見事なもので破り裂かれる前に一気に戻っていった。
その一方で。
「あのイケメン結局何なんだいダクネス? 見合い写真がって言ってたけど」
俺は気にかかったことを質問する。
「あれはアルダープの義理の息子、バルターだ。父親とは違って品行方正な奴でな。絵にかいたような完璧な男なんだが、何とアルダープの奴め何でも言うことを聞くという約束を利用してバルターに私が見合いをするように申し込んできたのだ。この約一週間ほど私が帰ってこなかったのは実家で見合いを阻止しようと父たちに抵抗してたからなんだ」
「でもダクネスさんをその、性的な目で見てくるアルダープさんの息子のところに嫁がせようとするなんてひどくないですか? 」
ゆんゆんが若干顔を赤くしながらそう進言する。
ダクネスは頭を抱えた後。
「私の父はアルダープはともかくバルターのことは高く評価していてな。なにせ誰に対しても怒らない人柄の良さに加えて民のためにより知識をつけようと勉学にいそしんでいて、そのうえ最年少で騎士に叙勲されたほどの剣の腕まで持っている。そのせいで父は私に見合いを受けさせようとするのだ」
「なるほどね」
「それなら仕方ないですね……その、絵にかいたような王子様じゃないですか」
乙女なゆんゆんがそう言った、だがダクネスはそれを聞いて。激昂した。
「そんなわけがあるか!! 」
「ひっ!? 」
ゆんゆんが短く悲鳴を上げる。かわいい。
「私の好みのタイプの男はカズマのように外見はパッとせず、スケベで、できるだけ人生楽に送りたいと人生舐めてるやつで、働きもせずに朝から酒を飲んでみたりと、その上借金まで抱えているとにかくダメ人間だ!!!! 」
「ダクネス、ものすごいこと言いますね」
めぐみんが呆れる中。カズマはと言うと。
「おいお前喧嘩売ってんのか? 」
かなりキレていた。顔が怒りでとても引きつっている。
「カズマ、直せたわよ」
「お、ありがとなアクア」
カズマは見合い写真を受け取るとそれとにらめっこを始めた。何かを考えこんでいるようだ。
「とにかくダクネスが帰ってきてくれて良かったですよ」
「そうですね、とりあえず無事で何よりです」
「お帰りダクネス!! 」
めぐみん、ゆんゆん、アクアがダクネスに思いを伝える。ダクネスは照れながら。
「ありがとうみんな。その帰ってきて早速で悪いんだが父の説得を手伝ってはくれまいか? 今日の昼からなんだ、お見合いは」
どう説得するんだよダクネス。断る理由のない優良物件すぎるのに。
そして俺はさっきから考えこんでいるカズマの方を見た。そしていよいよ俺は何を考えているのか聞こうとしたところでカズマが弾けた。
「これだぁぁぁぁぁぁ!!!! (ダクネスを寿退社させて手のかかる奴を一人追い出す!! )」
叫びながら写真を再度真っ二つにした。
その後ダクネスから俺たちはダクネスの父上を説得するための材料集めとして冒険者を続けたい理由をダクネスから聞いた。彼女は冒険者として活躍し名を上げ、その果てにやばい奴らにつかまってエロい目にあわされるのが望みらしい。そのことを大声で恥ずかしげもなく語ったダクネスにドン引きしつつ、説得材料がないと頭を抱えていた俺たちだったのだが。突如としてカズマが動いた。ダクネスの手を引いて屋敷の外に連れ出していく。
「見合いをとりあえず一度受けてみろダクネス」
「見合いを受けろだと? どういうことだカズマ!! 」
そんな中でダクネスは嘆いた。俺やゆんゆん、アクアにめぐみんは、ズカズカと玄関へと進むカズマたちに付いて行く。
「いいかダクネス、お前の家の名に傷がつかない程度に相手からこの話を無かったことにしてくれと言うように誘導するんだよ。俺たちをお手伝いとして同行させてな!! そうすればお前の親父さんも次からの見合い話には慎重になって、しばらくの間、安泰に冒険者稼業を続けられるだろう(本当はお手伝いなんかせずにダクネスのお見合い成功に向けて頑張るだけだけどな)」
「なるほどいい考えだ!! それならわざわざ見合いの話が出るたびに父を張り倒さなくても済む!! 」
「お前の親父さん気の毒だな……」
同感だよカズマ。
「お前らもそれでいいよな? ダクネスが相手に気に入られないようにそれとなくサポートするんだ(頭の切れるめぐみんやゆんゆんがいるのは問題だな。どうにかならないものか)」
「わかったわ!! 」
「問題ありませんとも!! 」
「わかりました!! 」
「了解だ!! 」
そんなやり取りをしているうちに玄関へとたどり着いた俺たちは外に出ようと玄関に近づいた瞬間。ドアが突然開いた。
そして。
「サトウカズマー!! サトウカズマはいるかー!!!? 」
セナさんが怒鳴り込んできた。
「こ、今度はなんだよ!! (まずい、絶対何か厄介ごとだ)」
「街の周辺の森に謎の小型モンスターが出没している。しかもその習性は極めて危険!! 心当たりがあるのでは? 」
セナさんが懐疑的な視線をカズマに向ける。
「あるか!! 」
カズマが全力否定する。
「そうですか。ですがあなたの言葉を信用するわけにはいきません。関係していないというのであればそれなりの行動を示していただかないと」
「またかよ……まぁ仕方ないよな。ここで協力しないとアンタからは俺は魔王軍の関係者だつて思われたままだしな……」
カズマが頭をわしゃわしゃする。
セナさん。仕事なんだろうけど今の俺たちにとってはとても厄介な人だな。今ダクネスが望まぬ結婚をさせられる寸前だというのに。
「セナさん、事情は分かりましたが今はそれどころではないのです!! 今は私たちのパーティーメンバーの危機なのですよ。そっちが優先です」
「いや俺も危機的状況にあるんだけどなって……そうか」
カズマが何かをひらめいた。
「どうしたカズマ? 」
「いやさ、いいこと思いついただけだ。なぁセナさん。俺は直接出向かなくても、俺のパーティーメンバーのうちの3人をアンタに同行させて事態の収束を計るってのはダメかな? 」
「かまいませんよ、あなたほどではありませんが、一応あなたのパーティーメンバー全員に魔王軍関係者ではないかと言う嫌疑がかかっておりますので協力していただけるのならそれに越したことはありませんよ」
「紅魔族族長の娘に、ダスティネス家の御令嬢に魔王軍関係者の嫌疑をかけるだなんてふざけた上に笑える話だなおい」
俺はセナさんに皮肉を言う。そんな皮肉にセナさんは真面目な顔で。
「こちらとしては全く笑えませんよ。とにかく、事態の収束に協力してくださるのですね? 」
「ああ。ということで、リョウタ、ゆんゆんそれにめぐみん。行ってきてくれないか? (これで勘のいい2人を排除できる!!)」
俺とゆんゆんだけで十分な気がするが、小型モンスターの数がわからない以上広範囲殲滅力が求められるかもしれないと考えるとめぐみんも選ばれるのは妥当と言えるだろう。さすがはカズマだ。頭が回る。
「疑われてる以上協力しないとますます疑いが強まるからな。ここは俺たちで行くよ」
「そうですね。そうしましょう」
ゆんゆんも俺に同意する。
「し、しかしダクネスの方はどうするのです? カズマとアクアだけで大丈夫なのですか? 」
めぐみんはと言うと納得がいっていない様子だった。この子仲間思いな子だな本当に。いつだってそう思わされる。
「大人数で邪魔に入ったら即刻勘繰られてそれこそダスティネス家の名に傷がつきかねないしさ」
カズマが小声で俺たちに語り掛ける。セナさんがむっとしたが気にしてはいけない。
「それも……そうですね」
めぐみんはカズマの説明に納得したようだった。
「それじゃあダクネスのことは俺とアクアに任せろ。モンスターの方は頼んだぜ3人とも」
「任された」
「わかりました」
「了解です」
俺にゆんゆんにめぐみんはカズマに返事をしてカズマ、アクア、ダクネスに頑張れとエールを送った後、セナさんに付いて行き謎のモンスター退治へと出発した。
ララティーナ様はかわいいと思います。ただ少し疑問なのですがアルダープは正直言ってダクネスの理想の男に近いのに何がダメなんでしょうね。不正を働き他者を虐げている点でしょうか? やっぱり、なんだかんだ言いながらでもダクネスは高貴な乙女ということなのでしょうかね。
あとカズマの心理描写を入れたのは、面白いかなと思ったのもありますが、単純に私の技術不足でカズマの目的をそれとなく臭わせられなかったからです……。悔しいです。